良く見ると、世界は汚く美しい。
~港の国、リーヴィア~
「…マヒト、もうそろそろ着くんじゃないか?」
『そうですね。そろそろ見えて…あっ、見えてきましたよ。』
ニリンス森林を歩き、数日。魔王が二人出てきたりと中々の波乱だったが、なんとか目的地…リーヴィア国に到着する事が出来た。が…
「ついに到着か…結構長いこと歩いた気がするな。それにしても、これは…」
「こ、ここがリーヴィア国…!中はどうなってるんでしょう?」
そう。そこには大きな、大きな外壁がそびえ立っていた。
「これじゃ、中が見えないな…。」
『透馬様、あっちの門から入れますよ。』
「門?」
マヒトが指差す方を見ると、何やら兵士のような二人組が入国者を検査している様に見えた。
(あれは…何をやってるんだ?)
二人組のすぐ隣にある看板を見た時、何をしているかはすぐに分かった。
【警戒中:魔王ソティア 警戒レベル:6段階中:4 危険度:高 もしも見かけたら交戦を避け、直ちに連絡を!】
と、ご丁寧にそっくりの似顔絵まで置かれていた。
…いわゆる検問、という奴だろうか。しかし…
「お兄ちゃん、あれ…」
まずい。非常にまずい。
「お、お兄ちゃん…」
そう。何せ、ここにはその張本人であるソティアがいるのだ。
幸い、まだこちらには気付いていないようだが、もしも堂々とあそこを通ろうものなら、確実に、即刻死刑か…それと同等の何か…例えば、無期懲役とか、だろう。
勿論、ソティアだけでなく俺達も同等のお咎めを受けるだろうな…つまり、俺達も死刑か何か…だろう。
しかし、こんな所でソティアが死ぬ訳には行かないし、俺達全員が死ぬなどもっての他だ。
何か、何か無いのか…?
………そうだ。
「ソ、ソティア。確か、潜影ってスキルあったよな?」
「うん、あるけど…」
「それを使って、あそこを通ることは出来ないか?」
「うん、出来る、けど…その後、どうするの?町の中で潜影を解くなんて…」
「いや、そこは…」
透視発動。リーヴィア国を、視る。人目に付かない場所を探す。
いかにも港町、といった建物が連なる。特に酒場なんかは、まるで絵に描いたような酒場だった。
遠くにはしっかりと港も見える。
その中に、入り組んだ路地…路地裏。ここだ。ここなら安全に潜影を解くことが出来る。
「大丈夫だ。その点は心配しなくていい。」
「そ、それでも…狼の獣人がいたら怪しまれるんじゃ…」
再び透視を発動。狼の獣人を確認出来た。
恐らく、それだけで怪しまれると言うことは無いだろう。
「それも大丈夫だ。さ、行くぞ。」
「う、うん…」
そう言うとソティアは、潜影を発動した。すると、まるで俺の影だけが水になったかのように、ソティアはそこに沈んでいった。
そのまま俺達は、検問所へ向かった。すると、先程の兵士二人が簡単な荷物検査をし始めた。勿論だが、見られて困るような物は持っていない。検査も大方終わったところで兵士が、
「よし、何も持っていないな。最後に一つ質問したいのだが…いいかな?」
「ええ。何ですか?」
「魔王ソティア…って分かるかな?狼の獣人の少年なんだが…見たり、聞いたりしたことが何かあるかい?」
「いえ…そう言う情報は何も…すみません。」
「そうか…ありがとう。検査は終わったから、もう行って大丈夫だよ。」
そうして俺達は、無事リーヴィア国へと入国する事ができた。
「やっぱ、実際に見ると…」
『壮観ですね…』
「ひゃー、おっきい建物がいっぱいですね~」
一度透視で視たとはいえ、自分の目で実際に見ると違うものだ。
しかし、こうしている場合ではない。早く路地裏でソティアを…
…その時。
「…そこの君、ちょっといいかな?」
見知らぬ男が声を掛けてきた。
「…え?」
「君…いや、ここで話すのは止めておこう。そうだな…あっちの路地裏がいい。着いてきてくれ。」
男は、ただならぬ気配を纏っていた。強者の気配だ。
それを断ることもできず、何も言わずに着いていく。
そして、路地裏に到着した。
「さて…君達、魔王ソティアについて、知っていることがあるね?特に…君だ。」
「…いえ。特に何も?」
「…ふーん。勘違いかなぁ?影にいると思ったんだけどねぇ。」
「…何故分かった?」
「はは、やっぱりかぁ。そうだと思った。知りたい?知りたいよね?」
「ソティアに何をするつもりだ?」
「やだなぁ、殺すに決まってるじゃないか?」
「…何故?」
「そりゃ、人間に危害を加える、わるーい魔物は…始末してあげなきゃ。そうだろ?」
「…そうだな。ソティアが《危害を加えるわるーい魔物》とやらなら、始末するべきなんだろうな。」
「…君、何が言いたいの?」
「物分かりの悪い奴だな…ソティア、出てこい。」
「…」
「…お前はこいつが《危害を加えるわるーい魔物》に見えるか?俺は見えないね。震えてるじゃないか。もっとも、お前にどう見えるかは分からんがな。」
「…へぇ。【心の封印】も掛かってないんだ。…ごめんね?君達。僕の勘違いだったみたいだ。魔王ソティアのことは、何とかしておくよ。」
「…【心の封印】だと?」
「あぁ、ごめんごめん。僕の固有スキルで透視ってのがあるんだ。といっても、…そうだ、どうせだから紹介するよ。アマネ?」
『はい、ルーク様。』
その時、さっきまで何も無かった筈の、ルークと呼ばれた男の後ろに、人影が確認出来た。
…アマネと呼ばれたその女の子は、マヒトと瓜二つだった。髪の色が、銀か金かの違いだった。そして…
『…お姉ちゃん?』
『…マヒト?』
「「「「…え?」」」」
…どうやら、血縁関係にもあるようだった。
それから、男からお詫びに一緒に茶でもどうかとの提案を受け、それを呑んで…
「さっきはごめんね?急にあんなことして…」
…今に至る。
「いえ、大丈夫です。それより、自己紹介をした方が…」
「…そうだね。僕はルーク。メビウス・ルークラフトさ。宜しくね。」
『私はアマネ。マヒトの姉にあたる者よ。』
「俺は透馬。視上 透馬だ。」
「わ、私はコシャントとも、申します!」
「…ソティア。」
『…マヒトです。…アマネの妹でもあります。』
「うん、大体分かったよ。しかし、アマネに妹ちゃんがいたなんてね。」
『…しかも契約者が【異質なる者】なんて。本当、何が起こるか分からないものね。』
「お、おいおい。誰も俺が【異質なる者】だなんて言ってないぞ?」
『それくらい、視ればすぐに分かりますよ。』
「お、おう…そういうものなのか?」
『それより、お姉ちゃん…と、その契約者…ルークさん、でしたよね?』
「ん?どうしたんだい?」
『ルークさん…あなた、蛇の魔物を討伐…出来なかった剣士、でいいんですよね?』
「はは、そりゃ恥ずかしいこって。そう。いかにも、その剣士さ。」
「え?ってことは…まさか、あの凄腕の剣士って…」
「はは、今度は嬉しいこと言ってくれるじゃないか。」
「ルークさんだったの!?」
…思いがけぬ出会いをした俺達であった…。
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