『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~

時雲

234話 魔性の女

 戦略方針を決めた次の日、世界の主要国代表が集まる会合への出席準備・・・・を終えていた。

『国際連合』
 通称"国連"は、世界中の大小様々な国の内近現代に入り組織された国際機構だ。その主な役割には、国際間の平和を維持する事と、平等と民族自決(文化の尊重)の原則に基づく諸国間の友好関係の発展を育成する事。そして、国際間の経済・社会・文化・人道的問題を解決するうえでの国際協力を奨励する事がある。

 今回正巳達は、この国連に於いて国際社会全体に対して二つの事を表明する。

 一つ目は、"ハゴロモ"の独立宣言。
 二つ目は、ガムルスへの宣戦布告。

 一つ目はまだしも、二つ目の内容については波風立つ内容だ。
 良し悪しで単純に言い分ける事は出来ないが、戦争を全肯定する人は少ないだろう。

 しかし、そうしなくては解決できない問題もある。

 病状の進度によっては、手術によってしか解決が出来ない問題があるように、戦争によってしか解決できない問題もあるのだ。

 これは、場所や地域に限らず見て来た事だが、戦争兵器の不要論を訴える国は、決まってその抑止力を外部に依存していた。自身で身を守らない代わりに、何らかの対価を払っているのだ。

 正巳達の"国"は、その対価を何処かに払う代わりに、自分達の身は自分達で守る方針だった。

 その理由には、正巳自身が体感した"搾取される弱者"とこれに対抗するには"守る力"が必要だという経験があったが……もう一つ、守る義務のある筈の大人に裏切られた子供達の存在があった。

 誰かに頼り、永遠にその相手に対し"盲目的な期待"をする事はしない。自分の身、それ以上に子供達の事は自分たちの力で守り抜く。――これが、責任を持つとした日に決めた事だった。

 飛行機に搭乗して行くカイルを見ながら頷くと、隣に声をかけた。

「よし、それじゃあ二人を頼むな」

 答えたのはサクヤだ。

「頼まれた」

 当初六人で向かい、護衛はサナと正巳とマムで行う予定だった。テンも強くはなってはいるが、まだまだプロの傭兵と比べると劣る部分もある。その最たる部分が経験値の差だ。

 ――そんな予定の中、行きの手段として選んだ一般機の都合上、どうしても二手に分かれる必要が出て来た。本来であれば、正巳とサナが分かれて護衛すれば良かったのだが……

 そう、サナがどうしても正巳と離れようとしなかったのだ。
 結局、護衛を新たに加えた三手に分かれて搭乗する事になっていた。

 護衛には、ハク爺やユミルは顔バレ必至で却下だったが……実力とバレるかのギリギリのラインから、サクヤとジロウを選んでいた。

 ちなみに、既に搭乗済みのカイルにはジロウが護衛として付いている。

 若干緊張しているミンと『また後で』と言葉を交わし、サクヤを先頭に歩いて行くミンとテンを見送った。テンも肩に力が入ってはいたが、しっかりと周囲の警戒をしている様だった。

 ミンたちを見送った後、言った。

「さて、俺達も行くか」
「行くなの!」

 燥ぐサナを見て(そう言えば、サナは飛行機が好きだったな)と思い出しつつ、手を差し出した。

「ほら行くぞ、マム」
「……はい、正巳様」

 正巳の差し出した手をそっと握ったのは、ほっそりとして長くも美しい指だった。

「こんなサプライズは要らないぞ、全く……」

 そう、今正巳の隣に立っているのは、マムでありながらマムではない――新たな機体をその器としたマムだった。見た目は完全に大人の女性であり、その性格も一歩下がって付いて来るようなお淑やかな女性のソレだった。

 ただ、見た目に於いて白髪である事は譲れなかったらしく、綺麗に透き通った白い髪をしていた。

 拠点を出発する際、今井さんが言った言葉を思い出しながら悶々としていたが、先を行っていたサナが途中で止まって"早く来い"と催促していた。

「ふぅ、今井さんには良く言い聞かせておく必要があるな」

 歩き始めた正巳の歩調に合わせ、一歩を踏み出したマムが反応する。

「それは、マスターの『君もこういうタイプの女性が好きなんだろう?』という言葉に対してですか? それでしたら、確かにパパはより積極的になっていると分析できますが、しかしそれはこの性格ゆえの反射的行動であると分析が出来ますので――」

 何やら分析し始めたマムの言葉を、遮ると言った。

「そんな分析をするな。それにほら、ここからは"正巳"呼びだろ?」

 子供の見た目ならまだしも、大人の見た目で"パパ"何て呼ばれた頃には、どんな誤解をされるか分かったものではない。大人の機体を動かす際は、"正巳"と呼ばせる事にした正巳は改めて釘をさすと、マムが微笑みながら答えた。

「ふふ、そんな正巳様も素敵ですよ?」

 柔らかいほほえみと、その心地よい声に一瞬見とれそうになったが、隣に戻って来たサナが手を引いたのでそれ処ではなくなった。

「ダメなの、ましょーの女にろくなのはいないなの!」

 グイグイと引っ張るサナに連れられ、機内に入った正巳は(どこでそんな難しい言葉覚えたんだ?)と疑問を覚えつつも、添乗員の何か微笑ましいものを見るような視線に苦笑していた。

 恐らく、外から見たら"出発ギリギリに焦って登場する家族"にでも見えているのだろう。その実、傭兵と独立宣言をしに行く代表と、そもそも人ではないアンドロイドAIだったが……

 サナの案内の元、自分たちの三人掛けの席に座った正巳は一息ついた。

「ふぅ……サナ、外を見るのも良いが出発する時はシートベルトを締めるんだぞ」

 嬉しそうに窓の席で外を覗き込むサナにそう言うと、目を閉じているマムにも声をかけた。

「マム、何かあれば報告してくれ。それと――」

 恐らくは現在、並行して動かしているおとりの調整をしているのだろう。

 敵は、まさかこちらが民間の一般機体に乗っているとは思ってもいないだろうが、一応保険として"おとり"を用意していた。

 このおとりはプライベートジェットだが、マムが操縦している。

 もしそちらに何か反応があれば、報告が入るだろう。

 何事もない事を祈りながらも、釘を刺しておいた。

「問題が起きない限りは、機長から操縦権を奪うなよ?」

 正巳の言葉に、マムがピクリと反応しながら言う。

「はい、危険が及ばない限りは」

 頷くマムに少しだけ不安になったが、直ぐに(まぁその時はそのときか)と思い直した。

 その後、機内アナウンスと共にゆっくりと動き始めた機体は、やがて地面からその巨体を浮かばせると上昇し始めた。

 サナは、終始楽しそうに足をふらふらと動かしていたが、離陸して数分後ようやくシートベルトの解放許可が下りると、早速狭い窓枠に肘を乗せ、外を眺め始めたのだった。

 ――時間にして約13時間、長時間フライトが始まった。

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