『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~
7話 原因
”技術の今井”から衝撃的な告白をされてからしばらく悶々としていたが、今井さんから促されるままに部屋に入り、椅子に座っていた。
何故椅子に座っているかって?
それはね、今井さんが解体しているからだよ……パソコンを。
「おやおや、これはこれは…綺麗にしましょうね~フフフ……」
声だけ聴いていると自然と警察に通報したくなるが、目の前で行われているのはあくまでも機械の整備清掃だ。
「あの、それでさっき言っていた、ロックしたというのは……?」
そう、目の前で繰り広げられている変態的行為はどうでも良い。
重要なのは、そんな事ではない。
「ん?ああ、プラスくん。それはね、このパソコンを通して見ていたんだ。で、丁度良いタイミングでコードを走らせることで、あ、ここで言うコードはあくまでもローカルをその対象としていてね、同じ事をグローバルでやろうとするならまた違ったアプローチが……」
「あ、あの、そこら辺は良いので。あと、正巳でお願いします」
一から全て聞いていたらそれこそ夜が明けてしまう。
「んー仕方ない。正巳君、つまりね、僕が君を見ていて、良いタイミングで君がここに来るように誘導したんだ」
分かりやすい。
最初からそうやって話して欲しい。
「なるほど?その誘導がパソコンのキーボードを使えなくする事ですか?」
言葉通り取ると、ただ俺を呼ぶ為に。それだけの為に、手の込んだ事をしたと云う事になる。
「うん。君をここに呼んだ理由として、正当な理由が必要だったからね」
「それは、僕にとっての正当な理由ではないですよね……?」
そう、さっきまでは”俺にとっても”正当な、理由があった。
パソコンが壊れたという理由が。
しかし、既に”それを仕組んだのは僕だ”と今井さんから暴露されている。
「もちろん君にとって正当な理由では無いかもしれないけど、意地悪した訳じゃないよ。君には、そんな意地悪しても仕方ないしね」
……君にはと言う部分に少し思う所が有ったが、今は重要ではないので触れないでおく。
「それでは、なぜ……?」
「それは、”壊れたパソコンを直しに来た”という記録が必要だったから」
記録?
「記録ですか?」
少し変だと思う。
単に記録が欲しければ、記録自体を勝手に作ってしまえばいいのに。
技術の今井と言われるくらいだ、そんな事くらい朝飯前だろう。
「うん。内扉の前にあるドアは、開閉こそ中で出来るけど、入退室の記録は全て外部の会社が管理しているんだ。それで、外のドアにはカメラが付いてるだろ?そのカメラにパソコンを持ってる姿を記録させる必要があったんだ。」
うん?
「なるほど?……でも、それだと、ただ僕に”パソコン持参”とメールをくれれば良いんじゃ?」
「いや、ただメールを見てパソコンを持って来たんじゃ、後々調べられた時に不味い。”メールを見たから来た”と思われる。それに偶然性が欲しかったからね」
つまり、誰かに指示されて来たと云うのではなくて、”自然に”来た。と言う状況が欲しかったのか……誰対策?
「それで、パソコンのキーボードをロックしたと……」
「そう!丁度見ていたら、君がパソコンの上に珈琲を溢していたからね。その様子もちゃんとカメラに記録されているよ」
……まじか、会社ではプライバシーは無いらしい。
プライバシー?
あれ?
……不味くないか?
「今井さん、話は変わりますが、カフェエリアの個室にもカメラとか機械有るんですか?」
もし、カメラやマイクなんかが有ったら、午前中に先輩と話していた事が筒抜けになっていると云う事になって色々と不味い。
「カフェ?ああ、あそこのエリアは、社長とか役員とかが利用する事もあるとかで、そういった機械類は一切入ってないよ」
ふぅ……一安心。
「そうですか。ところで、肝心の話を聞いても?わざわざ手を回して苦労した訳ですし、こうしてただお話をしたかった訳でも無いでしょうし」
「まあ、久しぶりに話したかったのは間違いじゃないんだけどね……そうだね、正巳君。これを見てどう思う?」
そう言って今井さんが俺のパソコンの画面をこちらに向けてくる。
……うん。
「えっと、統計データですね」
「それで、これは?」
スライドすると次のデータが表示される。
「これは……決算書ですか?」
薄々何を言いたいのか気が付いているが、わざわざ自爆する必要もないのでとぼける。
「そう、これは先月行われたイベントの決算目録だね」
……何を言わせたい?
「はい。はじめて見ましたが、私が担当した案件なので分かりました」
今井さんが、じっとこちらを見ている。
「それで、これは?」
そう言って、すっかり機能を取り戻したキーボードにカタカタと打ち込む。
「……」
そこには、赤文字で表示された”シンガポール支援活動部署”の文字が表示されていた。
「分かるかな?」
顔が強張る。
何を知っている?
と云うか、なぜ俺にこんな話をしている?
「えっと、寄付先の一つでしょうか?」
答えると、今井さんがニヤリとする。
「それで、これまでその”寄付先”にこの団体は有ったかな?」
誤魔化せない。
そもそも、統計分析をする為のデータの半分は今井さんから貰った。だからこそ、過去に寄付した寄付先に”シンガポール支援活動部署”なんて無いのをお互いに知っているはずだ。
「いえ、有りませんでした」
「では、なぜ今年から”有る”んだと思う?」
そこまで言われてやっと気が付いた。
「まさか、今井さんが載せたんですか?」
ニヤッと笑う顔を見て、何やら禄でもない事を考えてそうだな、と思いながら、少し話を聞いてみる事にした。
何故椅子に座っているかって?
それはね、今井さんが解体しているからだよ……パソコンを。
「おやおや、これはこれは…綺麗にしましょうね~フフフ……」
声だけ聴いていると自然と警察に通報したくなるが、目の前で行われているのはあくまでも機械の整備清掃だ。
「あの、それでさっき言っていた、ロックしたというのは……?」
そう、目の前で繰り広げられている変態的行為はどうでも良い。
重要なのは、そんな事ではない。
「ん?ああ、プラスくん。それはね、このパソコンを通して見ていたんだ。で、丁度良いタイミングでコードを走らせることで、あ、ここで言うコードはあくまでもローカルをその対象としていてね、同じ事をグローバルでやろうとするならまた違ったアプローチが……」
「あ、あの、そこら辺は良いので。あと、正巳でお願いします」
一から全て聞いていたらそれこそ夜が明けてしまう。
「んー仕方ない。正巳君、つまりね、僕が君を見ていて、良いタイミングで君がここに来るように誘導したんだ」
分かりやすい。
最初からそうやって話して欲しい。
「なるほど?その誘導がパソコンのキーボードを使えなくする事ですか?」
言葉通り取ると、ただ俺を呼ぶ為に。それだけの為に、手の込んだ事をしたと云う事になる。
「うん。君をここに呼んだ理由として、正当な理由が必要だったからね」
「それは、僕にとっての正当な理由ではないですよね……?」
そう、さっきまでは”俺にとっても”正当な、理由があった。
パソコンが壊れたという理由が。
しかし、既に”それを仕組んだのは僕だ”と今井さんから暴露されている。
「もちろん君にとって正当な理由では無いかもしれないけど、意地悪した訳じゃないよ。君には、そんな意地悪しても仕方ないしね」
……君にはと言う部分に少し思う所が有ったが、今は重要ではないので触れないでおく。
「それでは、なぜ……?」
「それは、”壊れたパソコンを直しに来た”という記録が必要だったから」
記録?
「記録ですか?」
少し変だと思う。
単に記録が欲しければ、記録自体を勝手に作ってしまえばいいのに。
技術の今井と言われるくらいだ、そんな事くらい朝飯前だろう。
「うん。内扉の前にあるドアは、開閉こそ中で出来るけど、入退室の記録は全て外部の会社が管理しているんだ。それで、外のドアにはカメラが付いてるだろ?そのカメラにパソコンを持ってる姿を記録させる必要があったんだ。」
うん?
「なるほど?……でも、それだと、ただ僕に”パソコン持参”とメールをくれれば良いんじゃ?」
「いや、ただメールを見てパソコンを持って来たんじゃ、後々調べられた時に不味い。”メールを見たから来た”と思われる。それに偶然性が欲しかったからね」
つまり、誰かに指示されて来たと云うのではなくて、”自然に”来た。と言う状況が欲しかったのか……誰対策?
「それで、パソコンのキーボードをロックしたと……」
「そう!丁度見ていたら、君がパソコンの上に珈琲を溢していたからね。その様子もちゃんとカメラに記録されているよ」
……まじか、会社ではプライバシーは無いらしい。
プライバシー?
あれ?
……不味くないか?
「今井さん、話は変わりますが、カフェエリアの個室にもカメラとか機械有るんですか?」
もし、カメラやマイクなんかが有ったら、午前中に先輩と話していた事が筒抜けになっていると云う事になって色々と不味い。
「カフェ?ああ、あそこのエリアは、社長とか役員とかが利用する事もあるとかで、そういった機械類は一切入ってないよ」
ふぅ……一安心。
「そうですか。ところで、肝心の話を聞いても?わざわざ手を回して苦労した訳ですし、こうしてただお話をしたかった訳でも無いでしょうし」
「まあ、久しぶりに話したかったのは間違いじゃないんだけどね……そうだね、正巳君。これを見てどう思う?」
そう言って今井さんが俺のパソコンの画面をこちらに向けてくる。
……うん。
「えっと、統計データですね」
「それで、これは?」
スライドすると次のデータが表示される。
「これは……決算書ですか?」
薄々何を言いたいのか気が付いているが、わざわざ自爆する必要もないのでとぼける。
「そう、これは先月行われたイベントの決算目録だね」
……何を言わせたい?
「はい。はじめて見ましたが、私が担当した案件なので分かりました」
今井さんが、じっとこちらを見ている。
「それで、これは?」
そう言って、すっかり機能を取り戻したキーボードにカタカタと打ち込む。
「……」
そこには、赤文字で表示された”シンガポール支援活動部署”の文字が表示されていた。
「分かるかな?」
顔が強張る。
何を知っている?
と云うか、なぜ俺にこんな話をしている?
「えっと、寄付先の一つでしょうか?」
答えると、今井さんがニヤリとする。
「それで、これまでその”寄付先”にこの団体は有ったかな?」
誤魔化せない。
そもそも、統計分析をする為のデータの半分は今井さんから貰った。だからこそ、過去に寄付した寄付先に”シンガポール支援活動部署”なんて無いのをお互いに知っているはずだ。
「いえ、有りませんでした」
「では、なぜ今年から”有る”んだと思う?」
そこまで言われてやっと気が付いた。
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