復讐には花を添えて

きりんのつばさ

復讐には花を添えて


毎度恒例の思いつきで書いてみました。

今回はいつもとは違って重めの話です。






ーー数年前、森にてーー

本来この作戦は近くの村に出ている盗賊を倒すだけの
簡単な作戦の筈だった。
そのはずだったのに……

「隊長!! 周囲が敵に囲まれています!!」

副官のリサが叫んだ。
どうやら俺の部隊である8番隊は敵の罠にまんまと
陥ってしまったようだ。
本部からは何にも報告は聞いてないから奇襲だろうか?
色々と疑問が浮かんでくるが……

「お前ら!!俺に続け!! 撤退して活路を開くぞ!!」

とりあえず悩んでいる暇は無かった。
今は部下達を1人でも生きて返さないといけない。
それが隊長として部下を預かった責務だ。

「「ハッ!!」」

と生きている部下達を率いて撤退することにした。
幸いにもここからの帰り道は慣れているから
撤退は楽の筈だった。

しかし……

「ガハッ……!!」

いかんせん敵が多すぎた。
何故か敵が多く出てきて且つまるでこの地を完全に理解
しているのかの如く要所要所で奇襲などがあり
撤退していく中でどんどん部下が倒れていった。
俺やリサも応戦してはいるが明らかに不利であった。
戦う度に剣や槍、銃を変えているためか今何回
武器を変えたかもう覚えていない。
部下は始めの半分以下になっていた。

「お前ら……!!」

と後ろを振り向こうとすると副官に肩を強く掴まれた。

「隊長!!あなたは生きなければなりません!!
たとえあなた1人になったとしても!!」

副官からの叱咤を受け、俺は再びやる気を出した。

「そ、そうだな、すまんな!!
お前ら戦うな!! 生きることだけ考えろ!!」



そしてしばらくして……
「ここまでくりゃ一安心だろ……」

撤退していく中で何とか追っ手を
振り切れ休息を取っていた。
改めて後ろを見ると部下はリサを含めて
始めの4分の1まで減っていた。

リサも出血多数であり、他の部下も同じ有様だった。

「怪我している奴らは今のうちに治療しとけ……
しかし一体誰がこんな事を……」

と言った矢先、遠くからこちらに向けて
何かが飛んでくるのが目に見えた。
他の部下達は特に焦った様子もなく休んでいる。
どうやら気づいたのは俺だけみたいだ。
近づいていく中でその正体が分かった。

「ハッ……まさかあれは……!!
 お前ら今すぐ伏せろ!!」

俺がそう叫ぶと部下達は一斉に屈んだ。
だが1人遅れた者がいた。

「あっ……」

「リサ!!」

それはリサだった。
今までの疲れのせいで判断が遅れたのだろう。

「た、隊長……」

「クソッ!!」
俺は力を振り絞りリサに覆いかぶさった。
そして俺が覆いかぶさった後すぐに……

バァン!!

何かが爆発する音がして俺の意識は途切れた。



ーーーーーーーーーーーーーーー





そして現在

バンッ!!

その音と共にとある貴族が倒れた。
今日はその貴族の誕生日パーティーらしく
様々な人達が集まっていた。
「……目標、狙撃完了。あと3人」
その倒れた貴族からだいぶ離れた場所
俺の目の前の人物はそう呟いた。
撃たれた人の周りでは騒ぎになっていた。

ーー逃げる者

ーー腰を抜かして動けない者

ーー助けようとする者


ーー撃った犯人を捜す者

人によって様々な行動をしていた。
そんな行動をスコープ越しに見ていた。

「……ふっ、そのまま惨めに狼狽えなさい」

その撃った本人は銃を片付けると混乱に乗じて
狙撃場所に1輪の花を置いて逃げて行った。
俺もその人物についていった。





その狙撃をした人物のアジトについた。
そこには拳銃から高威力の爆弾に至るまで
様々な武器があった。
そんな殺風景な部屋の中にその場の雰囲気に合っていない
物が机の上に飾ってあった。

それは1枚の写真と先程狙撃場所に飾っていた
花と同じ種類の花だった。
写真は中央に1人の男が仁王立ちして立っており
その周りには彼の部下達が笑顔で立っていた。

狙撃手はその飾ってある写真を手に取り
誰に聞かせる訳でもなく話始めた。

「フリード、貴方はいつも他の隊員達を笑わせて
隊の雰囲気を和ませてくれましたね。

ダイナ、貴方の狙撃の腕はは他に類を見ない上手く
その腕でどれだけ私達の部隊が救われたか。

メイ、貴方はいつも口では悪い事ばかり言いますが
本当は誰よりも優しかったですね」

とその狙撃手は昔を懐しむようにその写真を見ていた。
そして1人1人と指でなぞりながらその人物との
思い出を振り返っていき、最後に中央で仁王立ちを
している人物で指が止まった。

「バルク隊長、貴方はとても凄い人でした。
軍ではお荷物や厄介者として扱われていた私達に
生き甲斐や他の様々な事を与えてくれましたね。
それがどれだけ私達にとって救いだったか」

更に話を続ける。

「隊長は知ってますか?
前にメイが他の隊員と喧嘩になった事件で何でメイが
喧嘩なんてしたのか。それはその殴られた隊員が
隊長の事をバカにしたからですよ。
メイが黙っていろと言っていたので私達は黙って
いたので隊長は知らないと思いますがそれぐらい
私達は貴方の事を慕っていたのですよ。
ですが私は違いました……」

というと狙撃手ーー彼女はふっと笑い

「私は貴方が好きでした。
いつからだったかは覚えてませんがいつからか
私は貴方に上官に対する尊敬以上の感情を
持つようになっていました」

そして他の隊員の方に目を向けて笑いながら

「他の隊員も私の気持ちに気付いたのか
お節介を焼くようになり、わざと隊長と2人きりにしたり
休日に隊長の予定を聞き、その場所に私を向かわせ
偶然を装って一緒に行動させました。
その後なんて、“結婚式のスピーチは僕が読む”とか
“余興なら俺がやろう”や“料理ならオレがやる”
勝手に言いたい放題、本当にありがた迷惑ですよ……」

と呆れながらも彼女は笑っていた。

「実はあの任務の後、貴方に交際を申し込もうと
思っていました。ですが……」

そう言うと彼女はさっきまでの穏やかな表情から
一転怒りに燃えた目をした険しい表情になった。

「あの時、私達の部隊は近くの村に盗賊討伐の
任務を受けて向かいました。
実はあの任務は私達を嵌める為の罠でした」


「当時、王国は不可侵条約を結んでいた隣の国に
どうにかして攻め込みたいと思っていました。
理由はその国が持っている豊富な資源と豊潤な土地が
喉から手が出るほど欲しかったからです」


「更に私達の部隊の活躍を妬む人がいました。
それは王の息子である第一王子でした。
彼が率いる1番隊よりも私達の8番隊の方が活躍が
めざましく、それをあの王子は不服に思っていました。
そんな中で王子はとなる考えが思いつきました。

“戦争の火種ならあいつらになってもらおう”と

私達の部隊に嘘の任務を与えてそこに隣の国の印が
入った武器を使って攻め込み私達を全滅させて
その国には条約を無視したと言えばそこで戦争が
起こせて、しかも邪魔な部隊を消せますから
王子からしてみれば一石二鳥ですね」

そして彼女は更に怒りを増した表情をして

「そうしてその王子の作戦は見事に成功して
私達の部隊は私を除いて全滅。
王国は葬い合戦という大義名分を背負って隣の国に
攻め込んで侵略に成功しました」

「私はあの爆発が来た際に隊長、貴方が私の上に
被さってくれたおかげで爆風で飛んで出来たかすり傷
以外はほぼ無傷でした。
私が目を開けた時には周りには隊長をはじめとする
隊員は誰1人といませんでした」

というと彼女は悲しい表情になった。

「私はその後、隠れていました。
いや、正確には悲しくて動けませんでした。
何よりも私の好きな隊長がいないと言うのが辛くて
しばらくは1日中泣いていました。
一時期は死のうかと思いました。
ですが……」

「新聞で開戦の報道が流れた際に察しました。
“私達は嵌められたんだ”と。
そこから私は生きる目標が見つかりました。
隊長達を殺した奴らを全員殺すって」

そして彼女は写真を机に置くと
近くにあった銃を分解してケースに入れた。

「あと3人です。
勿論、あのクソ王子は最後に殺しますよ。
隊長達を殺しておいて自分だけ出世ってそんな事
許されるはずがないですからね」

彼女は同じ机に置いてある花を優しく掴んだ。
そしてそれを胸ポケットに優しく入れた。

「この花は私と同じ名前なんですよね。
暗殺をする際には必ずこの花を置いています。
バカな奴らは分からないと思いますが
一応ヒントとしてこれを与えています」

「前に隊長が言ってましたよね。
“リサはこの花と同じぐらい綺麗だから自信を持て”って
私は貴方に綺麗と言われるのがどれだけ嬉しかったか。
ーーですが隊長、貴方の思いを踏みにじる様な行為に
手を染めてしまい申し訳ありません」

彼女は様々な武器を整理や弾丸の確認を終えたあと
次のターゲットの暗殺準備を終えていた。

「なので隊長。
あと3人の暗殺が終わりましたら私も責任を取って
死のうと思います。この汚れた身では隊長達がいる
天国には行けないと思いますが……
もし会えたらまた全員で写真を撮りましょう。
そして自分の思いを告げたいと思います。
ーーでは、8番隊副官リサ、行ってきますね」

彼女ーーリサはそう言うと荷物をまとめて黒いコートを
着込むとアジトを出て行った。




彼女が出て行ったアジトに残った俺。
「リサ、やめてくれ……そんな復讐は俺含めて
誰も望んでいないんだ」
本来なら彼女を止めなきゃいけない。

彼女を止めたくても俺にはもう止められない。
何故なら俺はもう
あの時リサを守った際に俺は死んだ。
本来ならこの世にいないはずだが何故か俺は魂だけ
地上に残り、リサの隣にいる。

ーーだから彼女が絶望しかけた時も

ーー復讐を決めた際も

ーー暗殺をした瞬間も

ーー暗殺をし終えて泣いている時も

俺は全て隣で見ている。
だが俺は隣で見ているだけで何も出来ない。
声をかけられないし、触れる事も出来ない。
そんな彼女に俺が出来る唯一の事は……
「彼女がどんな事をするか最後まで見よう。
それが彼女をああしてしまった俺に出来る最大の償いだ。
それまで俺はリサの隣で見続けよう」
俺は1人誰にも聞こえるはずが無いと思うが
そう呟くとリサの後を追った。



ーー彼女を復讐の鬼としてしまった責任として
最後まで彼女の復讐劇を見るために。









いつもとは違う感じの小説は
如何だったでしょうか?

いつもは比較的に明るめの話を書いて
いますが今回はかなり重めの話にしました。
元々プロットはあり今回、試しに重めの話に
挑戦してみました。

読んだ際の感想とかありましたら
書いてくださると嬉しいです。

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