Messiah

嘉禄(かろく)

沈黙の旋律

俺は朝に尋を起こさないように部屋を出て、そっと墓地に向かった。

今日は俺の前のメサイアの…九条律の命日。
俺はその時律自身に囚われて眠らされていて、その死を見ることは出来無かった。
ただ百瀬がとどめをさしたという事だけあとから聞かされた。
その数年後、まさか再会することになるとは思わなかった…スペクターに改造されたあいつと。

あの時鴉は肉体を回収しなかったらしく、まんまと付け込まれたってとこだ。
その結果俺は動揺して負傷した訳だが…スペクターだろうと、あいつを救えるのは俺だけ。
…罪滅ぼし、偽善と言われればそうかもしれない。ただ前に救えなかった自己満足かもしれない。
それでも俺はあいつを俺自身の手で救いたかった、たとえそれが再び殺すことでも。

結果は、カッコ悪くも相討ち。
まあ俺は死んでないけど、危ないところまで追い詰められた。
目覚めると、律の肉体は梓音ら鴉が二度と使われることの無いように始末したと聞かされた。
その時俺は聞いた、『骨はどうした』と。
すると、百瀬が『言うと思った』と言うように白い壺を差し出してきた。
その中に律がいることは明白だった。

その後全快して任務を終えると、俺は尋に内緒で墓をたててやった。
勿論律の眠る墓だ。
それから毎年命日に訪れている。

いつも通り墓前にしゃがむと竜胆の花束を置く。
何を話すわけでも語るわけでもない、ただ会いに来る。
俺が墓を見つめて黙っていると、後ろから足音が聞こえた。


「…やっぱり来てたのね、律儀ね」


足音の主は百瀬だった。
百瀬は俺の同期、ということは律とも同期。
律を知る数少ない人間だ。

俺が墓前を空けると百瀬が座って花束を手向ける。


「…あの時はごめんなさいね、私がちゃんと肉体を回収していれば…」
「またその話か、気にすんなって何度も言ってんだろ」


百瀬が密かに気に病んでいることを俺は知っていた、だから毎回謝られる度に同じ返答をしていた。
俺は本当に気にしていない、確かにあいつの肉体を使われたのは癪だが百瀬のせいじゃない。
スペクターとしてのあいつと向かい合うのはそこそこキツかったけど、会えて良かったとも思えたから。
それで俺は楽になれたような気がしたから。
…なんて、勝手に楽になるなとあいつに言われたら俺はどうしようもないが。


「…俺は戻るかな」
「待って、雛森」


俺が墓前から去ろうとすると、百瀬に呼び止められた。


「…なんだよ」
「いえ、その…貴方、まだ律のこと…」
「なんの事だ?
…大丈夫だ、俺の今のメサイアは尋だ。俺はあいつの隣にいるさ」


百瀬の発言を遮って俺は墓地から出た。


強がった訳じゃない。
確かに律を忘れた訳でもない、一生忘れないだろう。
けど、俺には尋がいる。
それだけで俺は強くあれる。

そう思いながら俺はチャーチに戻った。

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