良く見ると、世界は汚く美しい。

くりテリア

~ミリーヨ村と、その道中にて~

「取り敢えず…話も終わった事だし、ぼちぼち行くか。」


 と言った所で思い出したが、そう言えばソティアにかかっていた【心の封印】とか言うのはどうなったんだろうか?ちょっと試してみよう。コシャントさんに抱かれているが、何を考えているのか…?


(うぅ…お、お姉ちゃんの…あ、当たって…///)


 悪いことをした、と思っている。
 絶対に本人には言わないようにしよう。かわいらしい少年だが魔王だ。殺されかねないからな。まぁ取り敢えず消えているようで良かった。


「そう言えばお姉ちゃんたちって何処に向かってたの?いきなり会っちゃったものだから…」


「んー、お姉ちゃんたちはミリーヨ村に向かってたんだよ~。走って逃げてきたおじさんにソティア君のこと教えて貰って、全速力で向かったんだよ~♪」


『本当に全速力でしたからねぇ。エルフは身体能力が低いと言われていますが、状況にもよるみたいですね。』


「ってことで俺たちはミリーヨ村に向かってる途中だったんだ。目的地も確認出来たし、行こうぜ!」


 改めて、出発した。その道中に、


「うおっ!?なんか出てきた!?」


『これはスライムですね。恐れる事はありませんよ。』


「そ、そうなのか…そうだ、丁度いいしここで皆の実力を確認してみないか?お誂え向きに4匹いるし。」


「えぇっ!?私じゃすぐにやられちゃうよ!?」


「あー…うん。そうだなぁ…あっ、俺が二体目を倒すときにでも身体強化魔法を使ってくれ。違いが分かるだろうからさ。」


「な、なるほど!分かりました!」


「じゃあ早速…よっ!」


 中々の手応えだ。銅の剣でも中々にダメージは通るようだな。もう一回切りつける。二つに切れた。そのあと、スライムはへにゃへにゃとへたりこむような動きをし…消えた。なんか、こう、雲散霧消…みたいな?そんな感じ。


「あ、あれ?意外と簡単に倒せるんだな…」


「と、透馬さん凄いです!たった二回で倒せるなんて!私なんか三十回は殴りつけてやっと倒したのに…」


「そ、そうなの?」


『ええ。普通の兵士などと同じくらいです。』


「あれ?じゃあそんなに凄くない?でも俺なにか鍛えてる訳でもないから凄いの?あれ?」


『十分凄いですよ。では次は私が…《風槍ウィンドスピア》』


 マヒト杖を掲げてそう言った後、なにやら物凄い風がスライムを貫通した。直径30センチ程だろうか。そしてさっきと同じような動きをし、消えていった。


「な、なんだ今の?」


「えぇーっ!すごいすごい!なに今の!?」


「マヒトさん、すごい…」


 さっきの俺の戦いでは何も言ってこなかったソティアも、流石に驚いたようだ。


『ふふ。さっきの技はその名の通り、風の槍を作り出して相手に突き刺す技なのです。まぁスライム相手なのでかなり手加減しましたけどね。』


「え…?あれで手加減してたの?マジかよ…ま、まぁいいや。次はソティアかな?」


「あ、いいよ。先にお姉ちゃんの身体強化を試してみて。多分どっちも倒しちゃうから…」


「え?あ、ああ、分かった。じゃあコシャントさん、お願い…」


「あ、うん!じゃあ…[筋力強化パワーアップ]」


 コシャントさんがワンドボウをこちらへ向けてそう言った後、なにやら力がみなぎってくるような感覚がした。そのままスライムを斬る。先程とは違い、軽く一撃で切り裂くことが出来た。これが身体強化魔法の力なのか…


「い、一撃で斬れちゃった…?」


「よ、予想外だったよ…」


「お兄ちゃん、すごいね…」


『透馬様…なんと勇ましい…』


「よし。じゃあソティア。残りのスライムをやっちゃってくれ!」


「うん…【混沌球カオス・ボール】!」


 予備動作等は無しにソティアがそう言ったとたんに、スライムの目の前に茶色やら黒やらが混ざった、それこそ混沌とした色の球が放たれた。その大きさはスライム三、四匹と言うところか。その球がスライムに当たった瞬間、その球は弾け飛んだ。軽い衝撃が飛んできたから、反射的に目を瞑った。そのあと急いで目を開けたが、スライムは跡形も無くなっていた。さっきまでの攻撃であれば、まだ消滅するには早かった。今の攻撃で消し飛んだのだ。


「うわ…えげつない攻撃だな…」


「ひゃー…すっごい攻撃…」


『な、なんですか、アレ…』


「ご、ごめん…目一杯手加減したんだけど…」


「め、目一杯手加減してアレかぁ…マヒトのよりも凄いみたいだな…」


「ま、まぁこれで道中安心して行けます…よ?」


『そ、そうですね。多少強い敵に出くわしても大丈夫ですよ!』


「あ、あはは…お兄ちゃんとお姉ちゃんだけで十分だと思うけど…」


「まぁアレだ!備えあれば憂いなし、だ!ほら、早くミリーヨ村に行こうぜ!日が暮れちまうぞ!」


 俺達は魔王としてのソティアの力を垣間見たあと、特に襲われる事などはなく日暮れの頃、無事にミリーヨ村に着くことが出来た。


「ここが…ミリーヨ村か…」


「やっぱりここエルフは少ないですねぇ。人間ばっかりです。」


「ここが…人間の村なんだね…」


『しかしもう日が落ちてきていますよ。情報収集も大切ですが、今日は宿屋にでも泊まって疲れを取りましょう。』


「おっ、そうだな。えーっと宿屋は…お、あっちか。」


 宿屋に入る。


「ご、ごめんくださーい…」


「はいはい、お客さん!何名様で?」


「あ、四人です。」


「ありゃ?こんなところに獣人の子とは珍しいねぇ。耳とかももふもふしてそうだねぇ。っと、失礼。何泊のご予定で?」


「一泊です。」


「はいはい、部屋は…あっ」


「どうしたんですか?」


「ごめんなさいね。空いてる部屋が二人部屋二部屋しか無くてねぇ。四人部屋が全部埋まっちゃってるんだよ。それでいいかい?お詫びと言っちゃなんだけど、部屋代は二人分でいいよ。」


「そうなんですか。じゃあそれでお願いします。ってことで、部屋割りを決めるか。」


「んー、ソティアくんと一緒がいいなー♪」


「僕も、お姉ちゃんと一緒がいい…」


 俺は猛烈に嫌な予感がした。同時に、物凄い悪寒が背筋を通った。そう、明らかにこれはコシャントさんとソティア、そして…マヒトと俺が一緒に寝ると言うことだ。くそっ。万に一つも無いだろうが、奇跡を信じて、多数決を…


『では、私と透馬様が一緒に寝ると言うことですね?』


「あ、うん…もうなんかどうでもよくなってきたしいいや。じゃあ二人とも、明日の朝に…」


「「はーい!」」


~部屋のお風呂に入った~(当然の如くマヒトが乱入してきたが、相変わらず神々しかっただけだった。)


「んじゃ、俺達も寝るか…」


『はぁはぁ、と、透馬様と二人きり…欲望が抑えられる気がしない…!透馬様…』


「っ!?は、はは、早く寝るぞっ!俺は寝る!おやすみっ!」


『透馬様…すーはー、すーはー…』


 俺は宿屋を恨んだね。ダブルベッドだから。今夜はいつ襲われてもおかしくない。寝息が聞こえてきたが、もしかしたら起きているかも…と思うと、下手に眠れない。結局俺が寝たのは、朝日が昇ってくる時だった。


『ふぅ…おはようございます、透馬様。ご馳走さまでした。』


「ん?マヒトか…って、は?お前、ご馳走さまって…」


『冗談に決まっているじゃありませんか。透馬様が朝の四時に寝てから好き放題やらせていただいたなんて、そんなことはありませんよ。あ、貞操とかは大丈夫ですよ?安心してください。』


「うん、大丈夫な要素無いね。余計にダルい訳だね。しかもお前が妙にツヤツヤしてるのにも説明つくよね。ってか隠す気無いよね。」


『全く、お堅いですねぇ。だから無理やり襲われるんですよ。』


「もういいよ…早く行こうぜ?これ以上真実を知りたく無いんだよ。もう半分諦めてるんだけどさぁ…」


『分かりましたよぅ。』


 しぶしぶ着いてきているマヒトを尻目に、丁度起きてきた二人と合流する。なにやらこっちもツヤツヤしているコシャントさんと、疲れた様子のソティアがいる。ってか…ちょっ…それヤバイんじゃ!?


 しかしなんかもう慣れてしまった。まだ二日目だと言うのにこれでは、先が心配である。取り敢えずチェックアウト。料金は前日にマヒトが支払ってくれていたので問題ない。いや、幼女に払って貰うのは問題か?でもこいつこれでかなりの年生きててもおかしくないよな…精霊らしいしな。うん!気にしないでおこう!


「じゃあ何か役立つ情報がないか話を聞いてみるか。なにか噂とかあったら気になるからな。」


『では二手に別れて行動しましょうか。なにか情報があればこの宿屋前にでも。ちょくちょく確認しに来れば良いでしょう。』


「そうだね~♪じゃあソティアくん、行こっ♪」


「うん…じゃあお兄ちゃんたちも、頑張ってね!」


「おう!気を付けろよ!」


 結局その日集まったのは凄腕の剣士と怪物の話と黒い魔物の話だった。


 まずは剣士の話。その剣士はかなり強く、強力な魔物もアッサリと倒してしまうのだとか。そんな剣士が、八つの尻尾の蛇の魔物に敗れて来たらしい。無傷ではあったが、その魔物にも傷ひとつ付けられなかったらしい。


 王都グラントニオンという所で、その魔物を倒せる者を集っているらしいが…その蛇の魔物って、ヤマタノオロチじゃないだろうな。


 それはさておき、黒い魔物の話。黒い魔物は、どうやら亜種のようなもので、スライムでもゴブリンでも、なにやら戦闘力が高く、黒いオーラを纏っているらしい。黒いオーラを纏っているから、黒い魔物なのだろう。とにかく、その黒い魔物は積極的に人里を襲いにくるらしい。下級の魔物が黒い魔物になっただけならまだしも、上級の魔物が変化したときは村などはアッサリと崩壊してしまうのだとか。出来れば会いたくないが、浄化魔法とやらを使うことで友好的な魔物になることがあるらしい。が、それも使えない今のままではやはり遭遇は避けたい。くわばらくわばら。


 と言うことで、次の目的地は王都グラントニオンになった。港の多いリーヴィア国から船で行くのが手っ取り早いらしいので、まずはリーヴィア国に行くことになった。無事に着くことは出来るのか…そんな不安を抱えながら、また宿屋で一泊した。今度は四人部屋だったので、安眠出来たし、爽やかな朝を迎えられた。さぁ、今日からまた冒険の始まりだ。

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