縁の下の能力持ち英雄譚
0043.会食
「落ち着いたら腹が減ってきたな」
「それはそうよ。だって貴方、三日も寝ていたんだもの」
なんと。人間そんなに寝れるものなの。やっぱりあの青い核は別格だったということか。そう言えばあの後はどうなった? 狼達は?
顔に出ていたのか、ミラは微笑んで提案した。
「食事を用意させるから、事の顛末、それに今後のことも含めてゆっくり話しましょうか」
場所はリッカが知っているからまた後で、と言いながらミラとフィーナは部屋を後にした。あの表情からすると、とりあえず事態は収束に向かっているようだ。
「ここは城の中だよな」
「そう。あたしも昨日目が覚めたところ」
リッカも二日寝ていたということか。忘れもしないリッカが見せた能力はそれなりの負担だったということだ。もっとも、初めて能力を使ったということも理由の一つかもしれない。
「身体に異常は?」
リッカは首を横にふった。
「昨日のうちにママ達にも会ってきたよ」
「そうか」
もう母さんと呼ぶのもやめたようだ。初めて会ったときの口の悪さからするとかなり丸くなって感慨深い。おそらくこれが本来のリッカで自然体に近づいたということなのだろう。クルトとのことでまた一段と変わったかな。
俺たちの今後のことについても、もう一度考えないといけないな。もともとリッカはクルトの腕を治すために旅に出るつもりだった。そうすれば昔のように戻れると思ったからだ。だが今となっては無理にそうする必要はないし、もしクルトがその気ならクルトと一緒に旅に出るほうが合理的でもある。まあ、母親だけを残すのも心配だろうけど。いずれにせよリッカの家族も含めて話したほうがよさそうだ。
「そう言えば、ミラとも仲良くなったのか?」
気安くリッカと呼ばれていたことを思い出す。
「ん。普通に話せるくらいには」
「それはよかったな」
聡明で大人びている二人だから話もかみ合うだろう。もっとも王女なのに無闇に権威をふりかざさないミラの人当たりあってこそでもあるけれど。人間関係はわからないがミラにとっても同年代の友人は貴重なのではないだろうか。
「さて、話し込んで待たせても悪いし、そろそろ行くか」
部屋を後にし、リッカに連れられて暫く歩くと侍女たちが前方の部屋の扉の前で待機していた。侍女たちは一度お辞儀をすると扉を開く。
そこは華美な装飾が施された長いテーブルと背の高い椅子が並んでいた。部屋の壁には品の良い絵画や芸術品が置かれている。
だが、それよりも驚いたのは別のことだった。
長いテーブルの先、いわゆるお誕生日席にある特に立派な席。そこに男性が腰掛けていたのだった。
これは、もしかしなくてもおそらく想像通りの人物だと思われる。あれ、ミラさん。ゆっくり話そうって言ったよね。全く心が休まりそうにないんだけれど。顔には出さないように心でため息をついた。
「お初にお目にかかります。ヤマトと申します。……このような場に慣れていないものでして、礼儀作法がなっていないところがあるかもしれませんが何卒ご容赦を」
王に謁見する作法なんてしらないし、そもそも謁見の間でもなく食事の場である。というか、王の名前も知らないぞ、俺。
「リッカです。マール王。お目にかかることができて光栄の極みでございます」
ナイスだリッカ。マール王ね。頭を下げたリッカと一瞬目が合った。え、まさかわざとなの。詳しく確認をする余裕もなく王の言葉を頂戴した。
「面を上げてくれ。気にすることはない。そなたたちは重要な客人、いや、我々にとっての恩人だ」
ほっ。厳格な王ではなさそうだ。顔をよく見ると渋いイケメンのおじさんだ。
「それにミラにしても王族だ。私にも同じように接してくれて良いのだぞ」
マール王は薄っすらと余裕のある笑みを見せる。
「あ、あはは」
苦笑するしかなかった。既に席に座っていたミラが笑っている。この親にしてこの娘ありか。
緊張がほぐされたところで席につくように勧められリッカと席についた。まもなく一品目の料理が運ばれてテーブルを彩った。
「さあ、遠慮せず召し上がってくれ」
「では、頂きます」
湯気がほわっと広がっているスープだった。
う、うめぇ……。疲れた身体に染みる。しばらく休んでいた胃に優しい味だ。生きててよかったと思わせてくれるような安心の味。
あっという間に飲み干してしまった。やべ、こういう食事は周りと早さを合わせないといけなかったかと終わってから気づく。
「す、すみません、あまりにも美味しくて」
「ふふふ。よい食べっぷりだ」
「すっかり回復したようね」
幸いなことにマール王もミラも暖かい反応だった。ミラが次の料理を頼んでくれて食事が進むうちに場が和んできた。
「なるほど、狼達は森に帰ったのですね」
あの後、白大狼はリッカを近くに降ろし、代わりに仲間の白狼達を引き連れて黒大狼を連れて行ったらしい。
「ええ。とどめを刺すべきか迷ったけれど、もう黒大狼ではなくなってしまっていたのよね」
身体も小さくなり、毛も本来の白色に戻っていたらしい。
「実は似たような報告が街の入口で闘っていた兵士からも上がっているのよ。……あれは魔物ではなくなったという理解で間違いないのかしら?」
「……そのはずです」
「ヤマト殿」
マール王が口を挟んだ。
「リッカ殿と違ってそなたはブレイズ王国の出身ではないと聞いている。しかし、できる範囲で構わない。そなたのことを教えてはくれぬか。もしかしたら私達から有益な情報も与えることができるかもしれん」
この状況で嫌だと言えるほど空気が読めないわけではない。
「……分かりました。では、今日までの経緯を少しお話致します。そのかわり、一つお願いしたいことがございます」
そう言って自分自身、整理を始めるのだった。
「それはそうよ。だって貴方、三日も寝ていたんだもの」
なんと。人間そんなに寝れるものなの。やっぱりあの青い核は別格だったということか。そう言えばあの後はどうなった? 狼達は?
顔に出ていたのか、ミラは微笑んで提案した。
「食事を用意させるから、事の顛末、それに今後のことも含めてゆっくり話しましょうか」
場所はリッカが知っているからまた後で、と言いながらミラとフィーナは部屋を後にした。あの表情からすると、とりあえず事態は収束に向かっているようだ。
「ここは城の中だよな」
「そう。あたしも昨日目が覚めたところ」
リッカも二日寝ていたということか。忘れもしないリッカが見せた能力はそれなりの負担だったということだ。もっとも、初めて能力を使ったということも理由の一つかもしれない。
「身体に異常は?」
リッカは首を横にふった。
「昨日のうちにママ達にも会ってきたよ」
「そうか」
もう母さんと呼ぶのもやめたようだ。初めて会ったときの口の悪さからするとかなり丸くなって感慨深い。おそらくこれが本来のリッカで自然体に近づいたということなのだろう。クルトとのことでまた一段と変わったかな。
俺たちの今後のことについても、もう一度考えないといけないな。もともとリッカはクルトの腕を治すために旅に出るつもりだった。そうすれば昔のように戻れると思ったからだ。だが今となっては無理にそうする必要はないし、もしクルトがその気ならクルトと一緒に旅に出るほうが合理的でもある。まあ、母親だけを残すのも心配だろうけど。いずれにせよリッカの家族も含めて話したほうがよさそうだ。
「そう言えば、ミラとも仲良くなったのか?」
気安くリッカと呼ばれていたことを思い出す。
「ん。普通に話せるくらいには」
「それはよかったな」
聡明で大人びている二人だから話もかみ合うだろう。もっとも王女なのに無闇に権威をふりかざさないミラの人当たりあってこそでもあるけれど。人間関係はわからないがミラにとっても同年代の友人は貴重なのではないだろうか。
「さて、話し込んで待たせても悪いし、そろそろ行くか」
部屋を後にし、リッカに連れられて暫く歩くと侍女たちが前方の部屋の扉の前で待機していた。侍女たちは一度お辞儀をすると扉を開く。
そこは華美な装飾が施された長いテーブルと背の高い椅子が並んでいた。部屋の壁には品の良い絵画や芸術品が置かれている。
だが、それよりも驚いたのは別のことだった。
長いテーブルの先、いわゆるお誕生日席にある特に立派な席。そこに男性が腰掛けていたのだった。
これは、もしかしなくてもおそらく想像通りの人物だと思われる。あれ、ミラさん。ゆっくり話そうって言ったよね。全く心が休まりそうにないんだけれど。顔には出さないように心でため息をついた。
「お初にお目にかかります。ヤマトと申します。……このような場に慣れていないものでして、礼儀作法がなっていないところがあるかもしれませんが何卒ご容赦を」
王に謁見する作法なんてしらないし、そもそも謁見の間でもなく食事の場である。というか、王の名前も知らないぞ、俺。
「リッカです。マール王。お目にかかることができて光栄の極みでございます」
ナイスだリッカ。マール王ね。頭を下げたリッカと一瞬目が合った。え、まさかわざとなの。詳しく確認をする余裕もなく王の言葉を頂戴した。
「面を上げてくれ。気にすることはない。そなたたちは重要な客人、いや、我々にとっての恩人だ」
ほっ。厳格な王ではなさそうだ。顔をよく見ると渋いイケメンのおじさんだ。
「それにミラにしても王族だ。私にも同じように接してくれて良いのだぞ」
マール王は薄っすらと余裕のある笑みを見せる。
「あ、あはは」
苦笑するしかなかった。既に席に座っていたミラが笑っている。この親にしてこの娘ありか。
緊張がほぐされたところで席につくように勧められリッカと席についた。まもなく一品目の料理が運ばれてテーブルを彩った。
「さあ、遠慮せず召し上がってくれ」
「では、頂きます」
湯気がほわっと広がっているスープだった。
う、うめぇ……。疲れた身体に染みる。しばらく休んでいた胃に優しい味だ。生きててよかったと思わせてくれるような安心の味。
あっという間に飲み干してしまった。やべ、こういう食事は周りと早さを合わせないといけなかったかと終わってから気づく。
「す、すみません、あまりにも美味しくて」
「ふふふ。よい食べっぷりだ」
「すっかり回復したようね」
幸いなことにマール王もミラも暖かい反応だった。ミラが次の料理を頼んでくれて食事が進むうちに場が和んできた。
「なるほど、狼達は森に帰ったのですね」
あの後、白大狼はリッカを近くに降ろし、代わりに仲間の白狼達を引き連れて黒大狼を連れて行ったらしい。
「ええ。とどめを刺すべきか迷ったけれど、もう黒大狼ではなくなってしまっていたのよね」
身体も小さくなり、毛も本来の白色に戻っていたらしい。
「実は似たような報告が街の入口で闘っていた兵士からも上がっているのよ。……あれは魔物ではなくなったという理解で間違いないのかしら?」
「……そのはずです」
「ヤマト殿」
マール王が口を挟んだ。
「リッカ殿と違ってそなたはブレイズ王国の出身ではないと聞いている。しかし、できる範囲で構わない。そなたのことを教えてはくれぬか。もしかしたら私達から有益な情報も与えることができるかもしれん」
この状況で嫌だと言えるほど空気が読めないわけではない。
「……分かりました。では、今日までの経緯を少しお話致します。そのかわり、一つお願いしたいことがございます」
そう言って自分自身、整理を始めるのだった。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
2
-
-
2813
-
-
125
-
-
1359
-
-
4405
-
-
3087
-
-
267
-
-
314
-
-
22803
コメント