Messiah

嘉禄(かろく)

A certain limit time



あれは、いつきとだいぶ仲を深めたばかりの頃のこと。
訓練が終わり、トレーニングルームに行こうとしたらいつきに呼び止められた。


「涼、なあ涼ってば!」
「…どうした、いつき」


振り向くと、大体目で言いたいことはわかった。
…見ただけで分かるようになったとは、俺も進歩したと我ながら思う。
そして、いつきはその通りの言葉を投げてきた。


「どこ行くの、訓練終わったばっかじゃん。部屋戻ろうよ」
「…いや、サクラが一人減った以上戦力の補充は急務だ。
俺も鍛錬を怠る訳にはいかないからな、トレーニングルームに行こうと思って」


そう答えると、いつきは少し不満げに下を向いた。
それでこれは何かあるな、と悟った俺は足を止めて問いかけた。


「他にも呼び止めた理由があるのか?」
「…別に…」
「なんでも話せと言っただろう、聞かせろ」


再三言うと、やっといつきは顔を上げて口を開いた。


「…あのさ、これやんない?
百瀬さんがネットショッピングにハマってたの見て俺も気になって見てみたら面白そうなの見っけてさ」


そう言っていつきは柱の裏から見たことの無い物体を出してきた。
それはとても薄っぺらい、プラスチック製と思われる何かだった。


「…なんだそれ」
「…え、知らない?俺も使ったことないんだけど、フライングディスクって言うらしいよ。
本当はもっと広い公園とかで遊ぶものらしいんだけど」


いつきの手にあるそれを受け取って叩いてみる。
思った通りのプラスチック製、特に危険では無さそうだった。


「これはどうやって遊ぶものなんだ?」
「えーと、ちょっと貸して」


いつきに渡すと、いつきは俺から適度に距離を取った。


「今からこれを涼に向かって投げるから受け取って」
「な、投げる?…わかった」


俺の答えを聞いて、いつきが腕を振ってディスクを投げてきた。
回転をつけながらカーブして俺に真っ直ぐ向かってきたそれを、顔面にぶつかる前にキャッチする。
それを見たいつきは目を輝かせた。


「え、めっちゃ上手いじゃん!
俺にも投げて、見様見真似でいいからさ!」
「わ、わかった」


いつきの真似で投げてみると、思わぬ方向に飛んでいっていつきが慌てて追いかけた。


「あ、ちょ、ちょっと!」


壁にぶつかる前にいつきがジャンプしてキャッチする、なかなか上手い。
だが、俺は投げるのには不向きのようだ。


「涼、もう一回やろう!」
「あ、ああ」


そうやって続けていて、中々にお互い上手くなった頃に俺はいつきに問いかけた。


「…そうだいつき、今更なんだが」
「ん、なに?」
「どうして急にこれで遊ぼうなんて言い出したんだ?」


それを聞いたいつきは、ディスクを投げる手を止めた。
どうやら言いづらいようで目を逸らす。


「…教えてくれ、いつき。
俺はお前の意思を知りたい」


俺が隠さず真っ直ぐに言ったのを受け取り、いつきはやっと顔を上げる。


「…えっと、その…涼と…たくて」
「…なんて?」


最初は辛うじて聞き取れたが、肝心の最後が聞き取れずに俺は聞き返した。


「だからその…涼と…たくて」
「…悪い、聞こえない」


もう一度聞き返すと、流石のいつきも焦れたのかハッキリと聞き取れる大きな声で返してきた。


「…あーもー!涼と他愛ない思い出を作りたくて!これでいいか!」


それを聞いた俺は、我ながら間抜けだろうなと思うくらいのキョトン顔をした自信がある。


「…そうか、じゃあもう少しそれで遊ぶか」


ふと笑って、それから少しの間それで遊びながらいつきと他愛ない話をした。

この本当に他愛ない、平和な時間はいつか終わる。
だからこそ、続く間はお前と共にいたい。
そう思ったのは、いつきには内緒だ-



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