『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~

時雲

225話 エッグスター

 三日という時間はあっという間だった。

 この三日間で、知らなかった事と何となくそんな気がしていた事――それ等を確認する事となった。

 先ず挙げるべきは、地下に配備されていたモノについてだろう。

 そして、これら地下に配備されていたモノに関連して、後々まで影響を与える事になる、ある"大きな決定"を下す事になるのだが――

 先ずは、順を追って行く事にしよう。

 ◆◇

 見せたい物があると言うので、楽しげな今井に付いて行くと、それ迄確認した事の無かった地下七層――町の上層部によって行われた不正な金銭授受と、それによって進められていた地下下水道及び貯水計画跡。それ等に繋がると言う階層――へと案内された。

 以前"倉庫"として使うと聞いていたのだが、正巳の眼には全く異なる景色が映っていた。

 結果から言おう。

 そこは、一種の"生産工場"だった。

 ――とは言っても、生産されたモノの管理や保管も行われている様子だったので、確かに"倉庫"と言うのも嘘ではないみたいだったが……

 上の階層の倍以上もある天井高と、チラホラと見える巨大な箱状の区画。そして、その他無数に存在する素材の輸送ラインと、動き回る機械達。そこで動いているのは全てが機械だった。

 今井さん曰く『実は、一部で人の手を入れたい部分があるんだよね』との事だったが……どうやらその理由は、マムに"足りていない部分を学習させる為"らしかった。

 この件に関しては、戻った後直ぐに提案する事になった。どうなるかとも思ったが、カイルの口添えもあり、給金を支給する代わりに健康な者の内、希望者が働く事になった。

 当初、労働を"保護して貰う対価"として認識していたらしいが、きちんと給金が支払われると聞いて、喜ぶと同時に驚いていた。

 一応、食費は全て正巳側で負担している為、それらを引いた金額を支給する事となったが、仮に働く事が出来ない者がいてもその者には負担をさせない事。加えて、途中から働けるようになった場合は、その時点から食費の負担をして貰う事を通達しておいた。

 肝心の給金だが、全ての通貨は電子通貨デジタルマネー管理の為、給金もこの電子通貨デジタルマネーで支払う事となっていた。最初の内は、生体登録による"電子通貨デジタルマネー"の付与に戸惑っていたが、それも数日後にはすっかりと馴染んで来ていた。

 加えて、要望があってパネルを設置したのだが――自分の残高を確認出来るようになってからは、更に熱心に働くようになった。やはり、努力が結果として目に見えると言うのは、やる気を掻き立てるらしい。

 子供達に関しては、回復した後で"勉強の機会を与える"と決めていたが、大人についてはその処遇を悩んでいた。今回思わぬ展開で必要が生まれたが、結果的には色々と都合が良い形になった。

 中には『自分も勉強したい』と言う大人も居たので、その人達に関しては希望通り勉強の機会を与える事にした。ただ、大人には教室等を用意せず、其々用意したエリア内に於いて立体投影されたマムによる一対一マンツーマン指導になった。

 子供達が一つの教室内で学ぶ事には、"集団行動"や"約束を守る事"などを学ぶ意図もあったが、大人に関してはその必要が無いのだ。結果的に大人達は、其々勉強に打ち込む為の環境が出来た訳だが……それ迄学ぶ機会が無かったからだろう。

 知識への貪欲な姿勢はそのまま、スポンジが水を吸収するかのように、学んでいる其々に対して十分な知識を与える事になった。

 猛烈に学ぶ大人達からは――中にはよわい70を超える老人も含まれていたが――幾つになっても、"その人次第で無限の可能性を生む"と教えられる事になった。

 どうやらマムの指導は厳しかったらしく、一部大人達から"先生"と呼ばれていた。

 マム自身は、『私にはマムという名前が――!』とその度に怒っていたが、正巳が『先生と慕われるなんて、流石マムだな』と言うと、それ以降嫌がる事は無かった。

 逆に、子供達にまで『マムは先生です、何か知りたい事ありますか?』と絡んでいて、苦笑したくらいだった。……話を戻そう。

 地下を案内された正巳だったが、気付いた事があった。

 それは、――他の階層よりも広い事。

 高さが倍以上ある事は直ぐに分かったが、縦だけでなく横にも広い気がした。

「これは、他の階層よりも広くなってます?」
「正解だよ。途中でもう少し広い空間が必要になってね、途中で拡張したのさ!」

 ――思った通りだ。

 七階層だけが他の階層よりも広いらしく、図面を見せてもらうと実に1.7倍にも及ぶ平面積を誇っていた。恐らく、体積で言うととんでもない広さだろう。

 見せて貰った図面だが……この図面からは、他にも気になるモノを見つけた。

 それは、大小様々な幾つもの地下通路・・・・だ。それは、横だけでなく縦にも展開されており、正に縦横無尽――血管のように巡らされているみたいだった。

 今井さん曰く"射出路"――機体や装置などを、管理庫から地上へと高速射出する経路――らしいのだが。どうやら、当初拠点の真中心を空洞にして、拠点の天井部から発射する設計だったらしい。

 しかし、それは色々な不都合を生む――主に騒音や(現在確保されているという)シェルターとしての堅牢性を失う――らしく、結果的に現在の形を取る事になったみたいだ。

 ……上原先輩の苦労が窺える。

 また、射出路に加えて気になったのが、"地下水路跡"や"地下貯水槽跡"やらに置かれていると言う一種の装置・・だった。それ等は――実際に目にしたが――小型車程度のサイズをしており、そこからは幾つかの機械が作り出されていた。

 一度会話の中で聞いた気がしたが、どうやらこれが"移動可能生産工場コロニー"らしく、大きな亀のような見た目をしていた。

 その他にも、幾つかの装置や機械は生物の形を取っていたが、『地球環境下このほしでの理想を考えると、その結論は生物の模倣となる事が多い』との事で、"生物模倣バイオミメティクス"と言うらしかった。

 それでも、本来一部の優れた構造を取り込めば済むはずだが、全体が生物に似た形を取っているのは、どうやら正巳の発言と趣味趣向が影響しているみたいだった。

 マム曰く『パパが気に入るように!』と言う事だったが……確かに可愛い。

 当然、『取り入れなくても良い』と言っておいた。もし子供らに『正巳は動物を愛でる変態だ』等と聞かれでもしたら、変なイメージを持たれるかも知れない。

 ……そんなこんなで地下を視察していた訳だが、本題はこの後だった。

「これが何か分かるかい?」

 今井さんがそう言ってある方向を指した。その方向を見ると、そこには格納されて行く作られたばかりの(一メートル足らずの)機体があった。その外見は野鳥にも見えたが、すぐに理解した。

「……無人偵察機ドローンですね」

 頷く今井さんが、次は別の方向を指したのでそちらを見る。

 そこにも、同じ役割を果たすであろう機体が格納されていたが、その外観はだいぶ違った。先程のが鳥の見た目だったのに対して、こちらは戦闘機をより鋭角にした形をしている。

 横に対して縦が長く、横幅二メートル程なのに対して、縦幅は三メートル程もあった。

「これは、ベーシックな無人偵察機ドローンですよね?」

 正巳がそう聞くと、今井さんが説明してくれた。

「正解だよ。最初のは、アネハヅルをモデルにした低~中高度偵察用で、最大八千メートル上空から長時間監視可能だ。それで、こっちはと言うと高速偵察機。高度はそれ程稼げないが、非常に高いエネルギー効率と空力作用により、マッハ2での運用ができるんだ」

 実は、すでに運用されているらしく、アネハヅルモデルの方は本物に交じって行動しているらしい。高速偵察機の方は、高速航行すると炸裂音を起こすらしく、通常時使用する事はほぼ無いと言う事だった。

「さて、これが偵察機な訳だけど、こっちは何だと思う?」

 言われてそちらを見ると、そこにあったのは何やら丸い卵型の機体だった。

「……卵ですが?」
「ふふ、そうさ。だがね――マム!」

 今井さんが合図すると、それ迄卵型だったのが幾何学に亀裂が入り、四本の足を持つ機体に変形した。何となく、卵を被った蜘蛛のようにも見えたが、そこには腕が付いており新種・・だった。

「これは……」
「うん。これは、ずばり"エッグスター"だよ!」

 今井さんは胸を張るとそう言った。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品