コンビニの重課金者になってコンビニ無双する
15話 招いていない客
左折のウインカーを出した正巳は、弧を描いて下る出口を走っていた。
この後ゲートを抜ければ一般道だ。
気持ち良さそうに眠るヒトミには悪いが、起こす事にした。
「ヒトミ、起きてくれ。ヒトミ、チーズバーガー……チーズバーガー食べちゃうぞ~ほらこんなにたっぷりのチーズが……トロトロの三種類のチーズが美味しいぞ~」
普通に声を掛けても反応が無かったので、途中から半ばふざけていたのだが、『ほら、起きないと全部なくなるぞ』と言った処で、腕に当たる感覚があった。
「だめでふ、わたしのちーずばーがーでふ……」
どうやら寝ぼけながらも目を覚ましたらしい。
目を覚ましたのは良かったのだが――
「お、おいっあぶねえっ!」
「へっ?」
ヒトミに腕を引っ張られた反動でハンドルが取られた。
急ハンドルだったが――
「おぉっ――?」
ぶつかるかと思った瞬間、ハンドルが勝手に動いて、元の軌道に戻った。
……車屋の店主が『システムが優秀で~』とは言っていたが、これもそのセイフティシステムの一つなのだろうか。もしそうだとしたら、実際に衝突回避が出来た訳で優秀なシステムと言えるだろう。
「ぶ、ぶつかってませんね」
「ああ、危なかったがな……」
その後、安全運転でゲートを抜けた正巳は、真っ青になっているヒトミに声を掛けた。
「意地悪な起こし方だったな、すまん」
「いえいえ、そんな……私が悪いんです。危うく事故になる処でしたし」
「いや、俺が余計なことしなければ――」
「いえ、私が直ぐに起きれば――」
そんなやり取りを数度繰り返した処で、『まあ、お互いさまって事で……今回はコイツに感謝だな』と言うと、ヒトミも『ええ、そうですね』と言ってから、何か考え込み始めた。
「どうした?」
「いえ、この子の名前は何かな~と思いまして……」
そう言って、車のダッシュボード辺りを撫でている。
「……車の名前か。そうだな、そう言えば店主は『ゴリラ』とか言ってたっけな」
会話の途中で店主が読んでいた名前を出した。
しかし、ヒトミは気に入らなかったようで、『ダメです!』と言った後で口を開いた。
「そうですね、この子はモン吉です!」
「モン吉って……まぁ、何でも良いか」
ゴリラからのモン吉だったので、何となく安直すぎる気もしたが、特にこだわりたい訳でもないので、ヒトミの好きなようにさせる事にした。
「それで、ここ等辺は分かるか?」
何度か『モン吉~』と呟いているヒトミに聞くと、周囲を見回したヒトミが言った。
「うん、わかる! ここは表通りだね、このまましばらく行くと突きあたるから、そこを左折すると直ぐに十字路が有るから、次は右折して……――」
そのまま説明し始めたヒトミに、待ったをかける。
「ちょっと待って、順番にで頼む。次は左折だよな?」
落ち着かせるようにして言うと、恥ずかしそうにもじもじしてヒトミが言う。
「えっと、ごめんなさい。つい懐かしくて」
……そう言えば、ヒトミが自分の実家に帰って来たのは一年ぶり位だったか。
「まあ、明日にでも明るい時間帯に回れば良いさ」
既に周囲は日が落ちて暗くなっている。
今周りをドライブしても、大して街並みは見えないだろう。
「はい! あ、もうすぐ左です!」
右手を小さく上げた後、指で"こっち"とジェスチャーしている。
――
その後、20分ほどしてようやく、ヒトミの家までの一本道に入っていた。
「後は、ここをまっすぐ行けば私の家です!」
「分かった。……それにしても、周りの家は人住んでるのか?」
過ぎて行く家は、どの家にも灯りが付いていない。そればかりか、建っている家もまばらで、取り壊された跡が目立つ場所ばかりだ。
「周りは"開発"とか言うので、殆どが取り壊されているんです」
「そうか……ヒトミは自分の実家――」
正巳が最後まで言う前に、目の前に飛び込んできた景色があった。
「あれ? 目の前に"小さな公園"があって、手前には十字路……ここがヒトミの家じゃないのか?」
困惑しながら、目の前で煌々と灯りの灯った一軒の家を見ていた。
その家は、ヒトミから聞いていた通りの家――外壁は少しくすみながらもレンガの柄をしており、自動車が一台止められるスペースがある。その横には庭もあり、紅葉の木が植わっている――だった。
ヒトミからは、『兄弟はいないし、親戚も知っている人はいない』と聞いていた。
どういう事かヒトミに聞こうとして、横を見たが――
「えっ、どうして電気が付いてるの? もしかしてお父さん達が帰って来たの?」
――混乱しているみたいだった。
一先ず、ヒトミを落ち着かせてから、明かりがともっている理由を確認しに行く事にした。場合によっては警察を呼ぶ必要も出て来るだろう。
「大丈夫だ、お父さんとお母さんは天国に行っただろ? きっと、不動産を管理している人が点検か何かに来てるんだよ」
何度か言い聞かせると、ようやく落ち着いて来た。
ヒトミの事を落ち着かせながら、手に持ったスマフォを即通報出来るように用意した。
「よし、行くか……」
小さく呟くと、ヒトミには車に残っている様にと言ってから、気合を入れて外へ出た。数歩離れると、自動で車のロックが掛かった音がした。
車から離れた正巳は、車両が三台止まっているのを確認した。もしかすると、中に居るのは泥棒かも知れない。鼓動が高鳴る中、何かあった時に対処できるように、三台の車のナンバープレートをスマフォにメモしておいた。
二台の乗用車と、一台の軽自動車の横を通り過ぎた正巳は、少なくとも三人は侵入者が居るという事実を確認して、自分の身を守るのがスマフォだけという事に少々不安を覚えていた。
「……護身術でも習っておけば良かったな」
脈が早まるのを感じながら、開いていた門扉を音を立てない様にして引くと、ドアに手を掛けた。
その後一呼吸してから、音を立てない様にしてドアを開こうとした正巳だったが、直後聞こえた話し声に息を呑んだ。
「――と言う事で、これで内覧は終わりとなります。もう外も暗くなって来た事ですので……」
何やら落ち着いた調子の声だったが、正巳にはその内容を深く考える余裕などなかった。開きかけていたドアを勢いよく開いた正巳は、スマフォの画面を前に見せつけるようにして入ると言った。
「動いたら通報するぞ!」
思いの他大きな声が出たが――
「うわっびっくりしたぁ……あの、どちら様ですか?」
想像していた反応と違う事に戸惑いながら、目の前の男達を見回した。
男達は3人、二人がスーツで一人がポロシャツにジーパンの普段着だ。
「余計な事をすると、通報する!」
「えっ、通報ぅ? そんな、これは公共の競売じゃないんですかぁ!?」
正巳の言葉に反応したのは、眼鏡を掛けた普段着の男だ。
男はうろたえていたが、その横に居た紺色のスーツの男は違った。
「落ち着いて、私達の素性は知っているでしょ。何方かと言うと問題なのはそちらの方ですよ。そうですよね、峰崎さん?」
……妙に落ち着いている。
「え、ええ。まぁ、正直驚きはしましたが、私達が正式な許可証を持ってこの家を案内している事に間違いはありません。全く問題無いかと思います」
声を掛けられた男は黒のスーツを着ており、多少驚いてはいるものの丁寧な口調で説明をする。その様子を見ながら、ふと思い至った事があった正巳は聞いていた。
「……もしかして、不動産の人ですか?」
正巳の言葉を聞いて反応したのは、妙に落ち着いていた紺のスーツの男だった。
「ああ、私がそうだが」
その言葉を聞いた正巳は、一気に力が抜けるのを感じていた。
この後ゲートを抜ければ一般道だ。
気持ち良さそうに眠るヒトミには悪いが、起こす事にした。
「ヒトミ、起きてくれ。ヒトミ、チーズバーガー……チーズバーガー食べちゃうぞ~ほらこんなにたっぷりのチーズが……トロトロの三種類のチーズが美味しいぞ~」
普通に声を掛けても反応が無かったので、途中から半ばふざけていたのだが、『ほら、起きないと全部なくなるぞ』と言った処で、腕に当たる感覚があった。
「だめでふ、わたしのちーずばーがーでふ……」
どうやら寝ぼけながらも目を覚ましたらしい。
目を覚ましたのは良かったのだが――
「お、おいっあぶねえっ!」
「へっ?」
ヒトミに腕を引っ張られた反動でハンドルが取られた。
急ハンドルだったが――
「おぉっ――?」
ぶつかるかと思った瞬間、ハンドルが勝手に動いて、元の軌道に戻った。
……車屋の店主が『システムが優秀で~』とは言っていたが、これもそのセイフティシステムの一つなのだろうか。もしそうだとしたら、実際に衝突回避が出来た訳で優秀なシステムと言えるだろう。
「ぶ、ぶつかってませんね」
「ああ、危なかったがな……」
その後、安全運転でゲートを抜けた正巳は、真っ青になっているヒトミに声を掛けた。
「意地悪な起こし方だったな、すまん」
「いえいえ、そんな……私が悪いんです。危うく事故になる処でしたし」
「いや、俺が余計なことしなければ――」
「いえ、私が直ぐに起きれば――」
そんなやり取りを数度繰り返した処で、『まあ、お互いさまって事で……今回はコイツに感謝だな』と言うと、ヒトミも『ええ、そうですね』と言ってから、何か考え込み始めた。
「どうした?」
「いえ、この子の名前は何かな~と思いまして……」
そう言って、車のダッシュボード辺りを撫でている。
「……車の名前か。そうだな、そう言えば店主は『ゴリラ』とか言ってたっけな」
会話の途中で店主が読んでいた名前を出した。
しかし、ヒトミは気に入らなかったようで、『ダメです!』と言った後で口を開いた。
「そうですね、この子はモン吉です!」
「モン吉って……まぁ、何でも良いか」
ゴリラからのモン吉だったので、何となく安直すぎる気もしたが、特にこだわりたい訳でもないので、ヒトミの好きなようにさせる事にした。
「それで、ここ等辺は分かるか?」
何度か『モン吉~』と呟いているヒトミに聞くと、周囲を見回したヒトミが言った。
「うん、わかる! ここは表通りだね、このまましばらく行くと突きあたるから、そこを左折すると直ぐに十字路が有るから、次は右折して……――」
そのまま説明し始めたヒトミに、待ったをかける。
「ちょっと待って、順番にで頼む。次は左折だよな?」
落ち着かせるようにして言うと、恥ずかしそうにもじもじしてヒトミが言う。
「えっと、ごめんなさい。つい懐かしくて」
……そう言えば、ヒトミが自分の実家に帰って来たのは一年ぶり位だったか。
「まあ、明日にでも明るい時間帯に回れば良いさ」
既に周囲は日が落ちて暗くなっている。
今周りをドライブしても、大して街並みは見えないだろう。
「はい! あ、もうすぐ左です!」
右手を小さく上げた後、指で"こっち"とジェスチャーしている。
――
その後、20分ほどしてようやく、ヒトミの家までの一本道に入っていた。
「後は、ここをまっすぐ行けば私の家です!」
「分かった。……それにしても、周りの家は人住んでるのか?」
過ぎて行く家は、どの家にも灯りが付いていない。そればかりか、建っている家もまばらで、取り壊された跡が目立つ場所ばかりだ。
「周りは"開発"とか言うので、殆どが取り壊されているんです」
「そうか……ヒトミは自分の実家――」
正巳が最後まで言う前に、目の前に飛び込んできた景色があった。
「あれ? 目の前に"小さな公園"があって、手前には十字路……ここがヒトミの家じゃないのか?」
困惑しながら、目の前で煌々と灯りの灯った一軒の家を見ていた。
その家は、ヒトミから聞いていた通りの家――外壁は少しくすみながらもレンガの柄をしており、自動車が一台止められるスペースがある。その横には庭もあり、紅葉の木が植わっている――だった。
ヒトミからは、『兄弟はいないし、親戚も知っている人はいない』と聞いていた。
どういう事かヒトミに聞こうとして、横を見たが――
「えっ、どうして電気が付いてるの? もしかしてお父さん達が帰って来たの?」
――混乱しているみたいだった。
一先ず、ヒトミを落ち着かせてから、明かりがともっている理由を確認しに行く事にした。場合によっては警察を呼ぶ必要も出て来るだろう。
「大丈夫だ、お父さんとお母さんは天国に行っただろ? きっと、不動産を管理している人が点検か何かに来てるんだよ」
何度か言い聞かせると、ようやく落ち着いて来た。
ヒトミの事を落ち着かせながら、手に持ったスマフォを即通報出来るように用意した。
「よし、行くか……」
小さく呟くと、ヒトミには車に残っている様にと言ってから、気合を入れて外へ出た。数歩離れると、自動で車のロックが掛かった音がした。
車から離れた正巳は、車両が三台止まっているのを確認した。もしかすると、中に居るのは泥棒かも知れない。鼓動が高鳴る中、何かあった時に対処できるように、三台の車のナンバープレートをスマフォにメモしておいた。
二台の乗用車と、一台の軽自動車の横を通り過ぎた正巳は、少なくとも三人は侵入者が居るという事実を確認して、自分の身を守るのがスマフォだけという事に少々不安を覚えていた。
「……護身術でも習っておけば良かったな」
脈が早まるのを感じながら、開いていた門扉を音を立てない様にして引くと、ドアに手を掛けた。
その後一呼吸してから、音を立てない様にしてドアを開こうとした正巳だったが、直後聞こえた話し声に息を呑んだ。
「――と言う事で、これで内覧は終わりとなります。もう外も暗くなって来た事ですので……」
何やら落ち着いた調子の声だったが、正巳にはその内容を深く考える余裕などなかった。開きかけていたドアを勢いよく開いた正巳は、スマフォの画面を前に見せつけるようにして入ると言った。
「動いたら通報するぞ!」
思いの他大きな声が出たが――
「うわっびっくりしたぁ……あの、どちら様ですか?」
想像していた反応と違う事に戸惑いながら、目の前の男達を見回した。
男達は3人、二人がスーツで一人がポロシャツにジーパンの普段着だ。
「余計な事をすると、通報する!」
「えっ、通報ぅ? そんな、これは公共の競売じゃないんですかぁ!?」
正巳の言葉に反応したのは、眼鏡を掛けた普段着の男だ。
男はうろたえていたが、その横に居た紺色のスーツの男は違った。
「落ち着いて、私達の素性は知っているでしょ。何方かと言うと問題なのはそちらの方ですよ。そうですよね、峰崎さん?」
……妙に落ち着いている。
「え、ええ。まぁ、正直驚きはしましたが、私達が正式な許可証を持ってこの家を案内している事に間違いはありません。全く問題無いかと思います」
声を掛けられた男は黒のスーツを着ており、多少驚いてはいるものの丁寧な口調で説明をする。その様子を見ながら、ふと思い至った事があった正巳は聞いていた。
「……もしかして、不動産の人ですか?」
正巳の言葉を聞いて反応したのは、妙に落ち着いていた紺のスーツの男だった。
「ああ、私がそうだが」
その言葉を聞いた正巳は、一気に力が抜けるのを感じていた。
「現代ドラマ」の人気作品
書籍化作品
-
-
2265
-
-
49989
-
-
59
-
-
52
-
-
1978
-
-
37
-
-
35
-
-
75
-
-
381
コメント