『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~

時雲

24話 デス・ゲーム [選択]

 外に出ると、そこには先ほど乗って来たトラックがあった。


 やっぱりこれに乗っていくのね……


「正巳君!早くこっちに乗って!」


 今井さんがトラックの運転席に乗って、手招きしている。
 まあ、運転席とは言ってもマムが運転するので、飾りのようなモノなのだが。


「え、トラックコレで行くんですか?」


 何となく、参加条件が10億円の賭けの会場に行くのに、トラックと言うのは良くない気がする。


 それに、服装なんかも特に着替えてもいない為、俺は紺のポロシャツと紺のチノパンのままだ。


 今井さんはと云うと、いつも通り作業着を着ている。


 ……俺と今井さんが並んでいると、町の電気屋さんみたいだ。


「うん……不味いかな?でも、早くしないと君の先輩は不味い事になるし、それに賭けに間に合わないよ?」


 ……仕方ないか、最優先は先輩の救出だ。
 多少怪しまれたとしても、どうにかするしかない。


「……分かりました、急ぎましょう」


 そう言ってトラックに乗り込む。


 ドアを閉めようとした所で、一瞬の間を縫う様に、ボス吉が飛び込んで来た。


「お前……今まで何処に居たんだ?それに付いて来るのか?」
「にゃお、にゃ……」


 ……いや、分からないけど。


 ……さっきまで姿が見えなかったが、どうやら何処かでこちらの様子を伺っていたらしい。


 そうでないと、ギリギリに飛び込んでくる事など出来ない。


 いや、俺たちが居ないのに慌てて、飛び込んで来たのか?


 何方にせよ……


「ボス吉、これから危ない場所に行くんだ、お前が来ても危ない目に合うだけだぞ?」


「にゃお!」


 ……と言うか、既に車が動き出している。


「……マム」


「あ、すみませんパパ。でも、結果はある程度予測で来ていたので、時間を有効的に使いました!」


 マムが胸を張って、報告してくる。


「まあ……そうかも知れないんだけどさ……」


 ボス吉が行っても危ないだけだが、ボス吉が行きたいのであれば無理に降ろすつもりは無かった。


 それに、ボス吉の様子を見る限り、無理やり降ろしても付いて来そうな雰囲気だし。


「にゃお~!」


「ふふ、正巳君、完敗だね!」


 ……今井さん、そんなに嬉しそうにしないで下さい。


「はぁ、まあ良いです。ただ、何があるか分からないから気を付けて下さいね、みんなも」


「「「は~い!」」にゃお~!」


 ……若干、不安が残るが、何時までも不安でいても意味が無い。
 ここは切り替えて、今できる事を最大限するべきだろう。


「それで、マムが得た情報を教えてくれるかな……今の内準備をしておきたい。あと、目的地に着くまでにマムには、賭けに参加する手続きをしておいてくれるか?」


 確か、マムは賭けに使用されている端末上から情報を引き出していたはずだ、その情報を確認しておきたい。内部情報に関して知っていればいるほど、対策が立てられる。


 それに、賭けに必要な金額とお金ソレを使うための下準備は出来ていても、賭け自体への参加手続きはまだ済んでいなかったはずだ。


「はい、パパ!先ず、賭けへ参加する基本手続きは終了しました、後はどの賭けに参加するかを決める事になりますが……」


 マムが口ごもる。


「一番勝率が高いと思う賭けで手続きしてくれれば問題ない、任せるよ」


 恐らく、お金を賭けるわけで、勝手に使ってはいけないと判断して手続きを途中で止めていたのだろう。


 ……あれ?


 でも、それだったらそう言ってくれれば良いのに……何か言いにくい事でもあるのかな。


「パパ、賭けに参加するには幾つかの賭けの中から、どの賭けに参加するか選ばなくてはいけなくて、勿論勝率が高い賭けも有るのですが……その、どの賭けも初めて参加する際は親になって、賭ける対象を提供しなくてはいけないのです」


 ……親になる?
 ……賭けの対象を提供?


「具体的には、何が必要なんだ?」


 ……あまり良い予感がしない。


「はい。先ず、分かりやすいところで、上原さんの参加していた死の予告デス・ノーティス、こちらに初めて参加する際、提供する必要が有るのは……」


 先輩が参加していた、いや、参加させられたゲームで、死ぬのを前提にしているゲームだ。


「先輩が参加したゲームか……」


 もし参加するとして、何が必要なのだろうか……


 ある程度予測は付いてはいるが。


「初めて参加する際は、自分の所有する人間又はキメラの提供が必須となります」


 ……そうだろうとは思ってはいた。賭けの対象が、人間とキメラの二択で、キメラなんて所有している人は殆どいないだろう。


 それに対して、人間は……数十億人いる。それこそ、探さなくても見つけられる。


 それに、毎年行方不明になる人が国内だけでも、8万人以上いるとされている。


 結果的に、人間を提供する事になるのは明らかだ。


「参加させられているのは、人攫いに攫われた人とか、借金で首が回らなくなった人か?」


「はい、パパ。その様です。データを見る限りでは、賭けに参加する事で借金の返済に充てたり……売れないと判断された人間をここでお金にしているみたいです」


 そう、この死の予告デス・ノーティスという賭けの際に『1.一撃死』『2.三撃之死』『3.生還』の内一つに賭ける。そして、ほぼ1か2に賭けておけば良い……殆どの人が死んでしまうのだから。


 そう考えると、人間の提供主はとても有利に賭ける事が出来るようになっているのだろう。


 事前に参加させる人間の、健康状態や運動機能を把握できるのだから。


「……なるほど、それで先輩は口封じと小遣い稼ぎに使われたのか」


 先輩の場合、賭けの1でも2でもなく、3の生還をしたのだから大穴だっただろう。


 勿論、先輩を提供し、口封じを考えていた奴は1か2に賭けていたはずで……それを考えると、少しざまあみろ。と思いもするが。


「そのだね……それでマム、他にもあるんだろう?」


 黙って話を聞いていた今井さんが、マムに続きを促す。


「はい、マスター。他には、生物同士の化物の狂闘モンスター・ファイト……こちらは参加する生物を提供。あとは、巨大な水槽にサメと複数人の人間を入れ、最後に生き残る人間を賭ける巨槽の輝きタンクス・シャイン……参加する人間を一人以上提供。他には……」


「マム、もう良い……」


 分かった事がある。


 それは……どのゲームに参加するとしても、誰かが犠牲になる。


「マム、どのゲームに参加するかは俺が後で伝えておく。後は、先輩の救出に関してだが……」


 今井さんが、微妙な表情をしている。まあ、当然かも知れない。


 ここに居る誰かが賭けに参加する為のエサとして犠牲になるのだから。まあ、犠牲にするつもりも、なるつもりも全く無いが。


「……今井さんとボス吉に頼みたい」


 俺の顔を今井さんがじっと見つめてくる。


 恐らく、俺の考えを少しでも読み取ろうとしているのだろう。


 ある意味当然だ。


 先輩の救出を、今井さんとボス吉に頼むという事は、賭けの方は俺がどうにかするという事だ。


 つまり、俺が犠牲になると言っているのと、同じなのだから。


「大丈夫ですよ、俺は犠牲になるつもりも、諦めるつもりもありません」
「でもね……」


 今井さんが何か言おうとするが、続きを言う前に本題に入る。


「それに、俺以外にこの役回りをさせるつもりは、そもそも有りませんから」


 今井さんは恐らく、ボス吉を差し出すとでも思っていたのだろう。


 確かに、合理的に考えるとその結論に行きつくのも分からなくもない。


 ボス吉は、猫であると言っても、通常の猫よりも体が大きい。


 十分にモンスターファイトへの参加条件をクリアするだろう。


 しかし、俺はボス吉を生贄にするような形でどうにかしようとは思わない。


「大丈夫、ボス吉はしっかりと今井さんをサポートしてくれ……猫の王になるんだろう?」


「にゃお、にゃおぅ!」


 ボス吉が膝の上で二本足で立ち、俺の胸に両手を置き、顔をペロペロと舐めてくる。


「はは、大丈夫だよボス吉。ボス吉を危険な目に合わせたりはしないさ……」


「そうだね、流石にいくら頭が良くても、戦い慣れている獣とは差があるからね!」


「にゃ、にゃ、にゃお!」


 何やら、ボス吉が丸まってしまった……


「マスター、あまり猫吉……ボス吉をいじめては可哀そうだと思います。さっきまで、ボス吉は戦う気満々な様子でしたし……それに、プライドも高いようなので」


 そう言えば、何だかさっきまで胸を張って堂々としていたけれど……参加する気だったのか。


 と言うか、ボス吉ネコなんだけど、言葉分かる前提で話すのが定着して来たな……


「にゃあ、にゃお、にゃにゃ~」
「にゃお、にゃお!にゃ?」


 ……?


「にゃあ、にゃにゃ~」
「にゃお!」


 ……??


「えっと、マム?それに、ボス吉?」


 何やらマムが車のスピーカーを通してにゃおにゃお言い始めたかと思ったら、ボス吉がそれに反応してにゃおにゃお返している。


 会話できるの……?


「はい、パパ?」


 何か御用ですか?
 とでも言うように、普通に返してくるマム。


「えっと、マムは猫の言葉話せるの……?」


「はい、話せますよ。ネコの場合、体の動きで意思疎通している面が大きいので、言葉を習得するのに苦労しましたが、なんとか習得出来ました!」


 ……いやいや


 ……いや


 ……まじで?


「そ、それで――」
「マム!ネコ君はなんて言っているのかね!」


 ……今井さんに、すごい勢いで割り込まれた。


「はい、マスター。えっと、さっき話していたのは、パパが戦う事になるキメラについてと、ボス吉が役に立てなくて悲しいと言っていたので――」


「にゃおー!!」


 マムが話している途中で、ボス吉が声を遮った。


「それで今ボス吉はなんと言ったんだい?」
「それは、『言うな!』と ――」
「にゃお〜〜〜〜!」


 ……ボス吉が車のスピーカーを、ガリガリと引っ掻いている。


「あー、はいはい。引っ掻かない。それに、今井さんもマムも、ボス吉が聞かれたくないみたいなので」


 言いながら、ボス吉を捕まえて抱っこすると、大人しくなってくれた。


「「はい……」分かったなの……」


 マム……


 そんな可愛く言われると、許しちゃう……


 可愛く落ち込むマムにほっこりして、ボス吉を撫でていると、不意にマムが報告する。


「パパ、マスター、それにボス吉、そろそろ目的地に着きます」


 マムの言葉に少し緊張するが、その緊張感も何処か心地よく感じる。


 その後、マムとゲームに関する話をした。


 どうにかなるとは楽観視出来ないが、どうにかするしかないなと思い、気持ちを切り替えた。

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