五導の賢者

アイクルーク

意外な事実

 デジャラを出発してから三日が経ち、予定通りに進んでいた俺達はコラという村に立ち寄る。
 コラは俺達の目的地であるベルーガと王国を結びつける中継地点となっている村。
 俺がこの村を見てまず思ったのはその大きさ。
 元の世界にいた頃からの固定観念なのか村は小規模なものとイメージ付いていたが、それを見事に覆された。
 ラノンが言うには元々あった村がベルーガと王国を行き来する人が立ち寄ることで大きくなったらしい。


「凄い大きい村だね〜」


 村の門をくぐり抜けたところでリアが感嘆の声を漏らす。
 この村は前に通ったブレッジと違い周辺に魔物が多いため、防衛策として村全体が柵で囲われている。
 そして、その入り口には街と同じように門番が立っていた。


「そうですね。ここまで活気のある村に来るのは初めてです」


 やはりラノンも知識はあっても、実際に見て感じるものはあるようだ。
 街との違いはいくつかあるが、その中でも際立っているのが木造りの家しかないこと。
 それに加えて建物の建ててある場所が並んでおらず、あっちこっちに散らばって建てられていた。
 敷き詰められるように建てられている街とは違って、この村は空きスペースが多いな。


「さて、それでは時間も時間なので早めに行動に移すとしましょうか」


 アドネスの言う通り、すでに夕日が山によって半分ほど隠れている。
 じきに暗くなるだろう。
 目の前には木の看板があり、宿屋のある方角や店のある方角が記されていた。


「じゃあ、さっさと宿を探すか」


 いくら慣れているとはいえ、野宿よりも宿屋のベッドの方が休めるのも事実。
 今はさっさと疲れた体を休めたいところだ。


「それは僕達がやっておきますので、レンはリアと買い出しに行ってきてもらえますか?」


 アドネスがいつと変わりない笑顔を向けてくる。


「買い出しって、食糧とかか?」


 ここに来るまでに手持ちの食糧をいくらか消費したのでその補充だろうか。


「ええ。明日の朝にはここを出ようと思いますので、今日中に支度を終わらせておきます」


「えぇ!!   ちょっとそれは早すぎない!?」


 リアが声を張り上げて抗議するが、アドネスは首を横に振る。


「ラノンが魔人に狙われているのは明らかなので、次の魔人が来る前にベルーガに到着するのが理想です」


 確かにアドネスの言う通りだ。
 魔人八体が全滅した今、それ以上の戦力が送られる可能性は高い。


「わかった。暗くなる前にさっさと終わらせたい。行くぞ、リア」


「もー、しょうがないなぁ〜」


 アドネスが俺に三枚の銀貨を手渡してくる。


「買うものはわかりますね?」


「あぁ。ここ三日間で使ったものだろ」


 俺達はデジャラからここまでの道を飛ばしてきたため、食糧などはかなり消費している。


「あともう一つ。レンの分の物もそのお金で買っちゃってください。同行者という扱いとはいえ実質は護衛です。食費などはこちらで負担します」


「それは助かる」


 まぁ、賢者であることがばれた今、金に困ることはないとは思うが貰えるものは貰っておいたほうがいい。
 俺は手の中にあった銀貨を三枚連続で指で弾く。
 三枚の銀貨は宙で何度も回転しながら俺の手の中へと戻ってくる。


「よし、行くか」


 俺はリアを連れて店がある方向へと進んで行く。






 村の中にある道は全く整備のされていない土の道だったが多くの人に歩き踏み固められており、しっかりと道として成り立っていた。
 俺とリアは並んでその道を歩く。


「はぁ〜、アドネスも本当に真面目だよね。少しくらい休んでもいいと思わない?」


 リアは本人に言えなかった愚痴を俺にぶつけてくる。


「まぁ、しょうがないだろ。いくら俺でもこの間の倍の魔人が来たりしたらやばいからな」


 リアは俺の方をしばらく見てから何かを考え始める。


「レンってさ、賢者じゃん。それならラノンとも一緒になれたんだね」


 リアはどこか遠い目をする。


「そう‥‥だろうな」


 賢者の身分を持っている俺は、おそらく誰とでも結婚できるだろう。
 過去の賢者にも王女に求婚した者がいたとか。


「レン」


 突然、リアが改まって俺の名前を呼ぶ。


「なんだ?」


「ラノンはさ、小さい頃からずっと魔法の鍛錬ばっかりさせられてたんだよね」


 それは初耳だ。
 とはいえ、ラノンの魔導師としての技量はかなり高い。
 言われてみれば納得できる話ではある。


「それも魔法だけじゃなくて、帝王学とか、礼儀作法とか‥‥んー、とりあえずたくさんやらされていたんだよね」


 ラノンが博識な理由はそこにあるのか。
 厳しい環境の中で生きてきたんだろうな。


「あ〜、でも勘違いしないで欲しいんだけど、ラノンは嫌がってなかったし自分から勉強してる時もあったよ」


「それで?   何が言いたいんだ?」


 俺は道に転がっていた小石を何気なく蹴り飛ばす。
 石は放物線描いて近くにあった畑の中へと転がっていく。


「そんなに焦んないでよ。大事なのはこれからだから」


 店がありそうな場所はまだ見えない。
 そう焦る必要もないか。


「わるいわるい。続けてくれ」


「うん。えーと、なんだっけ‥‥」


 リどこまで話したかわからなくなったのかリアの口が止まる。


「そんなわけで昔からラノンは忙しかったんだ。だからさ、年の近い人と仲良くしたこと、あんまりないんだよね」


 それは‥‥可哀想だな。
 そんな感想しか出てこなかった。
 俺はこの世界に来るまで、昔っから遊んでばっかだった。
 生まれる世界が違うだけで、こんなにも変わるもんなんだな。


「ラノンが本当に仲良いのは私くらい‥‥かな。私だって、たまたま一緒に魔法を習っただけなんだけどさ」


 リアの愚痴のような内容に少し違和感を覚える。


「お前、ラノンと一緒に魔法を習ってたのか?」


 庶民出の魔導師がラノンと一緒に魔法を習えるはずがない。


「あっ、言ってなかったっけ?」


 リアは突然、足を止めて口元に指先を当てる。


「私‥‥元貴族なんだ」


「えっ‥‥?」


 予想外の暴露に気の抜けた声が出てしまう。


「うん、まぁ‥‥言うの忘れてた。ごめん」


 リアは両手を体の前で合わせて少しだけ頭を下げる。
 正直言って、普段のリアの様子からは貴族だったことなど想像もつかない。
 いや‥‥今思えば多少はその気もあったような気もする。


「今は貴族じゃないのか?」


 貴族が終わる理由は主に二つ。
 魔物などによって財産を失う場合と、王国などにその称号を剥奪される場合だ。
 リアは俺から顔を背けると、いつもより少し暗い声で話す。


「三年前の魔物襲来時にね。家族がみんな死んじゃって、財産も家も‥‥全部、燃えちゃったんだ」


 三年前、王都が大量の魔物達によって襲撃された。
 被害こそ最小限に抑えることができたものの、賢者が死亡した忌まわしき戦い。
 魔人もいたことから魔王の仕業であるのは間違いないが、その目的は未だに不明。


「それで途方に暮れていた私をラノンが救ってくれ‥‥って、なんで私の昔話になってるのよ」


 気持ちを切り替えるように首を何度か横に振ったリアはしっかりとした足取りで歩き出す。


「‥‥さぁな」


 リアが意外にも重い過去を背負っているなんてな。
 俺はどんどん進んで行くリアの横に並ぶ。


「話戻すからね!」


 リアは仕切り直しのためか一度咳払いをする。


「‥‥そういうわけでラノンはいっつも一人だったから、レンの存在は凄い新鮮なんだと思う」


「あぁ」


 リアが貴族だったことの印象が大きすぎて、正直いって会話があまり頭に入ってこない。


「ラノンは友情とか、恋愛とか、多分、本でしか知らなかったんだと思うんだ。そんな時‥‥レンと出会った」


 ブリッジでの偶然の出会い。
 少しでも運命が違っていれば、この出会いはなかっただろう。


「だからレン。ここからベルガーまでの間だけでいいから、ラノンを大切にしてあげてくれないかな?」


 ベルガーに行く間まで‥‥
 その言葉が俺の中で木霊する。
 そう、この旅もずっと続くわけではない。
 いつか終わりがくる。
 その時、俺は‥‥


「いや‥‥ずっと、だ」


 俺はリアに聞こえないように呟く。


「えっ?   なんか言った?」


 リアは俺の発言に気づいたのか顔を近づけてくる。


「なんでもない。それよりもラノンのことなら心配するな。俺はラノンへの態度を今までと変えたりはしない」


 その言葉でリアの顔がパッと明るくなる。


「そっか!!   よかった〜」


 嬉しそうに跳ね上がったリアはその勢いで前方を指差す。


「あ、なんか店がいっぱいありそうだよ」


 会話に意識が向き過ぎていて気づかなかったが、すぐ近くには看板を掲げた建物がいくつも見えた。


「本当だ‥‥って、リアは何買うかわかってるんだろうな?」


「え、そんなのわかるわけないじゃん」


 リアがそう言いながらドヤ顔を決めてくる。
 俺はそんなリアの頭を軽く叩くとアドネスから預かった銀貨を取り出す。
 本当は分担して買おうと思ってたんだが‥‥
 リアがこの様子じゃ、それは無理そうだ。


「もういい。リア、お前は荷物持ちをやれ」


「え〜、レディにそれは酷くない?」


「護衛として荷物の内容くらい把握しとけ」


 今度はクインテットでリアの頭を小突く。
 はぁ‥‥こりゃあ、暗くなる前に終わるのは無理そうだな。
 俺は役立たずのリアを連れて一軒目の店へと入っていく。





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