『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~
31話 旅は道連れ世は情け?
正巳は、衛兵の後に付いて歩いていた。
一緒に歩いている衛兵は三人。
先導しているのが一人で、後ろを付いて来るのが2人だ。
その内の一人で、俺の右後ろを歩く衛兵に見覚えがあった。
「さっきは”準備室”までの案内、有難うございました」
最初に俺を案内した衛兵……確か、俺が死ぬ事に賭けていたはずだ。
「え゛っ……『ありがとう?』……いえ!と、とととんでもない!」
歩いているにも関わらず敬礼するものだから、歩いている輪から遅れる。
……そう言えば、この衛兵には”キャラづくり”で、横柄な態度を取っていたんだっけ。それが、生きて戻て来て、しかも丁寧にお礼を言われたのでは確かにビビりそうだ。
まあ、半分皮肉を込めて行ったのは確かなんだけど、そんなにビビらなくても良いと思う。
「はっはっはっつ……あ、あの、もう直ぐ部屋に着きますので……」
目を伏せて、恐る恐ると言った風に言ってくる。
……遅れた分を小走りで走って来た為か、まだ息が整っていない。
「大丈夫ですよ、別に取って食いやしないので……」
ニヤッと笑って返す。
「ヒィっ!」
いや、ヒィって……よっぽど丁寧な口調にしたのが不自然なのかな……
衛兵は、ヒィと言って立ち止まっているせいでまた遅れている。
そもそも、あの横柄な態度は演技であって、あれを続けるのは中々骨が折れる。
まあ、俺の場合、ある程度慣れてくれば敬語なしでも話したりは出来るが、体の芯に”年上と尊敬する相手には敬語”と刷り込まれている為、基本的には敬語だ。
演技すること自体は、短時間や一瞬であれば問題ないけれど、時間が経つにつれて自分で自分を滑稽に思ってしまう。
……俺は俳優なんかには、向いていない性質なのだろう。
そんなこんなしている内に、前を歩く二人の衛兵がある扉の前で立ち止まったので、俺も止まる。
「到着しましたので、少々お待ちください!」
1人がそう言うと、扉をリズムを付けて叩く。
すると直ぐに、同じようにリズムの付いた返事がある。
恐らく、一種の決められた合図なのだろう。
少なくともモールス信号など、メジャーなものでは無かった。
メジャーなものは一通りマスターしている。
「……中へどうぞ」
先に衛兵二人が中へと入り、後ろの衛兵 ――俺の死に賭けた衛兵―― が中へと入るように勧めてくる。嫌だ、と言うわけにも行かないので、言われるままに中ヘと入った。
「これは……」
中へと入ると、一人の衛兵ともう一人男がいた。
そして、そこは血の海だった。
いや、言い過ぎか。
そこは床一面血だまりだった。
血特有のねっとりとした、重厚な臭いがする。
鼻から吸い込んだ空気からさえ血の味を感じるほど、部屋の中は血で満ちていた。
赤い絨毯~赤い絨毯~赤い……
変なフレーズが頭の中をぐるぐると回るが、振り払う。
「おや?」
血だまりの中、唯一立っていた男がこちらに反応を示す。
「……お構いなく」
何も考えずに返事した。
「お、お構いなくって……ぷぷーはははは……面白いね君!」
何やら愉快そうに、それでいて楽しそうに話しかけてくる。
だが――
「あ、本当に。お取込み中なら後で来ますよ?」
お取込み中……いや、見た感じ終わった後に見える。
「大丈夫、すぐ終わるからさ~」
「あの、上官どの!口調が……」
後ろの男……俺が死ぬ方に掛けていた衛兵が口を挟むが、”上官”と呼ばれた男は一向に気にするそぶりが無い。
「ロウか、全く!何故絶死まで入れたんだ!」
「し、しかしそれは上官殿も承認して下さったはずじゃ……いえ、申し訳ありません」
どうやら、衛兵の名前はロウと言い、目の前の血だまりに立つ男は上官 ――マムが声をまねて指示を出した男―― だったらしい。
「キメラをこの国に売却する予定だったのに」
「売却……?」
「そう、売却。まぁそれも、君のお陰で取引のすべてがおじゃんだよ……」
外人にしては、語彙が豊富だ。
しかし、この国にキメラを売却するような取引があったとは……
「えっと、それは俺には関係あるのかな……?」
国と国との取引、しかも表には決して出ないような取引の存在を、俺に教えてどうしようと云うのだろうか……あまり良い予感がしない。
「君には協力して貰おうと思ってね」
ほら来た。
禄でもない事に違いない。
「えっと、俺は勝ち分さえ貰えればそれで帰りますが……」
「勿論、賭けで勝った金は全て支払う……”逃亡資金”としてね」
……?
「逃亡資金?」
……何の?
疑問を覚える。ここには賭けの参加者として来た。
当然、俺達が会社から逃げている事を、ここの人間が知っている訳がない。
何かがあったのか、これから起きるのか……
そう考えて、今井さん達は無事かな?と、思考がそれた瞬間だった。
「君は、ここに居る者たちを殺した。それで、逃げたんだ」
そう言うと、上官であるはずの男が、徐に懐から出した拳銃を発砲した。
反応出来なかったのには、俺への殺気が無かったのも理由だが、それでも十分に洗練された動きだった。発砲音は全部で3回。
「何を……」
俺の他3人の衛兵が撃たれていた。
「言ったろ?君は今から逃亡犯だ。ここに押し入り、テロを起こした」
……読めて来た。
「テロに巻き込まれ、この国の官僚が死亡……後でこいつらが乗って来た車を吹き飛ばしておこう……その際、三人の衛兵が巻き込まれ死亡。そのテロを手引きしていたのはロウ・キャンベルという衛兵……な、これで取引も最初から行われるし……全てがハッピーエンドだ」
……無茶苦茶すぎるが、一応一本の筋が通る話になってるだけに、質が悪い。
ここで俺が逃げたりしなければ、この話にはボロが出る。しかし、会社から逃げている俺達がメディアに出て反論する訳にはいかない。それに、今回の勝ち額である金も手に入る。
だとしても……
拳銃を発砲した男の足元に転がっていた死体に、見覚えがあった。
「確か、幕僚長……それに、ウチの兵隊……」
いつかテレビでやっていた番組に出ていたのを見た事がある。
確か、陸将……陸軍のトップだったはずだ。
近くに倒れている兵隊はかばん持ちか何かだろう。
「そう、君が殺した相手だ」
「俺にその役回りをやれと……?」
見た感じ、男に俺を殺す気はないようだ。
殺すが有れば、俺はとっくに死んでいる。
「そういう事だ。物分かりが良くて良かった」
そう言うと、男は新たにつくった死体をそのままにして、俺の横を通り過ぎてドアを開けて出て行った。
いや、承諾してないんだが……
しばらく、男が出て行ったドアを眺めていたが、このままじっとしていても何も解決しないばかりか、事態が悪化して行く事に気が付く。
取り敢えず、今は出来る事をしないといけない。
何より、今井さん達と合流する事が最優先だ。
予定だと、もう先輩を確保している筈だ。
「……はあ、これで逃亡犯か……」
そう溢しながら、俺の後ろで床に手をついて思考停止している男に声を掛ける。
「おい、ロウとか言ったか?」
「‘+‘~L***……」
……余程衝撃を受けたらしい。
「おい、しっかりしろ。そいつらで息のある奴はいないか?」
「……あ……」
一応、反応して撃たれた仲間の様子を確認している。
「……一人は即死、二人はかろうじて意識があります」
一人は頭部に被弾している。
しかし、残りの二人は腹部に被弾しており、まだ生きている様だ。
「よし、地下の駐車場……ここはもっと地下だから、上か?……に案内してくれ」
ロウにそう語りかけながら、まだ息のある内の片方の男の肩に手を回す。
すると、ロウが驚いた顔をする。
「……どうした、変な顔して」
「いえ、どうして我々を助けて下さるのですか?……このまま捨てて行けば良いのに……」
どうやら、俺が”一緒に車に向かおう”と言ったのが不思議だったようだ。
まあ、不思議に思うのも分かる。
実際ロウは、俺が”死ぬ”方に賭けていた訳だし、俺から見たらさっきの上官もロウも同じような存在で違いはあまりない。
でも……
「如何にかできる力があるんだから、如何にかしても問題ないだろ?それに、お前も捨てられた訳で、行く当ても無いだろうしな」
このままロウとその仲間を置いて行けば、ロウはともかくとして他の二人は間違いなく死ぬだろう。それに、ロウだって逃げられたとしても、ここは外国だ。勝手がわからない国で逃げながら生きていくのには無理がある。
「……まあ、運転手なんかに使ってやるよ」
打ちひしがれている様子を見て、そう軽口を叩く。
……まあ、車はマムが運転する”自動運転”だから、運転手は要らないんだけれど。
「は、はい!何でもします!だから、どうか一緒に連れて行って下さい!」
そう言って、腰を90度に曲げて頭を下げて来る。
被弾した仲間の肩に手を回したまま頭を下げたものだから、怪我した仲間がずり落ちて、痛そうに呻いている……いやいやいや、痛いよそれ。見てるだけでも痛いよ。
「分かったから!とにかく慎重に、運ぶぞ……素早く!」
「はい!」
いや、そんなに元気いっぱい応える事でも無いだろうに……
これから逃亡するというのだから。
そうして新たな仲間?を連れて皆の待つ駐車場に向かい始めた。
一緒に歩いている衛兵は三人。
先導しているのが一人で、後ろを付いて来るのが2人だ。
その内の一人で、俺の右後ろを歩く衛兵に見覚えがあった。
「さっきは”準備室”までの案内、有難うございました」
最初に俺を案内した衛兵……確か、俺が死ぬ事に賭けていたはずだ。
「え゛っ……『ありがとう?』……いえ!と、とととんでもない!」
歩いているにも関わらず敬礼するものだから、歩いている輪から遅れる。
……そう言えば、この衛兵には”キャラづくり”で、横柄な態度を取っていたんだっけ。それが、生きて戻て来て、しかも丁寧にお礼を言われたのでは確かにビビりそうだ。
まあ、半分皮肉を込めて行ったのは確かなんだけど、そんなにビビらなくても良いと思う。
「はっはっはっつ……あ、あの、もう直ぐ部屋に着きますので……」
目を伏せて、恐る恐ると言った風に言ってくる。
……遅れた分を小走りで走って来た為か、まだ息が整っていない。
「大丈夫ですよ、別に取って食いやしないので……」
ニヤッと笑って返す。
「ヒィっ!」
いや、ヒィって……よっぽど丁寧な口調にしたのが不自然なのかな……
衛兵は、ヒィと言って立ち止まっているせいでまた遅れている。
そもそも、あの横柄な態度は演技であって、あれを続けるのは中々骨が折れる。
まあ、俺の場合、ある程度慣れてくれば敬語なしでも話したりは出来るが、体の芯に”年上と尊敬する相手には敬語”と刷り込まれている為、基本的には敬語だ。
演技すること自体は、短時間や一瞬であれば問題ないけれど、時間が経つにつれて自分で自分を滑稽に思ってしまう。
……俺は俳優なんかには、向いていない性質なのだろう。
そんなこんなしている内に、前を歩く二人の衛兵がある扉の前で立ち止まったので、俺も止まる。
「到着しましたので、少々お待ちください!」
1人がそう言うと、扉をリズムを付けて叩く。
すると直ぐに、同じようにリズムの付いた返事がある。
恐らく、一種の決められた合図なのだろう。
少なくともモールス信号など、メジャーなものでは無かった。
メジャーなものは一通りマスターしている。
「……中へどうぞ」
先に衛兵二人が中へと入り、後ろの衛兵 ――俺の死に賭けた衛兵―― が中へと入るように勧めてくる。嫌だ、と言うわけにも行かないので、言われるままに中ヘと入った。
「これは……」
中へと入ると、一人の衛兵ともう一人男がいた。
そして、そこは血の海だった。
いや、言い過ぎか。
そこは床一面血だまりだった。
血特有のねっとりとした、重厚な臭いがする。
鼻から吸い込んだ空気からさえ血の味を感じるほど、部屋の中は血で満ちていた。
赤い絨毯~赤い絨毯~赤い……
変なフレーズが頭の中をぐるぐると回るが、振り払う。
「おや?」
血だまりの中、唯一立っていた男がこちらに反応を示す。
「……お構いなく」
何も考えずに返事した。
「お、お構いなくって……ぷぷーはははは……面白いね君!」
何やら愉快そうに、それでいて楽しそうに話しかけてくる。
だが――
「あ、本当に。お取込み中なら後で来ますよ?」
お取込み中……いや、見た感じ終わった後に見える。
「大丈夫、すぐ終わるからさ~」
「あの、上官どの!口調が……」
後ろの男……俺が死ぬ方に掛けていた衛兵が口を挟むが、”上官”と呼ばれた男は一向に気にするそぶりが無い。
「ロウか、全く!何故絶死まで入れたんだ!」
「し、しかしそれは上官殿も承認して下さったはずじゃ……いえ、申し訳ありません」
どうやら、衛兵の名前はロウと言い、目の前の血だまりに立つ男は上官 ――マムが声をまねて指示を出した男―― だったらしい。
「キメラをこの国に売却する予定だったのに」
「売却……?」
「そう、売却。まぁそれも、君のお陰で取引のすべてがおじゃんだよ……」
外人にしては、語彙が豊富だ。
しかし、この国にキメラを売却するような取引があったとは……
「えっと、それは俺には関係あるのかな……?」
国と国との取引、しかも表には決して出ないような取引の存在を、俺に教えてどうしようと云うのだろうか……あまり良い予感がしない。
「君には協力して貰おうと思ってね」
ほら来た。
禄でもない事に違いない。
「えっと、俺は勝ち分さえ貰えればそれで帰りますが……」
「勿論、賭けで勝った金は全て支払う……”逃亡資金”としてね」
……?
「逃亡資金?」
……何の?
疑問を覚える。ここには賭けの参加者として来た。
当然、俺達が会社から逃げている事を、ここの人間が知っている訳がない。
何かがあったのか、これから起きるのか……
そう考えて、今井さん達は無事かな?と、思考がそれた瞬間だった。
「君は、ここに居る者たちを殺した。それで、逃げたんだ」
そう言うと、上官であるはずの男が、徐に懐から出した拳銃を発砲した。
反応出来なかったのには、俺への殺気が無かったのも理由だが、それでも十分に洗練された動きだった。発砲音は全部で3回。
「何を……」
俺の他3人の衛兵が撃たれていた。
「言ったろ?君は今から逃亡犯だ。ここに押し入り、テロを起こした」
……読めて来た。
「テロに巻き込まれ、この国の官僚が死亡……後でこいつらが乗って来た車を吹き飛ばしておこう……その際、三人の衛兵が巻き込まれ死亡。そのテロを手引きしていたのはロウ・キャンベルという衛兵……な、これで取引も最初から行われるし……全てがハッピーエンドだ」
……無茶苦茶すぎるが、一応一本の筋が通る話になってるだけに、質が悪い。
ここで俺が逃げたりしなければ、この話にはボロが出る。しかし、会社から逃げている俺達がメディアに出て反論する訳にはいかない。それに、今回の勝ち額である金も手に入る。
だとしても……
拳銃を発砲した男の足元に転がっていた死体に、見覚えがあった。
「確か、幕僚長……それに、ウチの兵隊……」
いつかテレビでやっていた番組に出ていたのを見た事がある。
確か、陸将……陸軍のトップだったはずだ。
近くに倒れている兵隊はかばん持ちか何かだろう。
「そう、君が殺した相手だ」
「俺にその役回りをやれと……?」
見た感じ、男に俺を殺す気はないようだ。
殺すが有れば、俺はとっくに死んでいる。
「そういう事だ。物分かりが良くて良かった」
そう言うと、男は新たにつくった死体をそのままにして、俺の横を通り過ぎてドアを開けて出て行った。
いや、承諾してないんだが……
しばらく、男が出て行ったドアを眺めていたが、このままじっとしていても何も解決しないばかりか、事態が悪化して行く事に気が付く。
取り敢えず、今は出来る事をしないといけない。
何より、今井さん達と合流する事が最優先だ。
予定だと、もう先輩を確保している筈だ。
「……はあ、これで逃亡犯か……」
そう溢しながら、俺の後ろで床に手をついて思考停止している男に声を掛ける。
「おい、ロウとか言ったか?」
「‘+‘~L***……」
……余程衝撃を受けたらしい。
「おい、しっかりしろ。そいつらで息のある奴はいないか?」
「……あ……」
一応、反応して撃たれた仲間の様子を確認している。
「……一人は即死、二人はかろうじて意識があります」
一人は頭部に被弾している。
しかし、残りの二人は腹部に被弾しており、まだ生きている様だ。
「よし、地下の駐車場……ここはもっと地下だから、上か?……に案内してくれ」
ロウにそう語りかけながら、まだ息のある内の片方の男の肩に手を回す。
すると、ロウが驚いた顔をする。
「……どうした、変な顔して」
「いえ、どうして我々を助けて下さるのですか?……このまま捨てて行けば良いのに……」
どうやら、俺が”一緒に車に向かおう”と言ったのが不思議だったようだ。
まあ、不思議に思うのも分かる。
実際ロウは、俺が”死ぬ”方に賭けていた訳だし、俺から見たらさっきの上官もロウも同じような存在で違いはあまりない。
でも……
「如何にかできる力があるんだから、如何にかしても問題ないだろ?それに、お前も捨てられた訳で、行く当ても無いだろうしな」
このままロウとその仲間を置いて行けば、ロウはともかくとして他の二人は間違いなく死ぬだろう。それに、ロウだって逃げられたとしても、ここは外国だ。勝手がわからない国で逃げながら生きていくのには無理がある。
「……まあ、運転手なんかに使ってやるよ」
打ちひしがれている様子を見て、そう軽口を叩く。
……まあ、車はマムが運転する”自動運転”だから、運転手は要らないんだけれど。
「は、はい!何でもします!だから、どうか一緒に連れて行って下さい!」
そう言って、腰を90度に曲げて頭を下げて来る。
被弾した仲間の肩に手を回したまま頭を下げたものだから、怪我した仲間がずり落ちて、痛そうに呻いている……いやいやいや、痛いよそれ。見てるだけでも痛いよ。
「分かったから!とにかく慎重に、運ぶぞ……素早く!」
「はい!」
いや、そんなに元気いっぱい応える事でも無いだろうに……
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