チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

次の目的地へ

 その後のことを話しておこう。

 まず、捕らえられたキルナンス幹部および頭領はギルドに身柄を受け渡され、情状酌量の余地はない、ということで実刑判決が下りた。
 ただ一人だけ、カーターは、状況と年齢、またその精神状態を考慮して、実刑は見送り。別の措置がとられている。まぁ、それはあとにするとして……。

 奴隷市で売られてしまうはずだった人々の救出も完了。また、キルナンスに所属していた多くの人がやむ終えない状況であり、さらに止められないような脅しがかかっていたということで……なんかよくわからないこと言われたけど、簡単に言えば執行猶予がついた。

 僕らに関してはキルナンス幹部を捕らえたってことで褒められて、なんと二人で金貨100枚ももらってしまった。……そんなのいらないのに。
 と思ったので、もらった金貨まるまる100枚をキルナンスから解放された人に配った。

 ……さて、後回しにしたカーターのことだけど、


「あっ! お兄ちゃん! お姉ちゃん! おかえりなさーい!」

「んー? あ、おかえりー」


 ギルドで依頼を終えてきた僕らに手を振るカーター。その後ろには、チョコレートを食べるアイリーンさんもいた。


「ただいまカーター。宿での仕事はどう?」

「すっごく楽しいよ! 色んなお客さんも来るし、暇なときにはアイリーンお姉ちゃんが遊んでくれるの!」

「うーん、暴れられたら困るしねー」

「その……破壊衝動的なの、やっぱりおさまってないんですね」

「アイリーンに預けて正解だったな。他のやつらなら確実にのびてる」

「へっへーん! だてに四天王やってた訳じゃないんだもん!」


 そう、カーターはアイリーンさんに引き取ってもらった。

 理由としてはいくつかあるが、主に二つ。
 まずは仮にカーターが暴れたとしても押さえられること。これは大事だ。万が一塔にいたときのように暴れ始めたら、普通の人じゃ止められない。
 幸か不幸か知らないけど、アイリーンさんは普通じゃない。カーターを止めるのに十分な実力を持っている。

 そして二つ目。あのあと、しっかり診てもらったのだが、カーターがPTSD、またはそれにかなり近い状態にいることは間違いなかった。治すのには長い時間がいる。
 どうやらラミリエにはそっちの方面の専門家がいるらしい。ラミリエにいた方が回復がある程度早まるかもしれない。

 とにかくこれらの理由からカーターをアイリーンさんに預けることにしたのだ。


「そういえば、お兄ちゃんたち、そろそろ違う街に行くんでしょ?」


 不意にカーターがそう訊ねる。


「まぁ、そうだな。ここでは目的を果たせそうにもないし」

「目的?」

「僕らは、人を探してるんだ。僕と同じ、『勇気』のスキルをもった人と、アリアさんの婚約者の人を」


 うーんと腕組みをしながらカーターが僕らを見上げる。


「お姉ちゃんの婚約者って、ディランっていうお兄ちゃんだよね?」

「……? あぁ、そうだが?」

「『勇気』の人は知らないけど、その人なら前に見たことあるよ」

「本当か!?」

「えっとね、ラミリエを東の方にいくと、闇都市があるんだ。キルナンスが自然解散になったからもう誰もいないだろうけど、売り物の人とか連れてきてたの。
 そこを越えてまた行くとね、『サワナル』っていうちっちゃい街があるんだ。そこで前に見たよ!」

「……サワナルか」

「知ってますか?」

「……あぁ。ずいぶん昔に行った記憶がある。でも、最近はな」


 ……唯一の情報。僕らの次の目的地は決まった。と、カーターが奇妙なことを付け足す。


「あっ、でも、行ったらビックリすると思うよ? 前のサワナルは知らないけど、結構変だったから」

「変……? 前に行ったときは特にそんな気はしなかったが」


 これはまた一波乱ありそうだなー……。まぁ、それはそれで楽しいんだけど!


「あー、そうそうー!」


 と、今度はアイリーンさんが口を開く。


「もうちょっと付きまとうってさー!」

「…………え?」

「誰が?」

「さむらいー?」

「「あっ」」


 マジか……。


◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈


「……で、どうすんだよ、これから」


 ポロンくんがいつも以上にむすっとして僕らに訊ねる。
 ここは僕らが借りているホテル・チョコレートの部屋なのだが、明後日には出る予定だ。サワナルに向かうために身支度をしているのだ。


「どうするって、だから、サワナルに行こうと思って」

「それは分かってるんだよ! なんでおいらがここに呼ばれてるんだい! ついていくでもないのに」

「え?」

「えってなんだよ! こっちが聞いてるのに疑問で返すな!」


 とは言われても、僕らからしたら、その疑問が疑問なのだ。


「逆に聞くが……一緒に来ないのか?」

「…………は?」


 ポロンくんが驚いたように目をぱちくりさせる。


「え、あ、えっと……ついてって、いいのか?」

「ダメな理由なんてないだろ。というか、ついてくるもんだと思ってた。嫌なのか?」

「い、嫌じゃないやい!」

「じゃ、決まりだな」

「これからもよろしくね、ポロンくん」


 ポロンくんが嬉しそうにうなずいたあと、アリアさんが少し不服そうに言った。


「……なぁ、ポロンって私たちのことずっと『お前』呼びだよな? なんかほら、もうちょっと……ないのか?」

「え!? そ、それは、どう呼んだらいいか分からなくて……」

「好きに呼んだらいいじゃないか。な?」

「そうですね……。ポロンくんがいいように呼んでくれたらいいと思うな」

「えっと、おいらは……」


 唐突に赤くなったポロンくんは下を向いて、ぽつりと呟いた。


「じ、じゃあ…………ウタ兄と、アリア姉……」

「…………」

「…………」


 ……ほぅ。


「い、いいじゃねーか! 別に! 好きに呼べって言ったじゃねーか! や、やっぱり兄ちゃんとか姉ちゃんとか憧れるんだよ!」

「ポロンくーん?」

「ポーローンー?」

「ちょ、ニヤニヤしながら近づいてくんな! や、やめろーーーーー!」


 ……そのあと三人で、森の中のある場所に向かった。
 小さな花がたくさん植えられた、大きな木の根もと。そこに膝をつき、ポロンくんはふっと微笑む。


「……おいらの居場所が見つかったよ。今までありがとな。いってくるよ」


 そういうと、街で買った、ポロンくんにとっては高すぎる結界をそこに張り、僕らを見て笑う。


「もう、ここには帰ってこない。そういうことにしたよ」

「いいのか?」

「戻ってきたら、戻りたくなるからさ。いいんだ!」


 そして、なにか吹っ切れたように笑う。


「おいらはポル・ポロン! 改めて、仲間としてよろしくな!」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品