コンビニの重課金者になってコンビニ無双する
18話 温泉付き個室と云う罠
「全くだな。ほんとにどうしようもないよ、お前は」
飽くまで明るい口調で、少し小馬鹿にするようにして言った正巳は、胸が少しズキンと痛んだがその痛みは無視して、飽くまで何でもない様に素振りする。
すると、それ迄頭をぶつけていたのを止めたヒトミが反応した。
「そ、そんなふうに――」
「そうだろ? だって、自分の置かれている状況すら分かってないんだぞ?」
「そんなこと――」
「『そんな事ない』か? 実際分かってないだろ」
すると、ムッとしたヒトミが『どういう事ですか?』と言って睨んで来る。その様子が、何となく子供っぽくて微笑みそうになったが、辛うじて抑えた。
途中で気が付いたが、この車のセイフティは本当に優秀なようで、ある程度であれば手を離した事を感知して、道のりに沿って"自動運転"してくれるみたいだ。
その後、睨んで来るヒトミに対して『知りたければ、宿まで案内しろ』と言うと、『……わかりましたよ』と言いながらスマフォを操作し始めた。
その後、『経路案内を開始します』と言う無機質な声と共に、自動案内が始まった。どうやら、自分では案内をしない事で、小さな抵抗をしたつもりらしい。
「……教えて下さいよ」
敢えて黙っていたら、ヒトミの方から聞いて来た。
そんなヒトミに対して言う。
「お前は、自分が今どんな状況にあるか分からないか?」
「分かりません」
考える事を辞めたかのような表情を見ながら、一つの話をする事にした。
「……そうだな。ヒトミは、人間の"凄さ"ってどこにあると思う?」
「"凄さ"ですか?」
何を言っているのか分からない、と言った風に聞き返して来る。
そんなヒトミに対して、繰り返す。
「ああ、そう"凄さ"だ」
「それは……道具を使う事ですか?」
「それも一つだな。……それじゃあ、人は何故道具を使うか分かるか?」
少し考えてから答えて来る。
「それは、便利だから」
「そうだ。それじゃあ、どうして"便利な道具"は作られたと思う?」
「えっと……不便な事を解決する為に考えて――」
「そう言う事さ」
正巳が『分かってるじゃないか』と言うと、ヒトミは『よく分かりません』と言った。そんなヒトミに対して説明する。
「人の凄さは、困難に直面した時に考え解決するその"知性"にあるんだ」
正巳がそう言うと、ヒトミは『確かにそうですね』と納得していたが、直ぐに『でも――』と続けた。
「でも、それがどうして私と関係が有るんですか?」
聞いて来るヒトミに対して、思い出させるようにして言った。
「ヒトミは、最初に両親が亡くなった時、この自分の家の借金が残っていると知った時どうしようとした?」
「……返そうとしました」
「そうだな、それはどうやってだ?」
「都内に出て、働いてです」
「そうだよな、それは考えて解決しようとして取った行動だろ?」
頷いたのを確認して、続ける。
「その結果、コンビニで働いた――」
「直ぐにクビになりました。私がへまをして……」
「そうだな。でも、お陰でセクハラ店長と別れて、俺とにゃん太と出合えた」
「は、はい……」
顔がほてるのを抑えながら、続ける。
「その結果、こうして実家まで来れた」
「でも、そうですけどっ! 結局無駄でした……」
そう言ってから、思い出す様にして『無駄足踏ませてすみません』と言っている。そんなヒトミに対して、『だから"分かってない"んだ』と言う。
「無駄じゃないだろ? もし、戻って来なかったら、三日後には全て終わってたんだ。でも、こうして戻って来れたから、まだ間に合った」
本当に、予め定められていたかのような状況だ。親父の言葉を使って言うならば『つくづく、人生とは愉快なもの』だ。
正巳が『そう思わないか?』と言うと、ヒトミは手の平を眺めながら言った。
「……そうですね。でも、結局無駄です。目の前で、自分の過ごしてきた家が他の人の物になるのを、黙って眺めているしかないんです。結局ここ迄来てもらったのに、私は――」
再びループに入りそうになったヒトミを遮る。
「なんで諦めるんだ? これ迄如何にかしようと苦労して、ようやくここ迄来れたのに」
「それは……」
「言って於くが、諦めずにどうにかしようと考えて、考えて、考えれば、如何にかなるんだ」
我ながら、暴論だとは思う。
しかし、時には必要な事だ。
ヒトミが、逸らしていた目をこちらに向けて来る。
その瞳には、不安を宿し蠢く影がある――
「……如何にかならない事だったら?」
――それは、きっとヒトミの心に巣食う寄生虫。
「それでも良いじゃないか。最後までやり遂げてダメだったら、それは――それこそ仕方が無い。それに、あきらめが付くってモノだろ?」
正巳がそう言って笑いかけると、眉をへの字にして泣きそうな顔をしていたヒトミが、途端に困ったような顔をした。
「……それって、結局ダメじゃないですかぁ」
「何がダメなんだ? ダメかどうかを決めるのは自分だろ?」
『えっ?』と漏らしたヒトミに続ける。
「自分でダメだと思えばダメになる。でも、満足したと思えば満足だろ?」
言いながら、自分に対してのブーメラン――実行し切れていない事だとは分かっていた。しかし、別に自分で完璧に出来ていない事でも、自分が正しいと思っている事を伝えるくらいは良いだろう。
「それは……かってですね」
ふわりとした表情でそう言ったヒトミは、何処か憑き物が取れた様だった。
その後、『それでは、どうやって私の家を取り戻すか考えましょう!』と言い出したヒトミに苦笑しながら、『そうだな、先ずはだな――……』と話し始めたのだった。
一応、資金は銀行から借りるという事にして置き、その他の段取りについて話すに留めておいた。いつか資金の事は話す事になるとは思うが、タイミング的に今では無いと判断したのだ。
――
その後、一時間程走った処で宿に付いた。
『随分と遠かったな、ここ以外に無かったのか?』と聞くと、少し気まずそうにした後で『その、少し頭に来たので遠くの温泉旅館にしちゃいました』と言って来た。
呆れて怒る気も失せてしまったので、一先ず宿に入る事にした。
宿のカウンターで、飛び込みでの宿泊を申し込んだ正巳だったが、生憎部屋は一つしか開いていないらしかった。
泊まれるという部屋は、"個室に温泉が付いている"という最上級クラスの部屋だったが、今更別の宿に行く気になれなかったので、そのまま泊まる事になった。
一応にゃん太――ペットの同伴も可能か聞いてみたが、『まぁ! おチビちゃん可愛いですね~』と言った後で、『余り物の魚くらいしか出せませんけど、それで良ければ』と言ってくれた。
出迎えてくれたのは、どうやらこの宿の女将だったらしく、後から『やっぱりペットはダメです』と言う事にもならなそうだったので、ヒトミに『手柄だな、良い宿を見つけたな!』と言って盛り上がった。
その後、『先に入って良いぞ』と部屋に付いている露天風呂にヒトミを追いやると、宿から一番近い電気屋を探し始めた。
先程、ヒトミには『最初に銀行からお金を借りる』と言って於いたのだが、正しくは『コンシェルジュに電話する』だ。資産約900憶円の大半は、カードの無い口座に入っている。
これが、もし何らかの手違いで支払いの不手際が有って、『遅れた』だのと難癖を付けられては困る。だからこそ、支払いの相談をする為に一度、確認の連絡をする必要が有るのだ。
「あった、これは……大体12㎞位か。案外近くにあるんだな」
朝、電気屋へは俺一人で行く。
コンシェルジュへの電話もあるが、ヒトミにはにゃん太の面倒を見て貰う必要がある。それに、経験上心の疲労には十分な睡眠も必要なのだ。
やる事は終えたので、取り敢えずお茶でも飲む事にした。
「えっと、確かお茶類は縁側にあるって言ってたっけ?」
先程ヒトミが言っていた事を思い出しながら、閉じていた襖をスライドさせた。
「あ……」
そこは、どうやら脱衣所も兼ねていたらしく、少し広い空間に柔らかな光が差し込み、その光の下には艶めかしく艶やかな女性が居た。女性は何一つ纏っていなかったが、その胸元には首飾りの様な物を付けていた。
数瞬の間、息をするのを忘れて見惚れていた正巳だったが、その女性の綺麗な回し蹴りによって、天井を仰いでいた。
「いつまで見てるんですかぁ!」
その言葉を聞きながら、『やっちまったな』と呟いたのだった。
飽くまで明るい口調で、少し小馬鹿にするようにして言った正巳は、胸が少しズキンと痛んだがその痛みは無視して、飽くまで何でもない様に素振りする。
すると、それ迄頭をぶつけていたのを止めたヒトミが反応した。
「そ、そんなふうに――」
「そうだろ? だって、自分の置かれている状況すら分かってないんだぞ?」
「そんなこと――」
「『そんな事ない』か? 実際分かってないだろ」
すると、ムッとしたヒトミが『どういう事ですか?』と言って睨んで来る。その様子が、何となく子供っぽくて微笑みそうになったが、辛うじて抑えた。
途中で気が付いたが、この車のセイフティは本当に優秀なようで、ある程度であれば手を離した事を感知して、道のりに沿って"自動運転"してくれるみたいだ。
その後、睨んで来るヒトミに対して『知りたければ、宿まで案内しろ』と言うと、『……わかりましたよ』と言いながらスマフォを操作し始めた。
その後、『経路案内を開始します』と言う無機質な声と共に、自動案内が始まった。どうやら、自分では案内をしない事で、小さな抵抗をしたつもりらしい。
「……教えて下さいよ」
敢えて黙っていたら、ヒトミの方から聞いて来た。
そんなヒトミに対して言う。
「お前は、自分が今どんな状況にあるか分からないか?」
「分かりません」
考える事を辞めたかのような表情を見ながら、一つの話をする事にした。
「……そうだな。ヒトミは、人間の"凄さ"ってどこにあると思う?」
「"凄さ"ですか?」
何を言っているのか分からない、と言った風に聞き返して来る。
そんなヒトミに対して、繰り返す。
「ああ、そう"凄さ"だ」
「それは……道具を使う事ですか?」
「それも一つだな。……それじゃあ、人は何故道具を使うか分かるか?」
少し考えてから答えて来る。
「それは、便利だから」
「そうだ。それじゃあ、どうして"便利な道具"は作られたと思う?」
「えっと……不便な事を解決する為に考えて――」
「そう言う事さ」
正巳が『分かってるじゃないか』と言うと、ヒトミは『よく分かりません』と言った。そんなヒトミに対して説明する。
「人の凄さは、困難に直面した時に考え解決するその"知性"にあるんだ」
正巳がそう言うと、ヒトミは『確かにそうですね』と納得していたが、直ぐに『でも――』と続けた。
「でも、それがどうして私と関係が有るんですか?」
聞いて来るヒトミに対して、思い出させるようにして言った。
「ヒトミは、最初に両親が亡くなった時、この自分の家の借金が残っていると知った時どうしようとした?」
「……返そうとしました」
「そうだな、それはどうやってだ?」
「都内に出て、働いてです」
「そうだよな、それは考えて解決しようとして取った行動だろ?」
頷いたのを確認して、続ける。
「その結果、コンビニで働いた――」
「直ぐにクビになりました。私がへまをして……」
「そうだな。でも、お陰でセクハラ店長と別れて、俺とにゃん太と出合えた」
「は、はい……」
顔がほてるのを抑えながら、続ける。
「その結果、こうして実家まで来れた」
「でも、そうですけどっ! 結局無駄でした……」
そう言ってから、思い出す様にして『無駄足踏ませてすみません』と言っている。そんなヒトミに対して、『だから"分かってない"んだ』と言う。
「無駄じゃないだろ? もし、戻って来なかったら、三日後には全て終わってたんだ。でも、こうして戻って来れたから、まだ間に合った」
本当に、予め定められていたかのような状況だ。親父の言葉を使って言うならば『つくづく、人生とは愉快なもの』だ。
正巳が『そう思わないか?』と言うと、ヒトミは手の平を眺めながら言った。
「……そうですね。でも、結局無駄です。目の前で、自分の過ごしてきた家が他の人の物になるのを、黙って眺めているしかないんです。結局ここ迄来てもらったのに、私は――」
再びループに入りそうになったヒトミを遮る。
「なんで諦めるんだ? これ迄如何にかしようと苦労して、ようやくここ迄来れたのに」
「それは……」
「言って於くが、諦めずにどうにかしようと考えて、考えて、考えれば、如何にかなるんだ」
我ながら、暴論だとは思う。
しかし、時には必要な事だ。
ヒトミが、逸らしていた目をこちらに向けて来る。
その瞳には、不安を宿し蠢く影がある――
「……如何にかならない事だったら?」
――それは、きっとヒトミの心に巣食う寄生虫。
「それでも良いじゃないか。最後までやり遂げてダメだったら、それは――それこそ仕方が無い。それに、あきらめが付くってモノだろ?」
正巳がそう言って笑いかけると、眉をへの字にして泣きそうな顔をしていたヒトミが、途端に困ったような顔をした。
「……それって、結局ダメじゃないですかぁ」
「何がダメなんだ? ダメかどうかを決めるのは自分だろ?」
『えっ?』と漏らしたヒトミに続ける。
「自分でダメだと思えばダメになる。でも、満足したと思えば満足だろ?」
言いながら、自分に対してのブーメラン――実行し切れていない事だとは分かっていた。しかし、別に自分で完璧に出来ていない事でも、自分が正しいと思っている事を伝えるくらいは良いだろう。
「それは……かってですね」
ふわりとした表情でそう言ったヒトミは、何処か憑き物が取れた様だった。
その後、『それでは、どうやって私の家を取り戻すか考えましょう!』と言い出したヒトミに苦笑しながら、『そうだな、先ずはだな――……』と話し始めたのだった。
一応、資金は銀行から借りるという事にして置き、その他の段取りについて話すに留めておいた。いつか資金の事は話す事になるとは思うが、タイミング的に今では無いと判断したのだ。
――
その後、一時間程走った処で宿に付いた。
『随分と遠かったな、ここ以外に無かったのか?』と聞くと、少し気まずそうにした後で『その、少し頭に来たので遠くの温泉旅館にしちゃいました』と言って来た。
呆れて怒る気も失せてしまったので、一先ず宿に入る事にした。
宿のカウンターで、飛び込みでの宿泊を申し込んだ正巳だったが、生憎部屋は一つしか開いていないらしかった。
泊まれるという部屋は、"個室に温泉が付いている"という最上級クラスの部屋だったが、今更別の宿に行く気になれなかったので、そのまま泊まる事になった。
一応にゃん太――ペットの同伴も可能か聞いてみたが、『まぁ! おチビちゃん可愛いですね~』と言った後で、『余り物の魚くらいしか出せませんけど、それで良ければ』と言ってくれた。
出迎えてくれたのは、どうやらこの宿の女将だったらしく、後から『やっぱりペットはダメです』と言う事にもならなそうだったので、ヒトミに『手柄だな、良い宿を見つけたな!』と言って盛り上がった。
その後、『先に入って良いぞ』と部屋に付いている露天風呂にヒトミを追いやると、宿から一番近い電気屋を探し始めた。
先程、ヒトミには『最初に銀行からお金を借りる』と言って於いたのだが、正しくは『コンシェルジュに電話する』だ。資産約900憶円の大半は、カードの無い口座に入っている。
これが、もし何らかの手違いで支払いの不手際が有って、『遅れた』だのと難癖を付けられては困る。だからこそ、支払いの相談をする為に一度、確認の連絡をする必要が有るのだ。
「あった、これは……大体12㎞位か。案外近くにあるんだな」
朝、電気屋へは俺一人で行く。
コンシェルジュへの電話もあるが、ヒトミにはにゃん太の面倒を見て貰う必要がある。それに、経験上心の疲労には十分な睡眠も必要なのだ。
やる事は終えたので、取り敢えずお茶でも飲む事にした。
「えっと、確かお茶類は縁側にあるって言ってたっけ?」
先程ヒトミが言っていた事を思い出しながら、閉じていた襖をスライドさせた。
「あ……」
そこは、どうやら脱衣所も兼ねていたらしく、少し広い空間に柔らかな光が差し込み、その光の下には艶めかしく艶やかな女性が居た。女性は何一つ纏っていなかったが、その胸元には首飾りの様な物を付けていた。
数瞬の間、息をするのを忘れて見惚れていた正巳だったが、その女性の綺麗な回し蹴りによって、天井を仰いでいた。
「いつまで見てるんですかぁ!」
その言葉を聞きながら、『やっちまったな』と呟いたのだった。
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