良く見ると、世界は汚く美しい。

くりテリア

~邂逅に次ぐ邂逅~

 そんなこんなで、俺達の冒険が始まった。


「んで、何処に行くかも決めてないんだよな…良いところは無いか?」


『丁度ジェハミ草原を抜けたところにミリーヨ村と言うところがあります。そこへ向かいましょう。』


「ミリーヨ村なら私も行ったことあるよ!途中スライムに遭遇して死にかけちゃったけどね!」


(エルフって種族はなんで絶滅してないんだ…?)


「ま、まぁいいや。とりあえず、そのミリーヨ村に行ってみよう。」


 その時。ジェハミ草原からなにやら重厚な鎧を着た冒険者らしき影が走って近づいてきた。


「あ、あんたら、ジェハミ草原に、行くつもりか?」


 息も絶え絶えになりながら、その冒険者?は言った。


「え、ええ。そうですけど…」


「なら、今日は止めておけ。悪いことは言わない。」


「な、なんでですか?何かあったんですか!?」


「そうだ…ソティアが…魔王ソティアが出やがったんだ!」


「ま、魔王ソティア?それ、誰ですか?」


「なに!?魔王ソティアを知らんのか!?」


「は、はい…」


「まぁいい。知らないもんは仕方ねぇ。説明してやる。
ソティアってやつは、元々は人間領と魔物領の境目の村に住んでた、魔狼族の子供だったんだ。ところがある日迷惑なことに、人間の方のバカな奴等がその村を滅茶苦茶に荒らしやがった。
偶然他の村の魔物と遊びに行ってたソティアは無事だったらしいんだが、その時に親を殺された恨みで魔人化しちまった。
本来魔狼族じゃ力のある奴だけが数十年に一度魔王になるくらいなんだが、そいつぁ魔人化すると同時に魔王にもなっちまったんだ。全くもって、迷惑な話よ…とにかく、今はソイツがあっちの方に居るんだ。行くってんなら止めはしないが、死んで戻ってくるような真似はするんじゃねえぞ。」


「わ、分かりました。今日のところは行くのはy…」


「そ、それでその、ソティア?って子の外見ってどんな感じなんですか!?」


 俺の言葉を遮って発言したのは、コシャントさんだった。スライムにすら殺されかけているのに、魔王に向かっていくつもりなのだろうか?それにしては、妙に興奮し過ぎな気が…


「お、おう。まぁ9か10…そうそう、そこの嬢ちゃんくらいの背に、少女みてぇな可愛らしい顔つきだ。
それから、狼の耳と尻尾を持ってるな。魔王でなければ、ただの可愛らしい少年だってのになぁ…」


「あ、ありがとうございます!ほら、何してるんですか!早く行きましょう!透馬さん!マヒトさん!」


「ち、ちょっ…引っ張らないで…!」


『ホントに行くつもりみたいですよ、透馬様。』


 ボソッと言われた。マジかよ…異世界に来て早々に、死ぬ羽目になるとは…


『いえいえ、死ぬことは無いみたいですよ?未来を透視したところ…後は、お楽しみです。』


「えぇ!?ま、まぁ死なないならいいや…」


 と、まぁここまで引きずられているわけだが…ホントにスライムに殺されかけたエルフなのか?最低級魔物のスライムくらい素手で倒せてもおかしくなさそうだが…?というか、本当に心配だ。武器だって、俺が銅の剣、マヒトがウッドワンド、コシャントさんがワンドボウ。ワンドボウとは、弓とウッドワンドを合わせたようなもの…なのだが、その魔王ソティアとやらに通用する気がしない。聞いた話だと、物凄い力を持っている訳じゃ無さそうだが…それでも魔王の端くれ。生半可な、それも俺達のような初心者の攻撃など効く気がしない。なにか策があるのだろうか…なんて考えていたら、声が聞こえてきた。少年のような声だ。


「ふぅん、エルフ一匹、人間一人、精霊一体かぁ…僕は魔王ソティアって言うんだけど…なんでこんなところに来たのかなぁ?道を間違えちゃった?それなら今なら、見逃してあげるよ?それとも…僕を倒しに来たのかな?それなら…容赦はしないよ?」


 ああ、終わった。見逃してあげるとは言っているが、絶対見逃して貰えないだろう。第一逃げようにも、足がすくんで動かない。


 …これが、魔王なのか。外見は黒のシャツの黒の半ズボンを着た、ただの少年だというのに。せめて心を読んでどうにか交渉できないか…


《【心の封印】を確認。透視インビジブル・サイトを実行できません。》


 なんてこった。その【心の封印】とやらを解かなければ、満足に交渉すらできないのか。絶望だ…


「か…」


 コシャントさんがそう言った。なにを言い出したかと思ってコシャントさんのの方を向いた。いなかった。
え?なんで?と思った瞬間、


「っわいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 いた。魔王ソティアの目の前に…というか、そのソティアに抱きついていた。


「ふぁぁぁぁぁ、尻尾もふもふ!耳ももふもふぅ!こんなに可愛いのに尻尾と耳なんて反則だよぉぉぉぉぉぉ!」


「ふ、ふぇ…?」


 当のソティアは、訳が分からないといった顔をしている。無理もない。俺達だって訳が分かっていないからな。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!可愛い可愛い可愛い可愛い可愛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


「あ…ああ…」


 一瞬、俺の目がおかしくなったかと思った。魔王ソティアの頬に、うっすらと涙のようなものが見えたからだ。しかし、どうやら気のせいでは無かったようだ。しっかりと、涙が流れている。


「ひゃあっ!?ご、ごめんね!?痛かった!?」


 そう言いつつ、抱きついたままであるコシャントさん。離してあげろよ、と思っていると、


「おかぁ、さん…?」


 一瞬、え?と思った。しかし、少し考えれば分かることだった。


 ソティアは、人間を恨んで魔王になった訳ではない。いや、そう言うと少し違うか。正確には、人間を恨んだことが一番の原因では無かったのだろう。
 親を殺されたこと…ではなく、親が居なくなったこと。それが、【魔王】としてのソティアが生まれた、一番の原因だったのであろう。考えてみれば、当たり前のことだ。【死】が何か分からないほど小さな時、親が死んでしまったら、恨めしい。という感情、それよりも、寂しい。という感情が上回るだろう。そんな二つの感情が合わさり、魔人化、さらには魔王へと進化させてしまったのだろう。


「おかぁさん…おかぁさぁん!」


「ん~、よしよし。さびしかったねぇ~。でも大丈夫だよぉ♪今日から私が、お母さんになってあげるから!」
「う…うぁぁぁぁぁん!」
「う~ん、よしよし♪いい子いい子♪」
 そんな二人を見つつ、俺は涙を。そんな俺を見つつ、マヒトは涎を流していたのだった。


~数時間後~


「えーっと…それでソティアくんが仲間になる…と。」


「は、はい!」


「~♪」


 鼻歌を歌いながらソティアの頭を撫で撫でしているコシャントさん。なんとも呑気なものだ…それにしても、コシャントさんがショタコンだったとは、意外だなぁ…


『しかし透馬様、このような少年とは言えど魔王なのです。心強い仲間がまた一人増えましたね。』


「うん、あの場面で涎を垂らしてたお前の精神力には叶いそうも無いけどな?」


『そ、そんなに褒めないでください。透馬様…』


 駄目だ。皮肉が通じない…


「と、とにかく。今後はこの四人で冒険をするってことで、異論は無いな?」


「「『異論なし!』」」


「よし!」


 こうして新たな仲間を加え、俺達の冒険は続くのだった。

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