良く見ると、世界は汚く美しい。

くりテリア

~キアナ村での邂逅~

 大体話は纏まった。マヒトは俺のパートナーで、ジェハミ草原で倒れていた俺を助けてくれた、と。


 それから、なにやら固有スキル?の透視インビジブル・サイトとかいうモノを手に入れた。そして、


 マヒトは本当に俺を慕ってくれている、ということだ。


「取り敢えず、ここにいても埒が明かないな。外へ行かないと…」


『透馬様、その格好では些か目立ちすぎます。これを着てください。』


 どうやら泣きじゃくっていたところから立ち直り、いつもの(といっても、まだ会ってから2時間も経過していないだろうが。)マヒトに戻っていた。


 その手には、どこから取り出したのか、服が乗っていた。それは、勇者や騎士などではなく、村人Aが着ていそうな質素な服であった。確かに、先ほど見たエルフの男もこのような服だった。ジャージなんかを着ているよりよっぽど自然だろう。


「分かった、ありがとう。だけど…見るなよ?」


 そう、その手にはご丁寧に下着まで置いてあった。上半身だけならまだしも、下半身を見られるのは死ぬほど恥ずかしい。身体中舐められているとはいえ、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。


 …なのにこいつ、こんなことを言うのだ。


『何故ですか?主人と使い魔の仲ではありませんか。』


 いや、おかしいだろ。裸の付き合いみたいなこと言ってるけどメイドと主人が対等だと言ってるようなものだぞ。


『いいですから、透馬様。大人しく、私に身を委ね…』


「おい!?何言ってんの!?着替えの話だよね!?明らかに違う話みたいになってるよね!?」


『透馬様ぁ…透馬様ぁ…』


「い、嫌だ、やめろ!来るな!」


『透馬様ぁ!』


「ひぃぃぃぃぃぃ!」 


~数分後~


「ぜぇ…ぜぇ…」


『はぁ…はぁ…』


 逃げ切った。我ながら良くこんな部屋の中で逃げ切れたと思う。


「いいか…絶対に…覗くなよ…」


『はぁ…はぁ…』


 バタッ、とマヒトが倒れた。この婿に行けるかどうかという地獄の鬼ごっこは、俺の勝ちに終わった。同時に、俺の着替えも無事に終わったのだった。


『全く…ご主人様は恥ずかしがり屋ですねぇ。』


「恥ずかしがり屋もなにも逃げるに決まってるだろ…」


『私はご主人様にならいくら見られても構いませんが?』


「いや、お前裸…」


 …ん?裸?


「おい…お前その格好、ジャージよりも明らかに目立つだろ?」


『…あっ』


 お前、これ以上属性を追加する気か?アホの子属性まで?


『すぐに着替えます。覗いてもいいんですよ?』


「はいはい、さっさと着替える!」


『むぅ。透馬様、酷いです。』


「今更だが、変態かお前?」


『そんなことはありません。ただ透馬様が好きなだけです。』


「うん分かった、黙って着替えようか。」


 何やら他にも色々言っていたが、無視した。第一覗くもなにも、裸に神々しさまで感じているのだ。覗いて何になるのか。


『着替え終わりました、ご主人様。』


「おお、終わったか。」


 俺と変わらず、スカートでもなんでもない質素な服を着て、半透明でなくなったマヒトがいた。


「あれ?色、濃くなってる?」


『はい。半透明のままでは魔物と間違われてしまうかも知れませんので。』


「なるほど。ってかどうやって変えたんだ?」


『私程の魔力を持っていれば、造作もないことです。』


「そのわりには目が一つのままだが」


『それはどうしようもないのです。それに、単眼の者はまだ怪しまれることは少ないのです。半透明の者はおらずとも、単眼や複眼の者は少し珍しい程度でありますから。』


「あ、そうなんだ?ならいいや。じゃあ、出発するか!」


 そう言って、部屋の扉を開けた。部屋の外は、かなり広かった。豪邸、とまではいかないものの、かなりの広さだ。


「えっと…ここって、お前の屋敷なの?」


『はい。私の屋敷です。』


 せ、精霊とかでもこんな大きな屋敷を持っていることもあるのか…


『出口はこっちです。透馬様。』 


「あ、ああ」


 出口らしき扉があった。開けると、地球の田舎のような場所が広がっている。


『ようこそ、キアナ村へ。【地球】からやってきた【異質なる者】サムシング、透馬様。』


「今それを言うか?普通…」


『良いじゃないですか、別に。ちょっと言ってみたかったんですよ!こういうセリフ!』


 こんな重要(多分)なことをこんなに軽いノリで言うとは思わなかった。しかしそれは置いておこう。この村の探索だ。そんな時、声を掛けられた。


「あ、あの、もしかして、ジェハミ草原で倒れていたという、透馬さん…ですか?」


「は、はい。そうですけど、あなたは…?」


 見た感じ、褐色、黒髪ロングの大人しそうなお姉さん、といった感じの高校生位の外見のエルフがいた。


「も、申し遅れました。私、エルフのコシャントと申します。仲間に入れてください!」


「へ?な、仲間?」


「あ、あれ?冒険に出るという話をマヒトさんから聞いたんですが…」


「おい、本当か?マヒト?」


『~♪』


 どうやら図星のようだ。後でシメておくとして、冒険か…確かに、魔物とかもいるらしいし、それもいいかも知れない。マヒトも言ってたらしいしな。しかし、冒険に行くのはいいが、エルフって戦闘力が低いとか言ってなかったっけか…


「失礼ですが…エルフは戦闘力が低いと聞いたのですが、大丈夫なんですか?」


「は、はい…確かに私たちエルフは弱いですが、補助魔法なら沢山使えます!回復だって、ステータスUPだって、お手の物です!」


「そ、そうなんですか。じゃあマヒト、お前はどう思う?」


『良いと思います。パーティーに補助魔法を使える者がいるのは心強いですから。しかし、万に一つも無いこととは思いますが、透馬様に手を出したらどうなるか…分かりますね?』


「!?っ、はっ、はい!!」


 相変わらず、こいつは俺の事となると一々恐い。しかし、これで心強い仲間が出来たのだ。素直に喜んでおこう。


「えっと、それじゃあコシャントさん、これからよろしくお願いします。」


『よろしくお願いしますね。』


「は、はい!透馬さん、マヒトさん、よろしくお願いします!」


『それでは、食料や必需品、武器等を買って、早速出発しましょう。』


「え?屋敷はどうするんだ?」


『配下の妖精にでも警備や掃除を任せておきますので大丈夫ですよ。』


「そ、そうか。」


 それからは、トントン拍子に事は進んだ。食料や必需品等を買い、荷物を纏め(といっても、コシャントさんしか纏める荷物は無かったが。)、村長のチュンソーさんやその他の皆さんにも挨拶し、出発することになった。


 挨拶したときに知ったが、草原で倒れていた俺を助けてくれたのは、キアナ村の皆さんが総出で助けてくれたのだとか。


 ちなみに、コシャントさんの両親は、数年前に中央大陸のユース王国に移り住んだのだという。なぜコシャントさんを連れていかなかったのかは分からないが、考えても仕方ないだろう。


「皆さん、草原に倒れていた俺を助けて下さり、本当に有難うございました!まともな恩返しも出来ずに出ていくというのは申し訳ありませんが、いつかまた戻って来ます!本当に、有難うございました!」


「みんなー、またねーっ!」


『あぁ…透馬様ぁ…今すぐにでも襲ってしまいたい…』


 約一人おかしなことを言っていたが、それは置いておこう。何はともあれ、ここからが俺たちの冒険の始まりなのだ。

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