『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~

時雲

36話 研究室での秘密



 我は、生物による気配の違いをそこまで正確に感じ分ける事が出来ない。


 人間かそれ以外の生き物なのか分からないのだ。


「主の気配なら分かるのにな……」


 主の気配は、少し質が違う。


 だから、他の気配と異なる気配を探せば、それが主だ。


「……中には、研究員が二名います」


 ……やはり人間がいた。


「中の人間を排除したら問題があるか?」


 ここで我の言う”問題”とは、主に不都合があるか、と言う意味だ。


「いいえ、何の問題もないのですが、物音を立てたり、誰かを呼ばれるのは問題がありますね」


「分かった。上手くやろう」


 そう言って、下へと降りた。


 下へ降りると、そこは、一面白い部屋だった。


 何もかも白く……そこにいる人間も白かった。


「マム、アレは人間なのか?」


「ええ、アレも人間です。白い”服”を着ているだけです」


 ……なるほど、我には”服”等というモノは馴染み無いが、我が主は確かに”服”を着ている。


「……我も”服”を着ようかな……」


 主とお揃いの服……


「……家に帰ったら、それもまた良いでしょう」


 マムの言いたい事を察する。


「そうだな、今はやる事をやるか」


 そして、目の前に来た人間から一度身を隠し……


 人間が通り過ぎたところで、背後から首筋を切り裂く。


「ひゅっーひゅ……」


 人間の喉笛を切り裂いた為、音を立てる事が出来ずに崩れ落ちる。


「おっと……」


 人間が、床に当たって音を立てないよう、人間と床の間に体を入れる。


 そして、人間の身体を支える為に力を入れるが……


「……軽いな」


 想定していたよりも人間の身体は軽かった。


 痩せていたのかも知れない。


「あと一人です」


 爪に付いた血を拭おうと思ったが、爪には血が付いていなかった。


 その代わりに、赤黒い液体と透明な液体が付いていた。


「前の机の反対にいるので、左空回り込んで下さい」


 マムの指示に従う。


 確かに、そこに人間がいるのを確認できた。


 机の上で何やら短い棒を手に当てている。


 表情は分からないが、意識が離れているのが分かる。


「今なら大丈夫です」


 音を立てないように近づき、同じように首筋を切り裂く。


 ……”ゴンっ”と音を立てて机に倒れこんだ。


 人間は二体のみと聞いていたので、音を立てても問題ないと判断したのだ。


「倒した人間は、端の方に寄せておいて下さい」


 マムがそう言うので、倒れている人間を咥えて、部屋の隅の方に引きずって行く。


「それで大丈夫です。後は、目的を果たしましょう。パパとマスターの為に!」


「ああ、そうだな」


 何となく、狩った人間二人が、主や姉御とは違う気配をしている気がした。


 だが、今は優先すべき事”キメラを喰らう力を得る”為に急がなくてはいけない。


「そこの部屋の、ガラスのケース……そこです!に入って下さい」


 マムに言われるまま、空いたドアから中に入り、その部屋に設置されたケースに入る。


「不穏な場所だな……」


 ケースなかから見る部屋には、色々な部分・・が陳列されていた。


 目玉、耳、唇、鼻、指、臓器……それも、複数の種類ある様に見える。


「……人間は恐ろしいな」


「まあ、そうとも言えますね。さて、先ずはDNA情報を解析するので、血液を採ります」


 そう聞こえ、ガラスケースの一方から、アームが伸びて来る。


「これは……?」


 アームの先端にあるのは、先ほど倒した二人目の人間が腕に指していたのと同じものがある。


「これは、”注射器”と言って、体液を採取したり、薬品を体に入れたりする際に使う器具です。”注射”は”痛い”らしいので、踏ん張って下さいね……」


 マムがそう言い、”注射器”を近づけて来て……


「ム……うむ。なるほど、”痛い”な……」


 これは、我が大人でなければ泣いていたかも知れぬ。


 ……うむ、少しだけ涙が……刺されるのは中々痛いのだな。


「これで、解析に必要な量の血液が採取できたので、準備が出来るまで外で待っていて下さい」


「うむ……もう”注射”は無いのだな?」


 ……返事が無い。


 まあ良い、それが必要なのであれば、我は甘んじて受け入れよう。


 ……注射……流石に、もう無いだろうがな。


 注射するのか、しないのか気になっていたら、マムが何やら呟いているのが聞こえた。


「……これは……あら?既に?でも……それなら……この研究室には確か……これを入れれば……神経の再構築……起き上がれなくなりそうね……それなら、上原さんを入れるカプセルを……」


 何やら我の為に色々しているようなので、そっと待っておこう。


 少しして、マムが戻って来た。


「さて、今から言う通りに動いて下さい」


 やる事が決まったようだ。


「うむ。分かった」


「先ずは、先ほど入ったガラスのケースにまた入って貰います。その次に”注射”で細胞活性化薬を投入します。投入後は、直ぐにこの部屋の端にある”カプセル”……細長くてツルツルしてて、上が透明な箱……そう、それに入って下さい。”注射”後直ぐに、体が痺れて来るので、急いで下さいね!」


 ……”注射”するのかにゃ……いや、うむ。


「問題ない」


 そう言って、ガラスケースに入る。


 見ると、部屋の隅にあるカプセルの蓋が開き始めていた。


 ……注射したらあそこに入る。


 ……注射したらあそこに入る。


 ……注射したら……注射は我慢。


 我強い子……主に一杯モフモフ、ナデナデして貰う。


「では、注射しやります」


 ……チクっとした。


 あれ?……それほど痛くない?


 ……あれ?なんか、異物が、ヤバいのが体の中に入って来てるような……?


 アームに繋がっている管の先を辿って行くと、そこには四角い形をしたツルっとしたキューブがあった。どうやらそこから”ナニカ”を入れているらしい。


 ……


 ……


 ナニカが入って来た後で、マムが『やったー!これで大丈夫です!成功しましたー!』と言っていた。『何がだ?』と聞こうとしたら、直ぐに、からそれ・・が落ちて来た。


 何か、半透明の物体だった。


 何だろう?と思う間も無く、マムが操作するアームがそれ・・を掴み、我の身体に巻き付け始めた。かろうじて手足が出る状態だったので、歩けはするだろう。


「はい、終わりました……急いでください!」


 マムから『終わった』と言われた瞬間、体の一部が既に痺れて来ているのを感じていた。


「…… …… ……」


 マムが何やら続けて話しているが、耳がハウリングしていて聞き取れない。


 ただ、焦っているのは分かる。


 急いでガラスケースを出て、カプセルに向かって足を出す。


 ……足を出す……足を……ム、これは不味い。


 ……段々と体が動かなくなって来ているのが分かる。


 完全に体が動かせなくなる寸前でどうにか、マムに言われたカプセルに入れた。


 途中で近くに人間の気配を感じた気がする……


 姉御に似た気配のような気もするが、気のせいだろう。


 その直後、強烈な痛みを感じた。


 ……我の身体が膨張している?


 薄っすらと見える視界には、我の手足が何か別の、異形の手足に見えた。


 尻尾もムズムズする。


 ……


 ……


 我慢して耐えた。


 ……


 ……


 ……?


 ……カプセルが移動している気がする。


 ……ん?これは、主の気配??


 ……あ、あるじ……


 ん?……隣に人間が入れられた?


 重傷だ……


 恐らく主が連れて来た人間だろうに……


 主が傷つかない事を願う……


 …… …… ……


 何だかワイワイと、賑やかな気配を感じるが……


 意識が保てなく……


――
 起きた時にあるじの隣に……そう願いながら眠りに着いた。



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