チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

回復薬

「って、そうそう。思わず昔ばなししちゃったけど、三人にいくつかプレゼントフォーユーしたいものがあるんだよねー」

「え、そうなんですか?」


 そういうとテラーさんは空間――アイテムボックスかと思われる――に手を突っ込み、試験管のようなものをなん本も取り出した。
 試験管には詮がされていて、簡単に開けられそうだけど、勝手には開かないようになっていた。

 テラーさんは、緑井の液体が入ったもの、紫色の液体が入ったもの、そして、黄色の液体が入ったもの。それぞれ6本ずつ出すと、僕らの前に並べた。


「君たちさぁ、回復薬を持たないで旅をするのはちょっと無理がないかな? これ持っていきなよ」

「回復薬って……これか?」


 アリアさんが試験管を手にとって言う。


「え、アリア姉見たことねぇの? おいらはないけど、アリア姉は皇女なんだし……」

「いや、回復薬自体は見たことはあるが、私が見たのはもっとこう、濁ったようなもので、こんな透明じゃなかったよ」

「というか、これもらっていいんですか? 回復薬って、かなり高いですよね?」


 アリアさんと王都を出るとき、回復薬を買うかと言う話は出たのだ。しかし、その値段は一回分金貨30枚とあまりにも高かったため、手を出すのをやめたのだ。
 小さな傷なら回復魔法でどうにでもなるし、HPもMPも自然回復する。いらないかなーなんて。


「あー大丈夫大丈夫。これの調合したの私だから、プライスレス」

「そうか、テラーが調合を……は!? いや、さらっと言ったが、回復薬の調合は難しいことで有名なんだぞ!?」

「ま、魔法使いだし? できちゃった」


 理由になっていない。
 もう追求することを諦めた僕らに、テラーさんは回復薬の説明をする。


「緑色のはHP回復薬。これだと……うん、そうだね。一本で300000くらいは回復するかな」

「オーバーヒール!?」

「だから、ウタくんが勇気発動していないときはちょっとずつ飲むのがいいかもね。んで、次はーっと」


 今度は紫色の試験管を指差してテラーさんが言う。


「これはMP回復薬。これ一本で250000くらいかな」

「うわお」

「驚いたら敗けだぞ少年」

「何回負ければいいんですか僕は」


 そしてテラーさんは最後に、黄色い液体が入った試験管を手に取った。


「これはHPMP、両方回復させてくれる優れもの。つまりは万能薬だね」


 今までのも十分優れものだったのに、それ以上が出てくるなんて……。さらに、テラーさんはその万能薬の効能を説明する。


「まず、これ一本丸々飲むと、HPが500000、MPが400000回復します」

「はい……」

「そしてなんと、状態異常も回復します。ちなみに状態異常はちょっとだけ飲んだときにも回復するよ。

 唯一惜しいのが、これ、酸っぱいらしいんだよねー」

「たいした問題じゃない。が……酸っぱい、らしいってなんだ? お前は飲んだことないのか?」

「あるよ? でも、ゆうほど酸っぱくないかなって。……ちょっと飲んでみる?」

「え!? いや、だって飲み物じゃないだろ!?」

「ちょっと待ってねー……あ、それは一人二本ずつね。アイテムボックスにしまっちゃって! いざってときに使えるように」


 テラーさんの勢いに押されて、僕らはそれぞれ二本ずつ、計六本の試験管をアイテムボックスにしまう。そして、僕らがしまい終わったことを確認すると、テラーさんは机の上にもう三本試験管を出した。

 そして、HP回復薬をティースプーンにちょっと垂らして、僕に渡した。


「舐めてみなよ」

「え、あ、じゃあ」

「っと……はい、アリアさんとポロンくんも」

「ありがとう」


 おそるおそる舐めてみると、緑色のそれは、かき氷のシロップのような、甘い味がした。そして、心なしか体が休まるような、そんな気がした。


「甘くておいしいです」

「でしょ? 次はこっち……はい!」


 今度はMP回復薬だ。アリアさんもポロンくんもそれを受け取り、口に入れる。……今度のも甘い。でも、さっきのとは違って、砂糖ではない、果物のような甘味だった。


「……なんか、果物食ってるみたいだなぁ」

「そうだな」

「じゃ、最後ね」


 そして、テラーさんは黄色い万能薬をスプーンに垂らす。それを口に運ぶと…………。


「すっぱ!!!」

「こ、これは、酸っぱいぞ!?」

「うぅ……み、水……」


 本当に酸っぱい! こ、これ、飲むの?!


「うーん、やっぱり酸っぱいのか。研究しよっかな。でも効能がなぁ」


 良薬、口に酸っぱし。


「あ、そうだそうだ! 忘れるところだった! ポロンくん!」

「え、おいら?」

「そうそう、手、出して?」

「え、あ、わかった」


 ポロンくんが差し出した右手を、テラーさんの右手が机越しにつかむ。と、真っ白い光がそこから溢れた。


「え、あ、これって……」

「『短期間ゴリラ』伝授完了ー! まぁ、全体的に威力は落ちちゃうだろうけど、色々回復できるのはいいでしょ!」

「え、あ、うん……。おいら、こんなの使えるのかなぁ」

「使える使える! ……明らかに格上のキマイラの中に突っ込もうとした君ならね」

「…………」

「あ、消費MP2000だからね」

「無理じゃねーか!」

「まぁまぁ、一回分はおまけしといたから。それに、2000ならまだ現実味があるでしょ?」


 ふと、僕はあることに気がついた。机の上に置かれたテラーさんの右手。その親指だけが、目に見えてボロボロだったのだ。
 他の部分と比べて、皮が厚いようにも見える。どこか形もいびつで、まるで、何度もそこだけ怪我をして、何度も再生させているかのように。

 他の指はそうでもないのに、どうして……?

 手をつないだポロンくんも気づいたのか、テラーさんに声をかける。


「…………なぁ、」

「ん? どうしたの、ポロンくん」

「親指……その、どうしたんだ?」

「え」

「あの、僕も今気づいたんですけど結構ひどいですよね。大丈夫ですか?」


 そう僕らが言うと、テラーさんはハッとしたように右手を左手でつかみ、そして、困ったように笑った。


「……ちょっとね。うん、大丈夫」

「なんだ?」

「テラーさんの指が、あまりにボロボロだったので……」

「そうなのか? 私でよければ回復魔法も使えるが」

「あ、いや! ……大丈夫。痛くないから、心配しないでね。前の世界の副産物みたいなものだから。どうせ、なくならないから」


 どこか、何かを必死に隠すような、さっきまでとは違うテラーさんの雰囲気に飲まれて、そこから先は聞けずに、適当な話をし、僕らは宿へ戻ったのだった。


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「……まさか、指摘されるとは」


 一人、椅子に腰かけて呟く。


「家族だって、気づいてくれなかったのになぁ……」

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