『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~
60話 よし、去勢だ。
今井は、車の中からザイの様子を伺っていた。
◆
結果から言うと、圧倒的だった。
”制圧”そう表現するのが、分かりやすいだろうか。
二桁の大人が、一人の男によって動かなくなって行く。
既に、残り10人いない。
……男達が、ザイを囲む。
一人が後ろから蹴りかかる。
同時に、いつの間にやら取り出したのか、鈍器で殴りかかる男がいる。
襲い掛かる男たちは上手くタイミングを合わせている。
しかし――
「グバァ……」
「……クソッ」
蹴りかかって来た男には、一歩横に踏み込んで拳を空いた胴に入れる。
衝撃で蹲った男の動きを利用して、鈍器の男に殴らせる。
……鈍器を頭で受けた男が、崩れ落ちる。
残ったのは、鈍器で殴りかかった男。
直ぐに、開いた隙間を埋めるようにして男が入って来る。
しかし、その間を突いて、ザイが鈍器を持った男の手首を掴む。
そして……『バキッ!』
……男の腕が折れた。
側から見ると、ザイが男の手首を掴んだまま、背負い投げの動きをした様にしか見えない。
しかし、今井には、それがテコの原理でされたと分かった。
手首を掴んだまま反り、肘を支点にして、背負ったのだ。
その結果、男の全体重が肘の部分にかかる事になり、耐え切れなかった肘が折れた。
その後も、何の危なげもなく、一定のリズムで倒されて行く……余りに滑らかな動きで、まるで予め決められているかの様な……演武のような動きだ。
一対三十で行われる、演武。
名付けるのであれば、『流の演武』とでも言おうか。
結局、黒いスーツの男達は残らず地面に転がっていた。
……出来の悪いB級映画のような結果だ。
「せめて、苦戦をする素振りが有れば、浮かばれたのにね……」
何となく気の毒な気もしたが、そもそも襲われたのはこちら。
それに、もし捕まっていたら如何なっていたかを考えると、情けを掛ける気になれない。
襲撃者達が転がっている中で、最後に残ったのは……
「岡本か……」
そこには、岡本部長只一人が残っていた。
――
少しすると、ホテルの中から何人かの従業員が出て来た。
……其々、手に持った拘束具で、男達を縛り上げている。
「お待たせして申し訳ありません、ホテルに到着いたしました」
……車に戻って来たザイが、車を少し前に移動させてそんな事を言っている。
「はぁ……まあ良いか」
「ハッ! ……それではお部屋までお送りします」
何事も無かったかのように、ザイが先導をし始める。
「それで、コレを待っていた様だけど、もう何か無いだろうね?」
途中で、ザイに話しかける。
……もし、まだ何かあるのならば、前もって知っておきたい。
「一人逃がしたものが居まして、残り勢力……拠点の殲滅を致します」
「殲滅ね……それで、捉えた男たちはどうするんだい?」
昨日も聞いた質問だ。
「……”真人間”に教育します。ただ今回は、過去の余罪を考慮して、宮刑に処す者も何人か……」
「宮刑ね……」
所謂、去勢する刑罰だ。
マムが教えてくれたところ、岡本部長は何人もの女性に対して酷い事をして来ているらしい。それに、今回襲撃に参加していた中には、ある議員の息子で、地元では有名な札付きの悪ガキもいたらしい。
こいつは、何人かの少女を攫っては強姦し、離れた場所に置いて来ると言う事をしている。実際に、街中にある防犯カメラの映像にも証拠が残っている。それでも逮捕されないのは、一重に議員である父親の力のお陰だ。
……許せない。
社会のごみ、いや、害虫だ。
「それでは、今日は部屋の中でお過ごしください。夕食はお持ちします。明日は……夕方頃の出発となりますので、それまで屋内でお寛ぎください」
そう言うと、ザイが部屋の扉を閉めた。
「……明日の夕方出発だと、向こうに着くのは明後日の朝方か……」
呟きながら歩いて行き、ソファへと腰掛ける。
「そんなにショックが無いもんなんだね……」
帰るのが遅くなることに対してではない。
先ほどの襲撃事件に対しての事だ。
「マスター!男たちの素性が分かりました!」
思ったよりも早い。
「それで、どうだったんだい?」
「はい、マスター!男たちの内、23名は”伍一会”の構成員で、警察のデータベースに情報が有りました。残りの8名が京生貿易のデータベースに登録のある”社員”で、岡本部長の護衛だと分かりました。そして、1名が本日付けでシンガポール支社の社長になった男でした!」
……伍一会と言えば、最近ニュースになった新興ヤクザだ。まあ、ヤクザと言うよりは、半グレが組織を大きくしたような感じみたいだが。
そして、冗談のつもりだったが、京生貿易の社員が居たと。
……まあ、岡本部長の護衛だったらしいが、先程の襲撃時の様子を考えるに、アウトだろう。嬉々として、殴りかかっている様に見えた。
それに、シンガポール支社の社長?
「マム、その、社長になった男は悪い奴なのかい?」
「はい、マスター!先ほどお伝えした、親が議員の悪ガキが、この男です」
……よし、去勢だ。
後で、ザイに去勢をリクエストしておこう。
「ありがとう、マム。もうお腹いっぱいだよ……」
「それでは、今日は夕食は取らないのですか?マスター」
僕の言った、”お腹いっぱい”は、”その話はもう聞きたくない”と言う意味なのだが……もう少し、色々な映画を見せる必要がありそうだ。
「いや、食べるよ……マムのお勧めで」
「それでは、”インスタントラーメン”など如何でしょうか?マスター」
どうやら、先ほど車の中で呟いた音を、拾っていたらしい。
「ふふっ、気が利くね」
そう言うと、イヤホンからでは無く、壁に備え付けられているパネルにマムが現れ……
「マスターの事なら、何でも知っていたいのです!」
そう言って、マムもパネルの中にラーメンを出した。
「マム……」
「マスターと一緒に食べるです!」
マムがそう言いながら、手を広げると、タイマーが現れた。
時間は、1分を表示している。
……20、19、18……10、9、8、7……『コンコン』
部屋がノックされる。
外の様子が表示されるパネルには、ザイが何かを持って立っている。
「ザイ君?」
「夕食をお届けに参りました……」
ドアを開けると、ザイがインスタントラーメンを持って、立っている。
どうやら、マムが先回りして注文していたらしい。
「……うん、ありがとう」
「それでは、明日の夕方頃までお寛ぎください」
お礼を言うと、扉を閉めて戻る。
「マスターとお揃いです!」
マムがそう言いながら、インスタントラーメンを振り回している。
「そうだね、お揃いだ!……でもね、そんなに振り回すと零れちゃうよ?」
そう言うと、マムが、ブンブンと振り回していた手を止めた。
「そ、そうですね……今の内にシミュレートしておかなくては!」
「……ふふっ、それじゃあ、食べようか!」
そう言って、久しぶりのインスタントラーメンを、口にした。
◆
結果から言うと、圧倒的だった。
”制圧”そう表現するのが、分かりやすいだろうか。
二桁の大人が、一人の男によって動かなくなって行く。
既に、残り10人いない。
……男達が、ザイを囲む。
一人が後ろから蹴りかかる。
同時に、いつの間にやら取り出したのか、鈍器で殴りかかる男がいる。
襲い掛かる男たちは上手くタイミングを合わせている。
しかし――
「グバァ……」
「……クソッ」
蹴りかかって来た男には、一歩横に踏み込んで拳を空いた胴に入れる。
衝撃で蹲った男の動きを利用して、鈍器の男に殴らせる。
……鈍器を頭で受けた男が、崩れ落ちる。
残ったのは、鈍器で殴りかかった男。
直ぐに、開いた隙間を埋めるようにして男が入って来る。
しかし、その間を突いて、ザイが鈍器を持った男の手首を掴む。
そして……『バキッ!』
……男の腕が折れた。
側から見ると、ザイが男の手首を掴んだまま、背負い投げの動きをした様にしか見えない。
しかし、今井には、それがテコの原理でされたと分かった。
手首を掴んだまま反り、肘を支点にして、背負ったのだ。
その結果、男の全体重が肘の部分にかかる事になり、耐え切れなかった肘が折れた。
その後も、何の危なげもなく、一定のリズムで倒されて行く……余りに滑らかな動きで、まるで予め決められているかの様な……演武のような動きだ。
一対三十で行われる、演武。
名付けるのであれば、『流の演武』とでも言おうか。
結局、黒いスーツの男達は残らず地面に転がっていた。
……出来の悪いB級映画のような結果だ。
「せめて、苦戦をする素振りが有れば、浮かばれたのにね……」
何となく気の毒な気もしたが、そもそも襲われたのはこちら。
それに、もし捕まっていたら如何なっていたかを考えると、情けを掛ける気になれない。
襲撃者達が転がっている中で、最後に残ったのは……
「岡本か……」
そこには、岡本部長只一人が残っていた。
――
少しすると、ホテルの中から何人かの従業員が出て来た。
……其々、手に持った拘束具で、男達を縛り上げている。
「お待たせして申し訳ありません、ホテルに到着いたしました」
……車に戻って来たザイが、車を少し前に移動させてそんな事を言っている。
「はぁ……まあ良いか」
「ハッ! ……それではお部屋までお送りします」
何事も無かったかのように、ザイが先導をし始める。
「それで、コレを待っていた様だけど、もう何か無いだろうね?」
途中で、ザイに話しかける。
……もし、まだ何かあるのならば、前もって知っておきたい。
「一人逃がしたものが居まして、残り勢力……拠点の殲滅を致します」
「殲滅ね……それで、捉えた男たちはどうするんだい?」
昨日も聞いた質問だ。
「……”真人間”に教育します。ただ今回は、過去の余罪を考慮して、宮刑に処す者も何人か……」
「宮刑ね……」
所謂、去勢する刑罰だ。
マムが教えてくれたところ、岡本部長は何人もの女性に対して酷い事をして来ているらしい。それに、今回襲撃に参加していた中には、ある議員の息子で、地元では有名な札付きの悪ガキもいたらしい。
こいつは、何人かの少女を攫っては強姦し、離れた場所に置いて来ると言う事をしている。実際に、街中にある防犯カメラの映像にも証拠が残っている。それでも逮捕されないのは、一重に議員である父親の力のお陰だ。
……許せない。
社会のごみ、いや、害虫だ。
「それでは、今日は部屋の中でお過ごしください。夕食はお持ちします。明日は……夕方頃の出発となりますので、それまで屋内でお寛ぎください」
そう言うと、ザイが部屋の扉を閉めた。
「……明日の夕方出発だと、向こうに着くのは明後日の朝方か……」
呟きながら歩いて行き、ソファへと腰掛ける。
「そんなにショックが無いもんなんだね……」
帰るのが遅くなることに対してではない。
先ほどの襲撃事件に対しての事だ。
「マスター!男たちの素性が分かりました!」
思ったよりも早い。
「それで、どうだったんだい?」
「はい、マスター!男たちの内、23名は”伍一会”の構成員で、警察のデータベースに情報が有りました。残りの8名が京生貿易のデータベースに登録のある”社員”で、岡本部長の護衛だと分かりました。そして、1名が本日付けでシンガポール支社の社長になった男でした!」
……伍一会と言えば、最近ニュースになった新興ヤクザだ。まあ、ヤクザと言うよりは、半グレが組織を大きくしたような感じみたいだが。
そして、冗談のつもりだったが、京生貿易の社員が居たと。
……まあ、岡本部長の護衛だったらしいが、先程の襲撃時の様子を考えるに、アウトだろう。嬉々として、殴りかかっている様に見えた。
それに、シンガポール支社の社長?
「マム、その、社長になった男は悪い奴なのかい?」
「はい、マスター!先ほどお伝えした、親が議員の悪ガキが、この男です」
……よし、去勢だ。
後で、ザイに去勢をリクエストしておこう。
「ありがとう、マム。もうお腹いっぱいだよ……」
「それでは、今日は夕食は取らないのですか?マスター」
僕の言った、”お腹いっぱい”は、”その話はもう聞きたくない”と言う意味なのだが……もう少し、色々な映画を見せる必要がありそうだ。
「いや、食べるよ……マムのお勧めで」
「それでは、”インスタントラーメン”など如何でしょうか?マスター」
どうやら、先ほど車の中で呟いた音を、拾っていたらしい。
「ふふっ、気が利くね」
そう言うと、イヤホンからでは無く、壁に備え付けられているパネルにマムが現れ……
「マスターの事なら、何でも知っていたいのです!」
そう言って、マムもパネルの中にラーメンを出した。
「マム……」
「マスターと一緒に食べるです!」
マムがそう言いながら、手を広げると、タイマーが現れた。
時間は、1分を表示している。
……20、19、18……10、9、8、7……『コンコン』
部屋がノックされる。
外の様子が表示されるパネルには、ザイが何かを持って立っている。
「ザイ君?」
「夕食をお届けに参りました……」
ドアを開けると、ザイがインスタントラーメンを持って、立っている。
どうやら、マムが先回りして注文していたらしい。
「……うん、ありがとう」
「それでは、明日の夕方頃までお寛ぎください」
お礼を言うと、扉を閉めて戻る。
「マスターとお揃いです!」
マムがそう言いながら、インスタントラーメンを振り回している。
「そうだね、お揃いだ!……でもね、そんなに振り回すと零れちゃうよ?」
そう言うと、マムが、ブンブンと振り回していた手を止めた。
「そ、そうですね……今の内にシミュレートしておかなくては!」
「……ふふっ、それじゃあ、食べようか!」
そう言って、久しぶりのインスタントラーメンを、口にした。
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