Messiah

嘉禄(かろく)

The snow which bore a grudge against the world



俺は、街を見渡せる丘の太い一本の木に寄りかかっていた。
日本ではないことを覚えているだけで、もうここがどこなのか思い出せない。
酷く血臭がする。
自分の負傷によるものだと分かっている、それでももう諦めているのは…毒のせいだ。
俺の周囲には、針が折れた注射器が大量に落ちている。
それは俺に投与された毒物の量を示している…負傷だけでも殺せただろうに、用意周到なことだ。
いや、俺に恨みでもあったか…?

何故敵が俺を殺すのにここを選んだかは知らない。
それももうどうでも良かった。

さっきまで隠れていた月が俺を照らす。
きっと、俺は死にかけで真っ白なんだろうな…。


「…俺が死にかけてるってのに、世界は変わらず俺を照らすんだな…」


俺が死んだって世界は変わらない。
ただ当たり前に太陽が昇り、沈み月が昇る。
その繰り返し。


「…俺が死んで、悲しむのはあいつだけか…」


頬に冷たいものが当たる。
雪が降り始めた。


「…こんな時でも降るんじゃねーよ…」


そう呟いて、俺は目を閉じた。
これだから、この世界が俺は嫌いだ─


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