五導の賢者

アイクルーク

悲しき力

 
 限界を超え続けた俺の体はすでに歩くことすら負担になっている。
 加えて常人であれば気を失うほどの激痛も感じていた。


「貴方の力は大体わかりました」


 俺が三位級の魔人と戦っている間、高みの見物をしていた三体の二位級魔人は武器を向けてくる。
 なるほど。
 どうりで邪魔をしてこないと思ったら、情報収集に利用していたのか。


「へぇー、そうか。なら‥‥試してみるか?」


 俺は立ち止まるとクインテットを魔人に向ける。
 身体強化・雷サンダーブレイブを使った状態ならおそらく二位級魔人よりも身体能力は上。
 問題は三体を同時に相手すること、それに俺の体が持つかどうかだ。
 リーダー格の魔人はニヤリと笑うと残る二体の魔人が特攻してきた。
 剣を持った魔人は俺が与えたダメージがまだ残っているだろうが、もう一体の槍を持った魔人は全くの無傷。


身体強化・雷サンダーブレイブ


 全身から痛みが消え、力がみなぎってくる。
 先に槍の持った魔人が俺の胴体めがけて鋭い突きを放つ。
 俺はそれを翠に染まったクインテットで逸らすと、そのまま魔人の首へと切りかかる。
 だがそんな簡単にいくはずもなく、もう一体の魔人の剣によって阻まれた。
 槍を持った魔人は僅かに動きの止まった俺の腹を蹴ると、引き戻した槍で横薙ぎしてくる。
 俺には防ぐことも躱すこともできた。
 だが‥‥
 槍が俺の脇腹を強打し鈍い音を立てる。


「ぐっ‥‥撃雷衝ショックボルト!!」


 敢えて守りに回らず体で受けることによってカウンターとして雷魔法を直撃させる。
 今の音、肋骨辺りが折れたか‥‥
 戦闘中に動きを止めるわけにもいかず、すぐに魔人の振った剣をクインテットで受ける。
 実質一対一のこの状況。
 相手もダメージが残っているし、ここで仕留めるのがベスト。
 クインテットが茶色に染まると、強化された腕力に加えて土の魔力で剣圧の増した一撃を振るう。
 予想を上回る一撃だったのか、魔人は軽く剣を弾かれ、そのまま大きく態勢を崩す。
 俺はクインテットを大きく振りかぶり、全身の力を余すところなく使う。


「地割れ!!」


 こいつに使うのは二回目の技。
 だが、今回は身体強化・雷サンダーブレイブによる人外の身体能力も加わっている。
 クインテットの刀身が魔人の体にめり込むようにして埋まり、それと共に何本もの骨が折れる独特の鈍い音が響く。
 そのまま押し出すようにクインテットを振るうと魔人は人形のように抵抗しないまま地面を転がっていった。
 気絶したのか?
 いくら魔人といっても元々の体は人間。
 骨が折れれば痛いはずだし、腕を切られれば生えることもない。
 背後から刀を振るった際に聞こえるような風切り音が聞こえる。


「ぐっ‥‥氷山壁ジエロバーグ


 俺は反射で構えた腕から氷の障壁魔法を展開する。
 刹那に構築された氷壁は投擲された槍にえぐられながらもどうにかその勢いを殺す。


「チッ、速えな」


 得物を手放した魔人はそのまま突っ込んでくる。
 おそらくは槍を回収する気なのだろう。


「させるかよ‥‥」


 俺はクインテットに雷の魔力を込めると、その全てを切っ先へと集中させる。


 飛蓮・旋


 俺は自ら作った氷壁を迂回して魔人の下まで跳ぶと、クインテットを引いて突きの構えを取る。


「魔刀術・弐の型、雷狼牙」


 集約された雷は俺が魔人に突きを当てた瞬間、一気に流れ込む。
 この一撃は魔人といえども耐えられるものではなく、その体の自由を奪う。
 突きの勢いで飛ばされた魔人は痺れる体でどうにか態勢を立て直すと、立ち膝の状態で俺を睨みつけてくる。
 トドメを刺したいところだが‥‥
 俺は攻撃を仕掛けず、後ろに隠れていたリーダー格の魔人を見る。
 すでにかなり魔力が高まっており、詠唱が佳境に入っていることがわかった。
 最上級魔法‥‥それも俺の身体能力を見た上で使うってことは、範囲魔法か。
 ‥‥なら、相殺する。


「痛ぅ‥‥」


 身体強化・雷サンダーブレイブを解いた俺は全身に走る激痛で意識を失いそうになるが、歯を食いしばりどうにか堪える。
 今から最上級魔法を唱えている余裕はない。


「全てを焼き尽くす蒼き炎よ」


 俺は目の前に極限まで圧縮された青い炎の球体を作り出す。
 その肩幅まである球体を上に打ち上げると、今度は身体中に火の魔力を張り巡らせる。


 身体強化・火ファイアブレイブ


 俺は打ち上げた球体に向かってジャンプすると、その瞬間に足元で炎を爆発させるようにして推進力を得る。
 建物の二階ほどまで跳び上がり球体に追いついた俺はクインテットを上向きに構え、込められるだけ火の魔力を込めた。


「我が身を燃やして敵を焼き尽くせ」


 俺はそこから身体強化・火ファイアブレイブを使って魔人に向かうと、真っ赤に燃え上がるクインテットに青い炎の球体を衝突させ、その全てを刀身にまとわせる。
 魔人も詠唱が終わったようで両手を俺に向かって突き出し、その闇の魔力を解放する。


終焉の闇ジェノサイドゾーク


 魔人の両手から膨大な黒い霧のようなものが溢れ出し、うねりながらも俺に向かってくる。
 落下のスピードに身体強化・火ファイアブレイブによる加速を加えた俺は巨大な蒼炎の剣を振り下ろす。


「蒼炎天覇!!」


 蒼き炎の刃は視界を覆い尽くす闇を切り裂き、魔人までも届く。






 着地した俺の背後には燃え尽きた魔人の死体が転がっていた。
 体が熱い‥‥
 全身を灼けるような痛みが俺を襲う。
 激痛に耐えられず俺はその場で膝を折る。
 やっぱり‥‥きついな。
 少しでも気を抜けば意識が飛ぶ。
 残る魔人達にトドメを刺さなければならないことはわかっているが、体は正直なのか動こうとはしない。
 不意に背後で武器と武器がぶつかった時に鳴る金属音が聞こえる。
 すぐに振り向くと槍を持った魔人がアドネス達をなぎ倒しながらラノンに近づいていた。


「っく!!!!」


 身体強化・雷サンダーブレイブ


 俺は全速力で魔人の下へと駆け抜ける。
 間に合え‥‥
 俺の手にするクインテットが翠に輝く。
 魔人は俺が近づいていることに気づくと。周りにいたハンターを押し退けラノンの下へと歩んでいく。


「どけっ!!」


 俺がそう叫ぶと魔人と戦っていたハンター達がすぐさま道をあける。


 飛蓮


 俺は高速で接近しながら魔人に切りかかるが、読まれていたのか槍で防がれ弾き返される。


「ターゲットは殺す。例え俺が死んでもだ!!」


 魔人が目線を倒れているラノンへと向ける。


「させるかっ!!」


 飛蓮


 魔人は俺の一撃を防ぐと、また一歩ラノンへと近づく。


「っく‥‥そがぁぁ!!」




 飛蓮、飛蓮




 俺は飛蓮で魔人の後方に回りこんでから一気に距離を詰め、足に切りかかる。
 直前で察知され、切り落とすまではいかなかったが深い傷を与えた。


 行かせない‥‥


 魔人は俺に体を向けながらも少しづつラノンへと近づいてく。




 飛蓮、飛蓮




 魔人の脇腹を切る。




 飛蓮、飛蓮




 魔人の右腕を切る。




 飛蓮、飛蓮、飛蓮




 魔人の真後ろをとった俺はありったけの力をクインテットに込める。


「風魔烈斬!!」


 不意をついた俺の一撃は魔人の頭を体から切り離した。
 緊張が解けた俺は身体強化・雷サンダーブレイブを解除すると、その場に倒れる。
 あぁ‥‥やっぱり、無茶し過ぎたか。
 まぁ、ラノンを守れたから‥‥いいっか。


「レンさん‥‥」


 自分の名前が聞こえたので目を向けて見るとラノンがいた。
 よく見るとその目からは涙が流れている。


「どう‥‥した?」


 自分の声が弱々しい。
 精一杯出したつもりだったがまるで死にかけの人が出すような声だった。
 いや‥‥俺は今、死にかけているのか?
 少しづつ意識がぼやけ始める。


「もう‥‥休んでください。怪我は、私が治しますから」


「‥‥あぁ」


 瞼がゆっくり閉じられていく。
 ふと、頭に柔らかい何かを感じたが俺はそれを確かめる前に意識を失った。









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