Messiah

嘉禄(かろく)

Rest of a lonely crow

昼休み、一嶋さんに業務を代わってもらってから私はいつも通り遅めの昼食を済ませて部屋に戻った。

棚の上にはいつものあの人と私の笑顔がある。
その隣には、かなり前…眠る前の雛森と私が喧嘩していて律とあの人が笑いながら見ている写真。
懐かしく思いながら、私とあの人の写真を手に取って見つめる。


「…今頃どこにいるのかしらね、生きているかしら?」


あの人の笑顔をそっと撫でる、問いかけても答えは返らないと知りながらもつい問いかけてしまう。


「…いけないわね、私が湿っぽくなってどうするのかしら。
疲れてるのかも、寝るための時間なんだし寝なくちゃ。」


私は苦笑しつつベッドに倒れ込んで目を閉じた。


暫くして、私は視線を感じて目を開けた。
…誰よ、折角寝てたのに…


「…あぁ?」


若干不機嫌になりつつ起き上がると、そこには誰かがいた。


「あ...えっと...」


…尋ちゃん、かしら?起きたてで視界が曇ってぼんやりしている。
尋ちゃん(多分)が目を逸らす、そして私はちょっとずつ状況を理解し始めた。
…もしかしてだけど、私いつもと違ったんじゃ…?
視界がはっきりし始め、やはり尋ちゃんだと分かる。


「...あ、あら?ひ、尋ちゃん!?」
「...あ、なんか...えっと...」
「あ、あらぁごめんなさいね!違うのよ!?普段こんなの見せなかったのにあたしったら...!」
「あ、あの...」
「今見たことは忘れてちょうだい!誰にも言っちゃダメよ!」
「それは言いませんけど...百瀬さんも寝るんですね...?」


私が慌てて捲し立てると、尋ちゃんはぽつりと呟いた。
ちょっと待って、尋ちゃんの中で私って超人的な何かなの?


「あ、当たり前じゃない!あたしだって人間よ!?そんなパーフェクトヒューマンじゃないわ!」
「だって百瀬さんいつも起きてるから...」
「寝てるわよ!この時間に一嶋係長と交代で...!」


…今寝起きでぐるぐるしている頭のせいで、言ったらまずいことを口走った気がして私はハッと手で口を押さえた。
すっかり抜けていたけど、尋ちゃんその手の話題に厳しいのよね…。


「...だってそれでもそんなに長くないですよね?」
「な、長くは...ないわね...」
「夜通しカメラでも見てるんですか?」
「そ、そうね...」
「夜くらい寝ません?」
「...何が起こるかわからないもの、そんなわけには...」
「じゃあ僕もやりますよ、情報部でよくやりますし、任務なんかじゃしょっちゅうありますし」
「いえ、尋ちゃんは寝なさい!」
「え、なんでですか」
「なんでって...!だっていつも雛森とくっついて寝てるじゃないの!」
「それは雪がいる時だけですよ?それ以外は僕も詰めてますし。というかなんで知ってるんですか?」
「...と、とにかく寝なさい!」


いけない、本当に寝起きのせいで要らないことを言いすぎる。
でも雛森と尋ちゃんは一緒にいるべきだから間違ったことは言っていない。
ちなみにくっついて寝ているのを知ってるのは偶に雛森が自慢してくるから。
ほんとあいつも変わったわよね、雛森のメサイア自慢を聞かされる日が来るとは思わなかったわ。
私が最早現実逃避のために別のことを考え始めると尋ちゃんは心配したように問いかけてきた。


「百瀬さん、最近ちゃんと寝れてます?寝ないとお肌荒れますよ?」
「...寝れてないわね...知ってるわよ...」
「じゃあちょっとくらい誰かに頼ったっていいんじゃないです?じゃないと、いつか百瀬さんが倒れちゃいますよ?決済いただきたかった書類、係長室の百瀬さんのBOXに入れておきますね、もう少し寝ててください」


痛くない程度にデコピンをすると尋ちゃんは出ていった。
そっと額を撫でながらドアを見つめたあと再び横になる。


「…頼る、か…私が頼れる人は、永遠に現れないんでしょうね…」


私はそう呟くと再び目を閉じた。

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