『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~
207話 ぎこちない笑顔
背中にサナとサクヤを乗せて歩いていた正巳は、途中で好奇の視線と羨むような視線に晒されていた。好奇の視線を向けているのは大人で、羨むような視線を向けているのはその大半が子供だった。
保護した大人からは、今後についてや正巳達に関しての質問や確認、場合によっては何かしらの"要求"すらあると思ったのだが……想定していたような事は何一つなかった。
その様子を伺うに、どうやらこちらに対して極度の恐れや畏怖に近い感情があるようだった。何にしても、今の状況では都合の良い事この上無かったので、一先ず放っておく事にしていた。
因みに、今回保護した数は優に三百を超えていたが、大人の数はその四割ほどだった。一応理由もマムから聞いてはいたが、その理由は『大人の方が実験体としての"強度"が高いとしての理由から、その多くが犠牲になったみたいです』――という事だった。
これに関連した事で、囚われた子供達の半数近くはその両親と共に捕らえられていたらしく、今後拠点内に於いて両親を探す子が出て来るであろう事も予測できた。
両親と再会できれば良いが、そうでなかった場合は……
改めて自分の"責任の取り方"について思いを巡らせた正巳だったが、先を歩いていたユミルが振り返ったので、今は目の前の事に集中する事にした。
「そう言えば、言葉が通じない者同士はどうするんだ?」
勿論、マムに向かって呟いたのだがサクヤが反応した。
「大丈夫。分からない相手には、拳で言い聞かせる」
「それは、ハク爺……お父さんの教えか?」
サクヤの衝撃のワイルドすぎる発言に、思わず聞き返した正巳だったが、どうやら違ったらしい。若干間があってから、サクヤが答えた。
「違う、けど必要な時もある」
「……そういう場合も有るかも知れないが、拠点ではそういう事は無しで頼む」
正巳の言葉に頷いた事を確認して、マムに視線を向けた。すると、手のひらを下に向けたマムが、その手の平から何かキラキラと光るものを出しながら言った。
「大丈夫です。実は、既にマイクロマシンの実用化実験が済んでいまして、これは"通訳"に特化した機械となっています」
「ほう、それじゃあ……?」
「はい。これを必要なエリアに配置して置きさえすれば、あらゆる言語間での会話が可能となります。ただ、室外での使用には向きませんので、使用する場所は選ぶ事になります」
「……恐ろしいほど便利だな」
想像の斜め上を行く回答に驚いた正巳だったが、背中に乗ったサクヤとサナにとってはどうでも良い事らしかった。
その後、地上階に存在する無数の部屋の中、一つの部屋の前で立ち止まったユミルは、振り向きながらドアを開いた。ここは、先日アブドラの護衛達を案内した部屋の近くだが、この部屋に関しては今回が初めての利用だったはずだ。
一度立ち止まった後、再び足を踏み出すと同時にユミルが口を開いた。
「正巳様がご到着です!」
「……!」
良く通る声で正巳の入室を知らせたユミルだったが、その声を聞いた室内から僅かな反応があった。どうやら、室内の空気は少しピリピリしているみたいだ。
部屋の中には、テンやアキラ等派遣組とミンやサクヤなどの保護して来たメンバーがいる筈で、その中には大人も含まれているだろう。
(保護された側からすれば、そりゃ緊張もするか……)
自分が中に居る側だったらと考えた正巳は、少しフランクに入る事にした。
案内してくれたユミルに礼を言うと、マムを連れ二人を背負ったまま中に入る。一瞬ユミルが何か言いたげにしていたが、黙殺しておいた。
そして、部屋に入るなり言った。
「やあ、揃ってるな!」
なるべく明るい調子でそう言って入ると、起立して緊張している様子を見て笑顔を浮かべた。
「どうした、そんなに硬くならなくて大丈夫だぞ……うん?」
正巳としては精一杯リラックスさせようとしたのだが、視線を向ける度に最初に増して体を強張らせて行く姿がちらほらと確認できる。
どうやら、誰をどの位呼ぶかについては、全体のバランスが取れるように調整したみたいだった。正巳側のメンバーは数こそ多いものの、子供が含まれている為数を多めに取ったのだろう。
その内訳は――正巳側からは今井、上原、デウ、テン、アキラ、ハクエン、サナ、ユミル、そして正巳を入れると計九名。ハク爺側からはサクヤ、ジロウ、褐色の肌の少女、そしてハク爺の計四名。その他の保護した人達に関しては、大人が六名出席していた。
その場にいるメンバーについて把握した正巳だったが、視線を向ける度に全体に緊張が走るのはいただけなかった。
「どうしたんだ?」
思わず洩らした正巳だったが、ユミルの耳打ちでその理由が分かった。
「正巳様。それでは、まるで山賊か何かみたいです」
「むっ……ゴホン」
どうやら、無理やり作った笑顔がいけなかったらしい。
作っていた表情を元に戻すと、場の空気が緩んだのが分かる。
「うむむ……」
何もしない方が良かったという事に、何処か納得行かない正巳だったが、今ここで余計な事を言いでもして振出しに戻しても仕方ないだろう。
取り敢えず、今は何も言わないでおく事にした。
「はぁ……」
(こちらのメンバーは殆どが子供だから、ある程度注意――『こちらが子供ばかりだと侮るなよ』とでも言おうかと思っていたが……この分だと必要なさそうだな)
必要以上に緊張している様子を見て苦笑気味になったが、気を取り直すと、改めてその面々を確認して行った。
どうやら、入り口近くには今回保護したメンバーがまとまって座っていたらしい。ダイレクトに緊張が伝わって来たのはこれが理由だろう。
そして、部屋の奥にはいつものメンバーが座っているのが見える。
一番奥のソファが空いていたが、恐らくそこに座れと言う事なのだろう。その隣と、拠点組と保護組の境目、そして入り口に近い場所にも一つ空きが見えが……
「ほら、サクヤは多分あそこだぞ」
入り口に近い場所に開いたスペースを指差した正巳だったが、それを受けてサクヤが言った。
「……ダメ。お姉ちゃんは、いつも弟の隣に居て面倒を見るもの」
正巳の背に乗ったままそう言い放ったサクヤだったが、素早く移動して来た大柄な男(ジロウと言ったか)に引き剥がされ、連れて行かれた。
途中、『離さないと後悔させる』とか『今に下痢になる』とか言う声が聞こえていたが、一向に相手にしないジロウによって、空いていた場所に連れていかれていた。
「やったなの、サナのお兄ちゃんなの!」
……背中でサナが喜んでいる。
今考えてみると、先程みんなの反応が悪かったのは、背中に二人を乗せていたからかも知れない。肩に二人の子供(少なくとも外見上はそう見える)を乗せて入って来る男……不審者じみている。
ここでサナに降りて貰っても今更なので、飽きるまで好きにさせておく事にした。
……少なくとも、座る時には降りてくれるだろう。
その後、自分の席まで歩きながら、派遣していた面々と一言づつ言葉を交わした。
「元気そうだな、アキラ」
テンとは少し前に顔を会わせていたが、アキラとは久しぶりだった為、嬉しそうにする顔を見てつい頭を撫でてしまった。
「うん、アニキ!」
元気そうにしているが、何処か影がある。
……向こうで戦闘があったと聞いたが、恐らくはその肉体的、精神的な疲労が残っているのだろう。一瞬ハクエンの方へと視線をやり、言った。
「明日にでも一緒に体を動かすか?」
「えっ? アニキと!?」
驚いて目を見開くアキラに(そう言えば、一緒に訓練する処か一緒に運動する事も殆どなかったな)と思い出して反省した。
「ああ、ハクエンも一緒にな」
「っはい!」
ハクエンは思わず手を上げて返事をしているが、それを見たアキラがぶっきら棒に言う。
「……たくっ、しょうがないなぁ」
「決まりだな」
言葉とは裏腹に浮かべる嬉しそうな表情を見て(俺は兎も角、ハクエンと訓練をする事で、精神的な回復と実践で得た経験を上手く共有してくれると良いな)と思った。
保護した大人からは、今後についてや正巳達に関しての質問や確認、場合によっては何かしらの"要求"すらあると思ったのだが……想定していたような事は何一つなかった。
その様子を伺うに、どうやらこちらに対して極度の恐れや畏怖に近い感情があるようだった。何にしても、今の状況では都合の良い事この上無かったので、一先ず放っておく事にしていた。
因みに、今回保護した数は優に三百を超えていたが、大人の数はその四割ほどだった。一応理由もマムから聞いてはいたが、その理由は『大人の方が実験体としての"強度"が高いとしての理由から、その多くが犠牲になったみたいです』――という事だった。
これに関連した事で、囚われた子供達の半数近くはその両親と共に捕らえられていたらしく、今後拠点内に於いて両親を探す子が出て来るであろう事も予測できた。
両親と再会できれば良いが、そうでなかった場合は……
改めて自分の"責任の取り方"について思いを巡らせた正巳だったが、先を歩いていたユミルが振り返ったので、今は目の前の事に集中する事にした。
「そう言えば、言葉が通じない者同士はどうするんだ?」
勿論、マムに向かって呟いたのだがサクヤが反応した。
「大丈夫。分からない相手には、拳で言い聞かせる」
「それは、ハク爺……お父さんの教えか?」
サクヤの衝撃のワイルドすぎる発言に、思わず聞き返した正巳だったが、どうやら違ったらしい。若干間があってから、サクヤが答えた。
「違う、けど必要な時もある」
「……そういう場合も有るかも知れないが、拠点ではそういう事は無しで頼む」
正巳の言葉に頷いた事を確認して、マムに視線を向けた。すると、手のひらを下に向けたマムが、その手の平から何かキラキラと光るものを出しながら言った。
「大丈夫です。実は、既にマイクロマシンの実用化実験が済んでいまして、これは"通訳"に特化した機械となっています」
「ほう、それじゃあ……?」
「はい。これを必要なエリアに配置して置きさえすれば、あらゆる言語間での会話が可能となります。ただ、室外での使用には向きませんので、使用する場所は選ぶ事になります」
「……恐ろしいほど便利だな」
想像の斜め上を行く回答に驚いた正巳だったが、背中に乗ったサクヤとサナにとってはどうでも良い事らしかった。
その後、地上階に存在する無数の部屋の中、一つの部屋の前で立ち止まったユミルは、振り向きながらドアを開いた。ここは、先日アブドラの護衛達を案内した部屋の近くだが、この部屋に関しては今回が初めての利用だったはずだ。
一度立ち止まった後、再び足を踏み出すと同時にユミルが口を開いた。
「正巳様がご到着です!」
「……!」
良く通る声で正巳の入室を知らせたユミルだったが、その声を聞いた室内から僅かな反応があった。どうやら、室内の空気は少しピリピリしているみたいだ。
部屋の中には、テンやアキラ等派遣組とミンやサクヤなどの保護して来たメンバーがいる筈で、その中には大人も含まれているだろう。
(保護された側からすれば、そりゃ緊張もするか……)
自分が中に居る側だったらと考えた正巳は、少しフランクに入る事にした。
案内してくれたユミルに礼を言うと、マムを連れ二人を背負ったまま中に入る。一瞬ユミルが何か言いたげにしていたが、黙殺しておいた。
そして、部屋に入るなり言った。
「やあ、揃ってるな!」
なるべく明るい調子でそう言って入ると、起立して緊張している様子を見て笑顔を浮かべた。
「どうした、そんなに硬くならなくて大丈夫だぞ……うん?」
正巳としては精一杯リラックスさせようとしたのだが、視線を向ける度に最初に増して体を強張らせて行く姿がちらほらと確認できる。
どうやら、誰をどの位呼ぶかについては、全体のバランスが取れるように調整したみたいだった。正巳側のメンバーは数こそ多いものの、子供が含まれている為数を多めに取ったのだろう。
その内訳は――正巳側からは今井、上原、デウ、テン、アキラ、ハクエン、サナ、ユミル、そして正巳を入れると計九名。ハク爺側からはサクヤ、ジロウ、褐色の肌の少女、そしてハク爺の計四名。その他の保護した人達に関しては、大人が六名出席していた。
その場にいるメンバーについて把握した正巳だったが、視線を向ける度に全体に緊張が走るのはいただけなかった。
「どうしたんだ?」
思わず洩らした正巳だったが、ユミルの耳打ちでその理由が分かった。
「正巳様。それでは、まるで山賊か何かみたいです」
「むっ……ゴホン」
どうやら、無理やり作った笑顔がいけなかったらしい。
作っていた表情を元に戻すと、場の空気が緩んだのが分かる。
「うむむ……」
何もしない方が良かったという事に、何処か納得行かない正巳だったが、今ここで余計な事を言いでもして振出しに戻しても仕方ないだろう。
取り敢えず、今は何も言わないでおく事にした。
「はぁ……」
(こちらのメンバーは殆どが子供だから、ある程度注意――『こちらが子供ばかりだと侮るなよ』とでも言おうかと思っていたが……この分だと必要なさそうだな)
必要以上に緊張している様子を見て苦笑気味になったが、気を取り直すと、改めてその面々を確認して行った。
どうやら、入り口近くには今回保護したメンバーがまとまって座っていたらしい。ダイレクトに緊張が伝わって来たのはこれが理由だろう。
そして、部屋の奥にはいつものメンバーが座っているのが見える。
一番奥のソファが空いていたが、恐らくそこに座れと言う事なのだろう。その隣と、拠点組と保護組の境目、そして入り口に近い場所にも一つ空きが見えが……
「ほら、サクヤは多分あそこだぞ」
入り口に近い場所に開いたスペースを指差した正巳だったが、それを受けてサクヤが言った。
「……ダメ。お姉ちゃんは、いつも弟の隣に居て面倒を見るもの」
正巳の背に乗ったままそう言い放ったサクヤだったが、素早く移動して来た大柄な男(ジロウと言ったか)に引き剥がされ、連れて行かれた。
途中、『離さないと後悔させる』とか『今に下痢になる』とか言う声が聞こえていたが、一向に相手にしないジロウによって、空いていた場所に連れていかれていた。
「やったなの、サナのお兄ちゃんなの!」
……背中でサナが喜んでいる。
今考えてみると、先程みんなの反応が悪かったのは、背中に二人を乗せていたからかも知れない。肩に二人の子供(少なくとも外見上はそう見える)を乗せて入って来る男……不審者じみている。
ここでサナに降りて貰っても今更なので、飽きるまで好きにさせておく事にした。
……少なくとも、座る時には降りてくれるだろう。
その後、自分の席まで歩きながら、派遣していた面々と一言づつ言葉を交わした。
「元気そうだな、アキラ」
テンとは少し前に顔を会わせていたが、アキラとは久しぶりだった為、嬉しそうにする顔を見てつい頭を撫でてしまった。
「うん、アニキ!」
元気そうにしているが、何処か影がある。
……向こうで戦闘があったと聞いたが、恐らくはその肉体的、精神的な疲労が残っているのだろう。一瞬ハクエンの方へと視線をやり、言った。
「明日にでも一緒に体を動かすか?」
「えっ? アニキと!?」
驚いて目を見開くアキラに(そう言えば、一緒に訓練する処か一緒に運動する事も殆どなかったな)と思い出して反省した。
「ああ、ハクエンも一緒にな」
「っはい!」
ハクエンは思わず手を上げて返事をしているが、それを見たアキラがぶっきら棒に言う。
「……たくっ、しょうがないなぁ」
「決まりだな」
言葉とは裏腹に浮かべる嬉しそうな表情を見て(俺は兎も角、ハクエンと訓練をする事で、精神的な回復と実践で得た経験を上手く共有してくれると良いな)と思った。
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