チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

水の使い手 カーター

 螺旋階段を駆け上る。すると、大広間のようなきらびやかな空間とはうって代わって、カラフルでポップな雰囲気の部屋に来た。
 壁や床は色とりどりのタイルが嵌め込まれており、大きなぬいぐるみや絵本、おもちゃが散乱している。


「……子供部屋みたいだな。おいらだって、こんなのもう欲しくないや」


 ポロンくんがフィギュアのようなものを拾い上げてぼやく。


「……螺旋階段はありますけど、」

「多分、いるだろうな」


 すると、くすくすと小さな女の子が笑う声が空から降ってきた。と、思ったら呪文を詠唱する声がした。


「ウォータートルネード!」

「うわっ!?」

「っ、ポロン!」

「任せろ! ストリーム!」


 僕らの足元で水が渦を巻き、僕らを飲み込もうとする。咄嗟にポロンくんが下に向かって風魔法を放ち、一時的に宙に浮き、難を逃れることができた。


「……もう、大丈夫か?」


 渦がおさまり、ゆっくりと下に降りると、いつの間にか大きなくまのぬいぐるみを抱えた女の子が笑っていた。


「あははっ、すごーい! よく避けられたね! さすがローレンを倒しただけあるねー! なめてたから嬉しいな!」

「……お前が、二人目の四天王か」

「そうだよ! ねーねー、私の相手をしてくれるのは誰? お姉ちゃんかなぁ?」


 アリアさんが女の子と話し、僕から気をそらさせる。その間に、僕はその子を鑑定した。



名前 カーター

種族 人間

年齢 9

職業 暗殺者

レベル 60

HP 7300

MP 4000

スキル アイテムボックス・剣術(中級)・体術(初級)・初級魔法(熟練度6)・水魔法(熟練度8)・氷魔法(熟練度5)・光魔法(熟練度2)・闇魔法(熟練度4)・魅了

ユニークスキル 水龍

称号 キルナンス四天王・水の使い手・天才少女



 ……なるほど、天才少女か。まぁ確かに、9歳でこのレベルは天才的だ。そんなことを思いつつ、『水龍』を鑑定する。


水龍……水を龍のようにし、自由に操ることができる。龍からの攻撃は全て水魔法。使役者と常に繋がっている。


 つまり、水龍に攻撃したら、カーターにも攻撃が通るってことだ。炎とかじゃまぁ意味ないだろうけど、あの人がいっていたように雷魔法なら届くだろう。
 そうこうしている間に、アリアさんはカーターと会話を続ける。


「お前の言う通りだ。お前の相手は私がする」

「やったー! ちゃんとカーターって、名前で呼んでね! それじゃあ……本気でいくよ」


 カーターが一瞬目を閉じる。僕はハッとしてアリアさんに向かって叫んだ。


「アリアさん! 魅了です! 目をそらして!」

「っ、分かった!」


 僕の声を聞いて、アリアさんは咄嗟にカーターの後ろへ移動する。僕は後ろへ下がり、ポロンくんも距離をとった。
 魅了が不発に終わったカーターは、少し不服そうな顔をしながら次の手に出る。


「もー、ちゃんと私と遊んでくれないと、ね?」

「アリアさん!」


 僕はアリアさんに駆け寄り、小声で鑑定の情報を共有する。


「水龍ってスキルを持ってます。文字通り水の龍を造り出せるみたいですけど、情報通り、雷魔法なら有効だと思います!」

「分かった。ポロンのところへ行っていてくれ」

「はい!」

「水龍っ!」


 カーターがそう詠唱すると、巨大な水の龍が空を泳ぎ、僕らに襲いかかる。アリアさんと僕はそれぞれ別の方向に避ける。そしてアリアさんはそのまま水龍に向かっていった。
 僕がポロンくんの方を見るとポロンくんも僕の方に駆けてくる。そして、二人で目配せすると、少し離れたところへと移動した。


「大丈夫なのかよ」

「大丈夫だよ。アリアさんなら、きっと」


 アリアさんは向かってくる水龍に向かってまっすぐ手のひらを向け、そして魔法を放つ。


「セイントエレキテルっ!」

「……っ?!」


 水龍の真上に真っ白い雷が落ち、水を通じてカーターの体にも電気が走る。


「あああああっ?!!」

「…………ふぅ、こんなものか。ステータス10倍、おそるべきだな」


 電気がおさまると水龍は消え、カーターはその場に倒れていた。が、アリアさんが威力を調節したのか、意識はあるようだった。


「あ、アリアさん! ……この子、大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。死なないように、威力は抑えてある。……こんなに幼いとも思っていなかったしな」


 カーターはぐったりとした様子でこちらをじっと見上げ、悔しそうに唇を噛んでいた。が、その体は電気魔法が効いたのか、火傷のあとが目立った。

 ……あれ? この子…………。


「…………」

「おい、時間ないんだろ? 早くいこうぜ?」

「……ウタ、いいか?」


 僕はアリアさんの意図を感じとって、ゆっくりとうなずいた。同じように感じたのかもしれない。アリアさんはカーターに手のひらを向けると、呪文を唱える。


「ケアル」

「……え?」


 みるみるうちにカーターの傷が塞がる。カーターは驚いた顔をしながら僕らのことを見た。……驚いたのは、ポロンくんも同じだった。


「……なんで、治したの?」


 どこか怯えながら聞いてくるカーターに、僕とアリアさんは顔を見合わせ苦く笑った。


「こいつの気性が移ったのかもしれないな」


 アリアさんが僕を小突きながら言う。


「なぁ、カーターは、どうしてキルナンスの幹部をやっていたんだ? まだまだ幼いし、こんなこと普通はしないと思うんだが」

「……あのね、元々、商品だったの」


 なんのとは言わない。言わなくても、ここにいるみんな分かってる。


「死ぬのも怖いのも嫌だったから、その場にいた人たちみんな殺して、逃げて、そしたら、幹部として雇ってやるって言われて、ここに来たの」

「……そうなのか」

「怒らないで! ダメだってことは、本当は分かってたの。でもね、ボスには勝てなかったから……。

 自分に嘘ついてたら、なんか、戦うのが楽しくなってきちゃって、元々の私と違う子になっちゃって……ごめんなさい」


 素直に謝るカーターにアリアさんはそっと近づき、優しく抱き締めて頭を撫でた。


「……ここにいるんだ。いいな?
 罪をなかったことには出来ないが……お前はまだ幼いんだ。何かしらの方法で、助けてやる」

「……うん」


 それから、ゆっくりと離れると、僕らを見て言った。


「行くぞ!」

「はい!」


 ポロンくんは、僕の後ろで小さくぼやいた。


「……なぁ、そんなんじゃ、いつかやられちまうよ…………?」

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