『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~

時雲

30話 デス・ゲーム [終了]

 絶死の王が解放される少し前。




――
 結局キメラを起こす事が出来なかった正巳は、その後も如何したものかと悩んでいた。


 独りで考えていても、良い案が浮かばなかったので、マムに相談する事にした。


「なあ、マム」
「はい、パパ?」


 呼びかけると、直ぐに返事がある。


「状況、把握してるか?」
「はい、パパ。この施設の監視システムは掌握済みですので」


 という事は……


「この状況、どうしたら良い?」


 俺の状況もマムは把握していると云う事だ。


「はい、パパ。幾つか方法がありますが……」


 期待していた答えが返ってくる。


「お、流石だなマム!」
「ふふっ!……こんな時パパと同じ体が有ったら良いのに……」


 褒めたはずが、声のトーンが落ち、沈んでいる。


「だ、大丈夫さ!マム、それは如何にかなるさ!」


 正直、何を悩んでいるのか分からなかったので、取り合えず無難な言葉で慰めておく。


「……はい!そうですね、確かにパパの資産があって、国内の幾つかの会社にそれぞれ依頼すれば……出来そうですね……はい!」


 何やら呟いている声がイヤホンから聞こえていたが、暫くして結論が出た様だった。


 その後も『デザインはアバターを中心に、現実世界の女性をモデリングして……』なんて、呟いている。


 呟いている単語から、マムが何かを作りたいのだと云う事だけ分かった。


 マムが何かしたいのであれば、させてあげれば良いだろう。イヤホンから俺に聞こえるように呟いているのも、俺の許可が貰えるように意図的に呟いている可能性もあるし……


「……それで、現状を如何にかする方法を教えてくれるか?」


 何にしても、今は現状を如何にかしなくてはいけない。
 このまま時間だけが過ぎて行くのは良くない。


「はい、パパ。一つ目は、マムがこの賭けを強制的に成立状態にする事です」


 なるほど。


 賭けの成立や未成立は、恐らく人間がコントロールしていて、操作はボタンを押すような形で操作するのだろう。そして、結果は全て通信、つまり電子世界で行われている。


 マムであれば、コントロールを奪って、賭けの結果を操作するなど朝飯前だろう。


「しかし、それだと……」


 問題がある。


「はい、パパが想定している通り、マムの存在が知られる切っ掛けになります」


 そう、内部で賭けの成立手続きをしていないのに、成立状態にすれば当然外部からのハッキングを疑われる。最初の内は、優秀なハッカー(奴らからすればクラッカー)がいると思われるだろう。しかし、何れマムの存在がばれる切っ掛けとなる可能性が高い。


 切っ掛けとなる種を蒔く事が、後々面倒事の実を結ぶのだ。


「却下だな。マムを知られる訳にはいかない」
「となると、もう一つの手段になりますが……」


 恐らく、却下されるのを予測していたのだろう。あっさり次の提案に移る。


「ああ、頼む」


 何となく言いにくそうな様子を感じるに、俺に多少負担のある内容であることが予想できる。


「あの、パパ……新しい生き物を投入するのは如何でしょうか。そうすれば賭け自体は再開始リスタートされるはずですが……」


 なるほど、そもそもゲームを、最初からにすれば良いと云う事か。


 でも……


「それだと、システムを強制的に動かす事になって、マムの存在がばれないか?」


 最初の案、”賭けを強制的に成立させる”のと、変わりが無いように感じる。


「いえ、生き物の投入は監視室の担当官が担っているようですので、担当官の上司の声で指示をすれば、操作自体は正規の手続きで行われます」


 なるほど、正規の命令を下したことにすれば良いのか。確かにそれだと、後々問題になった時でも、よくある”指示した、してない”の形に誘導できる。


「よし、それで行こう!」
「でも、この場合パパに危険が……」


 マムが俺の事を心配してくれる。


 だが……


「大丈夫、元々やるつもりだったし、元に戻っただけだ」


 そう、元々俺はキメラ・・・と相対する覚悟で来ていた。


「……分かりました、パパ。それでは、監視室に指示を出します」
「ああ、頼んだ」


 改めて、気合を入れ直す。


 これからが本当の、デスゲームだ。


 気合を入れ直した直後、ブザー音が鳴り始めた。


 本日二度目のブザー音だ。


「……仕事が早いな」


 そう呟いたのと同時に、壁の一部が上がり始めた事に気が付いた。


 ゲーム会場……六角形をした六角柱の空間で、壁は四角いブロックが積まれたように等間隔で仕切り線が入っている。その一部の壁が、腰のあたりからスライドするように上がっていた。


 スライドした後に現れた空間にそれが居た。


「あれが新しいキメラ……じゃない?」


 そこに居たのは、目の前で仰向けで寝ているキメラとは明らかに違う、俺もよく知る生物だった。


「あれ……?」


 俺はてっきり新しいキメラが現れると思っていたが……


「そう言えば、キメラは偶然・・の産物なんだっけ……」


 そこに居たのは、キメラでは無く百獣の王、ライオンだった。


「まあ、”キメラ”よりは良いか……」


 『キメラより良い』と言うよりは、『キメラよりやり易い』と言った方が正確かも知れない。


 キメラには、何処か得体の知れなさがあるが、ライオンにはそれが無い。


 純粋に獣だ。


 得体の知れなさがあるとは言っても、目の前で仰向けになっているキメラが『危険な生き物』と言われて、信じられるかと言うと疑問しか出ないのだが……


 だって、寝てるし……


 そんな風に考えていると、新たな参加者ライオンが降りて来る。


 ……明らかに普通の状態じゃない。


 何か興奮状態になうような薬を、盛られてでもいるのだろうか。


 ライオンが急に加速して飛びついて来る。


「っつ!」


 咄嗟に下がる。


 今、俺の目の前には、片方に仰向けになったキメラ、片方に壁から出て来たライオンがいる。


 さて、どう来るか……


 神経を張り巡らせる。


 そして……ライオンが俺に対して飛び掛かって来た。


 ……飛び掛かる、つまり地面から浮いた状態にあるわけで、空中では方向転換をする事が出来ない。つまり、俊敏に動ける相手に対しては最悪な行動だ。


 飛び掛かって来たライオンに対して、一種のテンプレ的対応を取ろうとするが……『ギョエ―ッツ!』と言う声と共に、想像もしていなかった事が起こった。


「…………は?」


 俺に飛び掛かって来ていたライオンが、空中で真っ二つになっていた。


「起きれるじゃん……」


 今まで俺の前に仰向けになって寝ていたキメラが、生き生きとライオンに喰らいついて、そのまま二つに分かれたライオン……いや、ライオンの肉を喰らっている。


 ライオンを真っ二つにする。


 もしあれが俺に向けられていたら、無事では済まなかったかも知れない。


「……良かったのか?」


 仰向けで寝ていたキメラが、目の前でライオンを喰らっている。


「ゴン……動けるじゃん!」


 ゴン……目の前で仰向けになったキメラをそう呼んだ。何故”ゴン”なのかって?それは、俺が頭を持ち上げて、落とした時に「ゴン!」って鈍い音を上げて頭を打ち付けていたから……


 ゴンと呼ぶと、キメラがブルっと振るえてこちらを向く。


 ……聞こえてるらしい。


 それに、自分に呼びかけられたと理解した?


「ギョエ!?」


 そう言って、キメラもといゴンが、仰向けになる。


「いや、今更死んだ振りされても……動けるの知ってるし……」


 ……どうやら、俺とゲームをする気はないらしい。それに、キメラゴンが、二つになったライオンの身体の内、自分に近い方の塊をこちらへ押し付けて来る。


「いや、いらねぇよ……」


 何となく、目の前にいるキメラが大きい犬のような気がしてくる。


 それにしても……


「これ、どうしよう……ゲームは大丈夫かな……」


 そんな風に不安に思っていると、待機室……準備室だったか?のドアが開き、棒を持った衛兵が数人入って来た。


「か、かかか神崎様!こちらへ!ゲームの終了が承認されました!それで、今回は少々特殊な状況の為、お願いしたい事がありまして……」


「……あ、俺か……はいはい、行きます」


 神崎と呼ばれて、咄嗟に反応出来なかったが、”そう言えば神崎仁という偽名で参加してたっけ”と思いだし、慌てて返事をする。


 それに、衛兵の話の内容によると、どうやら無事に、ゲームクリアの承認を受けられたらしい。


 これで、『また何かゲームをする事になったら、面倒だな』と思っていたので、安堵しながら、衛兵の案内するままについて行く事にした。




――
 正巳が衛兵達と一緒に出て行った後、残されたのは、再び仰向けの姿勢を取った一体のキメラ”ゴン”と、ゴンに喰われかけの、ライオン……かつて絶死の王と呼ばていた肉の塊だけだった。









 おりゃは、じっと”服従”の姿勢を取っていた。


 それで、心の中でも『忠誠を誓いますから食べないで!それが無理なら、少しかじるだけにして下さい!』って、ずっとお願いしてた。


 それで、ずっと我慢してたら、そいつ・・・が来た。


 そいつは、偉そうに穴に降りて来た。


 そいつは、有ろう事か、恐い生き物を挑発してた。


 直ぐに叫び出したかった。


『余計な刺激をするな!』


 って。


 でも、そいつは何だか興奮してて、変になってたみたいだ。


 だって、いきなり飛び掛かったから。


 もう我慢の限界だった。


余計なことするなーギョエ―ッツ!」


 と叫んで、そいつに喰らいついていた。


 おりゃの口の中に、肉の味が広がる。


 極度の緊張をしていた為か、美味しかった。


 でも、夢中になっていたせいで、失敗した。


 恐い生き物に『ゴン……動けるじゃん!』と言われたのだ。


 瞬間、体を悪寒が駆け抜け、”ブルッ”っと震えた。


『た、食べないで!』


 そう叫んだ。


 すると、『いや、今更死んだ振りされても……動けるの知ってるし……』そう言われた。


 つまり、おりゃに”餌らしく逃げ回れ”と言って来たんだ。


 もしかしたら、おりゃが餌を最初にかじっていたから悪かったのかもしれない。


 必死に、心の中で”ごめんなさい!”と叫びながら、恐い生き物の方に餌を差し出した。


 でも、受け取ってくれない。


 おりゃが齧られないといけないのかな……やっぱり。


 おりゃは、ずっと、ドキドキしてた。


 ”齧るとしても、少しだけ、少しだけ”


 そんな風にずっと念じてた。


 でも、恐い生き物は、入って来た人間に連れて行かれた。


 その時、恐い生き物が”カンザキ”と呼ばれているのを聞いた。


 ”カンザキ”……恐い生き物で、おりゃの主……『ゴン』と呼ばれた事を思い出した。


 おりゃの主で、おりゃは”ゴン”……


 入って来た人間達が去った後、おりゃはお腹を見せて誓っていた。


『おりゃの主は、カンザキ……』


 そう誓ったところで、不思議な充実感が体を満たすのを感じていた。


 仰向けになったまま……



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