五導の賢者

アイクルーク

last question

 








 ようやくたどり着いたんだね








 誰だ、お前?


 ってか、なんだここ


 何も見えないぞ?








 色々と質問があるみたいだね


 けどまずは一つずつ、ゆっくりと話そうか?








 ゆっくりって‥‥まぁ、いいか


 ここはどこなんだ?


 俺はさっきまで魔人と戦っていたはずだが?








 ここはどこ、って質問か‥‥


 それは少し答えるのに悩んじゃう質問だな〜








 いいから早く話せ








 も〜、せっかちなんだから


 まぁこれまでの君の境遇を考えれば、わからないこともないけどさ








 ‥‥‥‥








 それはさておきここはどこ、って質問だよね?


 答えは魂の狭間とでも言うべきかな








 魂の狭間?








 うん、そうだよ


 魂と魂の間、魂の境界線って言うのが一番近いかな?








 魂の境界線‥‥?








 さぁ、次の質問どうぞ


 私が知ってることなら、なんでも答えるよ








 ‥‥あんたは誰だ?








 自分の心に訊けばわかると思うよ


 今君が考えている人物、それが私。


 正確にはその人物の中の一人、って言うのが正しいところなんだけどね








 じゃあ‥‥あんた、賢者か?








 正解〜


 正確には『水の』と『初代』が加えられるかな








 ‥‥なら一つ、訊いてもいいか?








 もちろん


 なんでも訊いて








 なんで俺だった?


 なんで俺が選ばれたんだ?








 ‥‥私たちのこと、憎んでる?








 あぁ、ずっと憎んでいた


 だが今は‥‥わからない








 そっか‥‥そうだよね


 まずは謝らなきゃね


 本当に‥‥ごめんなさい


 できるのなら、誰も巻き込みたくはなかった


 でも、これしか方法がなかったの‥‥








 ‥‥今になって少しだけわかってきた


 あんた達も誰かを守ろうとしたのだろう、と








 私たちが君を選んだ理由、だったね?


 それは君の器の大きさ、魂の許容量が大きいことなんだ








 魂の許容量?








 疑問に思ったことはない?


 一つの体に六つもの魂を宿していられることに


 一つの体に一つ魂、それが人間の限界、世界の理


 でも、たまにいるんだ‥‥君みたいに、複数の魂に耐えられる人が








 つまり‥‥俺が選ばれたのは必然だったと


 そういうことか?








 そうとも言えるし、そうでないとも言える


 君の魂が強かったのは偶然か必然か、それは私にもわからない


 ただ、これだけは言わせて欲しい


 私たちは六度にわたり共に戦う人を探した


 その中でもこれだけの器を持っていたのは君一人だけだった








 ‥‥そうか








 本当に巻き込んでしまって、すみません








 いつから、あんた達はこんなことを続けているんだ?








 ‥‥三百年以上も前の話、とある存在が人々を虐殺し続けていたの


 私たちも必死に戦いました、ですが所詮は人間の力、まともに戦っても勝ち目はなかった


 そんな時、今で言う初代勇者が一つの決断を下した


 それは戦うことを諦め、封印することを


 封印の術式は極めて難解だったけど、幸いにも魔法陣を作るのに必要な六属性の使い手は揃っていたから不可能ではなかった


 そして私たちは苦戦の末にあれを封印することに成功した








 相当苦戦したようだな








 えぇ、それはもう、何度死にかけたことか‥‥


 とまぁ、封印を終えた私たちは安堵し、そして完全に油断してしまったの


 次の瞬間、魔法陣から一つの魂が逃げ出した


 魔法陣は物体を封じるものであり、魂などを封じ込めるものではなかった


 それを見極めた今の魔王と呼ばれるものは自身の魂を体から切り離すことにより封印の術式を逃れたの


 私たちは逃げた魂を追い、魂が宿った人間を殺したけど、すぐに悟った


 何度殺しても終わらないことを








 ‥‥








 あとは‥‥わかるね?








 あんた達は自分達の魂をこの世界に縛り付けた


 魔王が生まれるたびにそれを倒すために








 うん、正解


 君達で七度目だよ








 あんた達も‥‥悲しいな








 私たちはこれで満足だよ


 だって自分達で道を選ぶことができたんだから


 でも、君たちは違う








 巻き込まれた、ってか?








 そう、君たちには‥‥特に君には、酷なことをしたと思う


 だからこそ、最後は自分で選んで欲しい


 賢者の力を受け入れるか、もしくは‥‥拒絶するか








 ‥‥どういうことだ?


 賢者の力って、なんだ?








 本来の賢者が得るべき力、君はある理由によりそれを得られなかった








 ある理由ってなんだ?








 勇者、賢者を選ぶ際に基準となるのは二つ


 一つはさっきも言ったように魂に耐えられる器の大きさ


 もう一つは力を扱うに足り得る心


 君は前者こそ素晴らしかったが、後者が備わっていなかった


 それがなんだか‥‥今の君ならわかると思うな








 ‥‥勇気


 誰かを守ろうと戦う気持ち








 うん、そうだよ


 君は器こそ並外れていたが、そこだけがずっと引っかかっていた








 俺が本来の力を使えないのはわかったが、それを拒否する理由があるか?


 ただで強くなれるのならわざわざ質問する理由が見当たらない








 さすがだね


 でも詳しくは言えない


 私から言えることはたった一つ


 力を得れば君は決して引き返せなくなる


 生半可な覚悟で頷くことは許されないよ








 引き返せなくなる?


 どういうことだ?








 これ以上は何も答えることができない


 最後にもう一度だけ訊いておくよ






 力を受け入れるか




 力を拒絶するか






 どちらか、選べ














「────っ!?」








「起きるんだ、レンっ!!」


 耳元で叫ばれる自身の名前に体を跳ね上がらせる。
 周りの風景を見る限りここは修練場入り口‥‥そうか、俺は気絶していたんだったか
 首を真横にひねるとそこには真っ青な顔をしたアーツがいた。


「アーツ、久しぶりだな」


 周囲では多くの人が修練場から出ており、ガヤガヤと騒がしい。
 俺の体の傷は治癒魔法をかけたのであろうか、すっかり痛みが引いていた。


「あぁ、久しぶり。それより今はそれどころじゃないんだよ」


 額から汗を流し、妙に口早なアーツ。
 何を焦っているのだろうか。
 周りを見渡す限り魔人の姿は見えない。


「レン、落ち着いて上を見てくれ」


「上‥‥?」


 俺はアーツに言われるがままに鉛色の空へと視線を移す。
 すると、その中にポツリと見える黒の円。


「なんだあ‥‥っ!?」


 思考に余裕が生まれ、周りの魔力感知を行ったところ、すぐさま凄まじい魔力を感じ取る。
 それならはこれまで見たどの魔法をも上回る魔力が感じられ、それは最上級魔法を悠々と上回っていた。


「魔王だ。数分前に修練場の上空に現れたかと思うとすぐにあれを作り始めたんだよ」


 距離がいまいち掴めないせいで黒球の大きさまではわからないが、その魔力からして修練場を吹き飛ばすだけはありそうだ。


「レン、すぐに逃げよう。このままここに残っていても、殺られるのは目に見えている」


 そう言いながら俺の手を掴み立ち上がるアーツ。
 だが、俺の視線が逃げ惑う市民へと移る。


「市民の避難は‥‥どうなっている?」


 アーツは一瞬だけ目を逸らすが、すぐに覚悟を決めた顔をする。


「兵士達が必死に誘導しているがまず間に合わないだろう。だが、レン。今の君にはどうすることもできないんだ。ここは逃げよう」


 確かにいくら寝ていたからとはいえ、回復した魔力を僅か。
 とてもじゃないがあの黒球を止めれるような力は残っていない。


 ──選べ


 頭の中でその単語が蘇る。


 今がその時か‥‥


 俺はすぐ横に置いてあってクインテットを手にすると、アーツの手を振り払い立ち上がる。


「レン‥‥?」


 ──力を受け入れるか


 俺は遥か上空にいる魔王を見上げながら数歩だけ歩く。


 ──力を拒絶するか




 引き返せなくなって後悔するか




 多くの人を見殺しにして後悔するか




 俺は左手を胸へと当てる。




「俺は力を、受け入れる」


 胸に何かが灯るような感覚。


 そして次の瞬間、頭に耐え難い激痛が走る。
























































































































「そういう、ことだったのか」













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