チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない
襲撃
侍さんの注意勧告――。僕がそれを思い出したのは、よりにもよってその日の真夜中。
ぞくりとする嫌な気配で目が覚めた。眼鏡をかけ、周りを確認するが、なにもない。おかしい。絶対なにかが起こっている。
「……う、ウタ兄…………」
「ポロンくん! ……起きてたの?」
「ウタ兄……おいら、こわい……」
ぶるぶると震えるポロンくんを胸に抱き、ゆっくり背中をさする。と、扉が強く叩かれた。そして、返事をする前に開かれ、テラーさんが転がり込んできた。
「ウタくん! ポロンくん!」
「て、テラーさん!? どうしたんですか?」
「……やっぱり、二人は無事なのか…………」
息を切らし、テラーさんはひどく慌てた様子で言う。
「――女性が消えた。一人残らず。多分、メヌマニエ教のやつが関係しているんだと思う」
「女性が…………。あ、アリア姉は!? フローラは!? 無事なのか!?」
「……アリアさんもフローラもいない」
「そんな……嘘だろ?」
酷く慌て、そして混乱した様子でテラーさんは呟く。
「してやられた。おかしいな、結界を通ったなら、私が気づくはずなのに…………」
「え? で、でも、結界って魔物を防ぐ効果しかないってアリアさんが」
「一般的なものはね。ここのは違うよ。私がメヌマニエ教を防ぐために張ったものだから、悪意がある人間は近づけないし、仮に入ったとしても、私が気づける。
一人ならともかく、この短時間で女性をみんな連れ去るなんて、かなりの人数がいたはず。
……誰かが、結界を破ったんだ。でも、どうやって…………?」
なにかがおかしい。でも、だからといって黙っているわけにもいかない。女性をさらったそいつらは、テラーさんには手を出していない。きっと、敵わないと知っているんだ。テラーさんよりは強くない。
「とにかく、外に出てみませんか? そうすれば、何か分かるかもしれません!」
「……そうだね。でも…………」
テラーさんがポロンくんに目を向ける。ずっとぶるぶると震えているポロンくんは、この異常な状況が酷く恐ろしいらしく、僕から離れようとしない。
「……私だけで外に行くよ。ウタくんは、ポロンくんと一緒に」
「ダメだいっ!」
不意に、ポロンくんが叫ぶ。驚いて視線を落とすと、震え、涙を浮かべながらも、ポロンくんの目は強く輝いていた。
「お、おいらも行く。一緒に外に行く! だから、連れてってくれ!」
「……ポロンくん、でも、」
「おいらは大丈夫だい! ……強くなったんだ。もう弱い自分じゃないんだ! おいらは、自分には嘘をつかないって決めたんだい! おいらは行きたい! だから、行く!」
それに、と、ポロンくんは付け足す。
「おいらには……助けてくれる、仲間もいるから、絶対、大丈夫」
「ポロンくん……」
「ほら! 早く行くぞ! 行かないんなら、おいらが先にいっちゃうそ!」
僕にしがみつきながら言うポロンくんを見て、優しく微笑み、テラーさんは僕らに背を向ける。
「じゃ、ついてきてね」
「わかりました!」
「行くぜ!」
「ぷるっ! ぷるるっ!」
「お? スラちゃんも行くのか?」
「ぷーるるー!(みんなを助けるぞー!)」
そして、僕らは二階から降りて、外に出た。外では、急に姿を消した女性を探す男性があちらこちらにいた。
……いやに静寂に包まれているそこは、何か、奇妙な雰囲気を醸し出していた。
「…………」
しばらく黙って、じっと耳をすましていたテラーさんは、急にハッとしたように僕らの手を引く。
「下がって!」
「うわっ?!」
そしてその瞬間、僕らの目の前に炎の槍が降り注いだ。少ししてその炎が消えると、少し低めの男性の声が聞こえてきた。
「クックック…………避けるとはなぁ。闇に紛れて狙ったのに、外してしまうなんて残念だ」
「……誰?」
現れた男性に、テラーさんはあからさまに警戒心を露にする。男性は赤い髪を後ろで乱雑に結んでいた。そして気がつくと、その後ろには仲間と思われる人が、ざっと30人。
男性はテラーさんを指差し、声をあげる。
「お前が、テラーか?」
「そうだけど。いきなりなんですか。普段喋ってないから、礼儀も忘れたんですか?」
「ふん、面白くない冗談だ。儀式以外では確かに声は出さないが、そこまでバカではないさ。
……サワナルの生き残りがなかなか潰せないのは、テラーという魔法使いがいるからだと聞いてな。少し調べさせてもらったぞ」
「ふーん、で?」
ここでこう言うのもなんだけど、少しは反応してあげてくださいテラーさん。と、テラーさんが背中の後ろで、ちょいちょいと僕らに合図を出す。
――避けていろ、とのようだ。
「元勇者パーティーで、最強の魔法使いと聞いた。確かに、あの結界や壁。常人じゃあ無理だろう」
「だからなんだっていうんですか? 私に何か用ですか? 一応聞くけど、まさか、殺して捧げ物にー、とか思ってます? できると思います?」
僕は無理だと思います。そう思いながらそーっと、テラーさんから距離をとり、少しだけ離れる。
「できるさ。簡単にな」
男がいう。その言葉を合図にしたように無数の炎の槍が空中に浮かぶ。30人もいれば、槍の数もなかなかだ。すぐさまテラーさんも反撃をしようと右手を前につきだし――止まった。
(……テラーさん?)
「クックック……驚いているか? 魔法が使えないことに」
魔法が、使えない――?
「いいか? 俺がここまでこれたのは、『封印』というスキルを持っているからだ。相手のMPを完全に封じるスキル……。
お前のMPを封じさせてもらった。30分が限界だろうが、問題ない。どんなに強かろうが、所詮はただの魔法使い」
そして、勝ち誇ったように笑う。
「魔法が使えない魔法使いを倒すなんて、赤子の手を捻るようなもんさ!」
テラーさんに向かって、無数の炎の槍が放たれる。無言のまま、避けもせずに、もろにその攻撃を受けたテラーさんは吹き飛ばされ、僕らの視界から消える。
……でも、僕は見ていた。
吹き飛ばされるその寸前、テラーさんの口角が、わずかに上がっていたのを。
ぞくりとする嫌な気配で目が覚めた。眼鏡をかけ、周りを確認するが、なにもない。おかしい。絶対なにかが起こっている。
「……う、ウタ兄…………」
「ポロンくん! ……起きてたの?」
「ウタ兄……おいら、こわい……」
ぶるぶると震えるポロンくんを胸に抱き、ゆっくり背中をさする。と、扉が強く叩かれた。そして、返事をする前に開かれ、テラーさんが転がり込んできた。
「ウタくん! ポロンくん!」
「て、テラーさん!? どうしたんですか?」
「……やっぱり、二人は無事なのか…………」
息を切らし、テラーさんはひどく慌てた様子で言う。
「――女性が消えた。一人残らず。多分、メヌマニエ教のやつが関係しているんだと思う」
「女性が…………。あ、アリア姉は!? フローラは!? 無事なのか!?」
「……アリアさんもフローラもいない」
「そんな……嘘だろ?」
酷く慌て、そして混乱した様子でテラーさんは呟く。
「してやられた。おかしいな、結界を通ったなら、私が気づくはずなのに…………」
「え? で、でも、結界って魔物を防ぐ効果しかないってアリアさんが」
「一般的なものはね。ここのは違うよ。私がメヌマニエ教を防ぐために張ったものだから、悪意がある人間は近づけないし、仮に入ったとしても、私が気づける。
一人ならともかく、この短時間で女性をみんな連れ去るなんて、かなりの人数がいたはず。
……誰かが、結界を破ったんだ。でも、どうやって…………?」
なにかがおかしい。でも、だからといって黙っているわけにもいかない。女性をさらったそいつらは、テラーさんには手を出していない。きっと、敵わないと知っているんだ。テラーさんよりは強くない。
「とにかく、外に出てみませんか? そうすれば、何か分かるかもしれません!」
「……そうだね。でも…………」
テラーさんがポロンくんに目を向ける。ずっとぶるぶると震えているポロンくんは、この異常な状況が酷く恐ろしいらしく、僕から離れようとしない。
「……私だけで外に行くよ。ウタくんは、ポロンくんと一緒に」
「ダメだいっ!」
不意に、ポロンくんが叫ぶ。驚いて視線を落とすと、震え、涙を浮かべながらも、ポロンくんの目は強く輝いていた。
「お、おいらも行く。一緒に外に行く! だから、連れてってくれ!」
「……ポロンくん、でも、」
「おいらは大丈夫だい! ……強くなったんだ。もう弱い自分じゃないんだ! おいらは、自分には嘘をつかないって決めたんだい! おいらは行きたい! だから、行く!」
それに、と、ポロンくんは付け足す。
「おいらには……助けてくれる、仲間もいるから、絶対、大丈夫」
「ポロンくん……」
「ほら! 早く行くぞ! 行かないんなら、おいらが先にいっちゃうそ!」
僕にしがみつきながら言うポロンくんを見て、優しく微笑み、テラーさんは僕らに背を向ける。
「じゃ、ついてきてね」
「わかりました!」
「行くぜ!」
「ぷるっ! ぷるるっ!」
「お? スラちゃんも行くのか?」
「ぷーるるー!(みんなを助けるぞー!)」
そして、僕らは二階から降りて、外に出た。外では、急に姿を消した女性を探す男性があちらこちらにいた。
……いやに静寂に包まれているそこは、何か、奇妙な雰囲気を醸し出していた。
「…………」
しばらく黙って、じっと耳をすましていたテラーさんは、急にハッとしたように僕らの手を引く。
「下がって!」
「うわっ?!」
そしてその瞬間、僕らの目の前に炎の槍が降り注いだ。少ししてその炎が消えると、少し低めの男性の声が聞こえてきた。
「クックック…………避けるとはなぁ。闇に紛れて狙ったのに、外してしまうなんて残念だ」
「……誰?」
現れた男性に、テラーさんはあからさまに警戒心を露にする。男性は赤い髪を後ろで乱雑に結んでいた。そして気がつくと、その後ろには仲間と思われる人が、ざっと30人。
男性はテラーさんを指差し、声をあげる。
「お前が、テラーか?」
「そうだけど。いきなりなんですか。普段喋ってないから、礼儀も忘れたんですか?」
「ふん、面白くない冗談だ。儀式以外では確かに声は出さないが、そこまでバカではないさ。
……サワナルの生き残りがなかなか潰せないのは、テラーという魔法使いがいるからだと聞いてな。少し調べさせてもらったぞ」
「ふーん、で?」
ここでこう言うのもなんだけど、少しは反応してあげてくださいテラーさん。と、テラーさんが背中の後ろで、ちょいちょいと僕らに合図を出す。
――避けていろ、とのようだ。
「元勇者パーティーで、最強の魔法使いと聞いた。確かに、あの結界や壁。常人じゃあ無理だろう」
「だからなんだっていうんですか? 私に何か用ですか? 一応聞くけど、まさか、殺して捧げ物にー、とか思ってます? できると思います?」
僕は無理だと思います。そう思いながらそーっと、テラーさんから距離をとり、少しだけ離れる。
「できるさ。簡単にな」
男がいう。その言葉を合図にしたように無数の炎の槍が空中に浮かぶ。30人もいれば、槍の数もなかなかだ。すぐさまテラーさんも反撃をしようと右手を前につきだし――止まった。
(……テラーさん?)
「クックック……驚いているか? 魔法が使えないことに」
魔法が、使えない――?
「いいか? 俺がここまでこれたのは、『封印』というスキルを持っているからだ。相手のMPを完全に封じるスキル……。
お前のMPを封じさせてもらった。30分が限界だろうが、問題ない。どんなに強かろうが、所詮はただの魔法使い」
そして、勝ち誇ったように笑う。
「魔法が使えない魔法使いを倒すなんて、赤子の手を捻るようなもんさ!」
テラーさんに向かって、無数の炎の槍が放たれる。無言のまま、避けもせずに、もろにその攻撃を受けたテラーさんは吹き飛ばされ、僕らの視界から消える。
……でも、僕は見ていた。
吹き飛ばされるその寸前、テラーさんの口角が、わずかに上がっていたのを。
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