コンビニの重課金者になってコンビニ無双する

時雲

25話 正巳さんちの猫

 目が覚めると、既に昼を過ぎておやつの時間を回っていた。

 部屋を見渡すが――ヒトミが見当たらない。
 
 体を起すと、服と体が擦れて気持ちが悪かった。

「そうか……帰って直ぐ寝たからな」

 汗と埃がそのままの状態なのだ。

「風呂に入るかな……」

 正巳は先ず、汚れた体を綺麗にしてしまう事にした。

 見ると、にゃん太も居ない様だ。

 何も考えずに着替えを取り出した正巳だったが、何となく似た様な事が最近あったなと思った。あれは、そう――三日前だったか、そこの扉を開けて……

「っ!」

 間一髪だった。

 露天風呂に繋がる扉が開き始めたのを見て、咄嗟に横になると目を閉じた。

「よかった、寝てましたね……ええと、着替えは買って貰ったのが~」

 ヒトミは何やらガサゴソと袋を漁ると、目的のモノを見つけたのか戻って行った。

 その呟いていた言葉から、何となくヒトミが何をしに来たのか分かったが……着替え位予め用意してから入って欲しい。もし、少しでもタイミングが悪かったらどうするつもりだったのだろうか。

「……蹴られるのだけはごめんだからな」

 誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた正巳は、その後扉もといふすまの向こうで『動いちゃだめですよ~はい、足の裏も綺麗にしますね~』という言葉を聞いて、にゃん太が一緒だった事に一先ず安心していた。

 その後、着替え終えたヒトミとにゃん太が戻って来たので、タイミングを見て起き上がると、『俺も風呂に入って来るな』と言った。正巳に頷いたヒトミだったが、その後で不思議そうに言った。

「私がお風呂入ったの知ってたんですか?」

 そんなヒトミに、平常心を保つように心がけながら返した。

「ああ、髪とか肌とか匂いとか……ほら、服とか見ればな」

 変に意識して余計な事まで口走ったが、問題無いだろう。
 正巳の言葉を聞いて、自分の匂いを嗅いでいたヒトミが言った。

「そうですよね……うん。寝てた筈だしそんな訳ないよね……」
「あ、ああ。それじゃあ入って来るな!」

 そのまま話していると、ヒトミの変な勘の良さで気付かれそうだったので、さっさと退散する事にした。その後、ゆっくりと湯に浸かった正巳は、女将に連絡をして軽食を用意して貰った。


 昼食と言うには遅い食事を食べながら(因みに、女将はサンドイッチを用意してくれた)、今日が重要な日だという事を思い出していた。

 そう、今日は開札日だ。

 開札日……ヒトミの実家がどうなるかが決まる日だ。

 入札期限は、今日の0時――日付が変わる頃だが、結果の報告を受けるのは明日の朝になるだろう。明日、報告を聞いてからヒトミには伝えれば良い。

「なあ、今日はこの宿に泊まって、明日の昼頃にチェックアウトしようと思ってるんだが良いか?」

 言ってから、勘違いしない様に『別に落札できるかどうかとか関係なく、な』と付け加えた。正巳の言葉を聞いたヒトミは、頷くと言った。

「その時は仕方ないですし……ちゃんとお父さんとお母さんに謝って、その後は正巳さんのコンビニで働かせて貰います!」

 そう答えたヒトミに『そうだな、その時は頼む』と言った。

 その後、筋肉痛の体を労わってうつぶせになって休んでいたのだが、にゃん太がトコトコとやって来て目の前でゴロンと横になった。

 やはり、少し足が短いため何と無くモコモコした毛虫が歩いている様に見える。

 にゃん太に構ってやりたかったが、体を動かすと痛かったので、観察していた。すると、ぽよっとしたお腹と、小さなお尻をフリフリしながら歩いて来て、頭によじ登り始めた。

 特に爪を立てて痛い訳でもなかったので、そのまま自由にさせて置いた。

 その後にゃん太は、肩甲骨の辺りに安定する場所を見つけたらしくそこに寝てしまった。

「にゃんにゃん、寝ちゃいましたよ?」
「ああ、何だかんだストレスも溜まっただろうからな」

「そうですか? にゃん太、ずっと寝てましたけど」
「……まぁ子猫だからな、寝るのが仕事みたいなもんだろ」

 そう言うと、ヒトミは『私も猫になりたいですー』と言って、隣に横になった。

 ヒトミは、正巳と違って仰向けになっている。

(仰向けになると筋肉痛で耐えられないんだが……)

 どうやら、ヒトミは若いだけあって、筋肉痛でそれ程苦しんでいないらしかった。

「猫か……ヒトミは既に猫みたいなものだと思うけどな」

「それ、どういうことですか?」

 思った事を只言っただけだったのだが……

「"自由"って事だよ。特に何かに縛られる必要もないし、時運が好きなようにすれば良い。それこそ、今回の事が片付いたら本当に自由なんだからな」

 咄嗟に答えただけの言葉だったが、話していて正巳自身も(そうか、そうだよな……自由だな)と、改めて思った。

「"自由"ですか……ここ数日で色々考えてみましたけど、やっぱり私はそんなに"自由"じゃなくて良いです。それこそ、誰かに雇われているくらいが丁度良いです!」

 ヒトミがそう言って微笑んでいるのを見て、思わず言った。

「……なんか、"家猫"みたいだな」

「ふふ、家猫ですか。そうですね、私は正巳さんちの家猫ですね」

 そう言ったヒトミに、笑いながら『勘弁してくれ、こんなに手のかかる家猫がいたら困る』と答えると、『それを言ったら、正巳さんだってそうです。こんなに息抜きさせないといけない、手のかかる・・・・・主人はいませんよ?』と言われた。

 ヒトミの頭に、猫の耳が付いた姿を思い浮かべそうになっていた正巳だったが、その妄想を振り払いながら答えた。

「そうかもなぁ」
「ええ、きっとそうですよ」

 笑っているヒトミを見ながら、その後日が沈むまでゆっくりしていた。


 ――
 一日ぶりの宿の夕食を食べた正巳達は、再び横になっていた。

「……食ったな」
「……ええ、お腹いっぱいです」
「……みゃぁ」

 お腹いっぱいに美味しい物を食べたのは良かったが、量が多かった。

 多い分は残せば良いとも思ったのだが、如何せん美味しすぎた。

 その結果、部屋に並ぶ川の字。

 結局、動けるようになるまで一時間近くの間ゴロゴロしていた。

 その後、『今日は早く寝よう』という事になって、そのまま寝る事にした。

 筋肉痛で動く度痛みの酷かった正巳には、寝る以外の事が出来そうになかった。

 寝る前、ヒトミが『女将さんからの差し入れです』と言って、湿布を持って来てくれた。どうやら、筋肉痛の部分に付けると痛みがましになるらしかった。

 (明日、女将さんにお礼しないとな)と思いながら、湿布を張ろうとした。

 しかし、痛みで腕を回せなかったので、結局ヒトミに張って貰った。

 正直気恥ずかしかったが、そんなこと言えなかったので黙っていた。しかし、ヒトミが『綺麗な体ですね』と言って来たので(この娘は……気を使って黙っていたのに)と思いながら、『まあ、筋肉が脹れているから今だけな』と答えておいた。

 その夜は、張って貰った湿布のおかげか、ぐっすりと眠れた。

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