チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

キマイラ戦

「……話だと、四体だったよな?」


 ポロンくんが苦く笑いながら言う。


「……そう、だな」


 それにアリアさんも苦笑いで返す。なんせ、目の前には四なんて遥かに越える数のキマイラがいて、こちらを睨んでいるのだった。
 僕は震えながらもその一体を鑑定する。



鑑定失敗



 ……レベル差ですね知ってます。ってこれどうしたらいいのぉぉぉ!?


「ヴヴヴ……」


 ぐるぐると呻きながらキマイラ達は間合いをつめてくる。っだぁ! こうなったら!


「ドラゴン召喚っ!」

「……ドラゴン使いが悪いな、お主。して…………これは、またどういった状況だ?」

「ごめんドラくん! あんまり説明してる暇ないんだ! とにかくキマイラ達を倒さないと!」

「心得た。だが……この数は我でも骨がおれるな」

「ドラくん、頼む。私たちじゃ一体倒すので精一杯なんだ!」

「……尽力しよう」


 ドラくんが炎を吐き出しながらキマイラに向かっていく。僕らは三人で一体を相手にする。


「……炎魔法が使えるやつはいないか。仕方ない。
 ポロン! 土魔法で蔦でも出して、こいつに巻きつけることは出来るか!?」

「リヴィ……っ、無理だ! すぐほどかれちまうよ! 動きがちょっとでも弱まれば……」


 動きが弱まれば……。あっ!


「アリアさん! 光魔法で目眩ましって」

「…………! やってみよう。シャインっ!」


 まばゆい光の玉がアリアさんの手から現れ、激しく光り、キマイラの目を焼いた。


「ヴァァァァァァァ!」

「ポロンくん!」

「リヴィー!」


 植物の蔦が伸び、キマイラの体に巻き付く。光で怯んだキマイラの体を、蔦はギリギリおさえこんだ。


「ウタ! 火を!」

「やってみます! ……ファイヤ!」


 ボッと蔦が燃え上がる。初級のよわっちい炎だが、蔦がその炎を広げ、大きく燃え上がる。


「グヴォォォォォォォ!!!」


 断末魔の叫び声をあげ、キマイラが消える。よし! この調子でもう一体――


「ウタ兄! 後ろ!」


 ポロンくんの声に振り向くと、背後に別のキマイラが迫ってきており、僕を見て目を光らせる。
 や、やばっ……。


「……っ、大丈夫か、ウタ殿」

「ど、ドラくん! ごめん! 大丈夫!?」


 ドラくんがキマイラから放たれた氷魔法を、真っ向から受け止めてくれた。ドラくんの体には目に見えてわかる傷があり、罪悪感と不安でどうにかなりそうだった。


「大丈夫だ、この程度の傷、我はなんともない。すぐに治る。……だが、」


 周りを見渡す。キマイラの数はほんの少し減っただけだ。……きりがないし、実力の差がありすぎる。


「くっそ……こうなったらコルトンに急いで馬車を飛ばしてもらうか!?」

「それにしたって、こんな数、逃げられる訳ねーだろ!? ……こ、こうなったら…………おいらがっ!」

「あっ、ポロンくん!」


 ポロンくんが一人で飛び出していく。それを、僕は止められなかった。


「まぁまぁ、落ち着きなよポロンくん」

「あっ……」


 キマイラの群れにポロンくんが飛び込もうとした瞬間、その道をテラーさんが塞いでいた。


「て、テラー!? やめろ! お前防具もなにもないのに出てきやがって!」

「まぁ、ポロンくん一人で行かせるよりは私が相手した方が安全かなって」


 そして、ポロンくんの腕をつかみ、半ば強引に僕たちの方へ連れ戻すと、にこりと微笑んだ。


「いやー、三人の平均レベルは25くらい。レベル差55もあるのにお疲れさま。
 ダークドラゴンくん……ドラくん? も頑張ったね。あとはどうにかするよ」

「ど、どうにかって……ブランク四年もあるんですよね? 大丈夫なんですか!?」


 うーんとうなったあと、テラーさんは、まるでそこが戦場でないかのようなことを言った。


「とはいっても、出来るだけ戦いは避けたいんだよねー、キマイラちゃんたちが退いてくれればいいんだけどなぁ?」

「……は?」


 ナニヲイッテルンデスカアナタハ。

 いや、たしかにそうだね!? 戦い避けられれば問題ないけど、現に戦いになってるときにそれ言う!?
 ほらぁ! もう! キマイラがイライラしてこっち来てるからぁ!

 そう、その、イライラした感じのキマイラに、テラーさんは笑顔で近づいていく。


「あのさー? 私たちも、なにもあなたらの縄張りあらそうって訳じゃないのよ、だからさ、ちょっとどいてくれる?」

「ヴゥ…………」


 …………え? 言葉通じた?


「ほらね? 私も怪我したくないのよ、そっちもさ、仲間失ったり怪我したりするの、嫌でしょ? だから、ちょーっと道、譲ってくれない?」

「…………」


 キマイラがおとなしくなる。こ、これってもしかして、動物と会話できるって言うあの――。


「ヴァァァァァァァっ!」


 そんなことなかったぁぁぁぁぁ!
 一体のキマイラが雄叫びをあげ、それに続きほかのキマイラも声をあげる。テラーさんは困ったように笑いながら頭をかいた。


「うーん、参ったなぁ。この世に和睦の道はないんだなぁ」

「グヴォォォォ!」


 と、テラーさんの後ろの方からキマイラが大きな火の玉を飛ばす。テラーさんは、避けることも出来なかった。
 ……いや、しなかった。


「……今のは……確実に攻撃だね」


 あまりにもいい笑顔を浮かべながら、ゆっくりとテラーさんは振り向く。と同時に水が地面を濡らす。火の玉を水で蒸発させたのか? それとも、氷の壁で防いだのか?

 ……いや、どっちにしてもどういうこと!?


「攻撃してくるんなら、こっちとしても黙ってはおけないんだなぁ、ごめんね」


 にこりと笑って、テラーさんが手のひらを前に向けた。

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