Messiah

嘉禄(かろく)

Don't come out of the nightmare


─俺は捕まっていた。
再び、ナイトメアに。
以前と違い、椅子に座らされて後ろ手は鎖で縛られている。


「…今度は何が目的だ」
『君への復讐だ』
「…何?」


…復讐?
俺が何をしたって言うんだ、それに前の目的はチャーチの情報を渡すこと…こいつは前のナイトメアとは別ものか…?


『思い出せ、君の罪を』


そう言うとナイトメアは1枚の写真を俺に見せてきた。


「…これは…」
『南トランの大統領だ、君が暗殺した』
「…これが罪か」
『いいや、本質ではない。
次はこれを』


次に見せられたのは、透明のカプセルに閉じ込められた子供たちの映像だった。
そこで俺は少し察した。


『…おや、気づいたかな』
「…この中に、お前に関係する子どもがいたのか?」
『そうだ、娘が』
「…お前の正体、ここに来て見せられたものから推測した。
南トランの第一王子だな?
仮面を取れ。」


俺がそう言うと、ナイトメアは仮面を投げ捨てた。
その下には、以前調べた第一王子の顔があった。


「父は言っただろう、君に。
自分を殺せば子供たちも死ぬと。
しかし君は父を殺した。
この子供たちは人質だ、父に逆らえないようにという。
あんな奴死んだところでどうとも思わない、私は娘を殺した君に復讐するためにこのゲームを作り出したんだ!」


…あの時…大統領を殺す時、子供たちが死ぬ手筈だと聞いて俺は躊躇った。
良心の呵責、と言えば聞こえはいい。しかしサクラとしては失格。
どうすればいい、そう迷っていた時に背後から大統領の部下達の声が聞こえた。
焦った俺は大統領を撃った。
しかし迷いからか急所を外し、即死には至らず子供たちを殺すスイッチを押す隙を大統領に与えてしまった。
…そして、子供たちは死んだ。


「…だが俺は死ぬ訳にはいかない。」
「…何?」
「…叶える願いがある、涼と約束した…」
「…約束か、ならば私の恨みはどうなる!」


第一王子が俺の左肩を撃つ。
血が吹き出たがそこまでの負傷じゃない。


「…そうか、拘束したままじゃゲームにはならないか。」


そう言うと第一王子は鎖を解き俺に銃を渡した。


「…私を殺して脱出してみろ。
ただし、私は父から言われて過酷な人体実験を乗り越え痛みを感じない体を手に入れた。
そう簡単には死なない。」
「…いいだろう、やってやる。」


俺は銃を受け取ると構えすぐに撃った。
相手も避ける。
お互いの弾がお互いに当たる。
血が吹き出す。
腹部を貫き、頭部を掠める。
それでも俺達は戦い続けた。
しかし相手の方が図体デカくておまけに痛みを感じないときた。
明らかに俺の方が不利、俺は壁に追い詰められた。

…ここまでか、手遅れか…涼…

銃口が俺に向けられる、目を逸らさず見つめるとその銃口は視界から外れた。
一発の銃声が響いたことによって。

俺は撃たれなかった、撃たれたのは目の前にあった銃。
その銃は部屋の隅に転がっていた。

入口の方から足音がする、そっちを向くと見覚えのあるシルエットが見えた。
光の下に姿を現したのは、他でもない俺のメサイア。


「…涼、どうして…昏睡状態のはずじゃ…」
「…サクラは任務に失敗したサクラを救助してはならない、ただ一つの例外を除いて。それが…」
「…メサイア。」


俺がそう返すと、涼は頷いた。


「…何故俺を生かしておいた?俺を殺すことも出来ただろう。」


その質問に王子は沈黙を守った。


「…こいつを倒すぞ、いつき。
やれるな?」
「…ああ涼。お前と一緒なら。」


そして2人で銃を構える。
俺と涼で襲いかかり、涼も俺も負傷した。
それでもなんとか銃を奪った。


「…殺せ、これで娘の元に行ける…。」


俺は王子に銃を向けた。
それでも、俺はすぐには撃てなくて顔を逸らしてしまった。
下りかけた銃口を、涼が俺の腕を掴んで無理矢理持ち上げた。
それで俺は心を決めた。

引き金を引く。
奴が倒れる、涼が腕を離して俺は腕を力なく下ろした。
意識が遠のくのを感じて俺は倒れるように床に座り込んだ。
数秒遅れて涼も同じように座り込む。


「…終わったか。」


涼の言葉に俺は否定を入れた。

 
「…悪夢は醒めず。
こいつを殺したって、悪夢は醒めない…お前との願いは…」
「…確かに悪夢は醒めない。
だが、信じることは出来る。」
「…信じる?」
「そうだ、俺達が殺した先には…誰も苦しまない、悲しまない世界があると信じる。」
「…この悪夢が醒めないなら、俺達が悪夢になるしかない…お前の十字架は、俺が背負ってやる。」


俺が倒れた王子を見て呟くと、涼は歩き出した。


「帰るぞ、いつき。」
「ああ、涼。」


その部屋を去る時、涼がボソッとこう言った。


「…何泣いてんだお前。」
「…うるせぇ、殺すぞ。」


そう返して俺たちはその場を去った。

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