Messiah
A doll and a guardian to the north 2
─気づくと、そこは白い部屋だった。
独特な匂いがする、シルバーの器具も多く置かれていた。
「目が覚めたか」
声がした方向に目を向けると、少年のような見た目の男がいた。
「…誰だお前?」
「…北方連合の構成員、とだけ言っておく。
それ以外の情報はお前には必要無いだろう、お前の生存意義は敵の殲滅だけだ」
「…敵の殲滅?」
「体験した方が早い、着いてこい。
…フォークス機関の技術をもってすれば、記憶を消すことすら容易いか…」
そいつは何事か呟いたが、それは何故かどうでもいいと思えた。
連れて行かれた先は、戦場の只中だった。
それを指さしてそいつは言った。
「今、我が国の構成員と日本の諜報員…サクラが戦っている。
お前はサクラを殺せ」
─殺せ。
その言葉を聞いた時、心臓が大きく脈打つのを感じた。
銃とナイフが渡されると、俺は突如湧き上がった衝動に従い戦いの中に飛び込んだ。
サクラと思われる、小柄な奴に照準を定め銃を撃ち込みながら接近しナイフを突き出す。
すんでのところで受け止めたその男は、俺を見て驚いた。
「…草薙くん?!」
呼ばれたような気がしたが、俺の思考には全く影響しなかった。
それは相手も同じようで、すぐに平静を取り戻し俺のナイフを流した。
その流れのまま振り向いて大柄なサクラに接近すると、また名を呼ばれた。
「…伊織!」
だがそれも届くことは無かった。
俺の中にあるのは、殺すことへの衝動のみだから。
「…記憶を消したら操るのは容易いな。
メサイア殺しか、まあもうそれすら認識出来なくなったお前にはなんの価値も無いか」
「伊織、どうして…俺がわからないの…」
「…ごちゃごちゃうるせーんだよ」
構成員の呟きも、サクラの問いかけも全てが耳障りだった。
苛立ちと衝動に任せて再び撃ち込むと、他の負傷が功を奏したか全てヒットした。
そこで構成員から声が掛かる。
「そいつはもういい、お前には別の敵を与える。行け」
俺に持たされている端末が鳴る。
だが、それも俺にとっては邪魔でしかなかった。
「…俺に命令すんな!」
しかしその言葉は聞き届けられなかったようで、俺は舌打ちをしてその場を後にした。
…またいつか会う。
その時は俺が殺す、そう決めた─
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