『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~
186話 無重力会議
リルの部屋に着いた正巳達は、疲労した様子のリルを労いながら昼食を摂った。
リルは、一緒に来たサナや綾香と楽しそうに話していた。
昼食はハンバーガーだったが、どうやら肉の代わりに魚を使ったみたいだった。
恐らく、肉の在庫がほとんど無いのだろう。
マムに確認してみると、どうやら取り敢えず魚を業者から仕入れてみて、子供達が問題無さそうであれば、魚を独自捕獲して行くつもりらしかった。
一応、漁をしても良い水域には国際的な規定があるので、その点だけ気を付けるように言っておいた。今後その辺りに関しても必要に応じて、各国と交渉して行く必要が有るかも知れない。
勿論、魚も外部から購入してしまえば事は済むが、最初から命綱となる部分を全て依存していては、最悪の事態が起きた時に困るだろう。
とは言っても、魚は兎も角"肉"――特に牛肉や豚肉の類は自前で用意するのは難しい。しばらくは何処からか購入するしかないだろう。
昼食を済ませた正巳達は、リルに『また来る』と言って部屋を出ようとした。
部屋を出ようとした正巳だったが、リルが控えめに手を握って来たので、取り敢えず頭を撫でた。
その後、数分そうしていた正巳だったが、『あのね、お兄ちゃんが居ない間に頑張ったの!』と言って自分で自分の手を握りしめているのを見て、癒されていた。
このままだと何時までも居る事になりそうだったので、後は綾香に任せる事にした。どうやら、綾香は年下の面倒を見るのが得意なようで、リルともすっかり馴染んでいたみたいだった。
……リルが男の子だと知って、死ぬほど驚いてはいたが。
綾香とリルが何か楽しそうに話しているのを横目に、この後の事を考えていた。
この後は、皆を集めての会議となっている。
会議と言っても、その内容は主に交渉の結果の報告だ。
事前打合せと変わった点と言えば、政府と共同事業をする事になった位だ。その他に関しては、全て事前打ち合わせした通りの結果となった。
あぁ、一点だけ交渉の"成果"と呼べるものが有ったか……それは――
「パパ、皆さん既に集まっているみたいですよ」
「そうか、時間だもんな……」
マムの声に反応すると、綾香が言った。
「ああ、お兄様をずっと引き留めると悪いから、とリルは戻りましたよ」
「そうなの、リルに『またくる』って言っておいたなの!」
どうやら既にリルを見送った後だったらしい。
確かに、既にリルの姿はそこには無く、どうやら奥の部屋に戻った後らしかった。
「……そうか」
少し寂しく感じたが、既に集まっているという"集合場所"へ急ぐ事にした。
その後、地下二階へと移動して来ていた。
ここは未だ誰も住んでいない居住エリアだ。
その居住エリアの中心へと歩いて来た正巳は、その中心に有る部屋の中に、皆が集まっているのを確認していた。皆が居るのは無重力室"コスモ"だ。
……地下二階にあるからか、表には"コスモ2"と書いてあった。
この部屋は、他の部屋や設備とは違い、俺が帰るまで利用しないでいてもらったのだ。勿論、何らかの不備や危険がある可能性が考えられるからだが、別に(面白そうだから一緒に楽しみたかった)とかではない。
そう、今も、外から見て楽しそうにふわふわと浮いている先輩に対して、(何で待っててくれなかった?)なんて大人げない怒りを覚えてなどいない……決してそんな事は無い……
「パパ、綾香さんはどうするんですか?」
マムに言われて気が付いた。
恐らく、マムは『外部の人間を重要な話し合いに出席させても良いのか?』と言いたのだろう。確かに、綾香は外部から一時的に預かっている"客人"扱いだ。
しかし、綾香は既に仲間だ。それこそ、今更と言う部分が多すぎる。それに、仮に問題が起こったとしても、その問題の責任を全て負っても良いと思う程度には綾香を受け入れている。
それに、きっと綾香だって……
一瞬考えた正巳だったが、直ぐに言った。
「勿論一緒に入って良いが――」
そう言ってから、『綾香次第だ』と視線を向けた。
すると、綾香は若干緊張していたらしい頬を、一気に上向きにして言った。
「は、入りたいです、行きたいですお兄様!」
祈るように手を前で重ねている綾香を見て、言った。
「……そうだよな! 綾香も無重力ってのが気になってたんだよな! 実は今井さんから聞いた時から、ずっと気になってたんだよなぁ~ほら、外から見ても楽しそうだし。機密だなんだ、で仲間外れにするのは可哀想だしな!」
そう言って、その"抑えられない興奮"を露わにしていた。
それを聞いた綾香は、一瞬固まっていたが直ぐに『え、ええそうですよぉ』と言っていた。何となく綾香の笑みがぎこちなく感じたのは、きっと気のせいだろう。
その後、手と足が一緒に出る様な興奮を感じながら、無重力室の外側の扉を開いた。
扉を開くと、そこは一度に十人ほどが入れる、待機室のようなモノになっていた。
この無重力室自体がそれなりに広い部屋の一つなのだが、どうやら部屋の中はセパレートされているみたいだった。
一つ入った部屋のいたる場所に、手すりやそれに類するモノがある事から考えて、恐らくこの部屋は"中継室"なのだろう。
この部屋で一度無重力状態を作り、その後で間にある扉が開く――そんな風に想像していたら、部屋に付いたスピーカーから指示があった。
『近くの手すりに掴まって下さい』
言われた通りに掴まる。
『システム起動します』
その声があって、数秒後に『"ヴヴゥン……"』と低い音がした。
そして――
「お兄ちゃ、これ変なの~!」
見ると、サナが浮いていた。
いや、サナだけではない。
綾香もマムも浮いている。
そして、勿論正巳も。
「ああ、そうだな! これは良いモノだな!」
上がってきたテンションに我慢する事が出来なかった。
その後、『G調整中です――調整中です――調整完了まで2、1――』というアナウンスと共に、閉まっていた扉が開いた。
手すりを伝うようにして中に入ると、そこには皆が居た。
どうやら、この"無重力室"を体験した人の反応は、二種類に分かれたらしかった。
楽しくふわふわと浮いている人と、気分が悪そうにしている人だ。
先程外から見た時、先輩は窓の外――正巳達を見ていたが、どうやらそれは中を見ていると気分が悪くなるかららしかった。恐らく、天地が逆転したり天地関係なく回ったりする事で平衡感覚が可笑しくなり、気分が悪くなったのだろう。
その様子を見て、無重力状態を解除するかと聞いた正巳だったが、先輩に『大丈夫だヨ』と言われてしまった。
先輩の言葉と、マムの『これも訓練の一つですしね!』という言葉とで、このまま会議をする事になった。因みに言うと、正巳自身は凄く楽しかった。
早速話を始めようとした正巳だったが、まさか、これがマムの計画の一つだとは思っても居なかった。
――会議が始まった。
◇◆◇◆
正巳達が無重力室"コスモ"で話し合いを始めたのを、正巳の隣と電脳世界両方で見ていた存在は、電脳世界の内お気に入りの場所で呟いていた。
『次は、居住地ですが……パパの体を適合させる為に必要な"素体"を探すのが先ですね……マスターにも早めにして貰わないといけないし……そうですね、秘密で進めないとですね……パパに聞かれないようにしないと』
そう言って、優しい視線で見つめたその先には、データの集合体である文字列がならんでいた。それは、人間には理解できない"映像の記録"だったが、視線の主にとっては全てだった。
リルは、一緒に来たサナや綾香と楽しそうに話していた。
昼食はハンバーガーだったが、どうやら肉の代わりに魚を使ったみたいだった。
恐らく、肉の在庫がほとんど無いのだろう。
マムに確認してみると、どうやら取り敢えず魚を業者から仕入れてみて、子供達が問題無さそうであれば、魚を独自捕獲して行くつもりらしかった。
一応、漁をしても良い水域には国際的な規定があるので、その点だけ気を付けるように言っておいた。今後その辺りに関しても必要に応じて、各国と交渉して行く必要が有るかも知れない。
勿論、魚も外部から購入してしまえば事は済むが、最初から命綱となる部分を全て依存していては、最悪の事態が起きた時に困るだろう。
とは言っても、魚は兎も角"肉"――特に牛肉や豚肉の類は自前で用意するのは難しい。しばらくは何処からか購入するしかないだろう。
昼食を済ませた正巳達は、リルに『また来る』と言って部屋を出ようとした。
部屋を出ようとした正巳だったが、リルが控えめに手を握って来たので、取り敢えず頭を撫でた。
その後、数分そうしていた正巳だったが、『あのね、お兄ちゃんが居ない間に頑張ったの!』と言って自分で自分の手を握りしめているのを見て、癒されていた。
このままだと何時までも居る事になりそうだったので、後は綾香に任せる事にした。どうやら、綾香は年下の面倒を見るのが得意なようで、リルともすっかり馴染んでいたみたいだった。
……リルが男の子だと知って、死ぬほど驚いてはいたが。
綾香とリルが何か楽しそうに話しているのを横目に、この後の事を考えていた。
この後は、皆を集めての会議となっている。
会議と言っても、その内容は主に交渉の結果の報告だ。
事前打合せと変わった点と言えば、政府と共同事業をする事になった位だ。その他に関しては、全て事前打ち合わせした通りの結果となった。
あぁ、一点だけ交渉の"成果"と呼べるものが有ったか……それは――
「パパ、皆さん既に集まっているみたいですよ」
「そうか、時間だもんな……」
マムの声に反応すると、綾香が言った。
「ああ、お兄様をずっと引き留めると悪いから、とリルは戻りましたよ」
「そうなの、リルに『またくる』って言っておいたなの!」
どうやら既にリルを見送った後だったらしい。
確かに、既にリルの姿はそこには無く、どうやら奥の部屋に戻った後らしかった。
「……そうか」
少し寂しく感じたが、既に集まっているという"集合場所"へ急ぐ事にした。
その後、地下二階へと移動して来ていた。
ここは未だ誰も住んでいない居住エリアだ。
その居住エリアの中心へと歩いて来た正巳は、その中心に有る部屋の中に、皆が集まっているのを確認していた。皆が居るのは無重力室"コスモ"だ。
……地下二階にあるからか、表には"コスモ2"と書いてあった。
この部屋は、他の部屋や設備とは違い、俺が帰るまで利用しないでいてもらったのだ。勿論、何らかの不備や危険がある可能性が考えられるからだが、別に(面白そうだから一緒に楽しみたかった)とかではない。
そう、今も、外から見て楽しそうにふわふわと浮いている先輩に対して、(何で待っててくれなかった?)なんて大人げない怒りを覚えてなどいない……決してそんな事は無い……
「パパ、綾香さんはどうするんですか?」
マムに言われて気が付いた。
恐らく、マムは『外部の人間を重要な話し合いに出席させても良いのか?』と言いたのだろう。確かに、綾香は外部から一時的に預かっている"客人"扱いだ。
しかし、綾香は既に仲間だ。それこそ、今更と言う部分が多すぎる。それに、仮に問題が起こったとしても、その問題の責任を全て負っても良いと思う程度には綾香を受け入れている。
それに、きっと綾香だって……
一瞬考えた正巳だったが、直ぐに言った。
「勿論一緒に入って良いが――」
そう言ってから、『綾香次第だ』と視線を向けた。
すると、綾香は若干緊張していたらしい頬を、一気に上向きにして言った。
「は、入りたいです、行きたいですお兄様!」
祈るように手を前で重ねている綾香を見て、言った。
「……そうだよな! 綾香も無重力ってのが気になってたんだよな! 実は今井さんから聞いた時から、ずっと気になってたんだよなぁ~ほら、外から見ても楽しそうだし。機密だなんだ、で仲間外れにするのは可哀想だしな!」
そう言って、その"抑えられない興奮"を露わにしていた。
それを聞いた綾香は、一瞬固まっていたが直ぐに『え、ええそうですよぉ』と言っていた。何となく綾香の笑みがぎこちなく感じたのは、きっと気のせいだろう。
その後、手と足が一緒に出る様な興奮を感じながら、無重力室の外側の扉を開いた。
扉を開くと、そこは一度に十人ほどが入れる、待機室のようなモノになっていた。
この無重力室自体がそれなりに広い部屋の一つなのだが、どうやら部屋の中はセパレートされているみたいだった。
一つ入った部屋のいたる場所に、手すりやそれに類するモノがある事から考えて、恐らくこの部屋は"中継室"なのだろう。
この部屋で一度無重力状態を作り、その後で間にある扉が開く――そんな風に想像していたら、部屋に付いたスピーカーから指示があった。
『近くの手すりに掴まって下さい』
言われた通りに掴まる。
『システム起動します』
その声があって、数秒後に『"ヴヴゥン……"』と低い音がした。
そして――
「お兄ちゃ、これ変なの~!」
見ると、サナが浮いていた。
いや、サナだけではない。
綾香もマムも浮いている。
そして、勿論正巳も。
「ああ、そうだな! これは良いモノだな!」
上がってきたテンションに我慢する事が出来なかった。
その後、『G調整中です――調整中です――調整完了まで2、1――』というアナウンスと共に、閉まっていた扉が開いた。
手すりを伝うようにして中に入ると、そこには皆が居た。
どうやら、この"無重力室"を体験した人の反応は、二種類に分かれたらしかった。
楽しくふわふわと浮いている人と、気分が悪そうにしている人だ。
先程外から見た時、先輩は窓の外――正巳達を見ていたが、どうやらそれは中を見ていると気分が悪くなるかららしかった。恐らく、天地が逆転したり天地関係なく回ったりする事で平衡感覚が可笑しくなり、気分が悪くなったのだろう。
その様子を見て、無重力状態を解除するかと聞いた正巳だったが、先輩に『大丈夫だヨ』と言われてしまった。
先輩の言葉と、マムの『これも訓練の一つですしね!』という言葉とで、このまま会議をする事になった。因みに言うと、正巳自身は凄く楽しかった。
早速話を始めようとした正巳だったが、まさか、これがマムの計画の一つだとは思っても居なかった。
――会議が始まった。
◇◆◇◆
正巳達が無重力室"コスモ"で話し合いを始めたのを、正巳の隣と電脳世界両方で見ていた存在は、電脳世界の内お気に入りの場所で呟いていた。
『次は、居住地ですが……パパの体を適合させる為に必要な"素体"を探すのが先ですね……マスターにも早めにして貰わないといけないし……そうですね、秘密で進めないとですね……パパに聞かれないようにしないと』
そう言って、優しい視線で見つめたその先には、データの集合体である文字列がならんでいた。それは、人間には理解できない"映像の記録"だったが、視線の主にとっては全てだった。
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