Messiah
Darkness to remind of death
─闇が怖い。
死んだあの日に見た、深淵を思い出すから。
「…伊織、寝ないの?
疲れたでしょ?」
「…眠くなんて、ありません」
私は目を覚ましてからというもの、悪夢を見るようになった。
どこまでも果てしない闇の中、死んだ記憶が再生される。
どれだけ拒んでも逃れられず、目を逸らすことは許されない。
─逃れたければ死ねばいい
…嫌だ、もう二度とあんな記憶は作らない。
衛を置いていきたくない。
あんな顔をさせるのは二度とごめんだ。
死と夢を拒んだ俺は、眠りすら拒んだ。
眠れば闇に引きずり込まれる。
眠ればまたあの夢を見る。
眠った先には…死が待っている。
そう考えただけで、眠りすら怖くなった。
この手が衛を殴る。
この足が衛を蹴る。
…私が衛を傷つける!
置いていきたくないと言いながら、別の思考が脳内を支配する。
死んでしまえば逃れられる。
闇から解放される?
─否。
死んだって闇が待っている。
俺は見たはずだ、死んだ先の闇を。
矛盾した思考は、私を振り回す。
死にたい、死にたくない。
死なない、死ぬ訳には行かない。
─どこに光はあるか
そんなもの、どこにもない。
私の世界には、闇しかないのだ。
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