『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~
59話 誘き出された襲撃者
イベントの告知を終えた今井は、帰路に付いていた。
……実はフォーラムで出される食事に興味が有ったのだが、護衛のザイに止められた。『何がどこで仕込まれるか分からない』との事で、結局一口も食べる事が出来なかったのだ。
……お腹が空いて仕方ない。
今朝から何も食べていない。
「……久しぶりにインスタントラーメン食べたいな」
ロイス教授と共同研究していた頃は、3食インスタントと言う事も良くあった。
「……ホテルに到着しました――」
ホテル前に着いたので、下りようとするが、ザイが言葉を続ける。
「今しばらく、このままでお待ちください」
「乗ったままかい?」
「はい、申し訳ありません。直ぐに済みますので」
「まあ、良いけど……」
ホテルの前で止まったまま、2,3分が過ぎた。
「……このまま中にいて下さい、安全ですので」
ザイがそう言うと、車の外へと出て行く。
…………?
状況が読めずにいたが、ホテルの周りの植え込みから出て来た、黒いスーツの男達を見て理解する。
「……不審者か」
そう呟いて、車の中から周囲を見渡す。
「……あれ? ……あれって」
男たちに混ざって、見覚えのある……辛うじて、知っている顔だと判断できる男がいた。
……顔が”倍”とは言わないが、膨れ上がっている。
「岡本……昨日捕まったんじゃ……?」
そう、そこには、昨日ホテルのレストランで襲って来た男……岡本財務部長がいた。
「マスター、マムがカメラから確認した限りだと、一度痛めつけられた後、解放されたようです。ただ、他の男達が解放されていない点を考えると……これは、罠を仕掛けたのかと推測されます」
「……ワザと逃がして、襲撃を誘発させたのか」
これを仕組んだのは、恐らくザイだろう。
フォーラムの会場でも、妙にピリピリしていたのは、会場での襲撃を警戒していたのかも知れない……もし、あの時に襲撃が有った場合、ロイスにでも押し付けて、護衛の軍人に排除させる事が出来て楽だったかもしれない。
まあ、その場合は、イベントの告知どころでは無くなっていただろうが……
……それにしても、出て来るわ出て来るわ……いつの間にか、黒いスーツを着た男たちの数は30を越えるほどになっている。
「……大丈夫なのかな?」
若干、不安を覚える。
「マスター、心配ないかと思います。この車は、厚さ5cmの鋼鉄で守られていますし、ガラスは防弾ガラスです。それに――」
「ああ、僕じゃなくて、ザイ君がね……」
一対三十は、分が悪すぎるだろう。
「あ、それなら――」
マムが何やら言う前に、事態が動く。
『ハァッ!』
『死ねヤァ!』
黒スーツの男達がザイに殴りかかるが、次の瞬間には片方が胸を押さえて、もう片方は首元を押さえて蹲る。
その後も、次々と襲い掛かって行くが、皆他の男達同様に地に倒れている。
「……強いね」
「調べたところ、傭兵として従軍経験もある様です、マスター」
……戦争に参加し、命の取り合いをしていたというのであれば、納得が出来る。
沢山の男達に囲まれているというのに、ザイは、やけに落ち着いているのだ。
「……マム、スーツを着ている男達の素性を調べられるかな?」
「はい、マスター! 調べてみます」
……マムに任せておけば、程なくして分かるだろう。
「……もしかすると、京生貿易の社員だったりして……」
そんな風に呟いた今井だったが、まさかその言葉が半分当たっているとは思いもしなかった。
◆
俺は、選ばれた人間だ。
生まれた瞬間からだ。
俺の両親は、議員だ。
議員は力を持っている。
小学校では、授業参観の時には皆が俺の両親のもとに挨拶に来た。
普段偉そうにしている教師だってそうだった。
それまで俺に対して色々と注意して来たのが、授業参観の次の日から無くなった。
それからは、俺が何をしても怒られる事は無かった。
やりたい放題だった。
それは、中学に進学してからも同じで、思いつく事は粗方やった。
高い所から、下を走る車目がけて果物を落とすゲーム。
俺の親父の秘書の男に指示して、女を用意させたりもした。
何をするかって?
パソコンを用意して、ランダムに検索をするんだ。
『女、イタズラ』とか『女、イジメ』とか。
それで、出て来た内容を実際にやる。
その後は、そこら辺の道路に放置するんだ。
時々、被害届を出すアホナ奴もいたけど、そんなものは親父の”チカラ”と”カネ”でどうにでもなった。
そんなこんな楽しんでいたが、結局飽きる。
女で遊ぶのに飽きたら、次に手を出したのは男だ。
男の場合、女とはまた違った遊びが出来る。
真冬に、プールに飛び込ませたり、一緒に歩いてる二人を攫って来て殴り合いをさせたり……
ただ、流石に限界はある。
限界……そう、殺し合いは流石に無理だ。
余りにも処理が面倒だし、外に漏れた場合アウトだ……そう思っていた。
しかし、ある時、親父の資金集めパーティに来た男と話して、世界が変わった。
その男は、見た目こそ豚みたいな男だったが、周りに聞いた所、親父よりも”チカラ”も”カネ”もあるという事だった。
男の話を聞いて、興味を持った俺は、何度か男と”遊ぶ”ようになった。
正直、レベルが違った。
『デス・ギャンブル』、『奴隷・オークション』、『裏の人脈』
どれをとっても、桁が違った。
いつだったか忘れたが、いつの間にか俺は男に弟子入りしていた。
”これ以上の男はいない”
誰よりも、”チカラ”と”カネ”がある。
俺と考えが合うのか、その男は俺を可愛がってくれた。
そして、事ある毎に『お前が俺の全てを継ぐんだ』そう言ってくれた。
――
そして、今日もその一環のはずだった。
俺は以前から、男の会社の、シンガポール支社の経営を託される事になっていた。
そして、今日がその日だった。
無事に、シンガポール支社の社長就任の手続きを終えた俺は、その足で最初の仕事をしていた。
『世界最大級のイベントで、世界トップレベルの人材が集まる』
そう聞いていた。
確かに、見渡す限り、偉そうな男ばかりだった。
前もって、”VIP”と教えられていた人は全て暗記していた。
今日来る”VIP”の中でも、ロイス教授と言う男は、最重要人物だった。
噂では、”世界の医療に影響を与える”と言われている技術を持つらしい。
それに、ロイス教授は”伯爵”でもある。
ある大国の由緒ある家柄の出で、個人的にも相当な”チカラ”を持っているらしい。
見かけたら、覚えて貰うように挨拶をする必要がある……
そう考えていた時に声を掛けて来た人が居た。
「君、ちょっとスクリーンと、スピーカーと、ステージ借りても良いかな?」
振り返ると、そこに居たのは女だった。
確かに顔貌が整っているが、そんな女はこれまで、掃いて捨てるほど程見て来た。
だから……
「は? 何言ってるんですか? ココにはあなたの様な、頭の悪い下っ端の女性が来る場所ではありませんよ? さっさと向こうに――」
そう言って、追い払おうとした。
我ながら、中々丁寧な対応だったと思う。
しかし、言い終わる前に割って入る声が有った。
しかも、不遜にも俺の事を小僧と呼んで。
「おい、小僧……」
「なん――」
振り返ると、そこには最重要人物の男……ロイス教授が居た。
「ヒィッツ! ロイス教授……」
余りに驚いて、何も言えないでいた。
すると、女がロイス教授に反応した。
「……やっぱり、君はこの時間時にいると思ったよ」
……その後、俺の前で二人で話し始めた。
……許せない。
……俺よりも下等な生物が、俺を差し置くなんて……
近くに居るのに耐えられなくて、歩いて端の方に行った。
「……ああ、見ていろよ」
そうだ、今に目にもの見せてやる。
「……俺は栄えある京生貿易のシンガポールの支社長なんだ」
俺の力を使えば、あの女くらい如何にだってできる。
しかし、俺はまだ裏の人脈を受け継いでいない……
「……そうだ、今回だってオカモト部長に頼めば」
俺が弟子入りした男オカモト部長……”部長”では有るが、その裏の人脈と手腕で会社を支配している。それに、俺を裏の社会に連れて行ってくれたのもオカモト部長だ。
「……そうさ、めちゃくちゃにして、自分の立場を……自分の立場をよく分からせてやる」
そう呟いて、直ぐに行動に移す事にした。
――
オカモト部長に連絡を取ると、中々繋がらなかった。
しかし、繰り返しかけると、繋がった。
「あの、少しお願いしたい事が――」
「ヴぇるざいっ! イま゛ゾれどころじゃナ゛いっ!」
酷く聞き取りにくい声だったが、何やらあったらしい。
「あの、それじゃあこれだけでも良いので」
そう言うが、返事が無いので暗黙の承認だと思い続ける。
「……フォーラムに来ていた女、ロイス教授と仲の良い女は誰ですか?」
正直、これだけの情報で答えが有るとは思っていなかったが……
「ヴぁ! ゾのおんなア゛! いヴぁどごダァ!」
「っ! 今ロイス教授と話していましたが……」
「がならズゥ、ミつげだぜぇ!」
「ハイ!」
何やら、オカモト部長の方にも事情が有るらしいが……丁度良い。
待っていろ、俺に恥を掻かせたお礼をしてやる……
――
オカモト部長が、会場に着いたと連絡が有ったので、迎えに行った。
「……それは、どうされたので――」
「イヴぃがらぁ、その女が出ていぐのヴぉみのがずな!」
顔が膨れ上がったオカモト部長が、そう言って、会場に刺すような視線を向けている。
「……分かりました」
その後、出入りする車を駐車場で見張っていた。
その直後、会場に設置されたスピーカーから一斉に、同じ内容の放送がされ始めた。
内容は、賞金100億のイベントを開催するという内容だった。
最後に主催者の名前が明かされた。
周囲にいた研究者らしい男達が、それまで怪訝そうに聞いていた顔を、一気に明るくした。相当”VIP”な”男”なんだろう……イマイか、今回の件が住んだら、オカモト部長に聞いてみるのも良いだろう。
今は、あの女の事が先だ。
暫く探していたら、見つけた。
確かにあの女だ。
ただ、護衛の男を連れている。
……中々に屈強な体つきをしている。
……車の中に待機している、男に声を掛ける。
「……オカモト部長、護衛が居ます」
しかし、男はニヤッと笑みを作り、顎で回りを指す。
……周囲の車には、黒いスーツを着た男たちが乗っている。
「アレは?」
「にぼんがらぁ連れ出ぎ出た、ヤヅラだぁ!」
……黒い人脈、ヤクザ。
周囲を見ると、他にも同じような車が何台もある。
「よし、付いて行って、襲うんですね!」
そう言うと、男が頷いたので、車に乗り込んだ。
――
女の乗る車を追いかけて、走って来た。
すると、一つのホテルに着いた。
確か、親父のパーティーに大臣が来るとかで、一度だけ使ったことがあるホテルだ。
「……止まった?」
ホテルの入り口の前で、女の乗った車が止まった。
「インベリアル、だかぜがいだいじがん、だがぁじらないがぁ……きのうヴぁあまぐみでいだたげだぁ!」
……オカモト部長の言葉を聞く限り、昨日もここに来ていたらしい。
……そう言えば、親父のパーティーに参加した時に、珍しく厳しく言われた事がある『決して、ホテルの中で問題を犯すな。この中は、法律が変わる。言わば、”世界大使館”なんだ』
正直、馬鹿にしていたが、当時の親父の必死さに気圧されて、大人しくしていたっけ。
「……オカモト部長もいるし、大丈夫だ」
そう呟くと、車を下りた。
……実はフォーラムで出される食事に興味が有ったのだが、護衛のザイに止められた。『何がどこで仕込まれるか分からない』との事で、結局一口も食べる事が出来なかったのだ。
……お腹が空いて仕方ない。
今朝から何も食べていない。
「……久しぶりにインスタントラーメン食べたいな」
ロイス教授と共同研究していた頃は、3食インスタントと言う事も良くあった。
「……ホテルに到着しました――」
ホテル前に着いたので、下りようとするが、ザイが言葉を続ける。
「今しばらく、このままでお待ちください」
「乗ったままかい?」
「はい、申し訳ありません。直ぐに済みますので」
「まあ、良いけど……」
ホテルの前で止まったまま、2,3分が過ぎた。
「……このまま中にいて下さい、安全ですので」
ザイがそう言うと、車の外へと出て行く。
…………?
状況が読めずにいたが、ホテルの周りの植え込みから出て来た、黒いスーツの男達を見て理解する。
「……不審者か」
そう呟いて、車の中から周囲を見渡す。
「……あれ? ……あれって」
男たちに混ざって、見覚えのある……辛うじて、知っている顔だと判断できる男がいた。
……顔が”倍”とは言わないが、膨れ上がっている。
「岡本……昨日捕まったんじゃ……?」
そう、そこには、昨日ホテルのレストランで襲って来た男……岡本財務部長がいた。
「マスター、マムがカメラから確認した限りだと、一度痛めつけられた後、解放されたようです。ただ、他の男達が解放されていない点を考えると……これは、罠を仕掛けたのかと推測されます」
「……ワザと逃がして、襲撃を誘発させたのか」
これを仕組んだのは、恐らくザイだろう。
フォーラムの会場でも、妙にピリピリしていたのは、会場での襲撃を警戒していたのかも知れない……もし、あの時に襲撃が有った場合、ロイスにでも押し付けて、護衛の軍人に排除させる事が出来て楽だったかもしれない。
まあ、その場合は、イベントの告知どころでは無くなっていただろうが……
……それにしても、出て来るわ出て来るわ……いつの間にか、黒いスーツを着た男たちの数は30を越えるほどになっている。
「……大丈夫なのかな?」
若干、不安を覚える。
「マスター、心配ないかと思います。この車は、厚さ5cmの鋼鉄で守られていますし、ガラスは防弾ガラスです。それに――」
「ああ、僕じゃなくて、ザイ君がね……」
一対三十は、分が悪すぎるだろう。
「あ、それなら――」
マムが何やら言う前に、事態が動く。
『ハァッ!』
『死ねヤァ!』
黒スーツの男達がザイに殴りかかるが、次の瞬間には片方が胸を押さえて、もう片方は首元を押さえて蹲る。
その後も、次々と襲い掛かって行くが、皆他の男達同様に地に倒れている。
「……強いね」
「調べたところ、傭兵として従軍経験もある様です、マスター」
……戦争に参加し、命の取り合いをしていたというのであれば、納得が出来る。
沢山の男達に囲まれているというのに、ザイは、やけに落ち着いているのだ。
「……マム、スーツを着ている男達の素性を調べられるかな?」
「はい、マスター! 調べてみます」
……マムに任せておけば、程なくして分かるだろう。
「……もしかすると、京生貿易の社員だったりして……」
そんな風に呟いた今井だったが、まさかその言葉が半分当たっているとは思いもしなかった。
◆
俺は、選ばれた人間だ。
生まれた瞬間からだ。
俺の両親は、議員だ。
議員は力を持っている。
小学校では、授業参観の時には皆が俺の両親のもとに挨拶に来た。
普段偉そうにしている教師だってそうだった。
それまで俺に対して色々と注意して来たのが、授業参観の次の日から無くなった。
それからは、俺が何をしても怒られる事は無かった。
やりたい放題だった。
それは、中学に進学してからも同じで、思いつく事は粗方やった。
高い所から、下を走る車目がけて果物を落とすゲーム。
俺の親父の秘書の男に指示して、女を用意させたりもした。
何をするかって?
パソコンを用意して、ランダムに検索をするんだ。
『女、イタズラ』とか『女、イジメ』とか。
それで、出て来た内容を実際にやる。
その後は、そこら辺の道路に放置するんだ。
時々、被害届を出すアホナ奴もいたけど、そんなものは親父の”チカラ”と”カネ”でどうにでもなった。
そんなこんな楽しんでいたが、結局飽きる。
女で遊ぶのに飽きたら、次に手を出したのは男だ。
男の場合、女とはまた違った遊びが出来る。
真冬に、プールに飛び込ませたり、一緒に歩いてる二人を攫って来て殴り合いをさせたり……
ただ、流石に限界はある。
限界……そう、殺し合いは流石に無理だ。
余りにも処理が面倒だし、外に漏れた場合アウトだ……そう思っていた。
しかし、ある時、親父の資金集めパーティに来た男と話して、世界が変わった。
その男は、見た目こそ豚みたいな男だったが、周りに聞いた所、親父よりも”チカラ”も”カネ”もあるという事だった。
男の話を聞いて、興味を持った俺は、何度か男と”遊ぶ”ようになった。
正直、レベルが違った。
『デス・ギャンブル』、『奴隷・オークション』、『裏の人脈』
どれをとっても、桁が違った。
いつだったか忘れたが、いつの間にか俺は男に弟子入りしていた。
”これ以上の男はいない”
誰よりも、”チカラ”と”カネ”がある。
俺と考えが合うのか、その男は俺を可愛がってくれた。
そして、事ある毎に『お前が俺の全てを継ぐんだ』そう言ってくれた。
――
そして、今日もその一環のはずだった。
俺は以前から、男の会社の、シンガポール支社の経営を託される事になっていた。
そして、今日がその日だった。
無事に、シンガポール支社の社長就任の手続きを終えた俺は、その足で最初の仕事をしていた。
『世界最大級のイベントで、世界トップレベルの人材が集まる』
そう聞いていた。
確かに、見渡す限り、偉そうな男ばかりだった。
前もって、”VIP”と教えられていた人は全て暗記していた。
今日来る”VIP”の中でも、ロイス教授と言う男は、最重要人物だった。
噂では、”世界の医療に影響を与える”と言われている技術を持つらしい。
それに、ロイス教授は”伯爵”でもある。
ある大国の由緒ある家柄の出で、個人的にも相当な”チカラ”を持っているらしい。
見かけたら、覚えて貰うように挨拶をする必要がある……
そう考えていた時に声を掛けて来た人が居た。
「君、ちょっとスクリーンと、スピーカーと、ステージ借りても良いかな?」
振り返ると、そこに居たのは女だった。
確かに顔貌が整っているが、そんな女はこれまで、掃いて捨てるほど程見て来た。
だから……
「は? 何言ってるんですか? ココにはあなたの様な、頭の悪い下っ端の女性が来る場所ではありませんよ? さっさと向こうに――」
そう言って、追い払おうとした。
我ながら、中々丁寧な対応だったと思う。
しかし、言い終わる前に割って入る声が有った。
しかも、不遜にも俺の事を小僧と呼んで。
「おい、小僧……」
「なん――」
振り返ると、そこには最重要人物の男……ロイス教授が居た。
「ヒィッツ! ロイス教授……」
余りに驚いて、何も言えないでいた。
すると、女がロイス教授に反応した。
「……やっぱり、君はこの時間時にいると思ったよ」
……その後、俺の前で二人で話し始めた。
……許せない。
……俺よりも下等な生物が、俺を差し置くなんて……
近くに居るのに耐えられなくて、歩いて端の方に行った。
「……ああ、見ていろよ」
そうだ、今に目にもの見せてやる。
「……俺は栄えある京生貿易のシンガポールの支社長なんだ」
俺の力を使えば、あの女くらい如何にだってできる。
しかし、俺はまだ裏の人脈を受け継いでいない……
「……そうだ、今回だってオカモト部長に頼めば」
俺が弟子入りした男オカモト部長……”部長”では有るが、その裏の人脈と手腕で会社を支配している。それに、俺を裏の社会に連れて行ってくれたのもオカモト部長だ。
「……そうさ、めちゃくちゃにして、自分の立場を……自分の立場をよく分からせてやる」
そう呟いて、直ぐに行動に移す事にした。
――
オカモト部長に連絡を取ると、中々繋がらなかった。
しかし、繰り返しかけると、繋がった。
「あの、少しお願いしたい事が――」
「ヴぇるざいっ! イま゛ゾれどころじゃナ゛いっ!」
酷く聞き取りにくい声だったが、何やらあったらしい。
「あの、それじゃあこれだけでも良いので」
そう言うが、返事が無いので暗黙の承認だと思い続ける。
「……フォーラムに来ていた女、ロイス教授と仲の良い女は誰ですか?」
正直、これだけの情報で答えが有るとは思っていなかったが……
「ヴぁ! ゾのおんなア゛! いヴぁどごダァ!」
「っ! 今ロイス教授と話していましたが……」
「がならズゥ、ミつげだぜぇ!」
「ハイ!」
何やら、オカモト部長の方にも事情が有るらしいが……丁度良い。
待っていろ、俺に恥を掻かせたお礼をしてやる……
――
オカモト部長が、会場に着いたと連絡が有ったので、迎えに行った。
「……それは、どうされたので――」
「イヴぃがらぁ、その女が出ていぐのヴぉみのがずな!」
顔が膨れ上がったオカモト部長が、そう言って、会場に刺すような視線を向けている。
「……分かりました」
その後、出入りする車を駐車場で見張っていた。
その直後、会場に設置されたスピーカーから一斉に、同じ内容の放送がされ始めた。
内容は、賞金100億のイベントを開催するという内容だった。
最後に主催者の名前が明かされた。
周囲にいた研究者らしい男達が、それまで怪訝そうに聞いていた顔を、一気に明るくした。相当”VIP”な”男”なんだろう……イマイか、今回の件が住んだら、オカモト部長に聞いてみるのも良いだろう。
今は、あの女の事が先だ。
暫く探していたら、見つけた。
確かにあの女だ。
ただ、護衛の男を連れている。
……中々に屈強な体つきをしている。
……車の中に待機している、男に声を掛ける。
「……オカモト部長、護衛が居ます」
しかし、男はニヤッと笑みを作り、顎で回りを指す。
……周囲の車には、黒いスーツを着た男たちが乗っている。
「アレは?」
「にぼんがらぁ連れ出ぎ出た、ヤヅラだぁ!」
……黒い人脈、ヤクザ。
周囲を見ると、他にも同じような車が何台もある。
「よし、付いて行って、襲うんですね!」
そう言うと、男が頷いたので、車に乗り込んだ。
――
女の乗る車を追いかけて、走って来た。
すると、一つのホテルに着いた。
確か、親父のパーティーに大臣が来るとかで、一度だけ使ったことがあるホテルだ。
「……止まった?」
ホテルの入り口の前で、女の乗った車が止まった。
「インベリアル、だかぜがいだいじがん、だがぁじらないがぁ……きのうヴぁあまぐみでいだたげだぁ!」
……オカモト部長の言葉を聞く限り、昨日もここに来ていたらしい。
……そう言えば、親父のパーティーに参加した時に、珍しく厳しく言われた事がある『決して、ホテルの中で問題を犯すな。この中は、法律が変わる。言わば、”世界大使館”なんだ』
正直、馬鹿にしていたが、当時の親父の必死さに気圧されて、大人しくしていたっけ。
「……オカモト部長もいるし、大丈夫だ」
そう呟くと、車を下りた。
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