Messiah

嘉禄(かろく)

Dreamy state of the doll



─私は、誰かの上に馬乗りになり、何回もひたすらに握ったナイフを振り下ろしていた。


『…さえ…お前さえいなければ…!』


少しずつ、組み敷いた相手の顔が鮮明に見えてくる。
はっきり見えるようになった時、私は思わず振り下ろす腕を止めた。

なぜなら、組み敷かれていたのは─

他でもない、私自身だったから。


「…織、伊織!」


声が聞こえて、覚醒した。
呼吸が荒い、目は見えているようで見えていない。
ただ衛の声だけが聞こえる。
抱きしめられているのか、鼓動と体温が伝わる。


「…大丈夫、俺がいる…」
「…衛…私は、何を…」


少しずつ平静を取り戻すと、そこは演習場だった。
何故か私は傷だらけだった。


「…戻りが、聞いてたより遅いから見に来た。
そしたら、伊織が暗い目をしてて…自分を傷つけてた。
痛いでしょ、手当してもらおう」
「…そう、ですね…」


確かに腕が酷く痛む。
利き手ではない左腕は特に流れた血で真っ赤だった。
何回刺したのか分からないくらいボロボロだ。
とっくに力は入らなくなっていた。

立ち上がろうとすると、血が足りないのかふらついて衛に支えられそのまま抱き上げられ医務室に向かった。


手当を受け、部屋に戻ったあと…私は聞かれた訳でもないのに先程見たものをぽつりと語りだした。


「…夢を見たんです」
「…夢?」
「眠っていなかったかもしれません、幻かもしれません…夢現、というものでしょうか。
私は私自身を組み敷いて、何度も刺していました。
とっくにその私は事切れていて、ピクリとも動きませんでした。
なのに、私は刺しながら叫んでいました…『お前さえいなければ』と…」


あの光景は今でもはっきり目に浮かぶ。
私が私を殺している。
流石に恐怖を覚えざるを得ない。
私が自分の腕を抱くのと同時に、衛が私を引き寄せた。
衛の胸に頭を預ける形になる、けれど落ち着くことが出来た。


「…大丈夫、俺だけ見てて。
こうしていれば、悪い夢なんて見ない」
「…そうですね…ありがとうございます、衛」


二度と見たくない。
衛の腕の中にいさえすれば、大丈夫だと思えて私は目を閉じた─


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