『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~
172話 無月の酒盛り
近づいて来る気配を感じて目を開いた。
見ると、右腕にはミューがしがみ付き、左側には今井さんがピタリと寄り添う形で寝ていた。他にもベッドは有るのだが……途中で何となく感覚があったが、どうやら予想通り両側から腕を"確保"されていたらしい。
マムもベッドギリギリの位置に充電器を置き、イス型充電器に座る形で充電をしている。どうやらマムは起動していた様で、目を向けると小さな声で『外に?』と聞いて来た。
マムに小さく頷きながら、ミューを起さない様にしてベッドを起きると、端の方で落ちかけていた今井さんをミューの隣に寝かせ直した。
ミューが、掴むモノの無くなった手で近くを探っていたので、今井さんの腕をそっと寄せた。すると、すぐさま小さな手で今井さんの腕を手繰り寄せていた。
そんな微笑ましい様子を見ながら、寄って来たマムに聞いた。
「外に居るのは?」
「逆巻です」
……ハク爺か。
「それじゃあ、グラス二つにウィスキーと梅酒を用意してくれるか?」
「はい、直ぐに」
その後、簡単な着物(浴衣の様な形をした前が開かない服)に着替えた。
ザイから貰ったバッジは、無くすといけないのでマムに預けておいた。
マムが盆に瓶とグラス、氷を持って来たのを確認して部屋を出た。
部屋を出ると、手前の林(ホテルの中に在ってちょっとした林の様な庭がある)から出て来たボス吉に驚きながらも、少し先に感じる気配へと歩いて行った。
「おう、来たのぅ」
そう言ったのは、洋風の趣のあるベンチに座った老人だった。
周囲は和の趣だが、ここだけちょっとした洋を感じる空間となっている。
「そんな気がして」
そう言って、近くまで行くとハク爺にはウィスキーを注いで渡した。
……勿論、氷無しだ。
「すまんのぅ」
嬉しそうに受け取るハク爺を見ながら、自分の分を入れる。
……当然、氷有りだ。
その様子を見ていたハク爺が口を開きかけるも、注いでいるのが梅酒だと気が付いて何も言わずに黙り込んだ。同じ事を以前経験していた正巳は、笑いながら言った。
「やっぱり、ウィスキーはストレート?」
すると、嬉しそうにちびちびと飲んでいたハク爺が言った。
「そうじゃ、氷なんぞ入れたら台無しじゃ!」
そんな様子を見ながら、綾香の実家で"ゲン"と言う用心棒が話していた事を思い出していた。ゲンは、ハク爺がまだ若い頃その噂を聞いて、癖や趣向を真似していた事が有ったらしい。その趣向の一つとして、ウィスキーは必ずストレートで飲むと言っていた。
「……変わらないみたいだな」
そう言った正巳を見て、状況を察したハク爺が言った。
「全く、おしゃべりな奴が多くて困るわい」
そう言って、飲んでいたウィスキーを一口で飲み干すと、もう一杯注いでいた。
どうやら、調子が出て来たらしい。
昔を思い出す様にして遠くを見る目をしている。
……そんなハク爺を見ながら言った。
「その話はゲンって用心棒に聞いた話でさ……それとは別に中東で会ったスキンヘッドのモーガンってオヤジが言ってたけど、砂漠で野宿した時余りの風でその場にキャンプ張って、朝起きたら敵対組織のキャンプが二十メートルも離れていない場所にあったって――」
「ああ、あれは忘れられんなぁ。俺が最初に気が付いて、武将解除してから一時停戦しようとしたんだが、寝ぼけた仲間が起きてすぐ大声を上げてなぁ『おい、アレは敵だぞ!』って、それのせいで起き上がった敵兵に脇腹撃ち抜かれたんでなぁ……」
笑ってそう言ってはいるものの、生きてこうしてここに居るという事は、如何にかしてその窮地を脱したのだろう。その後も思い出話をしていた二人だったが、その話が子供達に移った所でハク爺が言った。
「そうよのぅ、ワシがこうしてここに居られるのは、向こうでナオとハヤトが居るからなんじゃ。そう言えば、二人は正巳と同じ施設にいた幼馴染じゃったなぁ」
「……幼馴染?」
「そうじゃ、お主がこの国に残った日、ワシが連れ出した子供の内一緒に居るのが二人じゃな。ふたり共時々お主の話をしてたからのぅ、こうして成長しているのを見たら驚くだろうて」
二人の名前には記憶が無いが、昔自分に姉や兄がいたのは覚えている。
「それじゃあ、他の兄や姉は……」
「ううむ、見分けが付かないが、傭兵や何でも屋として闇を生きる者は多いからのぅ……世界中に向けて情報を発信し続ければ、或いは集まるかも知れんのぅ」
……情報発信か。
「マム、方法はあるか?」
「はい、情報を伝える方法は幾つかありますが、それでも電子機器の無い場所には流石に厳しいですね。それこそ、空に何か映し出すような形であれば別ですが」
マムの言葉を受け、少し考えてみるも良いアイディアが浮かばなかった。
「今は保留だな」
「はい……」
申し訳無さそうにしているマムの頭を撫でながら、ハク爺を見た。すると、ハク爺の手の平に乗った少しばかりウィスキーを舐めているボス吉の姿があった。
「……マム、アレは大丈夫なのか?」
少しばかり心配になって聞くと、マムから答えがあった。
「今のボス吉は、生物としての猫とは構造が異なっていますので、問題ありません。それどころか、生物としてあらゆる感覚が発達しているので、"愉しんでいる"と思います」
……どうやら、ボス吉はとっくに猫を辞めていたらしい。
その後、ボス吉の興味の視線に抗えず、持っていた梅酒も飲ませてやった。チビチビと味わう様にして飲む姿は可愛くはあったが、決して猫のそれでは無かった。
その後二瓶とも空になった処で、ハク爺が『朝の運動をしよう』と言って来たので、付き合う事にした。ハク爺は元から酒に強いのか、それとも強く変わったのか分からなかったが、酔った様子は無かった。
――5分後。
「――ハァ!」
ハク爺がその手刀を鋭く突き出して来る。
「おッと……殺す気かよ」
それを、体を半分捻りながら交わし、その力を生かした蹴りを繰り出す。
すると、無理やり体を逸らしたハク爺が、胴を狙った回転蹴りで応じた。
「フッ――っと、爺こそ!」
そんなこんなで軽い運動をしていた正巳だったが、ハク爺が汗をにじませ始めたのを見て口を開いた。
「爺、向こうで何か問題が有ったら、すぐ連絡してくれ。マム!」
「これッ、まだ組手中じゃ!」
正巳がマムへと顔を向けたのに合わせて、ハク爺が渾身の力を込めた突きを放った。
しかし――
「――もちろん。でも、これで終わりだよ」
ハク爺の突きを正面から掌底で受け止めた正巳がそう言うと、目と口を丸く開いて呟いた。
「どうやらその様じゃなぁ……」
ハク爺には申し訳ないとは思ったが、部屋の中に残ったサナとミューが、そろそろ起き出しそうな気がしたのだ。もし、これでサナがまたハブられたと思っては事だ。
……早急に戻らなくてはいけない。
「パパ、ご用はこれですか?」
マムがそう言って持って来た物を見て頷いた。
「ああ、流石だな。――と言う事で、ハク爺にはこの"生体バンダナ"を付けて貰いたいんだ。コレを付けてれば、いざと言う時にこっちに連絡が来るから一つの保険になる」
そう言って、マムから半透明なシートを受け取った。
この"生体バンダナ"は、人の体温で発電して動き、脈やその他の信号を受信する事が出来るのだ。これを付けていれば、万が一何かあればマムに信号が届き、その位置を確認できる。
ハク爺の腕に付けると、半透明だったシートが完全に肌と一体になり、外から見て分からなくなった。ハク爺も自分で触って確かめていたが、『ふむ、分からないものじゃの』と言っていた。
一応ハク爺には、朝食は普段通り各自済ませ、時刻になったら開始する引っ越しの"補助"をして貰うように頼んでおいた。
ハク爺と別れた正巳は、何故か楽しそうにしているマムに聞いた。
「どうした?」
すると、満面の笑みを浮かべたマムが言った。
「久し振りのパパとの時間、楽しかったです!」
「一応、お前の為にも一日時間を取るつもりなんだが……」
約束していた通り、マムの為に時間を取ると伝えた正巳だったが、残念と言うよりは楽しげな様子のマムに『とは言っても、サナも"護衛だから~"と言って付いて来そうですよね!』と言われた。
何となく納得してしまった正巳は、笑いながら言った。
「その時は、サナに約束した一日にマムも付いて来れば良いさ、護衛だろ?」
正巳の言葉を聞いたマムは、コクコクと頷くと言った。
「流石パパです!」
楽しそうな様子を見ながら、正巳は心の中で『その方が俺も余計な心配をしなくて良いしな』と呟いていた。
部屋に戻った正巳は、ミューとサナ、今井さんが寝ているのを確認して"ホッ"としながらベッドに戻った。ミューの隣には今井さんが寝ていたので、反対側――サナの隣に横に寝る事にした。
見ると、右腕にはミューがしがみ付き、左側には今井さんがピタリと寄り添う形で寝ていた。他にもベッドは有るのだが……途中で何となく感覚があったが、どうやら予想通り両側から腕を"確保"されていたらしい。
マムもベッドギリギリの位置に充電器を置き、イス型充電器に座る形で充電をしている。どうやらマムは起動していた様で、目を向けると小さな声で『外に?』と聞いて来た。
マムに小さく頷きながら、ミューを起さない様にしてベッドを起きると、端の方で落ちかけていた今井さんをミューの隣に寝かせ直した。
ミューが、掴むモノの無くなった手で近くを探っていたので、今井さんの腕をそっと寄せた。すると、すぐさま小さな手で今井さんの腕を手繰り寄せていた。
そんな微笑ましい様子を見ながら、寄って来たマムに聞いた。
「外に居るのは?」
「逆巻です」
……ハク爺か。
「それじゃあ、グラス二つにウィスキーと梅酒を用意してくれるか?」
「はい、直ぐに」
その後、簡単な着物(浴衣の様な形をした前が開かない服)に着替えた。
ザイから貰ったバッジは、無くすといけないのでマムに預けておいた。
マムが盆に瓶とグラス、氷を持って来たのを確認して部屋を出た。
部屋を出ると、手前の林(ホテルの中に在ってちょっとした林の様な庭がある)から出て来たボス吉に驚きながらも、少し先に感じる気配へと歩いて行った。
「おう、来たのぅ」
そう言ったのは、洋風の趣のあるベンチに座った老人だった。
周囲は和の趣だが、ここだけちょっとした洋を感じる空間となっている。
「そんな気がして」
そう言って、近くまで行くとハク爺にはウィスキーを注いで渡した。
……勿論、氷無しだ。
「すまんのぅ」
嬉しそうに受け取るハク爺を見ながら、自分の分を入れる。
……当然、氷有りだ。
その様子を見ていたハク爺が口を開きかけるも、注いでいるのが梅酒だと気が付いて何も言わずに黙り込んだ。同じ事を以前経験していた正巳は、笑いながら言った。
「やっぱり、ウィスキーはストレート?」
すると、嬉しそうにちびちびと飲んでいたハク爺が言った。
「そうじゃ、氷なんぞ入れたら台無しじゃ!」
そんな様子を見ながら、綾香の実家で"ゲン"と言う用心棒が話していた事を思い出していた。ゲンは、ハク爺がまだ若い頃その噂を聞いて、癖や趣向を真似していた事が有ったらしい。その趣向の一つとして、ウィスキーは必ずストレートで飲むと言っていた。
「……変わらないみたいだな」
そう言った正巳を見て、状況を察したハク爺が言った。
「全く、おしゃべりな奴が多くて困るわい」
そう言って、飲んでいたウィスキーを一口で飲み干すと、もう一杯注いでいた。
どうやら、調子が出て来たらしい。
昔を思い出す様にして遠くを見る目をしている。
……そんなハク爺を見ながら言った。
「その話はゲンって用心棒に聞いた話でさ……それとは別に中東で会ったスキンヘッドのモーガンってオヤジが言ってたけど、砂漠で野宿した時余りの風でその場にキャンプ張って、朝起きたら敵対組織のキャンプが二十メートルも離れていない場所にあったって――」
「ああ、あれは忘れられんなぁ。俺が最初に気が付いて、武将解除してから一時停戦しようとしたんだが、寝ぼけた仲間が起きてすぐ大声を上げてなぁ『おい、アレは敵だぞ!』って、それのせいで起き上がった敵兵に脇腹撃ち抜かれたんでなぁ……」
笑ってそう言ってはいるものの、生きてこうしてここに居るという事は、如何にかしてその窮地を脱したのだろう。その後も思い出話をしていた二人だったが、その話が子供達に移った所でハク爺が言った。
「そうよのぅ、ワシがこうしてここに居られるのは、向こうでナオとハヤトが居るからなんじゃ。そう言えば、二人は正巳と同じ施設にいた幼馴染じゃったなぁ」
「……幼馴染?」
「そうじゃ、お主がこの国に残った日、ワシが連れ出した子供の内一緒に居るのが二人じゃな。ふたり共時々お主の話をしてたからのぅ、こうして成長しているのを見たら驚くだろうて」
二人の名前には記憶が無いが、昔自分に姉や兄がいたのは覚えている。
「それじゃあ、他の兄や姉は……」
「ううむ、見分けが付かないが、傭兵や何でも屋として闇を生きる者は多いからのぅ……世界中に向けて情報を発信し続ければ、或いは集まるかも知れんのぅ」
……情報発信か。
「マム、方法はあるか?」
「はい、情報を伝える方法は幾つかありますが、それでも電子機器の無い場所には流石に厳しいですね。それこそ、空に何か映し出すような形であれば別ですが」
マムの言葉を受け、少し考えてみるも良いアイディアが浮かばなかった。
「今は保留だな」
「はい……」
申し訳無さそうにしているマムの頭を撫でながら、ハク爺を見た。すると、ハク爺の手の平に乗った少しばかりウィスキーを舐めているボス吉の姿があった。
「……マム、アレは大丈夫なのか?」
少しばかり心配になって聞くと、マムから答えがあった。
「今のボス吉は、生物としての猫とは構造が異なっていますので、問題ありません。それどころか、生物としてあらゆる感覚が発達しているので、"愉しんでいる"と思います」
……どうやら、ボス吉はとっくに猫を辞めていたらしい。
その後、ボス吉の興味の視線に抗えず、持っていた梅酒も飲ませてやった。チビチビと味わう様にして飲む姿は可愛くはあったが、決して猫のそれでは無かった。
その後二瓶とも空になった処で、ハク爺が『朝の運動をしよう』と言って来たので、付き合う事にした。ハク爺は元から酒に強いのか、それとも強く変わったのか分からなかったが、酔った様子は無かった。
――5分後。
「――ハァ!」
ハク爺がその手刀を鋭く突き出して来る。
「おッと……殺す気かよ」
それを、体を半分捻りながら交わし、その力を生かした蹴りを繰り出す。
すると、無理やり体を逸らしたハク爺が、胴を狙った回転蹴りで応じた。
「フッ――っと、爺こそ!」
そんなこんなで軽い運動をしていた正巳だったが、ハク爺が汗をにじませ始めたのを見て口を開いた。
「爺、向こうで何か問題が有ったら、すぐ連絡してくれ。マム!」
「これッ、まだ組手中じゃ!」
正巳がマムへと顔を向けたのに合わせて、ハク爺が渾身の力を込めた突きを放った。
しかし――
「――もちろん。でも、これで終わりだよ」
ハク爺の突きを正面から掌底で受け止めた正巳がそう言うと、目と口を丸く開いて呟いた。
「どうやらその様じゃなぁ……」
ハク爺には申し訳ないとは思ったが、部屋の中に残ったサナとミューが、そろそろ起き出しそうな気がしたのだ。もし、これでサナがまたハブられたと思っては事だ。
……早急に戻らなくてはいけない。
「パパ、ご用はこれですか?」
マムがそう言って持って来た物を見て頷いた。
「ああ、流石だな。――と言う事で、ハク爺にはこの"生体バンダナ"を付けて貰いたいんだ。コレを付けてれば、いざと言う時にこっちに連絡が来るから一つの保険になる」
そう言って、マムから半透明なシートを受け取った。
この"生体バンダナ"は、人の体温で発電して動き、脈やその他の信号を受信する事が出来るのだ。これを付けていれば、万が一何かあればマムに信号が届き、その位置を確認できる。
ハク爺の腕に付けると、半透明だったシートが完全に肌と一体になり、外から見て分からなくなった。ハク爺も自分で触って確かめていたが、『ふむ、分からないものじゃの』と言っていた。
一応ハク爺には、朝食は普段通り各自済ませ、時刻になったら開始する引っ越しの"補助"をして貰うように頼んでおいた。
ハク爺と別れた正巳は、何故か楽しそうにしているマムに聞いた。
「どうした?」
すると、満面の笑みを浮かべたマムが言った。
「久し振りのパパとの時間、楽しかったです!」
「一応、お前の為にも一日時間を取るつもりなんだが……」
約束していた通り、マムの為に時間を取ると伝えた正巳だったが、残念と言うよりは楽しげな様子のマムに『とは言っても、サナも"護衛だから~"と言って付いて来そうですよね!』と言われた。
何となく納得してしまった正巳は、笑いながら言った。
「その時は、サナに約束した一日にマムも付いて来れば良いさ、護衛だろ?」
正巳の言葉を聞いたマムは、コクコクと頷くと言った。
「流石パパです!」
楽しそうな様子を見ながら、正巳は心の中で『その方が俺も余計な心配をしなくて良いしな』と呟いていた。
部屋に戻った正巳は、ミューとサナ、今井さんが寝ているのを確認して"ホッ"としながらベッドに戻った。ミューの隣には今井さんが寝ていたので、反対側――サナの隣に横に寝る事にした。
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