『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~

時雲

148話 再会の約束

 自分が下した"殺さない"という判断が、間違っていなかった事にホッとしていた。

 将軍と王子が話している。

「死者は居ないのか?」
「1人もいない様ですぞ」

 二人の様子を見ながら、先程王子が言った言葉を思い出していた。
 先程王子は、俺に『協定を結ぼう』と言って来た。

 "協定"つまり、主に国家間で取り交わされる決め事だ。

「アブドラ殿下、先程の言葉を"ホテル"へのモノだとしたら、丁度そこに――」
「何を言っている?」

 俺の言った言葉に、アブドラ王子が否定的な反応をする。

「先程、王子が仰った"協定"の事です」

 何となく、『王位を継ぐ』と宣言した王子に対して敬語になっていた。
 しかし、少しだけ不機嫌な顔をした王子に言われる。

「その言葉遣い、何とかならないのか?」
「ああ、まあ……それで良いならそうするが」

 少し前にも、同じやり取りをした事を思い出して、少し苦笑した。
 そんな様子を見ていた王子が、正巳の言葉が元に戻ったのを確認して言った。

「"ホテル"というのがお前達の組織名であれば、"ホテル"との協定を申し込もう」

 ……何となく食い違っている気がする。

「ええっと、アブドラは"俺"と『協定を結ぶ』と言っているのか?」
「先程からそう言っているつもりだ」

 ……どうやら、"ホテル"への仲介を望んでいる訳では無かったらしい。

「お前と我、つまり正巳達と我が国の間に、協定を結ぶ事を望んでいる」

 ハッキリと言い切った王子に対して、聞いた。

「それは、今回のクーデター鎮圧の報酬か?」

 確かに、今回の鎮圧の報酬として、国と個人間の協定はあり得……るわけが無い。
 幾ら何でも、"協定"とはならないだろう。

 精々が"勲章"や"名誉国民"くらいが妥当なところだ。
 そんな考えを見透かしたのか、王子が言う。

「報酬は、一度持ち帰って協議をする必要があるだろう。今回は、クーデター鎮圧のみならず、他にも幾つかの"対象"があるしな……」

 そう言った王子の言葉に、疑問を覚えた。

「幾つか?」

 俺の言葉に答えたのは、将軍だった。

「そうだな、先ずは国の重要人物の救出及び救命。次に、暗殺から第一王子を救い出した事、だな。これが大きな事だが……先程、情報官から聞いた所では、我が国の不正を犯している役人に関しても情報提供があったらしいな」

 前半は覚えがあるが、後半は覚えが無い……
 もしかしなくても、マムが動いたのだろう。もしかすると、ここ迄の流れを計算して、国の不正を暴いたのかも知れない。

 少しの間黙っていたら、その"間"を勘違いした将軍が言った。

「……まあ、ワシとしても"協定"を結ぶのは賛成だ」

 将軍が『恐ろしくて敵対なんぞ出来ないわ!』と言っている。
 そんな将軍に、王子が頷きながら言う。

「そういう事だ」
「しかし、俺達は一般人だぞ?」

 正巳が、『"協定"を結ぶほどの存在なのか?』と聞くと、王子が呆れたように言う。

「その"一般人"が、数年かけて準備されたクーデターを鎮圧し、捕えられていた軍部のトップを救出したのだがな……まあ良いだろう。そうだな……」

 王子は、少しの間考えた後に言った。

「今は"村"のようだが、何れ"国"になった時には我と――我が国と"条約"を結んでもらうぞ?」

 ……確か、協定と条約は、その効力としては違いが無いにせよ、重要度に差異があった筈だ。そして、当然"条約"の方が比較的重要とされている。

 現時で、800名足らず居る家族が"後ろ盾"を得る事で、より安全になるのであれば、拒む必要は無いのかも知れない。

「分かった。その時は、よろしく頼む」

 そう言って、アブドラ王子の差し出した手を握った。
 その横に座っていたバラキオス将軍は、心から"安心"した様であった。

 ある意味、将軍の"安心"は当然のモノであった。
 先程部下や諜報員から聞いていた事は全て、信じられない事ばかりだったのだから。

 ……優秀な部下たちが、一様に『どうか、敵対しない様に』と言っていた。その中には、空軍のエースである男も含まれていた。常時自信に溢れ、常に隊を率いている男なのだが、その必死な様子には鬼気迫るものがあった。

 ……完全に軍部のシステムを奪い取り、全てを掌握。更には、全ての戦闘機がコントロール不能になり、同じく掌握されていた。これは、現代において最も力を発揮する兵器が、全て握られていたという事なのだ。

 今回のクーデターが、ここまで荒れずに済んだのも、敵対した相手の"力"を肌で感じた兵士達が、非常に多かったからであった。

 目の前に座っている、仮面を付けた男は、間違いなく敵にしてはいけない相手だった。


 ――――

 その後、正巳は将軍と王子と話しながら、幾つかの事を聞いていた。

 どうやら、ムスタファ大佐は本国に移送され、そこで軍事裁判を受けるらしい。
 ほぼ間違いなく、極刑に処せられるらしいが、それも仕方ないだろう。

 今回の報酬に関しては、先程王子が言っていた通り、持ち返って協議の上で決めるらしい。一応、貰っても扱いに困る様な"名誉国民"などの話は、断っておいた。

 今後の連絡先に関して聞かれたが、マムの言った通りを伝えると、大層驚かれてしまった。まあ、『ネットに繋がった音声入力機器の前で、自分の名前と俺に要件がある事を言えば良い』と言ったのだから、当然なのかも知れないが。

 重要な事はこれ位だった。

 その後は、ボス吉やサナの事について聞かれたので、自慢させて貰った。

 ふたり共、強くて可愛いのだ。

 途中で兵士達も挨拶に来たのだが、サナが俺達と一緒に戦闘もこなすと聞いた者は、皆が苦笑いで『それはそれは、将来有望ですね』等と言っていた。

 どうやら、正巳の言葉を"親馬鹿"とか"冗談"と思っていたらしかったのだが……その兵士達の横には、ピクリとも笑っていない王子と、その一行が居た。

 また、途中でザイを紹介をした。すると――

「おいおい、"ホテル"に"ザイ"って……まさか世界大使館ワールド・エンバシーの事じゃないよな?!」

 と、バラキオス将軍が驚いていた。

 聞いた所によると、ザイの名と"ホテル"については、世界の要人達――特に、軍事関係の者にとっては知らぬ者が居ない程、有名らしかった。

 何故か、最後の方はザイの話で盛り上がる事になったのだが、まさかこの事実(正巳がザイを引きつれていた事)が、後々正巳達を更に重要視する要因の一つになる等とは、夢にも思っていないのであった。


 ――
 途中で、綾香がユミルとサナを誘って、炎の立ち上っている場所に出て行った。
 少し心配だったので、ライラに護衛を頼んでおいた。

 ただし、"護衛"と言っても、ユミル達を守るのが目的ではない。
 兵士達が余計な事をして、怪我しない為だ。

 ボス吉は、途中まで大型犬ほどの大きさになり、料理人の横に居た。
 ……どうやら、暫くの間ご飯を貰っていたらしい。

 ボス吉にその話を聞くと、『主の言った通りに野菜も一緒に食べたぞ!』と誇らしげに言っていた。そして『ハンバーガーとやらも悪くなかった』と、半ば目を閉じながらむにゃむにゃと言っていた。

 そんな事をしていたら、空が白み始めているのに気が付いた。

 マムに確認すると、『後20分程で予定時刻です』という事だった。

 丁度帰って来たユミル達に声を掛けようとしたら、其々が何やら幾つかの"戦利品"を手に持っているのに気が付いた。

「ユミルのそれは、サングラスか……サナは時計に、綾香は金属製の腕輪?」

 どうしたのか聞くと、サナが元気に手を上げた。

「おにいちゃ!」
「……サナ?!」

「そうなの! サナがバンってやったら貰えたなの!」
「……ライラ、詳しく説明してくれるか?」

 三人の横で、ちゃっかり自分もハンカチを持っていたライラに聞いた。

「えっ? ……っと、実は全てサナちゃんが、勝ち取った戦利品でして……――」

 どうやら、炎を上げていた場所の近くで、兵士達が賭け腕相撲大会をしていたらしい。そこで、物を其々賭けて、勝った方が相手が賭けた物を貰えるという事だったらしいのだが……そこで、サナが連戦連勝したらしい。

 聞いた所によると、中には自国で自分が持っている"農場"を賭けて、サナに取られた者も居たらしい。

 ただ、余りにも高価なものは、相手が可哀想だから最後に『今度美味しい食べ物を奢ってもらう』という約束と交換したらしいのだが……

 途中で、兵士達が『チャンピョン!』と叫んでいるのが聞こえていたが、どうやらサナの事だったらしい。

「……まあ、サナに勝てるのはマム位だろうな」

 恐らく、生物ではサナに勝てないのではないだろうか……俺であっても、サナ以上の力を出す前に、腕に限界が来るだろう。

 俺が呟いた言葉を聞いていたライラは心の中で、『サナちゃんよりも力の強い……??』と驚くと同時に改めて、恐ろしいと感じていた。

 その話を聞いていた将軍が、『ワシも手合わせ……』と言い出したので、慌てて周囲の者に止めさせた。もし、サナが将軍の腕を折りでもしたらシャレにならない。

 ワイワイとしている間に、ザイ達が出発の準備を終えていた様で、声をかけて来た。

 いよいよ、帰還する事になった。

 何だか、たった二日しか居なかったとは思えない程に、濃い時間だった。

 将軍に挨拶をすると、王子と手を交わした。
 ――交わした手は、再会の約束だった。

 ライラに『頑張れよ』と、王子を横目に見ながら言うと、ライラが何か言い始める前に"ブラック"へと乗り込んだ。

 ブラックの機体には、朝日が照り始めていた。

 正巳が言った『出るぞ!』という言葉と共に、機体のエンジンが稼働し始めた。

 そして、数分後には――グルハ王国の極秘基地、通称"島海ズ・スラン"から、正巳達は飛び立っていた。

 飛び立った後で下を見ると、王子と将軍含め、その周囲の兵士達は"敬礼の型"を取っていた。その様子を見た正巳は、何となく("条約"についてきちんと考えるのも悪くないな)と考え始めていたのだった。

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