『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~
78話 帰還 [最善手]
気が付くと、正巳君が行方不明になってから、6日目になっていた。
――
現状を聞くために、総指揮をしている佐藤の所に来ていた。
指揮本部は、駐車所湯にある。
「それで、どんな状況か教えて貰えるかな?」
「ハッ!」
佐藤が話し出した。
「捜索一日目に”地下室”を発見。内部を調査しましたが、中には”情報”のみで、カグラ様は発見ならず」
……?
正巳君は”情報”を探しに戻ったはずだ。それが、”情報”がそのまま残っていたという事は、地下に入っていないという事では無いだろうか。
「――その後、捜索を切り替え、施設周辺及び、各部屋の捜索開始」
……まあ、当然の対応だろう。
「施設周辺及び、施設内に確認できず。捜索範囲を山中に指定」
……これは知っている。
増援部隊を使って、ローラー作戦をしている筈だ。
「それで、何か一つでも手掛かりは無かったのかい?」
「……何一つ……」
頭が痛くなる話だ。
もし、聞いた通りの話であれば、既に遠くの施設に移動されている筈だ。……ただ、マムが最大の警戒で監視している為、交通機関並びに人家の近くに居る事は無い。
となると、即時殺害及び隠蔽処理となる……
「それじゃあ、次向かう車の中に、僕の造った機械を入れて行って欲しい」
「それは……」
「勿論です」
佐藤が、少し考える姿勢を取ろうとしたところで、ザイがやって来た。
「……勿論、好きに車両を活用下さい。全ては我々の落ち度です」
ザイに付いて来ていた、女性ホテルマン……ユミルが、続けて言う。
「微力ながら、私も向かいますので……その際に」
ユミルの腕を見ると、包帯をしてはいないが、その腕は体に固定されている。
……どうやら、動く様には治らなかったようだ。
「……分かった。よろしく頼むよ」
「はい! 全てに代えても」
ユミルはそう言うと、車を回すように指示をしに行った。
何処か自分を犠牲にするような、ユミルの言動が気になったが(職務に忠実なのだろう)と判断して、上司であるザイの判断に任せる事にした。
……そう、ザイはホテル内でそれなりの立場にいるらしい。
ザイが一緒に居る時、私達宿泊客以外に”礼”の姿勢を取った事を見た事が無く、何方かと言うと、報告を受けたり、指示を出したりしていた。
……フロア責任者か、何かなのかも知れない。
その後、ザイが『輸送する機器はどちらに?』と聞いて来たので、『今持ってくるよ』と返事をし、研究室へと戻り始めた。
――
研究室に戻ると、そこには混乱があった。
「{******!}{?***!}」
「おい、まだ動けないんだから、そんなに張り切らないでくれよ」
……カプセルの中で、上原君と衛兵がもつれ合っている。
「え~っと……取り敢えず、健康状態を把握したいんだけど?」
今井が声を掛けると、全く違う反応が両者からある。
「えっ……今井部長……? 俺は……会社にいたのが、いつの間にか化物と……?」
「{****! **! ****!}」
片や呆気にとられ、片や叫び始める。
このままでは、何時まで経っても埒が明かなそうなので、マムに仲介を頼んだ。
「マム、通訳してくれ」
『はい、マスター!』と答えたマムが、腕を操作して、大きなパネルを移動させる。勿論、パネルにはマムが表示されている。
「流石、技術の今井……」
上原君が何か呟いていたが、今はそんな事よりも、目の前で大声で騒いでいる衛兵だ。
「『さて、君は自分の状況が理解できているかい?』」
マムが同時通訳をする。
「{俺を連れ去って、どういう事だ。俺は何も話さない! 殺せ!}」
衛兵の言った言葉も訳してくれる。
「……『君の、最後の記憶はどんな記憶だい?』」
「{そんなの、深夜の任について……?}」
男は、『{あれ? それから……}』と呟いている。
精神に強いショックを受けると、精神を守るために記憶喪失に陥る場合がある。
もしかすると、と思い、予めシミュレーションしておいて正解だった。
「『君は、上司に撃ち殺されたんだ』」
衛兵の様子を見ながら言う。
「{俺が? でも……あれ?}」
混乱しているようだが、この様子だと、何れ自覚できるだろう。
「『そう、それに、君には同僚の”ロウ”と言う男がいただろう?』」
”ロウ”と言う単語を出すと、反応があった。
「{あぁ、確かに”ロウ”はいたが……}」
「『そのロウは、どうやら火事で亡くなったらしいんだ』」
マムの話では、ロウの寝ていた車は炎上していたらしい。
「{ロウが……}」
「『それに、ロウの弟の男も亡くなってしまったんだ』」
そう言うと、一瞬不思議そうな顔をするが、衛兵は呟いた。
「{そうか……ロウの”弟”の事は思い出せないが、死んだか}」
「『そうだ。それに、僕らは君を救い出して来たんだ。君に危害を加えるつもりもない。もし、そのつもりだったら、とっくにしてるしね……』」
そう言うと、衛兵に向かって『そうだろう?』と言った。
……衛兵は、暫く悩んでいたが、上原君の腹の虫の音と『すみません』と言う言葉に一旦、考え込むのを一時止めた様だ。
「{どうやら、逃げられない様だし、記憶が戻るまでは静かにしているよ……}」
「『……お腹もすいたようだしね』」
そう言うと、上原君の顔を見た。
「『面目ない』」
恥ずかしそうに頭の後ろを掻く上原君に思わず笑い声をあげると、衛兵も笑い出した。
「{緊張感のない奴だな……ははは……}」
笑っている二人を見ながら、”大丈夫そうだな”と判断した。
「『それじゃあ、僕は用事が有るから行くけど、ここで好きな物を食べていてくれ給え。好きなだけ食べても良いが、申し訳ないが、この部屋の物には触れないでくれよ?』」
そう言うと、上原君は『ハイっ!』と返事をし、衛兵は頷いた。上原君に関しては、現在自分が置かれている状況が全く分かっていないだろう。
今は、僕と正巳君が関わっているから平静でいるようだが……後で説明をしておこう。
その後、マムに言って、料理のメニューをパネル上に表示して注文をさせる様に言っておいた。いきなり、”空だった胃に食べ物を入れると良くないかも”とも思った。しかし、ボス吉が大丈夫だったのを思い出し、”問題ないだろう”と判断した。
……猫と人間との区別はしなかった。
二人がパネルを見ながら、注文する様子を見ていたが、調査機を取りに来ていた事を思い出した。
「それじゃあマム、動かしてくれ」
そう言うと、マムが『はい、マスター!』と返事をして、其々の機器を操作し始めた。
ドローン3機、探知機は地表向けと地中向けの2機、掘削機も一応小型のモノを1機、長時間稼働する事を考えて、充電基地も用意した。
……充電基地は、発電機の一種であり、これも設計から既存の物を作り直した。その結果、連携した機器の充電が残りわずかとなった時、自走して近くまで移動する機能が付いた。……ネックは”地面を走行する”という点で、これは今後改良していきたいと思う。
一斉に動き出した機器に、驚いた顔をした上原君と衛兵だったが、直ぐに上原君が納得するような顔をして、衛兵に説明していた。
……いつの間に仲良くなったのだろうか。
どうやら、正巳君の先輩はコミュニケーション力が高いらしい。
「それじゃあ、少し出て来るよ!」
そう言うと、上原君がお辞儀をし、衛兵にはマムが通訳していた。
そんな様子を見ながら、ふと呟いた。
「話す言葉を自動で翻訳して話して、耳に入る言葉も自動で訳す機械を作れば……」
そう呟いた所で、マムの反応があった。
「……あ、作っていました!」
「マム……まぁ、お陰で二人が中良くなったと思えば良いさ」
マムが落ち込んでいるかなと思って、そう言ったのだが……
「あ! そっか、言葉を翻訳する時に近い言葉で、別の意味の文章にしてしまえば……そうすればさらにパパやマスターに都合の良いように……」
何やら、不味い方に走りそうになっていたので、きちんと注意しておいた。
「マム、それは程々にしておかないとダメだよ?」
そう、完璧にやり過ぎると、かえって綻びを生む。
少し、隙間が有るくらいが丁度良いのだ。
マムの『なる程です! 流石マスターです!』と言う言葉を聞きながら、駐車場へと向かった。歩いて行く今井の後ろを、ドローンやらドリルの付いた機械やらが追従していた。
途中で見かけた子供達が、何やら歓声を上げていたので、軽く手を振って置いた。……どうやら、子供達も半分ほどが回復して、元気な状態になっている様だ。
子供達が元気になっているのに、救い出した当の本人が居ない。
子供達の様子を見ながら、改めて、無事でいてくれと思った。
――
駐車場に着いた。
既に、車両が回されており、ユミルが中に乗り込んでいた。
調査機を引き連れて、登場したが、その場にいた誰一人として声を上げなかった。
流石に、一瞬顔を引きつらせた者も居たが、直ぐにいつもの様子に戻った。
「それじゃあ、コレを中に入れてくれ。向こうに着いたら、ドアを開けてくれれば良い」
「了解……」
運転手が、頷く。
……ユミルの事を見ると、集中している様だったので、声はかけないでおく事にした。
全ての調査機が、車両に積み込まれたのを確認した所で、扉を閉めた。
「頼んだよ」
「「「ハッ!」」」
今度は、ユミルも反応した。
少し、ユミルの様子が不安だったが、車が出発したので、『後は任せるしかない』と切り替える事に決めた。……これで、打てる最善手は打った。
駐車場から車両が見えなくなった後、佐藤とザイに挨拶をしてから、研究室へと歩き始めた。
――
研究室に戻って見ると、そこには沢山の器が転がっていた。
ざっと、二十食分以上あるだろう。
「……これ、全部食べたのかい?」
「……その、申し訳ないです。食べても食べても入るもので、気が付いたら……」
器に囲まれて、上原と衛兵の二人が、俯いていた。
「それで、上原君と……衛兵君の名前は何だったかな?」
衛兵に、そう聞こうとすると、上原が口を開いた。
「この男の名前は、”デウ・キャムス”と言うそうです」
「そうか、それじゃあ、デウ君と上原君は、具合はどうかね?」
今井の言葉に、二人が疑問符を並べる。
「あ~……だから、君達の『身体の調子はどうだい?』と聞いているんだ」
「「{大丈夫です!}」」
凄い勢いで帰って来た返事に、戸惑いながら『そ、そうか』と言った。
見た所、衛兵のデウに関しては、若干腹部に違和感を感じているようだ。
時折お腹を擦る動きをしている。
それに対して、上原君に関しては、新しい左手、左足を違和感なく使えているようで、まるで初めから自分の手だったかのように、器用に動かしている。
新しい手足の部分は共に褐色で、元の肌色とはハッキリと違う色なのだが……疑問を抑え込んでいるのか、気が付いていないのかは分からないが、期を見て説明する必要がありそうだ。
その後、何やら申し訳無さそうにする二人だったが、少しは歩けるようになっていたので、予め借りていた部屋に連れて行く事にした。
――
ホテルマンに案内してもらって、本館の部屋へと来ていた。
「ココが、君たち二人の部屋だから仲良くね。少し距離が離れていて悪いけど、正巳君が戻ったら君たちも呼ぶから。……室内のトレーニングマシーンとか、料理とかは好きにして良いからね」
そう言ったのだが、反応が無い。
……暫く、部屋の中を回っていた二人が、やっと満足したのか、戻って来た。
上原君が口を開く。
「……あの、これ、二人で?」
「ああ、そうだけど……まあ、仲良くしたまえ」
もしかしたら、『一緒の部屋に不満なのかも知れない』と、思った今井だったが……
「こんなに良い部屋、初めて泊まります……一泊で一か月の給料が飛ぶんじゃ……」
何やら不安そうに呟いていたので、『問題ないさ』と言っておいた。
その後、一人で不安そうにしていたデウを見て、持って来ていた仮面を上原君に差し出した。
「これは、会話を自動で翻訳してくれるんだ。説明しておいてくれ」
そう言うと、呆気に取られている上原君に仮面を手渡し、部屋から出た。
ドアが閉まる寸前に、不安や疑問やらを浮かべた顔を見て、心の中で『頑張れ!』と言って、ドアを閉めた。
……その後、部屋へ戻ると大使館から連れて来た子供達が揃っていたので、如何したのか聞くと、『あの機械はなあに?』と言う内容が大半で、テンは『ひと段落付きましたので』と言っていた。
……地味に、テンの日本語が上達していて驚いた。
如何やら、ホテルマンが時間を見つけて、教えてくれていたらしい。
「テン、日本語上手くなったね、凄いじゃないか」
そう褒めると、赤くなりながら『ありがとうございまス』と言っていた。テンの様子にほっこりした後は、子供達の『きかい! なあに?』と言う疑問に、一つ一つ答える事にした。
……一通り質問に答えた後、皆で夕食を食べた。
子供達の話しでは、子供達の沢山いるホールでは、体に優しい健康食が出ていたらしい。その為、飢えていたのか、食べる量も半端な量では無く、体の大きさを考慮すると、上原君と衛兵のデウが食べた量を軽く凌駕するほどだった。
お腹いっぱいに食べた後、眠くなって来た様だったので、歯を磨かせて、風呂に入った順に布団に連れて行った。
……中には、お風呂に入っている途中で寝てしまう子供もいたが、そんな子は決まってサナが担いでベットに寝かせていた。
最早、5歳の幼女が、12歳の少年を担いでいる姿に驚く事は無くなっていた。
……だって、こういうモノだから。
――
現状を聞くために、総指揮をしている佐藤の所に来ていた。
指揮本部は、駐車所湯にある。
「それで、どんな状況か教えて貰えるかな?」
「ハッ!」
佐藤が話し出した。
「捜索一日目に”地下室”を発見。内部を調査しましたが、中には”情報”のみで、カグラ様は発見ならず」
……?
正巳君は”情報”を探しに戻ったはずだ。それが、”情報”がそのまま残っていたという事は、地下に入っていないという事では無いだろうか。
「――その後、捜索を切り替え、施設周辺及び、各部屋の捜索開始」
……まあ、当然の対応だろう。
「施設周辺及び、施設内に確認できず。捜索範囲を山中に指定」
……これは知っている。
増援部隊を使って、ローラー作戦をしている筈だ。
「それで、何か一つでも手掛かりは無かったのかい?」
「……何一つ……」
頭が痛くなる話だ。
もし、聞いた通りの話であれば、既に遠くの施設に移動されている筈だ。……ただ、マムが最大の警戒で監視している為、交通機関並びに人家の近くに居る事は無い。
となると、即時殺害及び隠蔽処理となる……
「それじゃあ、次向かう車の中に、僕の造った機械を入れて行って欲しい」
「それは……」
「勿論です」
佐藤が、少し考える姿勢を取ろうとしたところで、ザイがやって来た。
「……勿論、好きに車両を活用下さい。全ては我々の落ち度です」
ザイに付いて来ていた、女性ホテルマン……ユミルが、続けて言う。
「微力ながら、私も向かいますので……その際に」
ユミルの腕を見ると、包帯をしてはいないが、その腕は体に固定されている。
……どうやら、動く様には治らなかったようだ。
「……分かった。よろしく頼むよ」
「はい! 全てに代えても」
ユミルはそう言うと、車を回すように指示をしに行った。
何処か自分を犠牲にするような、ユミルの言動が気になったが(職務に忠実なのだろう)と判断して、上司であるザイの判断に任せる事にした。
……そう、ザイはホテル内でそれなりの立場にいるらしい。
ザイが一緒に居る時、私達宿泊客以外に”礼”の姿勢を取った事を見た事が無く、何方かと言うと、報告を受けたり、指示を出したりしていた。
……フロア責任者か、何かなのかも知れない。
その後、ザイが『輸送する機器はどちらに?』と聞いて来たので、『今持ってくるよ』と返事をし、研究室へと戻り始めた。
――
研究室に戻ると、そこには混乱があった。
「{******!}{?***!}」
「おい、まだ動けないんだから、そんなに張り切らないでくれよ」
……カプセルの中で、上原君と衛兵がもつれ合っている。
「え~っと……取り敢えず、健康状態を把握したいんだけど?」
今井が声を掛けると、全く違う反応が両者からある。
「えっ……今井部長……? 俺は……会社にいたのが、いつの間にか化物と……?」
「{****! **! ****!}」
片や呆気にとられ、片や叫び始める。
このままでは、何時まで経っても埒が明かなそうなので、マムに仲介を頼んだ。
「マム、通訳してくれ」
『はい、マスター!』と答えたマムが、腕を操作して、大きなパネルを移動させる。勿論、パネルにはマムが表示されている。
「流石、技術の今井……」
上原君が何か呟いていたが、今はそんな事よりも、目の前で大声で騒いでいる衛兵だ。
「『さて、君は自分の状況が理解できているかい?』」
マムが同時通訳をする。
「{俺を連れ去って、どういう事だ。俺は何も話さない! 殺せ!}」
衛兵の言った言葉も訳してくれる。
「……『君の、最後の記憶はどんな記憶だい?』」
「{そんなの、深夜の任について……?}」
男は、『{あれ? それから……}』と呟いている。
精神に強いショックを受けると、精神を守るために記憶喪失に陥る場合がある。
もしかすると、と思い、予めシミュレーションしておいて正解だった。
「『君は、上司に撃ち殺されたんだ』」
衛兵の様子を見ながら言う。
「{俺が? でも……あれ?}」
混乱しているようだが、この様子だと、何れ自覚できるだろう。
「『そう、それに、君には同僚の”ロウ”と言う男がいただろう?』」
”ロウ”と言う単語を出すと、反応があった。
「{あぁ、確かに”ロウ”はいたが……}」
「『そのロウは、どうやら火事で亡くなったらしいんだ』」
マムの話では、ロウの寝ていた車は炎上していたらしい。
「{ロウが……}」
「『それに、ロウの弟の男も亡くなってしまったんだ』」
そう言うと、一瞬不思議そうな顔をするが、衛兵は呟いた。
「{そうか……ロウの”弟”の事は思い出せないが、死んだか}」
「『そうだ。それに、僕らは君を救い出して来たんだ。君に危害を加えるつもりもない。もし、そのつもりだったら、とっくにしてるしね……』」
そう言うと、衛兵に向かって『そうだろう?』と言った。
……衛兵は、暫く悩んでいたが、上原君の腹の虫の音と『すみません』と言う言葉に一旦、考え込むのを一時止めた様だ。
「{どうやら、逃げられない様だし、記憶が戻るまでは静かにしているよ……}」
「『……お腹もすいたようだしね』」
そう言うと、上原君の顔を見た。
「『面目ない』」
恥ずかしそうに頭の後ろを掻く上原君に思わず笑い声をあげると、衛兵も笑い出した。
「{緊張感のない奴だな……ははは……}」
笑っている二人を見ながら、”大丈夫そうだな”と判断した。
「『それじゃあ、僕は用事が有るから行くけど、ここで好きな物を食べていてくれ給え。好きなだけ食べても良いが、申し訳ないが、この部屋の物には触れないでくれよ?』」
そう言うと、上原君は『ハイっ!』と返事をし、衛兵は頷いた。上原君に関しては、現在自分が置かれている状況が全く分かっていないだろう。
今は、僕と正巳君が関わっているから平静でいるようだが……後で説明をしておこう。
その後、マムに言って、料理のメニューをパネル上に表示して注文をさせる様に言っておいた。いきなり、”空だった胃に食べ物を入れると良くないかも”とも思った。しかし、ボス吉が大丈夫だったのを思い出し、”問題ないだろう”と判断した。
……猫と人間との区別はしなかった。
二人がパネルを見ながら、注文する様子を見ていたが、調査機を取りに来ていた事を思い出した。
「それじゃあマム、動かしてくれ」
そう言うと、マムが『はい、マスター!』と返事をして、其々の機器を操作し始めた。
ドローン3機、探知機は地表向けと地中向けの2機、掘削機も一応小型のモノを1機、長時間稼働する事を考えて、充電基地も用意した。
……充電基地は、発電機の一種であり、これも設計から既存の物を作り直した。その結果、連携した機器の充電が残りわずかとなった時、自走して近くまで移動する機能が付いた。……ネックは”地面を走行する”という点で、これは今後改良していきたいと思う。
一斉に動き出した機器に、驚いた顔をした上原君と衛兵だったが、直ぐに上原君が納得するような顔をして、衛兵に説明していた。
……いつの間に仲良くなったのだろうか。
どうやら、正巳君の先輩はコミュニケーション力が高いらしい。
「それじゃあ、少し出て来るよ!」
そう言うと、上原君がお辞儀をし、衛兵にはマムが通訳していた。
そんな様子を見ながら、ふと呟いた。
「話す言葉を自動で翻訳して話して、耳に入る言葉も自動で訳す機械を作れば……」
そう呟いた所で、マムの反応があった。
「……あ、作っていました!」
「マム……まぁ、お陰で二人が中良くなったと思えば良いさ」
マムが落ち込んでいるかなと思って、そう言ったのだが……
「あ! そっか、言葉を翻訳する時に近い言葉で、別の意味の文章にしてしまえば……そうすればさらにパパやマスターに都合の良いように……」
何やら、不味い方に走りそうになっていたので、きちんと注意しておいた。
「マム、それは程々にしておかないとダメだよ?」
そう、完璧にやり過ぎると、かえって綻びを生む。
少し、隙間が有るくらいが丁度良いのだ。
マムの『なる程です! 流石マスターです!』と言う言葉を聞きながら、駐車場へと向かった。歩いて行く今井の後ろを、ドローンやらドリルの付いた機械やらが追従していた。
途中で見かけた子供達が、何やら歓声を上げていたので、軽く手を振って置いた。……どうやら、子供達も半分ほどが回復して、元気な状態になっている様だ。
子供達が元気になっているのに、救い出した当の本人が居ない。
子供達の様子を見ながら、改めて、無事でいてくれと思った。
――
駐車場に着いた。
既に、車両が回されており、ユミルが中に乗り込んでいた。
調査機を引き連れて、登場したが、その場にいた誰一人として声を上げなかった。
流石に、一瞬顔を引きつらせた者も居たが、直ぐにいつもの様子に戻った。
「それじゃあ、コレを中に入れてくれ。向こうに着いたら、ドアを開けてくれれば良い」
「了解……」
運転手が、頷く。
……ユミルの事を見ると、集中している様だったので、声はかけないでおく事にした。
全ての調査機が、車両に積み込まれたのを確認した所で、扉を閉めた。
「頼んだよ」
「「「ハッ!」」」
今度は、ユミルも反応した。
少し、ユミルの様子が不安だったが、車が出発したので、『後は任せるしかない』と切り替える事に決めた。……これで、打てる最善手は打った。
駐車場から車両が見えなくなった後、佐藤とザイに挨拶をしてから、研究室へと歩き始めた。
――
研究室に戻って見ると、そこには沢山の器が転がっていた。
ざっと、二十食分以上あるだろう。
「……これ、全部食べたのかい?」
「……その、申し訳ないです。食べても食べても入るもので、気が付いたら……」
器に囲まれて、上原と衛兵の二人が、俯いていた。
「それで、上原君と……衛兵君の名前は何だったかな?」
衛兵に、そう聞こうとすると、上原が口を開いた。
「この男の名前は、”デウ・キャムス”と言うそうです」
「そうか、それじゃあ、デウ君と上原君は、具合はどうかね?」
今井の言葉に、二人が疑問符を並べる。
「あ~……だから、君達の『身体の調子はどうだい?』と聞いているんだ」
「「{大丈夫です!}」」
凄い勢いで帰って来た返事に、戸惑いながら『そ、そうか』と言った。
見た所、衛兵のデウに関しては、若干腹部に違和感を感じているようだ。
時折お腹を擦る動きをしている。
それに対して、上原君に関しては、新しい左手、左足を違和感なく使えているようで、まるで初めから自分の手だったかのように、器用に動かしている。
新しい手足の部分は共に褐色で、元の肌色とはハッキリと違う色なのだが……疑問を抑え込んでいるのか、気が付いていないのかは分からないが、期を見て説明する必要がありそうだ。
その後、何やら申し訳無さそうにする二人だったが、少しは歩けるようになっていたので、予め借りていた部屋に連れて行く事にした。
――
ホテルマンに案内してもらって、本館の部屋へと来ていた。
「ココが、君たち二人の部屋だから仲良くね。少し距離が離れていて悪いけど、正巳君が戻ったら君たちも呼ぶから。……室内のトレーニングマシーンとか、料理とかは好きにして良いからね」
そう言ったのだが、反応が無い。
……暫く、部屋の中を回っていた二人が、やっと満足したのか、戻って来た。
上原君が口を開く。
「……あの、これ、二人で?」
「ああ、そうだけど……まあ、仲良くしたまえ」
もしかしたら、『一緒の部屋に不満なのかも知れない』と、思った今井だったが……
「こんなに良い部屋、初めて泊まります……一泊で一か月の給料が飛ぶんじゃ……」
何やら不安そうに呟いていたので、『問題ないさ』と言っておいた。
その後、一人で不安そうにしていたデウを見て、持って来ていた仮面を上原君に差し出した。
「これは、会話を自動で翻訳してくれるんだ。説明しておいてくれ」
そう言うと、呆気に取られている上原君に仮面を手渡し、部屋から出た。
ドアが閉まる寸前に、不安や疑問やらを浮かべた顔を見て、心の中で『頑張れ!』と言って、ドアを閉めた。
……その後、部屋へ戻ると大使館から連れて来た子供達が揃っていたので、如何したのか聞くと、『あの機械はなあに?』と言う内容が大半で、テンは『ひと段落付きましたので』と言っていた。
……地味に、テンの日本語が上達していて驚いた。
如何やら、ホテルマンが時間を見つけて、教えてくれていたらしい。
「テン、日本語上手くなったね、凄いじゃないか」
そう褒めると、赤くなりながら『ありがとうございまス』と言っていた。テンの様子にほっこりした後は、子供達の『きかい! なあに?』と言う疑問に、一つ一つ答える事にした。
……一通り質問に答えた後、皆で夕食を食べた。
子供達の話しでは、子供達の沢山いるホールでは、体に優しい健康食が出ていたらしい。その為、飢えていたのか、食べる量も半端な量では無く、体の大きさを考慮すると、上原君と衛兵のデウが食べた量を軽く凌駕するほどだった。
お腹いっぱいに食べた後、眠くなって来た様だったので、歯を磨かせて、風呂に入った順に布団に連れて行った。
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