チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない
スライム
「……あのー、一応聞いておきたいんですけど」
「なんだ?」
「アリアさんと戦う……とかじゃないですよね?」
「まさか」
僕の言葉がよほど的を外していたのか、アリアさんは軽く笑い飛ばしてしまった。
「そんなわけがないだろう? 第一、レベル差が40もあるんだ。やるにしたって秒だ」
「秒!?」
「そりゃそうだ。私だってレベル80のやつに勝てなんて言われても無理だとしか言えないからな。
ましてやお前、基本の戦い方も知らないだろう?」
「まぁその……はい」
そりゃそうだ、死ぬ前は戦う理由なんてなかったんだ。戦争が起きる可能性も、国内では今のところはゼロである。
「だから、別のやつに相手をしてもらおうと思ってな」
「別のやつ……?」
話しながら移動していると、目の前に大きな扉があった。アリアさんはその扉を押し開け、中に入る。
「ほら、お前も来い」
「は、はい!」
中は、よく映画とかで出てくる闘牛場みたいになっていて、丸い造りだった。天井は半透明で、太陽の光がやさしく全体を照らしている。
その、一番下。客席の真ん中にある、闘牛場でいったら闘牛するためのところに直結する入り口。そこから、僕らは入ったようだ。
「さて、ここなら多少暴れたりミスったりしても外に被害はないだろう。
……ほい」
「え?」
アリアさんはそう言うと、僕に剣を渡してきた。……え?
「えええええええっ!?」
「えっ?! な、何を驚いているんだ?」
「いきなり剣使うんですかぁ?!」
「そ、そりゃそうだ。剣術は全ての基本だぞ?」
とはいえ、剣なんて握ったことのない僕の手はぶるぶる震えた。お、重いし……。え、これ、一歩間違えたら僕も怪我するよね? ね? いや逆にどうして怪我しないと思ってたって話になるけどさ。
「うわぁぁ……」
「……そんな泣きそうにならなくても、相手は討伐推奨レベル1のやつだぞ?」
「その討伐推奨レベル1のやつって誰ですかぁ……」
すでに心が折れかかってる僕の前に現れたのは、青いプルプルした物体だった。
「……あれ、これってもしかして」
この色。この形。推奨レベル1……。まさか、某RPGで定番の……。
「知ってるのか? こいつはスライムだ」
「やっぱりスライムだった!」
それそのうち灰色のとか王冠被ったのとか出てこないよね? ね?
「まぁ、こいつは攻撃力がとにかく低い。練習相手にはちょうどいいだろう。斬ってみろ」
「はい……はいぃっ?!」
どうやるの!?
「いちいち聞かないとやれないのか? 自分から行動するっていうことを覚えてくれ。習うより慣れろだ」
「えええええええっ!?」
っていうか、あれだよね? 僕はネット小説ってのも結構好きで読んでたんだけど――根倉認定されたのはそれのせいじゃない。多分きっともしかして――最近流行りの『異世界転生もの』ってのは努力パートないじゃん!
なんか主人公、最初からめちゃ強いじゃん!
「いや、やめましょうよ! 努力パートなんて見ても面白くないですって!」
「何を言っている。身を守るためだ。ほら、さっさとやらないとあいつから攻撃されてしまうぞ」
見ると、スライムがポヨポヨしながらこちらに近づいてくる。とっさに僕は剣を構えて振りかぶり――
「こ、こっち来んなーーー!!!」
「……おい」
――なんてせずに、スライム相手に全速力で逃げ出した。それを鬼ごっことでも思ったのか、スライムは嬉しそうに体をプルプルさせ、僕のあとを追いかけてくる。しかも結構な速さで。
よって僕らは、あきれ返ったアリアさんの周りをぐるぐると追いかけっこするかたちになったのだ。
「ぷるぷるっ!」
「やぁぁぁぁめてぇぇぇぇ!!!」
「……おい」
「来ないでぇぇぇ!!!」
「おい」
「あっちいけぇぇぇ!!!」
「ウタ! いい加減にしろ!」
「ぬぁっ!」
アリアさんに首根っこを掴まれて、強制的に追いかけっこは終了。スライムはプルプルしながらこちらを見て、頭にはてなを浮かべている。
「ただのスライムだろ? これ以上待たせるなら……私が相手になるが?」
「ひぇっ!」
それはマズイ! かなりマズイ! ど、どうしよう……剣で切ればいいのかな?
そっと剣を握りしめ、ゆっくりと振りかぶる。
「ぷるぷるっ……」
「…………」
僕は、剣を置いた。
「……アリアさん」
「な、なんだ?」
僕は両手にそのスライムを乗せると、懇願するようにアリアさんを見た。
「愛着が湧いてしまいました!」
「はぁっ!?」
「僕にこの子は殺せませんっ!」
「いやお前なぁ」
僕はスライムをアリアさんの顔の前にバッと差し出した。手の上のスライムはひんやりしていてプルプルで、とても気持ちよかった。
「ほら見てくださいアリアさん……この可愛らしい形、クリクリとした目、プルプル! どうしてこんな可愛い生命体を殺せるんですか!」
「いや、可愛いからって魔物には変わりな――可愛い?」
「ぷるぷるっ?」
一瞬、アリアさんの動きが止まる。そして、僕の手からそっとスライムを受け取り、じっと見る。
「――いや、お前の言う通りかも知れない」
折れた!
「なぜ今までスライムがこんなに愛らしいと気づかなかったのだろう……」
「ですよね! やっぱりこの子殺すのは間違ってますよね!」
「そうだな。魔物だからなんだ。全くの無害じゃないか! もっと他のゴブリンやらオークやらを倒すべきだ!」
「そうだそうだ!」
「そしてお前の相手は私がやろう」
「そうだそう……え? うそん」
……死ぬかもしれない。というわけで、死ぬ前に有名な台詞を言っておこう。
スライムが なかまになりたそうに こちらをみている!
「なんだ?」
「アリアさんと戦う……とかじゃないですよね?」
「まさか」
僕の言葉がよほど的を外していたのか、アリアさんは軽く笑い飛ばしてしまった。
「そんなわけがないだろう? 第一、レベル差が40もあるんだ。やるにしたって秒だ」
「秒!?」
「そりゃそうだ。私だってレベル80のやつに勝てなんて言われても無理だとしか言えないからな。
ましてやお前、基本の戦い方も知らないだろう?」
「まぁその……はい」
そりゃそうだ、死ぬ前は戦う理由なんてなかったんだ。戦争が起きる可能性も、国内では今のところはゼロである。
「だから、別のやつに相手をしてもらおうと思ってな」
「別のやつ……?」
話しながら移動していると、目の前に大きな扉があった。アリアさんはその扉を押し開け、中に入る。
「ほら、お前も来い」
「は、はい!」
中は、よく映画とかで出てくる闘牛場みたいになっていて、丸い造りだった。天井は半透明で、太陽の光がやさしく全体を照らしている。
その、一番下。客席の真ん中にある、闘牛場でいったら闘牛するためのところに直結する入り口。そこから、僕らは入ったようだ。
「さて、ここなら多少暴れたりミスったりしても外に被害はないだろう。
……ほい」
「え?」
アリアさんはそう言うと、僕に剣を渡してきた。……え?
「えええええええっ!?」
「えっ?! な、何を驚いているんだ?」
「いきなり剣使うんですかぁ?!」
「そ、そりゃそうだ。剣術は全ての基本だぞ?」
とはいえ、剣なんて握ったことのない僕の手はぶるぶる震えた。お、重いし……。え、これ、一歩間違えたら僕も怪我するよね? ね? いや逆にどうして怪我しないと思ってたって話になるけどさ。
「うわぁぁ……」
「……そんな泣きそうにならなくても、相手は討伐推奨レベル1のやつだぞ?」
「その討伐推奨レベル1のやつって誰ですかぁ……」
すでに心が折れかかってる僕の前に現れたのは、青いプルプルした物体だった。
「……あれ、これってもしかして」
この色。この形。推奨レベル1……。まさか、某RPGで定番の……。
「知ってるのか? こいつはスライムだ」
「やっぱりスライムだった!」
それそのうち灰色のとか王冠被ったのとか出てこないよね? ね?
「まぁ、こいつは攻撃力がとにかく低い。練習相手にはちょうどいいだろう。斬ってみろ」
「はい……はいぃっ?!」
どうやるの!?
「いちいち聞かないとやれないのか? 自分から行動するっていうことを覚えてくれ。習うより慣れろだ」
「えええええええっ!?」
っていうか、あれだよね? 僕はネット小説ってのも結構好きで読んでたんだけど――根倉認定されたのはそれのせいじゃない。多分きっともしかして――最近流行りの『異世界転生もの』ってのは努力パートないじゃん!
なんか主人公、最初からめちゃ強いじゃん!
「いや、やめましょうよ! 努力パートなんて見ても面白くないですって!」
「何を言っている。身を守るためだ。ほら、さっさとやらないとあいつから攻撃されてしまうぞ」
見ると、スライムがポヨポヨしながらこちらに近づいてくる。とっさに僕は剣を構えて振りかぶり――
「こ、こっち来んなーーー!!!」
「……おい」
――なんてせずに、スライム相手に全速力で逃げ出した。それを鬼ごっことでも思ったのか、スライムは嬉しそうに体をプルプルさせ、僕のあとを追いかけてくる。しかも結構な速さで。
よって僕らは、あきれ返ったアリアさんの周りをぐるぐると追いかけっこするかたちになったのだ。
「ぷるぷるっ!」
「やぁぁぁぁめてぇぇぇぇ!!!」
「……おい」
「来ないでぇぇぇ!!!」
「おい」
「あっちいけぇぇぇ!!!」
「ウタ! いい加減にしろ!」
「ぬぁっ!」
アリアさんに首根っこを掴まれて、強制的に追いかけっこは終了。スライムはプルプルしながらこちらを見て、頭にはてなを浮かべている。
「ただのスライムだろ? これ以上待たせるなら……私が相手になるが?」
「ひぇっ!」
それはマズイ! かなりマズイ! ど、どうしよう……剣で切ればいいのかな?
そっと剣を握りしめ、ゆっくりと振りかぶる。
「ぷるぷるっ……」
「…………」
僕は、剣を置いた。
「……アリアさん」
「な、なんだ?」
僕は両手にそのスライムを乗せると、懇願するようにアリアさんを見た。
「愛着が湧いてしまいました!」
「はぁっ!?」
「僕にこの子は殺せませんっ!」
「いやお前なぁ」
僕はスライムをアリアさんの顔の前にバッと差し出した。手の上のスライムはひんやりしていてプルプルで、とても気持ちよかった。
「ほら見てくださいアリアさん……この可愛らしい形、クリクリとした目、プルプル! どうしてこんな可愛い生命体を殺せるんですか!」
「いや、可愛いからって魔物には変わりな――可愛い?」
「ぷるぷるっ?」
一瞬、アリアさんの動きが止まる。そして、僕の手からそっとスライムを受け取り、じっと見る。
「――いや、お前の言う通りかも知れない」
折れた!
「なぜ今までスライムがこんなに愛らしいと気づかなかったのだろう……」
「ですよね! やっぱりこの子殺すのは間違ってますよね!」
「そうだな。魔物だからなんだ。全くの無害じゃないか! もっと他のゴブリンやらオークやらを倒すべきだ!」
「そうだそうだ!」
「そしてお前の相手は私がやろう」
「そうだそう……え? うそん」
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