『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~

時雲

232話 二つ目の案

 一つ目の作戦案に続き、二つ目の作戦案に関しても説明しようとした所で、横から声が上がった。

「あのね、サナは"しゅば"って倒すなの! にゃんたもなの!」

 声を上げたのは、それ迄ボス吉を抱えて顔をうずめていたサナだった。今まで静かにしていた為、てっきり寝ているのだと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。

「そうだな、それが二つ目の案なんだが……うん? サナ、口元濡れてるぞ?」

 サナの口元を見て言うと、慌てた様子で口元を拭いながら言った。

「ち、違うなの! 別にそういうワケじゃないなの!」
「……まぁそうだな。取り敢えず、ボス吉をちゃんと抱えてやれ」

 逆さに抱えられたボス吉が不憫で言うと、サナが元気よく答えた。

「わかったなの! にゃんた、じっとしてるなの」
「にゃお、にゃー」

 サナによって、緊張感が一気に緩んでしまった。その後、少しの間サナとボス吉のやり取りを見ていた一同だったが、集中が戻って来た処で話し始めた。

「二つ目の案は、開戦後に最速での首脳部制圧を目指す事だ。これは、既に過去例にある事だが……問題である首脳部を制圧する事で、そもそもの悪い部分を切り取り、問題を終わらせると言う事だ」

 一番最近では、アブドラの国"グルハ"で起きたクーデターに対処した時がそうだった。今回は、革命を起こす側だが、やる事は基本的に変わらないだろう。

 問題の奴らを制圧し、事を終わらせる。

 これが、健全な政治体制を敷いている国であれば混乱が起きるだろうが、元が狂っているからこそどうにかする方法など幾らでもある。

 それこそ、暗闇の中に光を灯すような事なのだから。

「勿論、民間にも膿の部分――甘い汁を吸っていた者達もいるだろうが、頭を抑えれば後はどうにでもなる。この案は、何を置いてしてもスピードと正確さが重要だ」

 軽い説明しか行わなかったが、それ程細かい説明は不要だろう。その証拠に……

「うむ、ワシらの得意な所じゃな!」
「分かり易くて良いな!」
「仕留める」
「サナもやるなの!」

 まだどうするかの結論が出ていないのに、やる気に溢れている。

「一応言っておくが、最初の案であれ後の案であれ、対象は生け捕りだからな?」

 今回は生け捕りにする事が前提だ。

 こちらに命の危険があれば別だが、今回は単に戦争をするわけではない。

 "革命"なのだ。

 もし、もしもだ。生け捕りこれを考えない単なる戦争ならば、事は簡単だっただろう。

 それこそ、一歩も動かずして大打撃を与えられる。

 どれか稼働中の環境インフラを止めれば、それだけで多大な影響が出るのだ。

 止めるだけでなく、暴走させればなお良いだろう。

 それこそ、環境インフラや商業インフラなど遠回しなモノでは無く、軍事に関わるものであれば、どれを選んでも十分以上の結果が得られるはずだ。

 例えばの話だが――

 戦車や戦闘機、爆撃機やその他軍事兵器を暴走させれば、それで事が済むだろう。

 ――周辺諸国からは、"自爆"として見られると言う恥をさらしながら、同時にガムルスの大きな収入源である"兵器"の信用が失われる事になる。

 しかし、これらをするつもりは無かった。

 何故なら第一に、今回行うのは"革命"であるから。第二に、マムと言う存在を隠す理由があるから。そして第三が、ガムルスの国民が悪い訳では無いからだ。

 これは、既にカイルに確認しデウの証言を聞き、マムに収集して貰った情報からも明らかな事だったのだが……
 問題である奴隷制度や貧民街の拡大化、政府高官の悪事――この大半が、権力を持つ軍部高官が原因だった。

 つまり、今回問題である首脳部は、軍部高官と一部の政権幹部だ。であれば、問題である軍部高官と、軍部と癒着している政権幹部を断罪すれば良い。

 因みにこれら対象は、既に残らずリストアップ済みだ。そして、マムによるマーキングがされている。

 ただ、ここで間違えてはいけない事がある。

 ――断罪するのは国際社会だ。

 ここで正巳が"断罪"と言って首を落としては、それこそ意味がない。

 断罪するのは個ではあるが、個ではない。
 個を見ながらも、そこに見るのは国なのだ。

 国際社会の場に於いて公に処罰される事で、初めて、これ迄の黒い歴史が清算された事になる。
 悪政が変わると言う事を明確に示す事で、ガムルスと言う国にその先、将来への道が開けるのだ。

 正巳の言葉に頷いた面々を見て言った。

「どうやら、考えがまとまったみたいだな」

 頷いているのは、実動メンバーが大半だったが、カイルも頷いたのを見て聞いた。

「決まったか?」

「はい。これ以上長い間、同国民が苦しむのは見ていられません」
「私も同じ想いです」

 カイルの言葉にミンも頷いている。

「デウはどう思う?」

 かつて、ガムルスの衛兵として自分も国民から搾取していたデウだったが、正巳が言葉を向けると、それ迄噛みしめていた唇を開いた。

「私は……」

 言いかけてどもるが、隣に座っていた先輩が軽く背中を押した。

「私は、少なくない時間を過ちの中で過ごしていた過去があります。それが当然であるかのように、他の人間を――同じ人でありながら――モノとして考えていた事もありました。しかし、それは大きな過ちであり、例え直接主導していなかったとしても大きな罪に変わりはありません……」

 その後もデウの懺悔が続いたが、最後にこう言った。

「――私は、叶う事であれば、その罪を償う機会を、私と同じ立場の者にも与えて欲しいです……私がこうしてここにいる事を許されているのですから……」

 それ迄、革命軍の面々にはデウの事を詳しく話していなかったが、今回のデウの告白で悟ったらしかった。中には厳しい目を向けている者も居たが、話し終えて低頭するデウを見て、出かかった言葉を飲み込んだみたいだった。

 其々が落ち着いた所で言う。

「そうだな、飽くまでも主導する指導者にその責任がある。当然、個々の罪が消えると言う訳では無いが、それは個人で償うべき範囲の話だろう」

 正巳の言葉に、デウが頭を下げる。

「であれば……あの時救われた命は、その贖罪として捧げます」

 その必要はないと言おうと思ったが、ここでその言葉は余りに酷だろう。

「分かった。それでは、その贖罪としてこれ迄と変わらず、上原先輩を助けてくれ。それで俺は良い」

 正巳がそう言うと、先輩は少し恥ずかし気にしながらも手を差し出した。

「何か変わる訳じゃないけどな、よろしく頼むぜ」
「つっ、そうだな」

 先輩は少し照れた様子だったが、デウは何となく晴れやかな表情をしている気がした。

「さて、話が逸れたな。他に質問が無ければ、方針の決定に移るが」

 決め方はどうしようか悩み処だったが、多数決で確認し、票が割れれば意見のすり合わせをしようと考えていた。完全に何方かにするよりは、その方がより柔軟な作戦となるだろう。

「確認良いかな?」
「ええ、何ですか?」

 聞いて来たのは上原先輩だった。

「いや、最初の案の場合での保護する国民の数と、それに掛かる日数が気になってな」

 先輩の質問は、恐らく先輩自身の身についた職業病的な部分があるのだろう。事実、質問の意図として、経費の計算をするであろう事が見て取れた。

 実際には、それ等は全てマムがやるので必要なかったりするが……

「その場合、対象となるのは都心部及び軍備のある地域――約80万人で、誘導及び保護には一か月強かかる予定です。それに、保護して貰うために周辺諸国への協力取り付け等を考えると、準備には少なくとも二か月かかりますね」

 すると、何やら計算していた先輩が顔を上げて言った。

「なるほどな、軽く見積もってみたが……住民の、一か月の食費やら住居の経費やらを考えると、軽く天文学的なレベルになるな……ははは、大丈夫なのか?」

 先輩も、数百億単位での費用が掛かる事を知ったのだろう。口が半開きになっている先輩を見ながら、言った。

「まぁ、問題無いと思いますよ」

 そう、何せ今は強制貿易の売り上げも入って来るのだ。マムが稼ぎあげた数十兆円に加え、現状では多少の事では揺らがない程の資金基盤が出来ていた。

 正巳の何でもない風な答えを聞いた先輩は、口元をヒク付かせていた。

「そうか……それじゃあ、二つ目の案ではスピード勝負と言う話だったが。その場合、ターゲットのいる位置が正確に分からないと、難しいんじゃないか?」

 先輩の質問に、そう言えば先輩が知る機会が無かったなと、口を開いた。

「それはですね――」
「問題ないなの、マムが教えてくれるなの!」

 サナの答えに、先輩が顔を向けて来るので頷く。

「まぁ、そういう事です」
「なるほど、コスト的には……いや、何でもない」

コスト・・・か、財務部に居た癖で基準がそこにあるんだろうな)

 先輩に頷くと、他の面々を見回した。

「他に質問はないな? ……よし。それじゃあ、賛成する方に手を上げてくれ」

 皆の準備ができたことを確認して、早速決を採る事にした。

 正巳が話す横では、真っ白な猫が真剣な眼差しで正巳の話を聞いていた。

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