Messiah

嘉禄(かろく)

Even how many times to your cause



目を開くと、独特な匂いと白い光が飛び込んできた。
次いで音が耳を突く。


「伊織…!」


覚醒し切らない思考のまま、その声の方を向く。
その人は、泣きそうな目で俺を見ていた。


「伊織、よかった…起きた…!」


どこかで見たようなその人は、俺の手を取って握りながら額に当てる。けど俺は事態を掴めなかった。


「…ここはどこ?
俺は誰だ、あんたは…?」
「…伊織、俺が分からないの…?」


…伊織?それが俺の名前か?

混乱していると、部屋に白衣を着た別の男が来た。


「昴、伊織が…」
「目が覚めたか。
伊織、衛や僕が分かるか?
ここがどこか分かるか?」


その問いかけに、私は左右に首を振った。
何もわからない、そのことが俺の思考を停止させる。

─怖い。
この人たちは誰だ、俺を知ってるのか?
俺は誰だ?ここはどこだ?
俺は何をされる?何をされた?

俺はどうして何も知らない?
どうして何も思い出せない?

恐怖が思考を支配する。
それが目に出たのか、昴と呼ばれた人が穏やかな声で教えてくれた。


「お前の名前は草薙伊織。
一嶋晴海のクローンとして僕によって創られた人間だ。
その後大日本共振製薬に勤めてから警察庁警備局公安五係通称チャーチに入る、日本を守る諜報員サクラとして。
この衛はお前のメサイアだ。
唯一お前を救える存在」
「…衛…メサイア…俺達は、ずっと共に…?」


俺の呟きに衛が頷く。
変わらず俺の手を握って頬に当てている、どうやら俺の事を心配しているらしい。
けど…どうして俺は横になっている?
よく見ると、多くの管が俺の身体か
伸びている。
明らかに病人または怪我人の扱いだ。


「…あの、俺はどうしてこんな…」
「…ああ、それは…」
「昴、俺が説明する。
…伊織はね、北方連合に取られたんだ。
そこで記憶を消されて、ただ殺しをするだけの道具に…俺は、伊織を助けに行った。
けれど、結局俺は…伊織を殺すことでしか助けられなかった…」


…俺は、殺された?死んだ?
北方連合に囚われて?
北方連合ってあの諜報大国…?
聞けば聞くほど、思考は混乱していく。


「伊織、サクラは一度死んでからチャーチに来るんだ。
最近は例外が多いけどな」


チャーチ。サクラ。メサイア。衛。昴。一嶋晴海。

そのワードが脳内を何回も巡る。
すると、突然脳内で何かの再生が始まった。


この世界に生まれた時
昴との生活
記憶を消されて普通の人間として会社に就職したこと
そこを襲撃された時に、衛と初めて出会ったこと
その後チャーチにサクラとして入り、衛のメサイアになったこと
一嶋晴海によって失っていた記憶を取り戻したこと
あの人を恨みながらも、衛のおかげで自分らしくあれたこと
北方連合で死にかけていたところを拾われ、フォークス機関で記憶を消されて殺しに明け暮れていたこと

その次に流れてきた光景に、俺は息を止めた。
衛と俺が戦っている。
お互い傷ついていて、最後に…衛が俺を殺した。
抱きしめられる感覚と体温が残っている気がした。


「…思い出した、全部…私は…俺は記憶を…衛を殺そうと…!」


そう叫ぶと、衛が慌てて俺を抱きしめた。
落ち着かせる為なのかもしれない、それでもその体温がその記憶によってもたらされた絶望を加速させる。


「違う、あれは本当の伊織じゃない!伊織は何も悪くない!
大丈夫だから、伊織…!」
「俺が衛を殺そうとした…衛は私を殺した…私は倒れて冷たくなっていく…俺は死を知ってる…俺は、私は…!」


衛の背中に腕を回して服を掴む。

衛に銃を向けた私。
蹴ったり殴ったりを繰り返した俺。
傷つけることを厭わなかった自分。

─吐き気がする

反射的に口元に手をやると、首元に何かを打たれた。


「…安定剤だ、これで落ち着くはず。
少し眠れ、伊織」


その声を最後に、私の意識は再び闇に沈んだ─



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