縁の下の能力持ち英雄譚
0003.行く先には
村のはずれからはちょっとした道ができていた。舗装されたものではなく人々が歩いて草が生えにくくなったようだ。やや遠くに林が見える。どうやら道の先はあの林につながっているようだ。他に目印になるようなものはなく、道に沿って進むことにした。
道中、両側を見渡すが人里は見当たらない。残念ながら転生したのはかなり田舎の村だったのかもしれない。更に進むと、ようやく林にたどり着いた。林に入りしばらく歩くとそのまま抜けてしまった。ついでに道がなくなった。
「木材でも採集するための道だったか?」
隣町との交易のための道と期待していただけに政治家ばりに遺憾の意を表したい。そう思いつつ林を抜けて少し小高い丘を超えたところで鬱蒼とした森が眼下に広がった。どうやら進む方向を完全に間違ったようだ。
しかしながらここで村に戻るのも間抜けである。ついでに喉もカラカラだ。考えた末に少し森に入って水と食料になるものを探すことにした。もちろんサバイバルの経験もないので、とにかくわかりやすく食べらるものがみつかれば御の字である。
「贅沢を言えば果物、あるいは木の実か何か…キノコは少し危険な気がするな」
あたりをキョロキョロと見回しながら、奥に進んでいく。空は生い茂った木で覆われ辺りは薄暗い。道に迷いそうだし、何か出てきそうで気味が悪い。魔物が住んでいる可能性もある。
「これ以上深入りするのは危険か」
しばらく進んだがめぼしいものは何も見つからなかった。そろそろ戻らないと本当に道がなわからなくなりそうだ。
引き返すか、と後ろを振り返った瞬間、反射的に近くの木の陰に隠れた。
「あれは……まさか魔物か?」
実物を見たことはないので確証はないが、漫画やテレビで見かける狼の姿そのものである。体の色からはどちらかと言えばシベリアンハスキー犬によく似ている。実際は犬だったりしないだろうか。数は、一、二、……十匹ほどだ。野生の凶暴さは想像もつかないがとにかく数が多く、襲われたらひとたまりもないだろう。
「逃げるしかないな」
目を離さずに慎重に後ずさりゆっくりとその場を離れる。
しばらくして姿が完全に見えなくなると、もう少し距離をとるために走りだした。
まいったなぁ。もう来た道は戻れない。
そのまま何時間歩いただろうか。気を張っていたためか、時間の感覚がなくなってきた。木刀も単なる杖代わりとなっている。流石にもう喉が乾いて限界だ。脱水症状を自覚しながらゆっくりと歩いていくと、遠くでわずかな音が聴こえてきた。
「水の音だ!」
近くに川があるのだろうか。何にせよありがたい。音がするということは流れがあるということだ。溜まって死んだ水ではない。不思議なものだ。さっきまでは歩くのも億劫だったのに、突然体が軽くなった。
茂みをかき分け音のする方へ急ぐ。心なしか周りも明るくなってきた。どうやら開けた場所に出るようだ。森の終端だったら嬉しい誤算だ。
そんなことを考えながら、歩みを進めると一気に視界が広がった。
「これは……神殿か?」
陽だまりの中に白い建物が悠然とそびえ立ち、その背後にある細滝から下りてきた水が建物の周囲を囲むように流れていた。底まで透き通った水とその水辺に咲く色とりどりの小さな野花は完成された一枚の絵画のように、まるで世界を切り取ったかのように調和している。神秘的、幻想的なその佇まいに自然と背筋が伸びた。
おおよそ人が造ったものとは到底思えないその空間に、恐れ多くも足を踏み入れた。
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