『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~

時雲

176話 部屋探索

 星を見た夜、眠くなって来たらしい子供達の様子を見て、各自解散する様に伝えてから正巳は自分の部屋を探しに行った。

 ……実は、マムから『パパの部屋もちゃんとあります!』と聞いてはいたものの、何処が自分の部屋かは知らなかったのだ。

 正巳が出て行く際、サナとマムが付いて来た。

「マム、部屋割りは問題なさそうか?」

 既に一度確認してはいたが、改めて気になったのだ。

「はい、其々が部屋割りに従って入室しています。ただ、ユミルと綾香の二人は、自由に余っている部屋を使ってもらう形になっているので、決まり次第パパに報告を――」

 どうやら、問題なく部屋は決まったらしい。それは良いのだが、何故かマムがユミルと綾香の部屋についても"報告"をして来ようとしたので、慌てて言った。

「いや、それは大丈夫だ。それよりも今井さんは問題ないのか? あの人の事だから、わざわざ寝る為に移動し無さそうだけど……」

 会社の床で寝ていた今井さんを思い出しながら聞くと、マムが『大丈夫です!』と説明してくれた。どうやら、今井さんは自分の部屋に"仮眠機能"を用意したらしかった。

「マスターは、研究室に簡易ベットを置いています。それと、これは上原さんの提案でマスターが寝落ち・・・した際に、エリアを限定して酸素濃度を高める機能も付けました」

「なるほど……本当はちゃんとしたベットで寝た方が良いんだが、それでもただ床に寝てしまうよりは良いかもな」

 そう言ってから、気になっていた事を聞いてみた。

「そう言えば、居住エリアの真ん中にあった"部屋"は何なんだ?」

 正巳が言っている"部屋"と言うのは、地下二階と三階其々にあった部屋の事だ。其々、中は四方が全てクッションになっていて、何処に当たっても柔らかい部屋だった。

 思い出しながら『アレは休憩室の一つなのか?』と続けた正巳に、マムが答えた。

「あの部屋は、無重力室――"コスモ"です!」
「無重力室?」

「はい、その名の通り部屋内が"無重力"になる装置です」
「それは面白そうだな、だが何で無重力室なんかを?」

「それはですね、マスターと面白そうな情報が無いかと調べていたんです。そうしたら、宇宙開発関連の資料に"訓練用設備"という情報がありまして、その中の一つに"無重力域形成技術"という項目を発見したんです。その技術は改善の余地がある内容で……――」

 ……どうやら、今井さんとマムの二人で、気になった技術を片っ端から試していたらしい。子供達を安易に外で遊ばせられない為、少し・・変わってはいるが、遊び場としては有りかも知れない。

 その後も話しながら歩いていると、サナが手を握って来た。どうしたのかと思って目を向けると、少し眠そうな顔をしていた。先程から静かだとは思っていたが、どうやら眠かったらしい。

「ほら、乗りな」

 目を擦っているサナの前に屈むと、サナにおぶさるように言った。すると、背中をよじよじとよじ登り、耳元で呟いて来た。

「お兄ちゃん、明日一緒なの……」

 眠そうにしながらも聞いて来るサナに、『ああ、そうだな』と言いながら聞いた。

「行きたい場所は有るか?」

 特に決めていた訳では無かった為、サナが行きたいと言った場所に行こうと思っていたのだ。それこそ、普段は街のデパート等に自由に行く事は出来ないが、特別な日位は行ってみるのも良いだろう。

 本来、監視カメラなどの心配をしなくてはいけないのかも知れないが、今のマムであれば監視カメラの操作をするなどお手のモノだろう。

 正巳の言葉を聞いたサナが、頭をグリグリとしながら言った。

「……おにいちゃと一緒なの」

 恐らく、眠気のせいでよく考えていないのだろうが、それでもこそばゆい。思わず頬が緩みそうになるのを抑えながら、少し考えた。

 数分後――マムに案内され、着いたドアの前で言った。

「それじゃあ、明日は外での"買い物"に行くか」

 そう言った正巳だったが、サナの返事は無かった。どうしたのかと思った正巳だったが、どうやら、結論を出すのが遅かったらしい。

「パパ、サナは寝ちゃったみたいです」

 マムの言葉を受け、サナの様子を伺ったが、夢の世界へと旅立った後だったらしい。『くー……くー……』と、小さな寝息が聞こえて来た。少し苦笑しながら『そうみたいだな』と答えた正巳だったが、マムの方は少し不思議に思ったらしい。

「どうして、外での買い物なのですか?」

 ――と聞いて来た。

 恐らく『買い物自体は、拠点内に居てもネットを通じて出来るのに』と言いたいのだろう。確かに、買うだけならネットで十分だろう。

 しかし、リアルでの買い物でしか味わえない楽しさと言うものもあるのだ。女の子であるサナには、買い物など他にも色々な楽しい事が有ると、知って欲しかった。

 その点、マムにもこの手の"学習"は必要だろう。

「そうだな……外で買い物をすると言う事は、その場の空気も楽しむという事なんだ。其々の店は、独自の店舗空間をこだわりを持って作っている。つまり、リアルで買い物をすると言う事は、商品そのものだけでなくその空間に居る時間も買うんだ」

 力説してみた正巳だったが、自分自身それ程買い物に出歩く訳では無かったので、取ってつけた様な話になってしまった。対するマムは、少し考えていたが言った。

「……なるほど、つまりリアル店舗で買い物をする場合は、その空間でのサービスを含めてサービスを受ける事が出来る。逆にネットで買い物をする場合は、空間を含めたサービスは削られる代わりに、手早く欲しいモノが買える。今回は、パパとの時間を貰えるという"ご褒美"だったので、リアル店舗で買い物をする方が正しい選択だった――と言う事ですね!」

「ま、まぁそういった処だろう」

 そんなに深くは考えていた訳では無かったが、自分で結論を出したらしいマムには頷いておいた。その後、正巳に『流石マムだな』と言われて満足そうなマムを連れ、『ここはパパの部屋です!』と言う部屋を見て回った。

 ……そう、見て回った・・・・・のだ。

 入り口自体は、地下四階資材エリアの南側にあった。どうやら、部屋の為にそれなりに空間を使っているみたいで、それこそホテルに泊まっていた頃の部屋と比べても二倍以上ある広さだった。

 部屋内には、ソファやテーブル、イスなどのあるリビングとベットのある寝室。それと、軽い運動が出来る部屋があった。運動部屋には丸い装置があったが、どうやら予想通り実践訓練を行えるVRシステムにリンクする為の機械が、部屋に置いてあるらしかった。

 眠っていたサナを途中の寝室に寝かせ、最後まで確認した正巳だったが、どういう時に使えば良いのかよく分からない部屋が幾つかあった。

 その中でも、壁一面がパネルとなっている部屋の隣の部屋には驚いた。外の様子が映し出されているパネル部屋――監視部屋の隣には、続く形で一種の倉庫があった。

 その部屋に入ると、自動で反転し始めた壁の裏側とせり上がり始めた床の収納から、ありとあらゆる重火器類や暗鬼を含めた武器類が並んで居たのだ。

 マム曰く『男の子は武器に憧れるらしいので、沢山集めました!』という事らしかった。そこに有るモノの殆どは、使い方が何となくわかるモノが多かったが、中にはどう使えば良いのかすら分からない物もあった。

 ……少なくとも、外部の人間を決して通してはいけない部屋になった事は、間違いない。そもそもが、この地下エリアに招待する人が多いとは思えないが、それでもこの部屋にだけは誰かを呼ぶ事は出来ないだろう。

 他にも、使い方の分からない機械の部屋や、何か触れては行けなそうなカプセル型をした装置などもあった。それらは、追々説明を受ける事にして、取り敢えずまだ確認をしていなかった他の階層を確認する事にした。


 ――その後、マムの案内によって拠点の説明を受けた。

 殆どの施設を回し終えた処で、合流した先輩から、子供達は其々の部屋で休んでいる事と併せて、ちょっと困った事を聞いた。

 それは、綾香が今井さんから『"正巳が外に買い物に行く"と聞いて、正巳の事を探していた』という話だった。何故、綾香が自分を探しているのか察しがついた正巳は、少し困った顔をしながら言った。

「……明日、サナにお伺いを立ててみるしかないな」

 正巳の肩に手を置いた先輩が言った。

「女子のショッピングは大変だが……なに、心配するな」

 そこで言葉を切った先輩に、何か秘策が有るのかと思ったのだが……先輩が言った言葉に、思わずため息を付いていた。

「――骨は拾ってやるさ」

 先輩は、ここ最近で一番良い笑顔をしていた。

 その後、先輩を地下二階の部屋へと送り届けた正巳は、地下四階の"工作室"基、"研究開発室"に居る今井さんに顔を出してから、自室へと戻った。

 自室には何故かミューが寝ていた。

 追い出すのも可哀そうなので、取り敢えずは正巳の寝室はサナとミュー用の寝室と言う事にして、正巳自身は久し振りの"夜の訓練"をする事にした。

「今日は、言語学習と身体操作の訓練だな……」

 そう呟いた正巳は、隣に居るマムから"レッスン"を受けながら、体の一部を膨張させたり戻したり、逆に小さくして見たり戻してみたりを繰り返し始めた。

 ――こうして新しい拠点一日目の夜は、静かに更けていった。


 ◆◇◆◇◆◇


 ……正巳がトレーニングをしている頃、一匹の獣は静かに新しい住処を散歩していた。散歩していたのは、"ボス吉"とその主より名付けられたかつて猫だった生き物だった。

 ボス吉は、自身の主の配下――自分と同等の立場に居る得体の知れない存在、"マム"から一つの道具を貰い受けていた。

 その"道具"は、以前耳に取り付けられた事のある物に似ていたが、かつての物に比べ格段に違和感の抑えられたものだった。

『次、目の前の分岐を右に曲がって下さい』

 その道具から聞こえて来る声に従って、右の道に曲がったボス吉は、その先に広い空間があるのを感じていた。そして、それ迄決して広くはなかった――心地よく感じた――道を出た瞬間、そこに広がる冷たい――石とは違うモノで作られた空間を確認していた。

『ここは、先程パパ達が夜ご飯を食べていた場所です』

 その言葉を聞いた瞬間、文句を言いそうになったボス吉だったが、マムに言われた『これから、ボス吉貴方の重要な役割を伝えます。これはパパを守る事になる可能性も有るので、しっかりとお願いしますね』という言葉を思い出して、グッと我慢した。

 ……本当は、主と一緒にご飯が食べたかったのに。

 そんな事を考えていると、マムから言葉があった。

『残るはパパの部屋に繋がる通路のみですが、そこが最後なので、その後は自由行動で良いですよ。一応、私の自由に動かせる防衛装置といざと言う時のリルも居ますが、それら一つでも動かしたらとても"静かに"という訳には行かないので、穏便に"処理"するのは任せます』

「にゃぁ」

 静かに返事をすると、主の元に続くと云う道を進み始めた。

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