チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない
面会室での出来事
「……へっ、マルティネス・アリアがいるとは聞いていたが、まさか本当だとはな」
男はくつくつと笑い、睨みを効かせるように僕らを見た。
「そーだよ。俺はガルシア。
アリア様の方はまぁ知ってるが、お前は何者だ? んで、てめぇらはどうして俺に会いに来た? まさか面を拝みたかっただけ……なんてつまらねーこと言わないよな?」
そのガルシアさんの言葉に、思わず身を強張らせる。そして助けを求めるようにアリアさんを見ると、目があった。そして小さく、うなずかれた。
「……ぼ、僕は、柳原羽汰です」
「ウタ、ねぇ?」
「アリアさんと一緒に旅をしてる、冒険者です」
「で?」
「あ、あなたに……いくつか、聞きたいことがあって来ました」
話していて、だんだんクラークさんの言っていたことが分かるようになる。
確かに、ガルシアさんは、話し方や態度は強めに出てくるが、話は聞いてくれそうだし、答えてもくれそうだ。
「ふーん……聞きたいことって、なんだ?」
「えっと、まず」
「あっ! ちょっと待て!」
と、そこまで順調に会話してきたガルシアさんが、急に話の腰を折る。それに驚いた僕は目をぱちくりとさせた。
「……どうかしたか?」
そうアリアさんが尋ねると、ガルシアさんはきまずそうに答える。
「……勘違いしないで貰いたいが、俺だってよ、別にこれ以上罪を重くしたくないわけだ。だから、知ってることは可能な限り話そうと思っている」
でもな、と、ガルシアさんが押し潰したような声で言う。
「キルナンス上層部のことだけは……口が裂けても言えねーよ」
「なぜだ? かばうのか?」
「んな訳ねーだろ!? 何で俺があいつらなんてかばわなきゃなんねーんだ!?」
突然叫んだガルシアさんにビクッと体を震わせる。それを見たガルシアは決まりが悪そうに視線をそらす。
「……あー、とにかく、あれだ。あいつらのことは話せねぇ。それは庇うんじゃなくて、見返りがこえーからだ」
「見返り、か?」
「あぁそうだ。街一個襲っといてあれだが、あいつらは残忍さの塊だ。血も涙も流れちゃいねぇ。
情報なんか流したら最期、見せしめに何もかも壊され、奪われ、殺されちまう」
……何もかも。ガルシアさんは、何か確信があってそう言っているような気がした。つまり、これまでにそうなった人がいるということ。
「……俺には、家族がいんだ。家計が苦しくてキルナンスに所属している。俺がそこそこの働きをしてるから、嫁や子供は無事なんだ。
だから、俺はあいつらのことを話すわけにはいかねぇ。わかってくれるな?」
「…………」
僕らは警察じゃないし、鬼じゃない。そこまでして聞き出そうなんて思わない。
「分かった。じゃあ、他のことは知っている限り教えてくれ」
「あぁ」
「まず、今回のことについてだが……襲ったのは、やはり人身売買が目的か?」
「そうだ。来週大規模な奴隷市が行われると聞いた。それで売り物を増やそうとしたんだよ。そうすりゃ報酬がたんまりもらえるってな」
「それは、どこでやるんだ?」
「ラミリエを出て東に行くと、地図に登録されてねぇ闇都市がある。そこだ。ほとんどキルナンスからの出品だ。ま、奴隷商売は認められてねぇから当然か」
「……分かった、ありがとう」
ガルシアからの情報を、僕はじっくりと咀嚼する。……奴隷市、か。
仮にもう一つの『勇気』が闇に染まりきっているとしたら、そういった場所にも顔を出すのだろうか?
「それと、キルナンスとは直接関係のないことだが、最近、ドラゴンたちの様子がおかしいのは知っているか?」
「そりゃ知ってるさ。前は大人しかったってのに、急に。王都が襲われたことだってあっただろう?
それがどうした?」
「ドラゴンたちを操ってるやつがいるみたいなんだ。灰色の髪、黒目。それしか情報がないんだが、何か知っていないか?」
「知らねーな。さすがに上層部でもドラゴンを操るなんて至難の技だろうよ」
……こっちに関しては収穫なし、か。僕らは少し顔を見合わせて、最後の質問をする。
「最後に……ディラン・キャンベルの行き先を知っているか?」
「ディラン・キャンベル……。あぁ、失踪したっていう、あの」
「探しているんだ。なんでもいい、何か知らないか?」
ガルシアは顔を伏せ、ゆっくりと首を横に振る。
「悪いが、知らねーな。恐らくキルナンスに接触はしていないだろう。アリア様の婚約者だって男だ。もし接触していたら、何かしら下っ端にも情報が来る」
「…………そうか。ありがとう」
アリアさんは、少し気を落としたように見えた。こちらも収穫ゼロ。結局、入手できた情報は、来週の奴隷市のことだけだ。
「じゃあ……僕らは、行きますか?」
「そうだな。宿に戻ってこれからのことを考えよう。
教えてくれてありがとうガルシア」
そして、まさに面会室を出ようとしていたときだ。
「……おい」
ガルシアが声をかけてきた。
「どうした?」
「……こんなことをいうのもあれだがな。俺だって、やりたくてこんなことしてる訳じゃねーんだ。
ただ、どんなことをしたって、抜けることが出来ない。入るのは簡単だった。でも、抜けられないんだ。
……抜け出してーんだよ。次牢を出たら、家族と一緒に、ちゃんとした人間として暮らしたい」
だから、と、ガルシアは乞うように僕らに言った。
「……倒してくれねーか、あいつらを」
男はくつくつと笑い、睨みを効かせるように僕らを見た。
「そーだよ。俺はガルシア。
アリア様の方はまぁ知ってるが、お前は何者だ? んで、てめぇらはどうして俺に会いに来た? まさか面を拝みたかっただけ……なんてつまらねーこと言わないよな?」
そのガルシアさんの言葉に、思わず身を強張らせる。そして助けを求めるようにアリアさんを見ると、目があった。そして小さく、うなずかれた。
「……ぼ、僕は、柳原羽汰です」
「ウタ、ねぇ?」
「アリアさんと一緒に旅をしてる、冒険者です」
「で?」
「あ、あなたに……いくつか、聞きたいことがあって来ました」
話していて、だんだんクラークさんの言っていたことが分かるようになる。
確かに、ガルシアさんは、話し方や態度は強めに出てくるが、話は聞いてくれそうだし、答えてもくれそうだ。
「ふーん……聞きたいことって、なんだ?」
「えっと、まず」
「あっ! ちょっと待て!」
と、そこまで順調に会話してきたガルシアさんが、急に話の腰を折る。それに驚いた僕は目をぱちくりとさせた。
「……どうかしたか?」
そうアリアさんが尋ねると、ガルシアさんはきまずそうに答える。
「……勘違いしないで貰いたいが、俺だってよ、別にこれ以上罪を重くしたくないわけだ。だから、知ってることは可能な限り話そうと思っている」
でもな、と、ガルシアさんが押し潰したような声で言う。
「キルナンス上層部のことだけは……口が裂けても言えねーよ」
「なぜだ? かばうのか?」
「んな訳ねーだろ!? 何で俺があいつらなんてかばわなきゃなんねーんだ!?」
突然叫んだガルシアさんにビクッと体を震わせる。それを見たガルシアは決まりが悪そうに視線をそらす。
「……あー、とにかく、あれだ。あいつらのことは話せねぇ。それは庇うんじゃなくて、見返りがこえーからだ」
「見返り、か?」
「あぁそうだ。街一個襲っといてあれだが、あいつらは残忍さの塊だ。血も涙も流れちゃいねぇ。
情報なんか流したら最期、見せしめに何もかも壊され、奪われ、殺されちまう」
……何もかも。ガルシアさんは、何か確信があってそう言っているような気がした。つまり、これまでにそうなった人がいるということ。
「……俺には、家族がいんだ。家計が苦しくてキルナンスに所属している。俺がそこそこの働きをしてるから、嫁や子供は無事なんだ。
だから、俺はあいつらのことを話すわけにはいかねぇ。わかってくれるな?」
「…………」
僕らは警察じゃないし、鬼じゃない。そこまでして聞き出そうなんて思わない。
「分かった。じゃあ、他のことは知っている限り教えてくれ」
「あぁ」
「まず、今回のことについてだが……襲ったのは、やはり人身売買が目的か?」
「そうだ。来週大規模な奴隷市が行われると聞いた。それで売り物を増やそうとしたんだよ。そうすりゃ報酬がたんまりもらえるってな」
「それは、どこでやるんだ?」
「ラミリエを出て東に行くと、地図に登録されてねぇ闇都市がある。そこだ。ほとんどキルナンスからの出品だ。ま、奴隷商売は認められてねぇから当然か」
「……分かった、ありがとう」
ガルシアからの情報を、僕はじっくりと咀嚼する。……奴隷市、か。
仮にもう一つの『勇気』が闇に染まりきっているとしたら、そういった場所にも顔を出すのだろうか?
「それと、キルナンスとは直接関係のないことだが、最近、ドラゴンたちの様子がおかしいのは知っているか?」
「そりゃ知ってるさ。前は大人しかったってのに、急に。王都が襲われたことだってあっただろう?
それがどうした?」
「ドラゴンたちを操ってるやつがいるみたいなんだ。灰色の髪、黒目。それしか情報がないんだが、何か知っていないか?」
「知らねーな。さすがに上層部でもドラゴンを操るなんて至難の技だろうよ」
……こっちに関しては収穫なし、か。僕らは少し顔を見合わせて、最後の質問をする。
「最後に……ディラン・キャンベルの行き先を知っているか?」
「ディラン・キャンベル……。あぁ、失踪したっていう、あの」
「探しているんだ。なんでもいい、何か知らないか?」
ガルシアは顔を伏せ、ゆっくりと首を横に振る。
「悪いが、知らねーな。恐らくキルナンスに接触はしていないだろう。アリア様の婚約者だって男だ。もし接触していたら、何かしら下っ端にも情報が来る」
「…………そうか。ありがとう」
アリアさんは、少し気を落としたように見えた。こちらも収穫ゼロ。結局、入手できた情報は、来週の奴隷市のことだけだ。
「じゃあ……僕らは、行きますか?」
「そうだな。宿に戻ってこれからのことを考えよう。
教えてくれてありがとうガルシア」
そして、まさに面会室を出ようとしていたときだ。
「……おい」
ガルシアが声をかけてきた。
「どうした?」
「……こんなことをいうのもあれだがな。俺だって、やりたくてこんなことしてる訳じゃねーんだ。
ただ、どんなことをしたって、抜けることが出来ない。入るのは簡単だった。でも、抜けられないんだ。
……抜け出してーんだよ。次牢を出たら、家族と一緒に、ちゃんとした人間として暮らしたい」
だから、と、ガルシアは乞うように僕らに言った。
「……倒してくれねーか、あいつらを」
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