『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~
187話 会議 【立入禁止地区】
無重力室で話し合いをする事になった一同だったが、既に半数はコツを掴んで来た様だった。サナなど、上手い事宙でくるくると回っている。
サナを見ながら(目回らないのか?)と思っていた正巳だったが、どうやら子供達は軒並み三半規管が強いらしかった。
……子供達の横で、約一名気分悪そうにしている大人が居たが。
端の方で何やら端末を手に記録していた今井さんが、こちらに顔を向けて来たので始める事にした。今井さんがデータを取っているみたいだったので、終わるまで待っていたのだ。
「さて、それじゃあ報告だが――政府との交渉は、ほぼ予定通り終えた」
「ああ、俺も同行したが打合せ通りだったな」
頷きながら、上原先輩も正巳に続けた。
恐らく、話していた方が気がまぎれるのだろう。
「それじゃあ、問題無かったんだね」
「ええ。ただ、決まった事もあってそれについては今井さんと、上原先輩に頼みたいんですが――先に内容について説明すると、政府と共同で行う技術のレンタル事業でして……――」
その後、主に今井さんに向けてその内容を説明していた。
ユミルは綾香の隣に居たが、時々綾香の質問に答えているみたいだった。耳をすませば聞く事も出来たが、それは仲間としてどうかと思ったので止めておいた。
「なるほど、技術のレンタル事業か。表に出せる物を考えると……そうだね、自動配達とか警備ロボットの配備とか、海底探査の機械とかかな。後は――小型宇宙船かな。最後のは、まだまだ試験段階だけどね。あ、それに関連して軍事用戦略宇宙兵器とかも作れるよ?」
正巳から技術のレンタル事業について聞いた今井は、候補をいくつか挙げていた。その殆どは問題無さそうだったが、最後のは流石にアウトだろう。
苦笑いを浮かべた正巳は言った。
「いえ、そう言うのは勘弁して下さい。流石に直接"脅威"として見られる訳には行きませんので……そうですね、宇宙関連の事は全て部外秘という事でお願いします。流石に既に打ち上げたりはしていないと思いますが、もし打ち上げる際も――……今井さん?」
話している途中で、今井さんが気まずそうに視線を逸らしたので、何となく嫌な予感がした。
「い、いやモチロンだよ~もちろん、勿論――そんなに――打ち上げて無いに決まってるじゃないか~ははは、やだなぁ例えマムから『技術革新』なんて言われても、興味を持ったままに任せたりしないよぉやだなぁ~はは、ハハハ――」
彼方此方に目を泳がせ、必死に言い訳している今井さんに言った。
「……それで、幾ら位掛ったんですか?」
最早何かしらをしていたのは確定だ。問題は、何処までそれが進んでいるかであって、それは幾ら資金をつぎ込んでいるかである程度分かるだろう。
「えっとね、それは…………」
何か小さな声で呟いてはいたが、それを想定していた正巳は聞き耳を澄ませていた。全てきっちり聞き取った正巳は、思わずため息を付きそうになるのを抑えながら言った。
「そうですか……結構使いましたね。まあ使ってしまったものは仕方が無いので、くれぐれも他の国と問題にならないように気を付けて下さいね」
どうやら、近くにいた子供の内数人には聞こえていた様で、ミューに『ねえ、このきょてん3つ分てどういう事かなぁ?』と聞いていた。そんな子供達を生暖かい目で見ながら、後悔していた。
……そもそもあの今井さんがだ。マムと言う最強の存在を得て、拠点とちょっとした機械のみで半年間も時間を使うはずが無い。
そう、通常一番時間が掛かる部分が、マムによって瞬時に行われる中にあって、今井さんが大人しく普通であるわけが無いのだ。
この拠点三つ分と言うと、桁を幾つか飛ばして"兆"に届くほどの規模だろう。
今更止めても仕方が無いので、取り敢えず問題を起こさないようにだけ釘を刺しておいた。これで、何処かの国――例えば日本の持つ衛星が墜ちました、なんて事になったらそれこそ洒落にならない。
改めて今井さんに釘を刺しながら、話を進める事にした。
「ここ迄の研究については何も言いませんし、それがみんなの為になるのであれば良いです。ただし、くれぐれも他の国の衛星にちょっかい――部品を拝借したりしないで下さいね」
「う、うん……流石に他の国の衛星には手を出さないよ。確かに少し魅力的な素材もあったけど、持って帰るのが大変そうだし、もし加工に使うとなると現地で加工しなくちゃいけないからね。そうだ、向こうに加工する施設を建設して……うん、酸素が無くても加工できる方法は幾つかあったから……ただ、やっぱり人手が足らないな。マムは問題提起とかは出来ないだろうし、やっぱり僕以外の技術者が――……」
初めこちらを見ていた今井さんだったが、ぼそぼそと呟き始めたかと思ったら、次第に自分の世界に入ってしまった。そんな今井さんを少し待っていたが、戻ってきそうになかったので、マムに『抜けた部分は後で今井さんに伝えてくれ』と言ってから、報告を続けた。
――10分後。
残り一つを除いて全ての報告と、質問への回答を終えていた。
途中で戻って来た今井さんも、マムに抜けていた部分の情報を補填して貰いながら確認していた。今居ないメンバー(ハク爺を始めテンとアキラなど)には、ハクエンに共有してもらう事にした。
ハクエンは、聞いた事を忘れないようになのか、一生懸命口元で繰り返していたみたいだった。……健気な様子に癒される。
いざとなったら、抜けた部分はマムにサポートしておいて貰おう。
其々が共有するメモを終えたのを確認してた正巳は、特に今井さんを意識して最後の報告を始めた。それは、もし道尊寺を政治の中枢から追放できなかった場合に、正巳が"日本政府とは関係ない立場"として介入する事を条件に得た"収穫"だった。
「最後の報告になるが……そうだな、これは全体には関係しないかも知れないが、今回原発――原子力発電所への立ち入り許可及び、立ち入り禁止エリア一帯の監督権利を得た。更に、少し先にはなるが、土地の所有者から対象地域の購入を進めようと考えている」
そう言った正巳だったが、どうやら説明が足りなかった――と言うよりも、子供体の大半は"何の事を指しているのか分からない"らしかった。その様子を見ていた今井さんが口を開いた。
「流石にここ迄は習わなかったと思うけど、原発って言うのは原子力――つまり科学の力でエネルギーを生み出して、生活を便利にする施設なんだけどね……――」
その後、今井さんによる子供達相手の講義が行われていた。
今井さんは、簡単な原子力発電の仕組みと、その有用性と危険性について説明した。そして、その後で子供達の生まれる前に起こった、ある事故についても話していた。
そう、あれは確かに事故だったが、いずれ起こる危険性のあった事故だったのだ。
……あの時起こったのは、原発の事故とそれに伴う放射能を持つ物質の拡散だ。放射能は放射線を放つ能力の事だが、この放射線は人体に害を与える。
放射能には、無害になる"半減期"――能力を失うまでの時間が存在するが、その時間の単位は人の寿命を遥かに凌駕する。
それこそ、孫に孫が生まれてその孫に孫が生まれても影響がある程だ。
正直、『何でそんな危ない物を造ったんだ!』と言いたくなるが、その時の社会がそう判断したのだ。今更文句を付けても、現実現状で変わる事など一つも無い。
今井さんが子供達と話しているのを聞きながら、そんな事を考えていたが、どうやら話は終わったみたいだった。
不安そうな顔をした子供達を代表して、ミューが口を開いた。
「お兄さん、いえ――正巳様。以前話されていた"融合炉"に関連していると推測したのですが」
言葉を切ったミューに頷く。
どうやら、ミューはきちんと予習していたみたいだ。先程今井さんから話を聞く間も、何処か復習しているような表情だった。
……恐らく、前回核融合炉の話が出た際に、マムにでも聞いたのだろう。
「ああ、そうだ。今回の土地の確保は、融合炉を建設するのが目的だ」
「分かりました。勿論正巳様が私達に、そこに行けと言うなら今すぐにでも――」
正巳の言葉を聞いたミューが、何処か決意したかのような様子で言ったので、慌てて言葉を遮った。ミューが全て言い終える前だったが、何を言おうとしているかはっきりと分かったのだ。
「全くそんな事は考えてないぞ」
「……へっ? いえ、しかし……」
正巳が断言した事を受け、ミューは戸惑っていた。
恐らく、帰って来てからの出来事――正巳に向かって言った裏方としての働きを頑張る――が影響して、過剰に反応したのだろう。
「現地で動くのは、全て機械にするつもりだ。勿論、途中での確認は今井さんに頼る事になるが、それについてもきちんと対策をした上で進めるつもりだ」
危険な場所に送るつもりが無い事を伝えると、表情を緩めたミューが呟いた。
「それじゃあ、私達は……」
多分だが、これから命がけの仕事をすると思っていたのに――と拍子抜けしたのだろう。
「ああ、今まで通りこの拠点でサポートを頼む」
正巳がそう言うと、表情を再び引き締めミューが言った。
「はい、全力で!」
ふわふわと浮いた中でする敬礼は、何となく緩かった。
サナを見ながら(目回らないのか?)と思っていた正巳だったが、どうやら子供達は軒並み三半規管が強いらしかった。
……子供達の横で、約一名気分悪そうにしている大人が居たが。
端の方で何やら端末を手に記録していた今井さんが、こちらに顔を向けて来たので始める事にした。今井さんがデータを取っているみたいだったので、終わるまで待っていたのだ。
「さて、それじゃあ報告だが――政府との交渉は、ほぼ予定通り終えた」
「ああ、俺も同行したが打合せ通りだったな」
頷きながら、上原先輩も正巳に続けた。
恐らく、話していた方が気がまぎれるのだろう。
「それじゃあ、問題無かったんだね」
「ええ。ただ、決まった事もあってそれについては今井さんと、上原先輩に頼みたいんですが――先に内容について説明すると、政府と共同で行う技術のレンタル事業でして……――」
その後、主に今井さんに向けてその内容を説明していた。
ユミルは綾香の隣に居たが、時々綾香の質問に答えているみたいだった。耳をすませば聞く事も出来たが、それは仲間としてどうかと思ったので止めておいた。
「なるほど、技術のレンタル事業か。表に出せる物を考えると……そうだね、自動配達とか警備ロボットの配備とか、海底探査の機械とかかな。後は――小型宇宙船かな。最後のは、まだまだ試験段階だけどね。あ、それに関連して軍事用戦略宇宙兵器とかも作れるよ?」
正巳から技術のレンタル事業について聞いた今井は、候補をいくつか挙げていた。その殆どは問題無さそうだったが、最後のは流石にアウトだろう。
苦笑いを浮かべた正巳は言った。
「いえ、そう言うのは勘弁して下さい。流石に直接"脅威"として見られる訳には行きませんので……そうですね、宇宙関連の事は全て部外秘という事でお願いします。流石に既に打ち上げたりはしていないと思いますが、もし打ち上げる際も――……今井さん?」
話している途中で、今井さんが気まずそうに視線を逸らしたので、何となく嫌な予感がした。
「い、いやモチロンだよ~もちろん、勿論――そんなに――打ち上げて無いに決まってるじゃないか~ははは、やだなぁ例えマムから『技術革新』なんて言われても、興味を持ったままに任せたりしないよぉやだなぁ~はは、ハハハ――」
彼方此方に目を泳がせ、必死に言い訳している今井さんに言った。
「……それで、幾ら位掛ったんですか?」
最早何かしらをしていたのは確定だ。問題は、何処までそれが進んでいるかであって、それは幾ら資金をつぎ込んでいるかである程度分かるだろう。
「えっとね、それは…………」
何か小さな声で呟いてはいたが、それを想定していた正巳は聞き耳を澄ませていた。全てきっちり聞き取った正巳は、思わずため息を付きそうになるのを抑えながら言った。
「そうですか……結構使いましたね。まあ使ってしまったものは仕方が無いので、くれぐれも他の国と問題にならないように気を付けて下さいね」
どうやら、近くにいた子供の内数人には聞こえていた様で、ミューに『ねえ、このきょてん3つ分てどういう事かなぁ?』と聞いていた。そんな子供達を生暖かい目で見ながら、後悔していた。
……そもそもあの今井さんがだ。マムと言う最強の存在を得て、拠点とちょっとした機械のみで半年間も時間を使うはずが無い。
そう、通常一番時間が掛かる部分が、マムによって瞬時に行われる中にあって、今井さんが大人しく普通であるわけが無いのだ。
この拠点三つ分と言うと、桁を幾つか飛ばして"兆"に届くほどの規模だろう。
今更止めても仕方が無いので、取り敢えず問題を起こさないようにだけ釘を刺しておいた。これで、何処かの国――例えば日本の持つ衛星が墜ちました、なんて事になったらそれこそ洒落にならない。
改めて今井さんに釘を刺しながら、話を進める事にした。
「ここ迄の研究については何も言いませんし、それがみんなの為になるのであれば良いです。ただし、くれぐれも他の国の衛星にちょっかい――部品を拝借したりしないで下さいね」
「う、うん……流石に他の国の衛星には手を出さないよ。確かに少し魅力的な素材もあったけど、持って帰るのが大変そうだし、もし加工に使うとなると現地で加工しなくちゃいけないからね。そうだ、向こうに加工する施設を建設して……うん、酸素が無くても加工できる方法は幾つかあったから……ただ、やっぱり人手が足らないな。マムは問題提起とかは出来ないだろうし、やっぱり僕以外の技術者が――……」
初めこちらを見ていた今井さんだったが、ぼそぼそと呟き始めたかと思ったら、次第に自分の世界に入ってしまった。そんな今井さんを少し待っていたが、戻ってきそうになかったので、マムに『抜けた部分は後で今井さんに伝えてくれ』と言ってから、報告を続けた。
――10分後。
残り一つを除いて全ての報告と、質問への回答を終えていた。
途中で戻って来た今井さんも、マムに抜けていた部分の情報を補填して貰いながら確認していた。今居ないメンバー(ハク爺を始めテンとアキラなど)には、ハクエンに共有してもらう事にした。
ハクエンは、聞いた事を忘れないようになのか、一生懸命口元で繰り返していたみたいだった。……健気な様子に癒される。
いざとなったら、抜けた部分はマムにサポートしておいて貰おう。
其々が共有するメモを終えたのを確認してた正巳は、特に今井さんを意識して最後の報告を始めた。それは、もし道尊寺を政治の中枢から追放できなかった場合に、正巳が"日本政府とは関係ない立場"として介入する事を条件に得た"収穫"だった。
「最後の報告になるが……そうだな、これは全体には関係しないかも知れないが、今回原発――原子力発電所への立ち入り許可及び、立ち入り禁止エリア一帯の監督権利を得た。更に、少し先にはなるが、土地の所有者から対象地域の購入を進めようと考えている」
そう言った正巳だったが、どうやら説明が足りなかった――と言うよりも、子供体の大半は"何の事を指しているのか分からない"らしかった。その様子を見ていた今井さんが口を開いた。
「流石にここ迄は習わなかったと思うけど、原発って言うのは原子力――つまり科学の力でエネルギーを生み出して、生活を便利にする施設なんだけどね……――」
その後、今井さんによる子供達相手の講義が行われていた。
今井さんは、簡単な原子力発電の仕組みと、その有用性と危険性について説明した。そして、その後で子供達の生まれる前に起こった、ある事故についても話していた。
そう、あれは確かに事故だったが、いずれ起こる危険性のあった事故だったのだ。
……あの時起こったのは、原発の事故とそれに伴う放射能を持つ物質の拡散だ。放射能は放射線を放つ能力の事だが、この放射線は人体に害を与える。
放射能には、無害になる"半減期"――能力を失うまでの時間が存在するが、その時間の単位は人の寿命を遥かに凌駕する。
それこそ、孫に孫が生まれてその孫に孫が生まれても影響がある程だ。
正直、『何でそんな危ない物を造ったんだ!』と言いたくなるが、その時の社会がそう判断したのだ。今更文句を付けても、現実現状で変わる事など一つも無い。
今井さんが子供達と話しているのを聞きながら、そんな事を考えていたが、どうやら話は終わったみたいだった。
不安そうな顔をした子供達を代表して、ミューが口を開いた。
「お兄さん、いえ――正巳様。以前話されていた"融合炉"に関連していると推測したのですが」
言葉を切ったミューに頷く。
どうやら、ミューはきちんと予習していたみたいだ。先程今井さんから話を聞く間も、何処か復習しているような表情だった。
……恐らく、前回核融合炉の話が出た際に、マムにでも聞いたのだろう。
「ああ、そうだ。今回の土地の確保は、融合炉を建設するのが目的だ」
「分かりました。勿論正巳様が私達に、そこに行けと言うなら今すぐにでも――」
正巳の言葉を聞いたミューが、何処か決意したかのような様子で言ったので、慌てて言葉を遮った。ミューが全て言い終える前だったが、何を言おうとしているかはっきりと分かったのだ。
「全くそんな事は考えてないぞ」
「……へっ? いえ、しかし……」
正巳が断言した事を受け、ミューは戸惑っていた。
恐らく、帰って来てからの出来事――正巳に向かって言った裏方としての働きを頑張る――が影響して、過剰に反応したのだろう。
「現地で動くのは、全て機械にするつもりだ。勿論、途中での確認は今井さんに頼る事になるが、それについてもきちんと対策をした上で進めるつもりだ」
危険な場所に送るつもりが無い事を伝えると、表情を緩めたミューが呟いた。
「それじゃあ、私達は……」
多分だが、これから命がけの仕事をすると思っていたのに――と拍子抜けしたのだろう。
「ああ、今まで通りこの拠点でサポートを頼む」
正巳がそう言うと、表情を再び引き締めミューが言った。
「はい、全力で!」
ふわふわと浮いた中でする敬礼は、何となく緩かった。
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