『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~

時雲

199話 先手を打つ者

「世界を取りに来たか」

 その言葉を聞いた瞬間、不覚にも突っ込んでいた。

「なんでやねんっ! ……いや、そんな筈ないだろうが」

 そもそも、本当に世界を取るつもりならば、わざわざ国連に取り次いで貰おうとはしないだろう。先制攻撃に次ぐ先制攻撃でスピード勝負をするか、ひたすら裏で暗躍する方が賢いと思う。

 ……飽くまで、実力行使を以っての"支配"を考えている、という前提の話でだが。

 一先ず、落ち着くために深く呼吸をする。

 国連――国際連合。世界に無数に存在する国家の内、その大半が所属する組織。

 国連には、統一した意思決定をする為の議会が存在し、一部の数か国がその議会に於いて決議権を持つ。基本的には、世界のバランスを取り平和を維持する事を目的にしているが、時にルールを逸脱した国に対して制裁を課す働きもする。

 ――要は、世界で最重要と言っても過言ではない組織な訳だが……そんな"国連"に対して取り次ぎを頼んだのには、理由がある。

「悪いな、取り乱した」
「う、うむ。良い反応だった」

 冗談なのかそうでないのか分からなかったのだが、どうやら冗談として済ませる事にしたらしい。問題があれば別だが、この場合は下手にほじくらない方が良いだろう。

「それでなんだがな――」

 苦笑して誤魔化した正巳だったが、どうやらアブドラとしても都合が良かったらしい。皆迄言う前に、こちらの話したい事を察して口を開いた。

「ああ、国際連合への取り次ぎの事だったな。我はまだ出席した事は無いが……先王の時は、大臣達の内外務大臣が"代表"として出席していたな。それで、どうして国連なんぞつまらん場所に興味があるんだ?」

 "つまらん"か……一応、重要な集まりではあるのだが、冒険王子と言われるアブドラの事だ。座って話し合うような場所が、そもそも性に合わないのだろう。

「俺達は、今日正式に国からの治外法権と、独自自治を認められた。つまりは"独立"したわけだ。しかし、実際にこの事実が国内に於いて周知されるのは、国会でその審議を通過してからなんだ」

 そう、事実として既に正巳率いる"ハゴロモ"は、共生国家ハゴロモとして日本国政府と約定を交わしている。しかし、それは飽くまでも内々にであって、おおやけには公表されてはいないのだ。

「うむ。確かに、この国は我の国とは違い面倒な手続きがあったな……」

 頷きながら、『つくづく面倒よなぁ』と呟いている。

 アブドラの国は王政国家と言うだけあって、王にその権力が集中している。それこそ、アブドラがその指にはめた王印を以って印をし、その名を以って発布すれば、それが王令としてそのまま施行されるのだろう。

 確かにシンプルではある。しかし、それで問題が出ないのは、王が民に寄り添う人格者であるか、王が国を治めるという事の何たるかを良く知っているか、国民の支持が根強くあるか、それ等幾つかがあってこそなのだろう。

 ……かつて世界中に存在した筈の王政国家が、民衆の決起や他様々な要因で滅んで来た事を考えると、今に至るまで王が統治する国として残っている事の価値が分かる。

 若干話が逸れたので、話を戻した。

「それで、国連に参加する目的についてだが……」

 そこで息を止め、ゆっくりと吸うと言った。

「独立宣言をしようと思っているんだ」

 正巳の言葉を聞いたアブドラが言う。

「独立宣言を行う理由は分かるが、インパクトの面を考えると他の方法もあるのでは無いか?」

 ……どうやら、アブドラはインパクトが欲しくて独立宣言を行うと思ったらしい。

「そうだな、確かにインパクトを考えると、それこそ世界の全ての電波や放送類を全てジャックして、そこで独立宣言をするのが良いだろうな」

 今井さんが主宰した技術大会ハックコンテストの事を思い出しながら言うと、顔を若干引きつらせたアブドラが呟く。

「う、うむ。可能なのか……」

 どうやら、自分で話を振っておいてその内容に驚いたみたいだ。

「ああ、それ自体は可能だと思うが――」
「では、何故しない?」

 やや食い気味に聞いて来るので、落ち着かせながら答えた。

「簡単な話だ。これから一つの独立国として歩もうとしているのに、いきなり他のすべての国に対して喧嘩を売る馬鹿はいないだろう?」

 そう、飽くまで世界に知らせる為に行う宣言であって、敵対を目的にしているのではないのだ。それなのに、わざわざ他の国全ての通信機器を乗っ取って、セキュリティの甘さを指摘する必要も無いだろう。

「うむ。確かにな……しかし、それだと日本政府この国が正式に独立を認めると発表してからでも良いのでは無いか?」

 アブドラが言っているのは、一般的に"常識"のある答えだと思う。しかし、実際にその通りに礼式を以って、順序を守っていると問題が出て来るのだ。

「問題が無ければな。しかし、この国に限らず多くの国がそうだと思うが。幾ら急かしたとしても、実際に決議を経て発表となる迄には、数か月……いや、下手すると数年かかるだろう?」

 国からの独立を認めると言うのは、そんなに軽い話では無い。恐らく――いや、確実に数カ月待つ程度では済まないだろう。それに、幾ら首相がこちらに協力的だとしても、首相が入れ替わればまた面倒な交渉が待っている事になる。

「(発表を待つ)その間に、色々な場所から色々なちょっかいが出るだろうし、意味のない圧力がかかる場合もあるだろうな。……要は、これが"手っ取り早い"んだ」

 余計な策を練られない為の"封じ込め"の意味合いもあるが、一言で言えば『手っ取り早いから』に尽きる。既に約定は交わされたのだ。ここからは独立国家として国際社会に名乗りを上げ、社会にも国家として認知される事が必要だろう。

 それに、有事の際にこちら側の正当性を訴える為にも、"国家"と言う格と、国際社会の場に於いて正式に認知された国であるという事が重要になって来る。

 正巳の話を聞いて考え込んでいたアブドラだったが、顔を上げると言った。

「なるほどな。……次の会議はいつだ?」

 アブドラの言葉に反応したライラは、何も見ずに答えた。

「第二の国連総会ですね。今日から約三週間後の第五の月、十二日に本部で行われます」

 ……どうやら、ライラはアブドラの護衛であり、側仕えであり、秘書の役割をこなしているらしい。その様子を見る限り、既に決まっている予定は全て覚えていそうだ。

 それにしても、一か月後とは丁度良かった。

 国連の総会は年四回定例の会議があった筈だ。

 下手をすると、二ヶ月以上先になる可能性すらあった。

「そうか、それではそのタイミングに合わせてで頼みたい」

 正巳が言うと、それに応じてアブドラが頷いた。

「我に任せるが良い」

 そう言った迄は良かったが、ニヤリとして続けた。

「そこで何があろうと、我はお前達の味方だぞ」
「おいおい『何も』無いぞ!」

 即答してから、アブドラの"悪戯の成功した!"とでも言うかのような顔を見て苦笑した。

「全く、変な事を言わないでくれ。本当に何か起きそうで怖い」

 言いながら、何となく嫌な予感フラグが立つのを覚えた正巳は、一応マムに言って、独立に対して意義を含めた何らかの姿勢を取る国が無いようにと、予め対策を立てておく事にした。

 その後、和やかに会話をしていた二人だったが、不意に近づいて来る気配があった。

 その気配自体は良く知っているものだったので大方の予想は付いたが、意外だったのはその気配が複数あった事だった。

「……サナとミュー、それに綾香にユミルとハクエンか?」

 そう呟いたのと、ドアが開いて話し声が聞こえて来きたのはmほぼ同時だった。

「うん? もしや小童達か?」
「ああ、そうみたいだな」

 足音が聞こえて来て、リビング迄来た所でノックする音が聞こえた。

 部屋同士を区切るドアは自動ドアになっている。

 本来開くはずのドアがノックするまで開かなかったという事は、恐らくマムが気を利かせて、許可するまでは開かないよう制御したのだろう。

 アブドラが頷いたのを確認して言った。

「入って良いぞ」

 正巳が答えると、それに反応したかのようにドアが開いた。

 ドアが開くと、想像通りサナとミューを先頭にして綾香とユミルそして、腕に沢山の何かを抱えたハクエンとマムが居た。

「お兄ちゃん!」
「どうだ、楽しかったか?」

 走り寄って来たサナと、その後ろに控えめについて来るミューに聞いた。
 すると、サナだけでなくミューも満面の笑みを浮かべて頷いていた。

「楽しかったなの!」
「そうか、良かったな~。ミューはどうだ?」

「賑やかで楽しかったです。それに、お兄さん達が楽しそうにしている場面も一緒に流れていたので、何だか一緒に楽しんでいるみたいで嬉しかったです」

 どういう事か確認してみると、どうやら以前アブドラの国の島で革命を鎮圧した時の映像や、その他に沢山溜めていた宴会の映像を切り継ぎして"映画鑑賞"の一環として流していたらしい。

「そうか……ごめんな。次は皆で一緒に楽しもうな?」
「えっと、そんな……はぃ」

 意識した訳では無かったのだろうが、寂しかったのだろう。その気持ちが前面に出ていたミューに謝りながら、頭を撫でて謝った。

 嬉しそうに目を細めるミューを見て、いつまでこうしていられるかは分からないが、嫌がる迄は頭を撫でてやろうと思った。

 その後ろで、何やら幾つかの箱を抱えていたハクエンは、少しだけ羨ましそうにしていたが、正巳と目が合うと嬉しそうにキラキラとしていた。

 特別言葉は掛けなかったが、頷くと頷き返して来て満足したようだった。

 その後、によによした綾香と、微笑ましいものを見るかのような目をしたユミルに何となく気恥ずかしさを覚え、話題を逸らす意も含めて言った。

「それで、ハクエンとマムが持って来たソレ・・はなんだ?」

 正巳がそう聞くと、誰よりも速く反応したのはアブドラだった。

「むっ! それは、我らが『くれる』と言うから『貰って』来た物じゃないか? それらは全て外で駐屯している奴らと一緒に置いて来たんだが……なぜここにある?」

 全員がアブドラの言葉が理解できる訳では無い為、素で理解できる者以外は、皆がその腕に付けた端末を介して聞いていた。

 それぞれが色々な反応をする中、サナは何処か自慢げだった。その表情を見て、何となく事の次第を察していた正巳だったが、それでも事の顛末を確認する事にした。

「それで、どういう事なのか説明してくれるか?」
「はい、パパ!」

 そう言って名乗り出たのはマムだった。

 ……マムであれば、人の視点と俯瞰した視点の両方を持っている為、より正確に状況を把握しているだろう。丁度良かったので、そのままマムに説明を頼む事にした。

 正巳が頷いたのを確認したマムは、そのまま話し始めた。

「先ず、パパ達が部屋に行かれた後、しばらくは映画の上映会がされていました。それ程長くは上映できないので、今回はショート版を流しましたが……それでもかなり好評でした。その時の映像を今出しますね!」

 そう言って、マムが何やら手元を動かした。

 マムの動きを見て咄嗟に止めようとしたが、既に遅かった。

 90度反時計回りに回転した左手首から、何やらキラキラとした物が出て来る。そのキラキラとした物は、息を突く間もなく宙にその形を描いていた。

 ――それ・・は、立体投影機ホログラムだった。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品