チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

向かうのは

「魔法が使えない魔法使いを倒すのは、赤子の手を捻るようなものなんでしょ? つまりあなたは、赤子の手を捻ることもできないってことだね」

「……っ、つ、使えてるじゃ……ねーか…………」


 毒に侵されながらも、苦し紛れに男はそういう。苦し紛れというか、正論だ。魔法使えてるじゃん!


「まぁさ? MPは使えなかったよ。封印のスキルは、使われている側からすれば絶望的なまでに解除不可能だしね」


 唸り声をあげ、苦しみながらテラーさんを睨み付ける男。そんな男を気にもせずにテラーさんは言う。
 いや、めっちゃ苦しそう! めっちゃ苦しそう!


「でもさ? なめないでほしいんだよね。私たちは仮にも魔王を倒した勇者パーティーなんだよ? 魔王はあなたより強いわけ。わかる? キャンユーアンダースタンド?」


 アイキャントだよ、テラーさん。


「今まで、封印のスキル持った相手と戦ったことだってあるよ、そりゃあ。でもほら……MPがダメなら、HPを使えばいいじゃないってね」

「パンとケーキじゃないんですから!!」

「おっ! ようやく突っ込んだ」

「心のなかではさんざん突っ込んでます! てゆーか、HP使ったとして、どうして100倍!? 三時のおやつって、ステータス10倍にするやつですよね?!」

「慌てない慌てない。ひとやすみひとやすみ。説明するから。……あんたらにも、ね」


 テラーさんが言ったことを、僕の突っ込み一切抜きで言うと、こんな感じだ……。


 まず、バリアを張りたかったけど、MPが使えなかったから、HP使ってシエルトやって、そんなに得意じゃないけど、短刀でスパーッとやった。

 次に、スキルが解除されなかったから三時のおやつを二回使って、ステータスを100倍にした。

 短期間ゴリラも使ってHP回復させようと思ったけど、自分で減らしたから回復魔法が効かなかった。残念。

 ちょっくら暴れたくて水龍出してみたぜ。

 プランツファクトリーとポイズネーションでちょちょいのちょいとな。


 …………うん。うん?


「なにやってるんですかぁ!?!?」

「えー、ダメかな?」

「ダメじゃないです! おかげでたすかりましたありがとうございましたぁ!」

「……何でウタくん怒ってるの?」

「テラー、考えてくれよ」

「ん?」


 僕らは何をやってるの? テラーさんがぼっこぼこにした人達の前でなにやってるの?


「って、そうそう。大事なこと聞かないとね」


 そしてテラーさんは、男の前にしゃがみこみ、短刀を首筋に突きつけながら言う。


「……女性はどこ? 捧げ物にでもするつもりなんでしょ? 普段は殺して、儀式の時は差し出して。ずいぶん便利に使ってくれちゃって…………」

「…………」

「……ここで黙るのは、あんまりいい判断じゃないと思うけど?」


 男は黙ったまま、テラーさんの目を睨み付ける。テラーさんはテラーさんで、男がアリアさんたちの居場所を言うように、脅しをかける。


「命は惜しいでしょ?
 ポイズネーションの毒は猛毒。とっくにHPは1になっているはず。それ以上は減らずとも、苦しいよね?」

「…………」

「それに、忘れてない? ここにいるのはあなただけじゃない。その仲間もいる。仲間も道連れにすることになるけど……いいの?」


 すると、男はわずかに口を開く。


「…………め……」

「…………」


 そして、どこか意思の強い目で、僕らの方を睨み付ける。


「――全ては、メヌマニエ様の、ため」

「…………」


 どこかハッとしたような表情になるテラーさんに、男は急に捲し立てる。


「分からないだろうなぁ?! お前らは、家族に愛されてきたんだろう? なんの苦労もせずに、裕福に暮らしてきたんだろう?!
 俺はずっと孤独だ。でも……メヌマニエ様が救ってくださる。言う通りにすれば、仲間が増える! 孤独じゃなくなる!」


 そして、よりいっそう声をはって叫んだ。


「メヌマニエ様を裏切るくらいならっ、俺は、ここで死んでやるっ!」


 そして、舌を食いちぎろうとしたが、植物の蔦がそれを邪魔する。歯は蔦を噛み、舌には至らなかった。


「……幻覚のスキルが、ここまで影響してるとは思わなかったな。
 メヌマニエは、嫌いだよ。その信者も憎い。手が出せなかったのが本当にもどかしくて。
 ……でも、不思議なものでね。憎んでいたその相手がそれを口にすると、どうしても否定したくなるんだよ」


 テラーさんは悲しそうにそう呟く。そして、さっきまでとはまるで違う口調で、男に声をかける。


「……メヌマニエは、あなたにとって神様なんでしょ?」

「っ、あぁそうさ! 俺を救ってくださったんだ!」

「その神様は、あなたを救った。孤独で孤独で仕方がなかったあなたを。
 そんなにすごい神様、私なんかが倒せると思うの?」

「…………は?」

「私が少し本気だしたくらいで、倒れる神様なの? 女性を助けにいったって、返り討ちにするくらい強いんじゃないの?

 私たちは無謀にも神様に挑もうとしているの。嘲笑いながら見送るくらい、出来るでしょ?」

「…………」


 男はなにかを思ったように黙り込み、やがて笑いだす。


「は……ははは……ははははははっ! そうだなぁ? 貴様がメヌマニエ様に敵うはずがない! いいだろう、教えてやるよ!
 壁の向こう。街の真ん中にある教会の講堂だ! 女はそこにいる。ま、貴様らは返り討ちだろうなっ!」


 狂ったように笑う男を見て、テラーさんは手のひらをつきだす。


「そう……ありがとう」


 バチッ! ……と、男たちに絡まっていた蔦に電気が走り、彼らはその動きを停止させる。


「てっ、テラー!」

「大丈夫。スタンガン的なこと。意識奪っただけだから。
 ったく……運が良かったね、こいつらも。ジュノンだったら死ぬまで終わらないのに」

「ひえっ!」


 でも、場所はわかった。教会。そこに向かえば、みんながいる! 早速いこうとテラーさんに声をかけようと思うと、


「二人で行って?」


 そう、言う前に断られてしまった。


「え? で、でも、おいらたち」

「あとから追いかける。MP使えない状況でいくのはしんどいし、HPも減ってる。足手まといになる。
 ……あと、こいつらの治療、しとかないと。HP1しか残ってないからさ」


 そう軽く笑い、テラーさんは僕らを見る。


「ちゃんと追いかけるから。大丈夫。それに、メヌマニエは二人なら倒せるよ」


 ……僕らがなんと答えようと、テラーさんはついてくる気はないようだ。


「……行こう、ポロンくん!」

「……おいら頑張るから、だから……ちゃんと、一緒にいてくれよな?」


 僕は強く頷き、壁に向かって走り出した。

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