Messiah

嘉禄(かろく)

Adonis

朝、僕は目覚める。
いつも通りの、誰もいない静かすぎる朝。
深夜まで僕を何度も抱いた不快な体温と声の主はいなくなっていた。
何も着ていなかったから、手近にあった古着を着た。
季節は冬、これだけじゃ暖は取れない。
体は冷えてかじかんで上手く動かない。

小テーブルに、お世辞にも美味しそうとは言えない食事の盛られた皿が置かれている。
僕は特に興味を示さず、ベッドに座ったまま窓の外を見た。
また雪が降ったのか、昨日より積もっていて遠くを歩く人は縮こまっているように見えた。

部屋に目を戻して、僕は軽く溜息をついた。


「…今日も、貴方はいないんだね。」


今でもしっかり覚えている。
朝起きると、僕より先に起きていた貴方が気づいて近寄って頭を撫でてくれる。
見上げると優しい笑顔が目に入る。
そして優しい、落ち着く低い声が降ってくる。

…でも、それはもうここにはない。
いや、世界中どこを探しても見つからないだろう。
あるのは、情欲に塗れたきたない手と聞くに耐えない荒い吐息。
最初は嫌だった、拒んだ。
痛くて、知らない感覚が怖くて…。
けれど体は心とは裏腹に熱を持ち、暴走する。
いつしか僕は流され、そして拒むのをやめた。
されるがままになっていれば、いつか終わるから。

そんな生活を続けて数年、最早慣れてしまった日々は突然終わりを告げた。
銃声と怒声が聞こえて、すぐに静かになった。
何があったのか確かめようか迷っていると、扉が開いて黒い服を着た人たちが僕を囲み声をかけた。


「もう大丈夫だ、ここの構成員は全滅させた。
係長の命により、お前をチャーチに迎える。」


知らない腕が伸びてくる、僕は思わず振り払ってしまった。
この時僕がどんな顔をしていたかは分からない、でも相手は語りかけてきた。


「俺たちはお前に何もしない、安心しろ。
触れられたくないなら触れないからついてこい。」


…信用した訳じゃない、でもここにいても仕方ない。
そう思った僕は渋々ついていった。
それが僕の運命が変わった瞬間だと、後の僕は知ることになる。

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