縁の下の能力持ち英雄譚

瀬戸星都

0023.再会

 
「手の空いたものは怪我人の救護にあたりなさい」


 ミラの指示の下、兵士たちは負傷者の手当や搬出を行っていた。ギルドはギルドで集まってメンバーの生存確認を進めている。


 戦場に残った白い狼達を見ながらミラが話しかけてきた。


「どう考えたらいいのかしら?」


「事実として助けられたことは間違いないが……」


 果たして狼が意志を持って助けたのか。偶然か。
 しかし、そんなことよりも気になることがあった。


「さっきから兵士たちの視線が痛いんだが」


 当然だ。王女が見知らぬ一介の旅人と親しそうに会話しているのである。しかも手をつないで。


「気にしないことね。うまく言っておくわ」


 調和の力によりミラは能力の代償で上がっていた体温が引いているのを感じているようだ。
 一方でヤマトは少しずつ体温が上がるのを実感していた。意識することで前回よりもゆっくりと調和できるようになっていたのは成長だった。


「それに、貴方と話していると考えが整理される気がするのよ」


「知ってることは何もないんだが……」


 隣ではリッカが二人の手を見つめていた。


「ふん。そんなふうにも能力が使えるんだな」


 少し仏頂面になっている。


「あら、も、というのは気になるわね」


 ミラは鋭く語尾をとらえたが、リッカもそれ以上は何も喋らず知らん顔だ。
 ほら、仲良くしような。特にリッカ。これでもミラは王女だぞ。最初のかしこまった様子はどこへいった。
 余計なことはしゃべらないようにしてくれているリッカなりのやり方なのかもしれないが。


「もう少しよくわかったら説明するよ」


 魔物化を元に戻せる、という力が本物かどうかはまだわからないし不確定な情報は混乱を招きかねない。


「まあいいわ。それよりもこれからどうするか、ね」


 眼前の白い狼達は襲ってくる気配はない。


「敵意はないようだけど、放っておいてもいいのかしら」


 ミラもこの状況に戸惑っているようだ。


 その時、白い狼の群れの中から一匹の白いものが抜け出してこちらに駆けてきた。


「て、敵しゅっ!?」


 敵襲と言おうとして言いとどまった。
 駆けてきたのは他の狼と比べてもかなり小さい。こんな狼が混じっていたのか。


「ん?」


 駆けてきた狼はその勢いのまま自分の足に噛みついてきた。しかしそれは攻撃ではなく戯れてきたような甘噛だった。


 デジャヴ? いや、実際に身に覚えがあった。記憶を呼び起こす。


「おまえもしかして、あの村の……」


 ーーワォン!


 小さい狼は返事をするように鳴き声を上げた。


 こちらの世界にきて初めて出会った生き物だった。確かチョコレートを一緒に食べたんだった。なんだ、てっきり子犬かと思ったが、お前、狼の子供だったんだな。頭を撫でてやる。


「め、珍しい知り合いがいるのね」


 さすがのミラも少し驚いた様子だった。


「ああ、もしかしてこいつは、狼の恩返しだったのかもしれない」


「どういうことだ?」


 リッカが説明を求める。
 狼は撫でられるのに飽きたのか、興味津々にリッカの方に歩み寄っていた。


「以前、旅していた時にこいつと会ってな。食べ物を与えたんだ」


 おそらくあの後、群れに合流できたのだろう。それにしても一飯の恩を返すなんて義理堅すぎる。いや、気高い狼だからこそなのか。小さい狼の身体をざっと確認したが魔石は確認されない。


「……おそらく白い狼達は魔物化していない狼達だ。森のなかでもたぶん縄張り争いがあるのだろう。白い狼と黒い狼は敵対している可能性が高い。今回助けられたのは狼の恩返しだったのか、単に黒い狼を横から叩くいい機会だったのかもしれないが。いずれにせよ、敵の敵は味方だったということじゃないか」


 自分の見解を述べた。今のところ否定する材料もないはずだ。


「私たちは貴方に助けられたということかしら?」


「いや、それは言い過ぎだろう」


 言い過ぎだよな?


「まぁ否定することでもないんじゃないか。実際にこうしてチビ狼が会いにきているわけだし」


 リッカはそう言って足元にきた狼をモフモフしていた。完全に頬が緩んで年相応の少女の顔になっている。


 すると、白い狼の群れのなかから、もう一匹の狼がこちらに歩いてくるのが見えた。今度は成犬、いや成狼と言うべきか。動きはゆっくりで、まるで敵意が無いのを示すかのようであった。数メートルまで近づいたところで、小さい狼は近づいてきた狼に寄っていった。親子だろうか。


「助かった。ありがとう」


 人語がわかるとは思っていなかったが一応礼を言っておいた。


 ――ワレラ、ボス、アウ


「なっ!?」


 リッカ、ミラとともに思わず驚きの声を上げた。


 白い狼はたどたどしいながら意味のある言葉を喋ったのだった。



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